りょう×上條恒彦、小島聖×平田満が
語る、濃密な2人芝居 『Heisenberg
(ハイゼンベルク)』取材会レポート
りょう:『Heisenberg(ハイゼンベルク)』は難しく聞こえる題材ですが、私としてはとてもシンプルでストレートな本だなと思いました。言葉、会話から見えるジョージーの決まった位置を私自身がしっかりと持って、お客様が「この人これからどうなるんだろう?」「何を言っているんだろう?」と多様に感じられるよう、お客様をストーリーに巻き込んで、お客様を揺らしていきたいなという気持ちでいます。
ストレートにそのまま。分からないことは分からないものとして、その中にジョージーの真ん中というものが見えてくるかなという感じで、稽古に臨みたいなと今は思っております。
上條恒彦(以下、上條):まず2人芝居は初めてなんですね。歌のない芝居に出るのもそうあることではなくて。ですから、ああいう芝居がやりたいな、歌のない芝居やりたいなとずっと思っていたので、両方の思いが叶って、すごく楽しみにしています。
実は……2月に『ラ・マンチャの男』がありました。幕が開いて、コロナの陽性者が出てしまって、公演を止めなくてはいけなくなって。そういう綱渡りのときに、僕も陽性になったんです。療養所に連れて行かれて、言い尽くせないぐらい辛い思いをした。でも、助かったのはですね、『Heisenberg(ハイゼンベルク)』のまだ準備稿だったんですけど、プリントもクリアじゃない台本だったんですけど(笑)、それを読むのが唯一楽しみで。
読めば読むほど、いい本だなぁと思いました。それを自分が演じるという前に、読み物としてですね、すごく思っていた通り、僕がやりたいなと思っていた世界が描かれている。それで全部合わせて十数日間、なんとか療養を頑張れたんですね。ですから幸先いいなと今は思っています。
りょう:上條さん、その期間でセリフを覚えちゃいました? どうしようと、ドキドキしている。
上條:大丈夫、僕は何度読んでも覚えられない。記憶力が減退する年齢ですしね。あなたについていきます(笑)。
それを確かにしていくことも大切なことなのかもしれないんですけど、分からないまま、ずっと2人で会話を進めていくと何かが正しいことになるかもしれないし、そういう時間になっていったらいいのかなと勝手に思っています。
平田満(以下、平田):『Heisenberg(ハイゼンベルク)』というから科学者の知的な会話が続くのかなと思っていたら、いただいた本は男女の会話がずっとあって。しかも日常会話。普段だったら日の当たらない男女、しかも最初から惹かれ合うことはないだろうなという男女が、ある意味でラブストーリー的に展開していくんですけど、その2人が実はいろいろなことがあったんだろうなと。
恵まれていない2人がたまたま話す。しかも話がなんか食い違っているし。これって世の中によくあることだけど、聞いてくれる相手がいるというのは、ある意味幸せなことだし、そういう意味でやっていても、あるいは見てくださるお客様にも、シンプルな生きている実感みたいなものが伝わったら、あるいは伝えられることができたらいいなと思いました。
りょう:おしゃべりで風変わり、でもとても魅力的な女性なんですが、衝動的な言動というのが多くて。ほぼ衝動的にお話ししているんですけど、そういう言動が多いからこそ、やはりひとつの芯を持って、シンプルにストレートに演じたいなと思って。それをやることによってお客様を揺らしたいというか、心を揺らせるように、ジョージーはシンプルに。そのまま真っ直ぐ。どれが本当・嘘とかいうのは考えず、そのままいきたいと思っています。思うままにという感じですかね。
小島:あまりまだ何も考えていないんですけど、一度本読みをする機会があって、平田さんと一緒に声を出して、発見したこともありました。そういう発見をベースにしたいなと思う。「きょう、こんな発見があったな」という積み重ねが平田さんとの中で見つかればいいな。平田さんという器の中に、すごい遊んでいるようなイメージもあるだろうし。大きなものがあるから、はしゃいでいる気が今はしています。
