木村達成×須賀健太『血の婚礼』再び
のタッグは「興奮が止まらない」

スペインを舞台にした愛の悲劇『血の婚礼』が、2022年9・10月に東京・シアターコクーンにて上演される。演出は杉原邦生が手掛け、上演台本は田尻陽一が新たに翻訳する。出演は木村達成、須賀健太、早見あかり安蘭けいほか。
本作は、スペインの伝説的劇作家フェデリコ・ガルシーア・ロルカが、実際に起きた事件を元に1932年に執筆し、翌年にロルカ自身の演出によりスペインで初演された、ロルカの三大悲劇の一作。スペインのアンダルシア地方を舞台に、婚約した花婿(須賀)と花嫁(早見)が互いの家族の期待を背負いながら結婚式を迎えようとするが、そこに花嫁の昔の恋人レオナルド(木村)が現れ、すべてを変えてしまう抑えきれない愛を描く。
約5年ぶりの共演となる木村達成と須賀健太に話を聞いた。
お互いが培ってきたものをぶつけ合える場が与えられた。
木村達成、須賀健太
――『血の婚礼』に出演が決まって、どのように思われましたか?
木村:僕が演じるレオナルドは、以前森山未來さんも演じられていた役だと聞いて、ぜひやってみたいと思いました。それに加え、なんせ相手役が健太ですから。
――木村さんと須賀さんとはライブ・スペクタクル『NARUTO-ナルト-』(’ 15~’ 16年)や演劇『ハイキュー!!』シリーズ(’ 15~’ 17年)で共演されてきた仲ですよね。
木村:はい。そこから共演していないので、お互いがこの数年の間にそれぞれの現場で培ったものをどこまでぶつけ合えるんだろうって。今回はそういう場を与えてもらったような気持ちで、興奮が止まらないです。
須賀:止まらない?(笑)
木村:はい!
須賀:僕は今回、「達成との共演」ということを先に聞いて、その時点で断る選択肢はないなと思いました。達成も言っていましたが、お互いの成長をぶつけあえる場所をいただけた。お互いが別のフィールドで戦ってきて、またもう一回、一緒にやるっていうのは特別なことだなと思ったので。それだけで嬉しいし、やる価値がある作品だと思っています。
須賀健太
――お互いの俳優としての印象をお聞かせください。
木村:健太は、そもそも僕がデビューする前からずっとこの仕事をしてきている人で、「うまい」なんて通り越してもう別次元にいたんですよ。そういう健太と、当時の僕がなにで戦えるかというと、自分のエネルギーとか、経験値とか、そういうものしかなかった。当時の作品が“青春”や“スポ根”を描いたものでしたから、僕がずっとやってきた野球やスクールライフの経験をまるっと出すしかなかったんですよね。そうでもしないと一緒になって舞台上で奇跡を生む瞬間は生まれないと思いながらずっとやっていました。
須賀:僕はでも、これは役柄もあったんですけど、達成に対して「自分にないものを持っているな」というのは感じていました。どっちがいいとか悪いとかではなく、生きてきた場所もなにもかも違う人ですから。そういうことも含め、「すごいな」「自分じゃできないな」と思う瞬間がすごくあった。そういう人がいるってとてもいい環境だと思っていたのを覚えています。全然違うものを持ってそばにいてくれて、芝居をしてくれていたなっていう感覚がすごくありました。
――そんなふうに思われていたんですね。
須賀:(木村は)なんでもすぐできるんですよ。アクロバットも多い作品だったんですけど、振付師の方と話して「こんな感じですか?」ってすぐやる。恐怖心とかないのかなって思っていました。
木村:いまはもう怖くてできない。そんな年齢じゃないし。
須賀:あの頃の達成は怖いもの知らずだったんだ。
木村:いまやいろんな現場で揉まれて、怖いものを知りすぎて……。
須賀:はははは!
木村達成
>(NEXT)言語化できない「何か」を見つけていきたい
言語化できない「何か」を見つけていきたい。
――今回の『血の婚礼』の上演台本はまだできていないそうですが、あらすじを読んでどう思われましたか?
