THE BACK HORN 何が起きようと歩み
を止めないバンドが鳴らす希望の歌、
『「KYO-MEIワンマンツアー」~アン
トロギア~』東京公演をレポート

THE BACK HORN「KYO-MEIワンマンツアー」~アントロギア~

2022.6.10 Zepp DiverCity(TOKYO)
6月10日、Zepp DiverCity(TOKYO)で、『THE BACK HORN「KYO-MEIワンマンツアー」~アントロギア~』を観た。“花を集めること”、そして“詞を集めること”という意味を持つニューアルバム『アントロギア』は、コロナというトンネルの向こうにかすかに見えてきた光に手を伸ばす、THE BACK HORNらしいエネルギッシュな希望のアルバムだった。今日は全15公演のうち7公演目、バンドは心技体ともに最も充実している頃だろう。フロアは椅子あり、まだ声出しもできないが、希望の歌を求める観客ですべての席は埋まった。状況は間違いなく前進している。
機敏な動きで風を巻き起こす山田将司(Vo)、静かな構えでリズムを操る岡峰光舟(Ba)、炎のごとく燃え盛る菅波栄純(Gt)、どっしり構えて骨太なビートを叩き出す松田晋二(Dr)。風林火山を体現するような4人のたたずまいは、20年変わらぬTHE BACK HORNのアイデンティティだが、コロナ禍の逆境を乗り越え、『アントロギア』という新たな強力な燃料を得て、さらに凄みが増している。アルバム冒頭を飾る「ユートピア」の、デジタルファンクめいたダンサブルなシーケンスと、人間の感情が溢れ出すバンドサウンドとの強力な合体はどうだ。THE BACK HORNらしいメロディックでハードな曲調で、孤独と悲しみを振り切る速度で突っ走る「ヒガンバナ」はどうだ。『アントロギア』収録曲はすでにライブバージョンとして確立され、総立ちの観客に拳を上げさせる。壮観だ。
「今回のアルバムは、みなさんとライブの空間で、一緒の思いを交換したり、音楽で生きている実感を味わいたいという、希望を込めた作品です。ライブが終わったあとに、ぼんやりと、希望という言葉が実感として感じられるような、そんなライブを作っていきたいと思います」
いつものように真摯な松田のMCを境に、曲調はさらにバラエティ豊かさを増してゆく。『アントロギア』収録曲は、ハードコア、ダンスミュージック、ジャズ、ロカビリー、カントリーなど実に多彩なものだったが、ライブではシーケンスを駆使してそれを再現しつつ、あくまでバンドサウンドとして熱を持って聴かせてくれる。黒づくめの山田は格闘家のように切れ味鋭く動き、岡峰は腰を落としてメロディックなフレーズを繊細な指先で紡ぎ出す。いつものように裸足の菅波栄純は誰よりも表情豊かに、笑ったり叫んだりしながら猛烈なカッティングを繰り出し、松田のドラムはリズムキープの域を超えて曲の感情を直接的に表現する。アルバム収録曲「疾風怒濤」の、岡峰の強烈な高速スラップをはじめ、3人の楽器バトルに震える。久々のアルバムツアー、4人の気力充実ぶりは明らかだ。
中盤では、山田がエレクトリックギターを弾く、メロディアスなミドルテンポの楽曲がいくつか登場するが、これが実にいい。ボーカリストのギターには独特の歌心が宿る。そしてあれだけ叫び吠えながらも、凛とした色気を失わない歌がいい。山田は今日も絶好調だ。
「声は出せない状況ですけど、表情や、動きや、みなさんの思いは存分に伝わっています。その思いが循環して、とても素敵な夜になっていると思います」(松田)
「めちゃくちゃ楽しい。ありがとう!」(菅波)
「栄純のシンプルな言葉って、響くよね。ツイッターの“うぉりゃあああ、最高だった!”みたいなさ。嘘くさくなくていい」(岡峰)
「少年漫画っぽい感じのね。文字がギザキザしてるやつ」(山田)
「という感じで、最高です!」(岡峰)
鬼気迫る演奏のあと、笑いながらダベるトークコーナーもまた、THE BACK HORNの素の魅力。とある曲の歌詞を引用しながら、岡峰が「最近、なんでもないようなことが幸せだったと思うんだよね」と、ライブができる日常をしみじみと喜ぶ。松田が「俺たちとみなさんだけの大切な時間を、明日への糧を、今日一緒に感じられたらと思います」と、うまくまとめる。THE BACK HORNの音楽は明日への糧。間違いない。
ライブ終盤は、再びギアを入れ直してスピードアップ。新曲とライブ定番曲を織り交ぜながらぐんぐん加速する。『アントロギア』の中でも特に重要なメッセージを持つ「希望を鳴らせ」は、松田のストイックなエイトビートと、菅波の気迫みなぎるギターソロが素晴らしい。山田、岡峰、菅波がコーラスを重ねるシーンも圧巻だ。メッセージはたった一つ、“希望を鳴らせ”。抽象的なタイトルの多いTHE BACK HORN楽曲の中で、タイトルだけですべてを伝える1曲。ほかに付け加えることは何もない。
「『アントロギア』には、花を集めることという意味があります。でも、花は摘んだら、命がなくなってしまう。希望を生み出すことは、残酷なことかもしれない。誰かの犠牲や、悲しみをエネルギーにして、希望を生み出しているのかもしれない。ただ、その感謝だけは絶対忘れないで生きて行きたいなと思ってます。」
胸に沁み入る山田のMCが、4人の思いを代弁する。『アントロギア』というアルバムを総括する。コロナだけじゃない、世界では今様々なことが起きている。THE BACK HORNはその犠牲や悲しみを集めて歌にする。2022年に生まれるべくして生まれたアルバムだと、その意味をしっかりと噛みしめる。
アンコールでは、うれしい発表があった。9月24日、日比谷野外音楽堂。10月1日、大阪城野外音楽堂。『THE BACK HORN「KYO-MEIワンマンライブ」 ~第四回夕焼け目撃者~』の決定を告げる松田の言葉に、この日一番の拍手が湧いた。野音への思いを胸に残りのツアーを駆け抜けていきますと、頼もしい言葉も聞けた。さらに、来年の2023年は、THE BACK HORNの結成25周年を祝うアニバーサリーイヤーだ。未来への新しい目標を掲げながら、何が起きようと決して歩みを止めない。『THE BACK HORN「KYO-MEIワンマンツアー」~アントロギア~』もまた、長い旅路の通過点だ。『アントロギア』収録曲を中心に、アンコールを含めておよそ2時間。すべての音が消えたあとにそこに見えたのは、形のない、しかし確かにそこにある、希望の姿だった。
取材・文=宮本英夫 撮影=橋本塁[SOUND SHOOTER]

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