井上芳雄・明日海りお・浦井健治・望
海風斗、ブロードウェイに負けないク
オリティの作品ができたと自信 『ガ
イズ&ドールズ』会見&ゲネプロレポ
ート

1950年にブロードウェイで初演が行われ、1200回のロングランを記録した『ガイズ&ドールズ』。トニー賞作品賞、主演男優賞、主演女優賞、助演女優賞など8部門を受賞し、日本でも度々上演されてきた。今回はメインキャストに井上芳雄明日海りお浦井健治望海風斗という豪華キャストが集結。ブロードウェイ史上において初めて35歳以下で2度のトニー賞ノミネートを果たした注目の若手演出家であり俳優としても活躍するマイケル・アーデンが、歴史ある名作に新たな息吹を吹き込んだ。ゲネプロと会見の様子をお届けしよう。
初日を迎えての思いを聞かれ、まずは井上が「無事ゲネプロを終え、あとはお客さんを迎えるだけなので楽しみです。この時期に、マイケル・アーデンという演出家を迎えて新たな『ガイズ&ドールズ』を作れるというのは本当に貴重な経験。この作品に携わることができて嬉しいですし、早く観てほしいです」と笑顔を見せる。浦井が「このカンパニーならではの作品が出来上がりました。僕はギャンブラーの枠組みなんですが……」と話し出すと、井上がすかさず「僕もその枠ですよ、自分だけみたいな言い方してるけど。なんで手袋してるの? 殺し屋の役? 寒いの?」と次々いじる。浦井は「演出のマイケルさんのおかげで、家族のようにあたたかいチームが作れたと思う」と感謝を述べつつ、作中の台詞に絡めて「何よりも芳雄さん演じるスカイが空まで届くほど格好良い。ぜひ注目してください!」といじり返し、仲の良さを見せてくれた。明日海は「華やかなナンバーやワクワクするナンバーがぎゅっと詰まっています。特別な魔法にかかったみたいに幸せですし、今まで何度も作っては壊して積み上げた世界をようやくご覧いただけると思うと感慨深いです」、望海は「この数年、我慢することや心痛むニュースが多い中で、明るい作品をみんなで作り上げ、お客さまを迎えられる幸せを噛み締めています」としみじみ語る。
『ガイズ&ドールズ』舞台写真
『ガイズ&ドールズ』舞台写真
演出を手がけたマイケル・アーデンは「70年以上前に書かれた作品ですが、人間模様や人の在り方は現在でも変わっていません。作品に登場する人々がどのように変わっていくか、寄り添っていくかというドラマもぜひ見ていただきたいと思います」と、本作が持つ普遍的なテーマに言及。「人間がお互いに譲り合うということは、昨今の世界においても学ぶべきことだと思っています。そして何より、素晴らしいパフォーマンスの皆さんを観ていただき、楽しんでほしいです」と話した。
また、それぞれが主演級のキャストが揃う豪華さも見どころのひとつ。4人の関係性を聞かれると、井上は「明日海さん・望海さんとの共演は初めて。僕の妹がお2人の同期だったので気持ち的には妹のような感じでしたが、素晴らしい女優さんになられたと思います。浦井くんのことはあんまりよく知らないですね」と笑わせる。明日海は「芳雄さんも浦井さんも、フラットだけど集中する時はガッと取り組む。ついていくぞという気持ちでしたよね」と望海に訪ね、望海は「そうですね。私たちは宝塚時代と性別が変わっていて、戸惑いもありましたし」と苦労を語る。ハンドバッグの持ち方や手の差し出し方がわからなくなることもあったとのことだが、宝塚OGとの共演も多い井上と浦井が気を配ってくれたそうで、自然体で稽古に打ち込めたと笑顔を見せていた。
『ガイズ&ドールズ』舞台写真

『ガイズ&ドールズ』舞台写真
女優としての芝居に対して、明日海は「自分の中では常に大丈夫だろうかという思いがあった」と言いつつ、「望海とのシーンではあまり意識しすぎず、自然体だけど女性らしくいられた気がします」と話す。望海も「音楽学校時代に戻ったような感覚で、懐かしい気持ちで一緒にお芝居ができました。どちらかというとスカイとサラのシーンでドキドキしました」と、気心知れた仲ゆえの安心感を語った。