上條:素敵な会話だなぁと思っていましてね。日本人は会話が下手だというテレビ番組をたまたま見たことがあって。でもこの作品は会話が噛み合ってもないのに、2人の会話が上手なんですよ。こういう風な会話を若い頃ずっとやってこれたら、もう少し素敵な人生が送れたんじゃないかなと思うんですよ。
そういう会話をしてこなかった。だからこそ、この本を読んで、素敵な会話だなと思っているわけで。そのことから、まず開拓し直さなきゃいけないぞと思っている。できるかどうか分からないです。だけど、自分だったらこんなこと言わないけど、こいつはなんでこういう風に言うんだろうと思う箇所を少しずつクリアしてやっていこうと僕は思っています。
平田:実はまだ稽古始まっていませんし、演出も全く受けてないので、責任は持てないんですけど、決してうまく立ち回ったりとか、脚光を浴びたりすることがない。かといって、不幸な目や辛い部分に集中するようなお話でもない。それぞれの話が、確かに嘘か真実か分からないところも、でも嘘でも真実でもいいので、人物が生きてきた何か人間性みたいなものができてくればいいな。なにせ小島さんと2人しか出ない。しかも男女の話なので、なんとか嫌われないように頑張ろうという消極的なアプローチです(笑)。
りょう:このお話の最初、ジョージーがアレックスの首にキスをするという、とても演劇的な出会いから始まって、偶然なのか何なのか、その出会いから2人の人生が変わるゲームのような会話が繰り広げられるんですけども、本当に日常的な会話で。
上條:オフ・ブロードウェイの舞台を見ていないから分からないけど、僕もそれ、すごく知りたいです。アメリカの観客、ブロードウェイの観客はどういう風に受け取ったんだろうというのを知りたいよね。だけど、参考にはならないと思う。東京の観客で日本人の私たちがやるから。でも、話ぐらいは聞いてみたいなと思っていました。
まぁ、自分では思ってもいないような展開がありましたからね。粗末な印刷のコピーの本をめくるのが楽しかった。それだけのことなんですけどね。
会話の余白みたいなところ覗き見していると、何がどうという、物語を構築して最後にたどり着くという演劇ももちろんみて、すごいと思う素敵さもあるけれど、なんだかよく分からないものを見たときに、面白かったなと持ち帰る演劇もある。そういう空気感が素敵な物語なんじゃないでしょうか。
平田:僕自身が思うのは、まず(アレックスは)75歳男性、老人ですよね。その恋愛というところがね。75歳って、膝が痛いとか、血圧が高いとか、セクハラとか、そんなので世間を賑わすぐらいで(笑)、これだけまともな恋愛劇というのがまず少ないんじゃないかな。連ドラを作っている人はまず考えないような題材なので、そんなにお客さん呼べるのかなってちょっと心配になるぐらい(笑)。
僕にヒットしたのはそこです。この年になっても、恋愛できるんだな。それは挑戦していいんじゃないかなと。そこが魅力的だったり、面白かったりすれば、お芝居もまだまだ捨てたものではないなと思いました。
それがもっと少人数でやると、自分の役割も大きくなりますし、大きなやりがいも生まれるんですけど、そういう中でもっと濃厚な時間をお客さんと一緒に作ってみたいなという気持ちがあって。その中で上條んとご一緒させていただくということ。今をときめく小山ゆうなさんの演出。その『Heisenberg(ハイゼンベルク)』という作品を濃厚に伝えるのにきっと一番いいのではないかと思う劇場、中野ザ・ポケットさん。
すべて並んだときに、私はここがチャレンジするところなんじゃないかなと思いました。なので、恐ろしいし、いまでも恐怖なんですけど、ここは自分の芝居人生、役者人生をかけるぐらいの気持ちで、頑張ろうと思います。
小島:単純に平田さんとできることと、ポケットはほぼ自分では観劇に行ったことがないような劇場だったので、新しいところでできるという2点です。
上條:僕は年齢的に、仕事選んでいる場合じゃない(笑)。来たらやる。ですからろくに本を読まないでやろうやろうと思って。何にも考えないでいたんですけど、自分がやりたいなと思っていた2人芝居でラッキーと思ってね。うけてよかったと思います。いや、本当にうけてよかったかどうかはまだ分からない(笑)。これから頑張らないといけないね。
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