Karin.が新作『星屑ドライブ - ep』
を通し見出した、新しい確信とは

こんな世の中にあって、例えばツアーを中止せざるを得ないことになったりすることはあっても、キャリア自体が足止めを食らうようなことは、彼女の場合、無いようだ。Karin.は、新しい作品でまたさらに自身の音楽性の輪郭をより明確にし、そこにいっそうの奥行きを与えようとしている。

新しい作品『星屑ドライブ - ep』の制作の過程で手に入れた、彼女の新しい確信について聞いた。
――今回の作品は、昨年秋のツアーが終わってから作り始めたんですか。
ツアーの前から同時進行していました。ツアーの準備をしながら半分はレコーディングも終えていて、みたいな。
――1曲目の「星屑ドライブ」は配信ライブでもう披露したんですよね?
そうなんです。「この曲がどういう形でリリースされるかわからないけど、歌っちゃおう!」みたいな感じで、やっちゃいましたね(笑)。
――前作『二人なら - ep』リリース時のインタビューで、「作品が出来上がって、私自身はもう次のモードです」という話をしてくれましたが、その「次のモード」で作った曲たちということですか。
そうです。
――その「次のモード」というのは、具体的にはどういう意識だったんですか。
「星屑ドライブ」を作った時に、私が今まですごく形にしたかったことがうまく作り上げられたなと思ったんですよ。
――それは言葉の部分ですか。あるいは、メロディでしょうか。
全体的に、ということではあるんですけど、『二人なら - ep』を作る時に「メロディメイカーになりたい」という話をしたと思うんです。
――そうでしたね。
それが一つ達成できたんじゃないかなと思うような曲です。歌詞については三浦しをんさんの小説を読んで、そこから発想して書いたものではあるので、そこは三浦しをんさんのお陰でもあるんですが、その本を読んで、誰にも頼まれずに、初めて自分が“これを曲にしたい”と思って、そこから自分の言葉を使って曲にしたっていう。そういう作業も初めてだったので不思議な曲ができたなという感じもしたんです。
――そういう納得度の高い楽曲ができて、そこから最終的には4曲入りepというサイズの作品が出来上がったわけですが、その過程ではどんなことを考えたり、スタッフと話し合ったりしましたか。
どうするのか決めないまま「星屑ドライブ」と「嫌いになって」をどちらも村山☆潤さんのアレンジで音源を作って、その後ツアーが始まり、「ツアーで感じたことを曲にして、ツアーをまわったバンドのメンバーたちと録音しよう」という話になりました。ところがツアーをやってみると、達成感はもちろんあったんですけど、プラスのことをあまり思わなくて……。“もっといい曲を作らなきゃ”とか、そういう反省点があまりにも多過ぎたんです。ただ、新しいものに挑戦したいという気持ちはあったので、シティポップみたいな曲を作ってみようと思ってできたのが「会いに来て」でした。その後に、ツアーで感じたことというか、いろんな場所に行って感じたことを曲にしようと思ってできたのが「永遠が続くのは」で、その2曲は一緒にツアーをまわった高野勲さんにアレンジしてもらって、前の2曲とあわせて今回のepになりました。
――ということは、前作を作り終えた時点での新しいモードで作った曲から始まって、ツアーで感じたことまでをまとめたのが今回の作品ということになりますね。
そうですね。
――「会いに来て」という曲は、お客さんに向けた思いを曲にしたのかなと勝手に思ったんですけど、Karin.さん自身の気持ちとしてはどういう曲なんですか。
ツアーをやって、“もっとお客さんがノレるようなイントロの曲を……”という、自分のなかの消化しきれなかった思いがあの曲になったので、「お客さんに向けた」という解釈は間違いじゃないと思います。
――その曲に<次の季節に連れてって>というフレーズがありますが、そのフレーズはどういう気持ちからで出てきた言葉ですか。
世の中がこの状況にあって、「初めてのツアーをやります」と言っても、やっぱり会場に来るのは難しい人もいると思うんです。いろんなことが心配で。そういう退屈な状況から私も抜け出したくて書いたんですけど、そこで使う言葉としては“季節”というのが一番柔らかい言い方だと思ったし、またツアーをやる季節がいつになるかわからないけど、それにしてもまたツアーをやれる未来が見えた気がして、だから<次の季節に連れてって>の前に<未来だって考えてるでしょう?>というフレーズが入ってるんですけど。ディスタンスをとって椅子席で、というのではなくて以前のライブハウスの景色を私自身も体験したい!って思いますね。
――さっきシティポップという言葉も出ましたが、アレンジは軽やかで爽やかな仕上がりです。アレンジに関して、高野さんとはどんな話をしたんですか。