木村:僕が演じるレオナルドはこれまでトライしたことのないような役ですし、やり甲斐はとても感じています。公私混同しないようにがんばりたいですね。
須賀:おい、いまの見出しになるぞ。
木村:生身の人間がやるんだから、そりゃするでしょう、公私混同。苛立ちとか憎しみとか。
須賀:あ、そっち? びっくりした。
木村:(笑)。僕は過去に上演された際の映像を拝見したのですが、その公演は決闘のシーンは描かれていなかったんです。でも今回はどうやらあるらしいので。僕らの出会いは殺陣ですし、そういう面でもドキドキワクワクが止まらないです。
木村達成
須賀:今回、新しく翻訳された台本で演じられるので、2022年版として翻訳されたそのイメージを大事にしたいなと思っています。この戯曲は、いろいろな国で、いろいろなカタチで上演されているからこそ、そこにとらわれず、僕たちなりの『血の婚礼』みたいなものを模索していく時間が大事になってくるのかなと思っているところです。作品の内容的には、言ってしまえば割と単純というか。「花嫁を奪う」という話で。でもそこにどれくらいそれぞれの人間らしさみたいなものが乗ってくるのかで、物語が深まっていくと思う。そこは役者としては楽しみな部分でもありますし。幕が開いたときにお客様がどんな感想を持ってくれるのかもとても楽しみです。
――木村さんは花嫁を奪うレオナルド、須賀さんは花嫁を奪われる“花婿”という役を演じますが、いまのところどんな印象がありますか?
木村:レオナルドは、強気で勝ち気で「お前は俺しかダメなんだ」というようなセリフがあったりします。だからそのバックボーンを一挙手一投足に滲ませたい。この戯曲をいま舞台でやる意味とか、日本でやる意味とか、僕と健太がやる意味を考えて演じたいです。作品をぶっ壊せるくらいの新しい感覚で届けられたらと思いますし、そういうものをどんどん提示していけたらなと思います。
木村達成、須賀健太
――これまでに何度も上演されてきた作品でそういう新しい感覚のものをつくるのは、エネルギーも必要になってきますよね。
木村:原作がある作品に出演するときにも考えることですが、原作からそのまま抜粋したものをやるんだったら舞台でやる必要はないと思うんですよ。でも舞台のために書かれた脚本をもとにお芝居をつくっていくと、キャラクターの感情も含め原作と違う部分は生まれます。そうすると原作ファンの方は気になるところが出てきて「違う」ということになるとも思う。でも僕らが、それすら超越するようなものを提示できれば、また別の感想を持ってもらえると思うんですね。そのためにはどんどんパンチを撃っていかないといけない、と僕は思っています。この『血の婚礼』も、世界中で上演されてきた作品で、その重圧みたいなものは相当あります。そこで「なんだよ達成と健太、仲良しこよしやってんじゃないよ」と言われないように。憎しみと愛の物語を、できるだけストレートに、お客さんの胸に素早く届くように……いや、じっくり届くでも、ドロッと届くでもいいですけど。そこで確信を突く何か、ハッとさせる瞬間が紡ぎ合わされれば合わされるほど、舞台上で毎日奇跡が起きると思います。
――須賀さんは、“花婿”役にどんな印象がありますか?
須賀:多分、100人いたら100人が「かわいそう」と思うようなポジションじゃないですか。愛していた人を取られちゃう。しかも結婚式というタイミングで。それはかわいそうだなってなると思うんですけど、その「かわいそうだな」におさめたくはないなと僕は思っていて。本当に起きた事件がモデルになった戯曲ですし。人と人が殺し合うということは、「大切な人を取られた」からというだけではなく、やっぱりどこかお互い狂っているというか。花婿の側もなにかを内包していないと、その選択にならないと思うんですよね。そういうところをちゃんと描きたい。だからもしかしたら「かわいそう」と思われているうちは僕の正解ではないのかなと思うので。そこに留まらないようにしたいなっていうのは、自分の中では大事にしたいなと思っています。
須賀健太
>(NEXT)約5年ぶり共演、それぞれが感じる変化とは?