井上と浦井の共演も久々。お互いへの印象について訪ねられると浦井が「座長っぷりがすごいですよね。例えば演出のマイケルさんが少し頭の中ごちゃごちゃしてるかなという時、誰も何も言っていないのにパックに包まれたバナナをスッと置きに行くようなケアをしていて。全員に愛を……」と話しだすが、当の井上は「全然覚えてない」と、きょとんとした顔に。井上から浦井に対しては「相変わらず一生懸命で、一生懸命度が増しています。やっぱり経験を積んできたんだと感じますし、稽古場での在り方も共感できるところがあって、やっぱり同志みたいな感じがあります」とこちらも長い付き合いゆえの信頼関係をのぞかせる。

『ガイズ&ドールズ』舞台写真
続いて、普段ブロードウェイで活躍しているマイケルに、日本の役者陣から受けた印象に対する質問が。国に関係なく良い俳優はすぐに分かるとした上で、「この4人の仕事に対する美学はすぐわかりましたし、仕事に誠心誠意取り組む姿勢がカンパニー全体から感じられました。お客様に見せる成果物に対する敬意、それに対する誠意の度合いが本当に多いというのが、日本のミュージカル全体に対するイメージです。アメリカが日本の文化から見習うべき点は多々あります」と話した上で、「完璧な完成形を目指すのは素晴らしいですし、もちろん目指すべき。その上で、私の願いとしては、もっと自分らしさを出して自分で舞台に立つことにチャレンジしていただきたいと思います」と期待を寄せる。その理由として「私にとって、完璧さは逆にいうと面白味のなさ。人々が劇場に行く理由として、欠点やもがく姿を見たいという部分があると思うんです」と舞台に対する考えを述べた。これに対し、井上は「浦井くんは完璧ですけど、僕はそんなことないですね。コメディだととにかく笑いを取りたい、無理にでもアドリブを挟んで稽古場を笑わせてやろうと思ってしまうんですけど、やっていく中でお互いを見てただただ役として生きてくれと言われて。原点に戻って取り組めています。一切アドリブはしていないと胸を張って言いたいです(笑)」と、初心に返って芝居に向き合えたと振り返る。

『ガイズ&ドールズ』会見より
望海は「この作品をたくさんの方に観ていただき、ここからさらに進化していけたら。どんどん深まっていく過程を千穐楽まで全員で楽しんでいきたいです」と意気込み、明日海は「マイケルからいただいた言葉を忘れず、素敵な時間にできたら。千穐楽までカンパニーの全員が健康でいられるように念じながら毎日公演したいです」と気を引き締める。浦井が「ずっと満員御礼でチケット難と聞いています。このご時世にすごくありがたいことです。スカイとサラの恋愛がロミジュリのようで本当に素敵。最初は賭けから始まったのが本当の愛になっていく。真実の愛という普遍的なメッセージをお客様にお届けしながら、僕としてはアデレイドと一緒にふざけたいですね。作品のスパイスとして演じたれたらと思っています」と意欲を語ると、井上は「ちゃんとしたことを言うようになったね」と感心。最後に座長として、「マイケルだけじゃなく、振り付けのエイマン、装置のデインなど、皆さんアメリカから来てくださいました。もちろん日本人スタッフやキャストも全力でやっていて、素晴らしいクオリティのものが出来ました。客席で観ながら本物のブロードウェイにいるような感覚になりましたね」と完成度への自信を見せた。
【あらすじ】
1930年代のニューヨーク。ネイサン(浦井健治)は賭場を探して奔走していた。14年間にわたって婚約しているアデレイド(望海風斗)にはギャンブルはやめると言いつつ、一向にやめないネイサン。彼は賭場代を得るため、大物ギャンブラー・スカイ(井上芳雄)に賭けを申し込むことに。「どんな女でも落とせる」と言うスカイに、超堅物な救世軍の軍曹・サラ(明日海りお)を落とせるかどうか賭けようと言うネイサン。伝道所の危機につけ込んでサラを食事に誘うスカイだったが、共に過ごすうちお互いに惹かれていく。だが、サラの留守にネイサンが伝道所で賭博を行なっていたことで二人の間には溝ができてしまう。また、隠れて賭博を続けていたネイサンにアデレイドの不満が募り――。
ゲネプロレポート
まず目を引くのはステージに設置された3階建てのセット。作中ではこれがシーンに合わせて上下・回転し、伝道所になったり街の一角になったりしながら場面ごとの雰囲気をガラリと変えている。セットやアンサンブルの活躍により、実際以上のスケールが感じられる。軍隊を模した組織を持つキリスト教プロテスタントの慈善団体・救世軍や2個のサイコロを振って出目を競うクラップ・ゲームなど、耳馴染みのない言葉も多いが、ストーリーはシンプル。魅力的な楽曲やキャラクター、思わず笑ってしまう演出やコミカルな演技など見所が多く、時代背景や難しいことを考えなくても十分に楽しめると感じた。
『ガイズ&ドールズ』舞台写真

