北園涼

北園涼

【北園涼 インタビュー】
暗い世の中で再び灯りをともそう
という意味での“Ignition”

ミュージカル『刀剣乱舞』など俳優としても幾多の舞台に立つ北園涼が、3rdアルバム『Ignition』を完成させた。収録9曲中6曲の作詞を自身で手がけ、よりアーティストとしての個性を強く発揮した本作にあるのは、“限られた時間の中で悔いなく生きる”という揺るぎないメッセージだ。綺麗事では済まない現実を見据えたロックチューンはアツく、そして心に温かい。

時間というものは限られているから、
やりたいことを逃したくなかった

2019年のアーティストデビュー以来、一貫してアグレッシブなロックチューンを発表されていますが、なぜそういったジャンルを選ばれたんでしょうか?

単純に“好き”だからですね。自分が音楽を聴き出した頃がバンド全盛期で、ORANGE RANGEとかロードオブメジャー、Aqua Timez、MONGOL800とかが活躍していたんです。今でも聴くのはバンドサウンドが多いのですが、自分がバンドをやった経験はないんですよ。部活で吹奏楽とエレクトーンはやっていましたが、僕の周りにバンドをしている人もいなかったので、音楽はやるものではなく、聴くものだとずっと思っていました。

では、なぜ音楽活動を始めることに?

俳優として出演するミュージカルから派生して、ライヴだけのコンサートをする機会があったんです。そこで日本武道館だとか、さいたまスーパーアリーナだとか、自分が好きだったアーティストさんたちと同じステージに立つことができて! すごく素敵な景色を見せてもらった時、“いつかコンテンツの力を借りずに、自分で戦って自分の音楽でここに立ってみたいな”という意識が芽生えてしまったんです。

俳優という入口から入ったら、期せずして学生時代の憧れとつながってしまったんですね。

そうですね。カラオケとかで歌うのは好きでいたけど、まさか自分が音楽をやるとは思ってもいませんでした(笑)。

今作では収録9曲のうち新曲5曲を含む6曲をご自身で作詞されていますけれど、密かに作詞の練習をしていたとかは?

ありません。音楽をやろうと決めた時、いずれは自分で作詞や作曲をしたいと考えて、まず『Frontier』(2021年2月発売のアルバム)で表題曲を作詞してみたんです。最初は自分の好きな音楽を聴いて“どういう言葉を並べているんだろう?”と研究したり、“なんで自分はこういう言葉を出せないんだろう?”と悩んだりもしましたけど、考えてみれば何年もやっているアーティストの方と同じように書けるわけがないんですよね。そう割り切って、とにかく自分の想いをストレートに書いてみようと思えるようになってからは楽になりました。

自分の想いを素直に書くという、そのスタンスは今作も変わっていませんよね。

変わらないですね。それが自分らしさでもありますし、今作で新曲の作詞を担当したのも、自分で“挑戦させてください”と言ったんです。そしたら作詞期間を1カ月くらいいただけたんで、自分なりにペースをしっかり作って、一週間で絶対に一曲は書き終えるように進めていきました。

ちなみに、どんな時に歌詞って降りてきます? よくシャワー中は浮かびやすいという話も聞きますが。

確かにシャワー中は浮かんできましたね。脳が刺激されるのかも! ただ、一番言葉が生まれてくるのは、僕は人と会っている時だったり、話している時かもしれないです。誰かと話すと自分と相手の思考の違いが分かるじゃないですか。“この人はこういう時にこう考えるんだな。でも、俺は違うな”とかっていうのが見えると、会話の途中でも“ちょっと待って”って、それをメモするんです。

メモ!?

作詞のためにメモは常々しているので。自分の中から生まれる想いも、結局は他人を通して得られるものだったりするから、完全に自分ひとりだけでは生まれてこないと思うんですよ。特に歌詞は人に伝えるものですからね。

そこでうかがいたいのですが、今作で北園さんが書かれた歌詞を見ると、やけに“限界”だとか“限られた”といった意味の言葉が目につくんですよ。SEに続いてアルバムを幕開ける楽曲のタイトルも“Limited Time”…つまり“限られた時間”ですし、その直後の「believe」に至っては歌い出しから《限られた時間が進んでく》ですからね。