――お稽古も楽しみですね。
須賀:毎回なんですけど、稽古ってどうやってたかなって思うんですよ。いつもそうなんです。今回も忘れているので(笑)、ある意味、新鮮な気持ちで向き合えたらなと思います。
――稽古に入る前に不安になったりするんですか?
須賀:めっちゃなりますよ。ドキドキするし。どうやって芝居してたかな、とか。役によっても違うけど「どうやってたっけ、俺」って毎回なってます。でもそれも大事だなと思うので。“『血の婚礼』の中の須賀健太”として居られるようにしたいです。
須賀健太
――木村さんはそういうところ、ありますか?
木村:全然小心者ですよ、ビビりますし。でも僕は稽古ではいつもテーマは決めて行きますね。「今日はできるだけ恥かいて」とか。あと、できるだけ台詞は歌いたくないし、リズムで芝居はしたくないし、10人いたら10人その言い方するやんって言い方じゃないものを見つけていきたいし。そこは『血の婚礼』では特に考えるだろうなと思います。
――10人いたら10人言う言い方をしないっていうのは、演劇『ハイキュー!!』などで須賀さんと共演していた頃から思っていたことですか? 成長したからこその視点です?
木村:当時は自分が最強だと思っていたので。
須賀:(笑)。思ってたな!
木村:でもやっぱり、いろんな作品を経験すればするほど、上には上がいて、自分には手が届かないところがたくさんあった。それを掴みにいくには、みんなと同じようなことをやっていたら一生かかっても取りにいけないんだなと思って、1000分の1でもいいから「その言い方ってすごいね」って言われるような。もちろんそこにはちゃんと血も通って、脈打っている流れじゃないといけないから。それを突き詰めると、一瞬たりとも役が抜けるような瞬間がなくなるんですよね。稽古はもちろん自分に戻りますよ。ましてや今回は、信頼のおける健太が隣にいてくれるので。弱音を吐いたりとか、健太に助けを求める瞬間もくるのかな。わからないけど。でも舞台上に立ったときはできるだけ、異質のオーラを放っていたいです。
木村達成
――須賀さんは、当時から自分はこういうことが変わったんじゃないかとか、こういうことが面白くなってきてるとか、ありますか?
須賀:そういうことで言うと、『NARUTO-ナルト-』や演劇『ハイキュー!!』が特殊だった部分もあって。やっぱり原作があるので、僕らがそうじゃなかったとしても、観に来てくれるお客さんは原作が絶対的な大前提、土台になってくる中で僕らは芝居をしていた。お互いの関係性だったりも含め、ある意味特殊な場所でやっていたと思うんですよ。それがいい悪いということでなく、それを僕らはずっと一緒にやっていて。その後、僕は会話劇をやらせてもらったり、逆に劇団☆新感線のようなフルスロットルで見せていく作品をやらせてもらったり。ある種、極端なものをやってきたなと個人的には思っています。そういう意味では今回は、演出プランはまだわかりませんが、どっちにも振れそうだと思っています。芝居で見せなきゃいけない部分もあるし、一枚絵で美しい瞬間のようなものがあってもいいんじゃないかと思える戯曲なので。僕も、そこに対応できるような引き出しは増えてきたんじゃないかと思うので、その中で今やる意味があると感じています。
――お二人は愛のために命を奪い合う役柄ですが。
須賀:でもなんか「愛のために」っていうところが、文字にすると「愛」とか「恋」とかって言葉になっちゃうけど、そういうものでもないと思うんです。言語化できないものってあるじゃないですか。わからない「何か」。この作品の根本って、そのエネルギーみたいなものだと思うんです。だから、やっぱり公私混同していきます!
木村:(笑)。僕、この作品は、例えば日本語がわからない方に観ていただいても届くような、そういうエネルギーを持って挑みたいと思っています。それで理解していただけたら“勝ち”。そういう壮大なテーマなので。ものすごく深いところにある「何か」を、お互いに見つけ合っていけたらなと思います。

木村達成、須賀健太

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取材・文=中川實穗 撮影=池上夢貢

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