『ガイズ&ドールズ』舞台写真
井上が演じるスカイは、やり手のギャンブラーらしい自信に満ちておりチャーミング。したたかで口も上手いが、サラに振り回されるシーンでは純情な一面も見えて可愛らしい。ロマンティックなナンバーや勝負師としての格好良さが存分に発揮されるナンバーまで、多彩な楽曲で井上の歌声やダンスを堪能できる。救世軍のメンバーに混ざって笑顔で行進したり楽器を演奏したりと、時折見せる子供のように無邪気な表情も魅力的だ。明日海は堅物な聖職者としてのサラの姿と、スカイに連れられて訪れたハバナで羽目を外してはしゃぐ少女のような表情のギャップを愛らしく魅せる。真面目なサラがスカイに出会い、恋に落ちていく様子や心境の変化が歌声や表情から雄弁に伝わってきて応援したくなってしまう。
『ガイズ&ドールズ』舞台写真
『ガイズ&ドールズ』舞台写真
一方、ネイサンとアデレイドのカップルは終始コミカル。浦井はアデレイドにベタ惚れなのにのらりくらりと結婚から逃げるネイサンを愛嬌たっぷりに演じ、憎めない存在に仕上げている。スカイとのシーンで見せる息の合ったやりとり、ギャンブル仲間のナイスリー(田代万里生)たちとの悪友感、クラップ・ゲームの参加者であるハリー(友石竜也)との緊迫した駆け引きなど、ギャンブラーらしい危険な一面も魅力。恋人に見せる顔のあまりの違いに思わず笑ってしまう。
『ガイズ&ドールズ』舞台写真
『ガイズ&ドールズ』舞台写真
『ガイズ&ドールズ』舞台写真
アデレイドを演じる望海は、ショーで見せるコケティッシュなパフォーマンスと、いつまで経っても結婚してくれないネイサンへの不満を吐き出すナンバーの差が楽しい。ユーモアたっぷりなソロナンバーもしっかり聴かせ、客席からは何度も笑いが起きていた。ネイサンを振り回しているように見えるが一途で健気な彼女の愛らしさに惹きつけられる。
『ガイズ&ドールズ』舞台写真
『ガイズ&ドールズ』舞台写真
それぞれのカップルによるナンバーはもちろん、井上と浦井、明日海と望海での歌唱や田代が中心となる楽曲もあり、ファンにはたまらないシーンが多数。クラップ・ゲームに熱狂するビッグ・ジューリ(瀬下尚人)やサラの後見人アーヴァイド(林アキラ)、サラたちの上司カートライト将軍(未沙のえる)といったキャラクターたちも個性豊かでいい味を出している。いつの時代も変わらない恋人たちのすれ違いや駆け引きはもちろん、様々な人々の生き様や人間関係を覗き見し、当時のアメリカにタイムスリップしたようなワクワクを味わえるはずだ。
『ガイズ&ドールズ』舞台写真
本作は6月9日(木)より7月9日(土)まで帝国劇場にて上演されたのち、7月16日(土)から29日(金)まで博多座で福岡公演が行われる。
取材・文・撮影(会見のみ)=吉田沙奈

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