若さと才能がまぶしい! 日生劇場の
『セビリアの理髪師』【ゲネプロ・レ
ポート(12日組)】

日生劇場で2022年6月11日(土)、12日(日)に上演されるロッシーニ『セビリアの理髪師』。このプロダクションは一般公演に加えて中・高校生対象の無料招待公演、11月〜12月のびわ湖ホール、フェニーチェ堺、やまぎん県民ホールでの公演が予定されている。
NISSAY OPERA/ニッセイ名作シリーズ公演は毎年、オーディションによって選ばれる二組のキャストが出演する。『セビリアの理髪師』は2020年6月に上演予定だったがコロナ禍で延期になった公演だ。今回の公演全体の様子と11日組のキャストについてはこちら(https://spice.eplus.jp/articles/303963)の記事を参照していただきたい。ここでは11日組のゲネプロ(最終総稽古)の翌日に行われた、12日組によるゲネプロの様子をレポートする。
『セビリアの理髪師』はドン・バルトロという古い価値観を持った医者が、若い娘ロジーナをカゴの鳥のように家の中に閉じ込め、彼女の財産を奪うために結婚してしまおうと企む話である。だが、溌剌としたロジーナは強権的なドン・バルトロの言いなりにはならない。彼女に恋する若者(貴族のアルマヴィーヴァ伯爵だが、ロジーナの真の愛情を獲得するために身分を隠している)と、出入りの理髪師フィガロを味方につけて自分の境遇を変えようと試みる。ロッシーニ・オペラのヒロインはいつもなかなか能動的なのである。
12日組でロジーナを歌ったのは山下裕賀。NISSAY OPERA 2019の『ヘンゼルとグレーテル』ヘンゼル役が大きな舞台へのデビューだったというまだ若いメゾソプラノだが、2021年に同じくNISSAY OPERAで歌ったベッリーニ『カプレーティとモンテッキ』ロメーオ役で広く注目を集めた。伸び伸びとした艶のある声に舞台での闊達な演技が新世代を感じさせる。ドン・バルトロの久保田真澄は、2016年に今回の粟國淳演出の舞台が新演出された時にもドン・バルトロを歌っている。歌といい容姿といいドン・バルトロ役のイメージにこれ以上ないほどぴったりで、上から目線でロジーナをおさえつけようとしても、ちっとも言うことを聞かない彼女に手を焼いている感じを出すのがうまい。でも意外と仲が悪くない瞬間もある二人の関係は面白いのだ。
フィガロは黒田祐貴。昨年夏に兵庫県立芸術文化センターで上演されたレハール『メリー・ウィドウ』にダニロ役で主演するなど、今話題を集めている歌手のひとりだ。2020年に予定されていたこの『セビリアの理髪師』が本来ならばオペラ・デビューになるはずだったというから、彼もやはりNISSAY OPERAが大舞台への登場のきっかけになっている。黒田の声はこれからますます発展していくであろう魅力的な音色を持ち、舞台での自然さと諧謔味、長身の華がある容姿と、今後の活躍が楽しみなアーティストだ。

アルマヴィーヴァ伯爵を歌ったのは小堀勇介。第一声から品のある優しげな声が、すっきりとした身のこなしと相まって伯爵役にうってつけのテノールだ。小堀はロッシーニを得意にしており、細かい動きが多い装飾的な歌唱も、抒情的な旋律美も聴きごたえたっぷりである。歌の装飾の仕方には歌手の個性が出るのが興味深いのだが、今回はそれに加えて、第一幕でバルコニーの中にいるロジーナに歌いかける場面で、11日組の中井と同じように小堀も自分でギター・ソロを演奏しながらの弾き語りとなった(ひとつ目のアリアの時のオーケストラ・ピットからのギターは黄敬)。この場面の小堀の演奏は後半が少しフラメンコを思わせるような情熱的な雰囲気をまとうなど、それぞれの歌手の個性を聴き比べられるのも醍醐味である。小堀は最後にある難曲として知られるアリア「もう逆らうのをやめろ」も威厳を感じさせる歌唱であった。
ドン・バジリオの斉木健詞はよく響く声ととぼけた演技が秀逸。ベルタの守谷由香は通る声。フィオレッロの川野貴之は折り目正しい歌唱に好感が持てた。
沼尻竜典指揮の東京交響楽団は序曲から完成度の高い、若い歌手たちを盛り立てる演奏を聴かせた。
そのほかの出演者やC.ヴィレッジシンガーズの男性合唱も好調で、観客が入っての公演が盛り上がることは間違いなさそうな二日間の出来栄えであった。
取材・文=井内美香 撮影=長澤直子

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