確かに! それはまったくの偶然ですね。今、言われて気づきました。

なんと(笑)。さらに、後半の「fake」には《限界を超えて》、表題曲の「Ignition」には《限界が来たって》というフレーズがありますし、何か一貫した想いをお持ちだったのかなと。

結局、それが僕の核にあるものなんでしょうね。昔から“何かに追われている感”というのはあって。というのも僕、周りに比べてこの世界に入るのが遅かったんですよ。だから、“追いつかなければいけない”という想いは常にありますし、2018年に起こったことで、人生には予期せぬことが起こるんだと、さらに深く気づけたんです。音楽を始めたのもそこが大きかったんですよね。時間というものは限られていて、いつ終わるのか分からないから、自分のやりたいことを逃したくなかったんです。

なるほど。社会的に見れば、今のコロナ禍だって予期せぬ出来事ですし。

そうなんです。どんなに人生を大切に生きていても、外的要因でどうにもできなくなる時だって来るかもしれない。だから、より“時間を無駄にできない”という想いが強くなったし、アルバムタイトルの“Ignition(=点火)”も、そんな光が消えかけた世の中で再び灯りをともそうという意味なんです。

今の社会情勢がもともと北園さんの中にあったポリシーを際立たせたということですね。でも、表題曲の「Ignition」の歌詞を見ると、単に“諦めかけた夢に、もう一度灯りをともそう”というメッセージだけではないように感じるんですよ。夢とは違う現実を生きながらも、そこに満足しているような描写もありますし、果たして何が真意なのかと考えてしまう。

何が…というわけではないですね。人生における正解ってひとりひとり違っていて、夢を諦めてしまった人がいれば、もう一度やり直したい人、諦めたけれど今は満足している人もいるだろうし、そもそも夢を追ったからって幸せになれるとは限らないじゃないですか。ただ、どんな選択をしたとしても、全ての人を受け入れたいと僕は思っているんです。だから、歌詞にもいろんな選択肢を入れているんですよね。

決してひとつの方向性を提示しているわけではないと。大サビでも《勝ち負けじゃない》《楽しいと思えているから 幸せ者だよ》と現状を受け入れつつ、最後は《でも求め続けてる》というところに着地しますし、そもそもひとりの人間の中でも答えはひとつに定まらないものですよね。

そこは欲ですよね、本当に(笑)。自分の中には“ここにいたくない”という気持ちが強くて、現状維持は嫌いだし、もちろん落ちるのはもっと嫌で。自分のモットーは“今日の自分を超える”ということで、最近も“今より少しでも未来のほうが幸せだったらいいな”ってメモしていたんです。だから、満たされていても求め続けてしまう。そんな想いが、きっとこの曲にも反映されているんでしょうね。

ただ、今日の自分を超えるために必ずしも道を変える必要があるわけではないし、今ではなく未来に変わるべきタイミングが訪れるかもしれない。「Limited Time」や「believe」にも《生まれ変われるチャンスはいつでもある》《まだ遅くはない》といった文言がありますから。

そうです。いろんな人に出会うことで、いろんな考え方が生まれるから、僕も“昔はああだったけど、今は違う”ということが起こったりするんですよね。やってから気づくこともたくさんあるし。だから、僕自身は選択するなら早いほうがいいと思っているけれど、自分の言うことが全て正しいわけではないから、そこは聴く人に委ねたいです。

つまり、このアルバムで一番訴えたいのは、“自分はどうなんだろう?”ということを、自分自身で考えることなのでは?

そのとおりです。全部が全部、他人の言うことを聞くのは嫌だし、それが全てじゃないし。何より、他人の言うことを聞いていると、失敗しても“自分のせいじゃない”と言い訳できてしまうから、反省できないんですよ。だからこそ、“自分で考えて生きていこうね”っていうことを伝えているのかもしれないです。

反省できなければ成長もできない。だから“これ!”という答えを提示していないんですね。

答えなんてないですからね。未来のことは分からないし、自分の選択がその時点では正解でも、先々では間違いになることもあるじゃないですか。それこそ今回のコロナ禍みたいなことが起きれば、状況は全部ひっくり返ってしまう。だから、責任は自分で取らなければいけないし、もっと言うと失敗すらも成功への道になることがあり得るので、やっぱり自分で選ぶことが一番大事だと思いますね。
北園涼
アルバム『Ignition』

OKMusic編集部

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