ユーミン(松任谷由実)とベニー・シングスをずっと聴いてた頃にこの曲ができたんで、「シティポップのサウンドに挑戦してみたい」って。それでも、いまだにイントロを聴くと自分の曲じゃないみたいに感じます(笑)。『アイデンティティクライシス』や『メランコリックモラトリアム』のような曲調が好きで聴いてくださってる方にはどんなふうに受け止められるんだろう?という不安も少しあったんですけど。ずっと同じところに止まってるのが正しいわけではないだろうし、引き出しをどんどん増やしていかないと音楽を長く続けられないなと思って。
――今回の4曲を聴き通していると、あらためてKarin.さんの声を意識する瞬間が何度かあったんですが、Karin.さん自身はこういう曲調やアレンジの曲も歌うようになってきた今の時点で、自分の声についてはどんなふうに感じていますか。
それこそ「会いに来て」を作る時には、不安が大きかったですね。私の声は果たしてこういうサウンドに合うんだろうかって。ただ、ツアーも経験して、聴いてくださる方を私自身がもっと引っ張っていくようになっていかないとダメだなあって思ったんです。そのためには、バンドでやっても一人で弾き語りでやっても私の音楽というものを確立させていかなきゃいけないし、だからこそ自分の声をもっと受け入れるというか、むしろ自分の声を武器にして歌っていくようにならないといけないなという気持ちになりました。声に関して「なんか、ちょっと」とか言ってられないっていう。
――好きとか嫌いとか言ってる場合じゃない、と?
とにかくこの曲たちを届けなきゃ、っていう。私は曲を作るのが何もよりも好きなので、その自分の作った曲たちを届けなきゃという気持ちが今は大きいですね。
――「永遠が続くのは」はどんなふうに生まれた曲ですか。
ツアー中の話なんですが、名古屋公演の前日に名古屋に行って、夜に時間ができたので、中学の頃に仲の良かった友達が名古屋の大学に行ってることを思い出して連絡したんです。栄駅で待ち合わせることにして、よく知らなかったんですけど、ホテルから駅まで徒歩4分という話だったんで5分前に出れば大丈夫だなと思ってたら、待ち合わせた場所が反対側の出口で延々たどり着けないんですよ。早く行かなきゃってこんなに思ってるのに辿り着けないっていう、その焦ってる気持ちがそのまま曲になったような……。急いでる途中で目にした景色とか地下鉄の空気とか、そういうものが鮮明に記憶されていたから、それがもう私のなかで曲になってた感じでした。
――友達とは無事に会えたんですか。
結局ちょっと遅れたんですけど、なんとか会えて、でも会うのは5年ぶりだったからか、「大人になったね」と言われたんです。そこで思ったのは“私はずっと「大人になりたい」という曲を作ってたけど、本当はそんなに憧れてなかったんじゃないかな?”ということで、私自身はまだまだ幼いところがたくさんあるのに、“これで大人に見えるんだ”っていう。そういうことを経験しながら大人になっていくんだろうなと思った時に、憧れが憧れでなくなった気がして、そういう曲が作れる気がしたので、家に帰ってじっくり考えて作ったのがこの曲です。
――歌詞に描くプロットや風景はそのエピソードがそのまま題材になったけれど、テーマは自分のなかであらためて掘り下げた、と?
そうですね。それと、まさに自分が好きそうなタイプの曲を今回の作品に入れたかったので、この曲は何度も書き直しました。昔の私が理想としていた曲になったというか。「星屑ドライブ」はメロディメイカーになりたいと思ってからの理想だけど、「永遠が続くのは」は曲作りを始めた頃の私がたどり着きたかったところに行けた気がしてて。だから、アコギが鳴ってるようなサウンドになったんですけど。
――一生懸命急いでるのになかなかたどり着けなくて焦ったことと、「大人になったね」と言われて“そもそも自分は大人に憧れていたのかな?”と思ったことは、Karin.さんのなかでどんなふうに繋がったんですか。
例えば、部活で自分がまだ1年生だった時には3年生がすごく大人に見えたんですよね。みんなから信頼されるような、そういう人間に早くならなきゃって。でも3年生になってみると、“私が思い描いてた3年生って、こんな感じだっけ?”と思ったりしたんです。その待ち合わせの時にも、いっぱい話したいことがあると思ってたけど、じつはそんなにたくさんあるわけでもないんじゃないかとか、そんなことを思ったりしながらやっとたどり着いて、「大人になったね」と言われた時に、私はなんでこんなに焦ってたんだろう?って。待ち合わせに遅れそうになって焦ってることと、大人になりたいと思ってもなかなかなれていないということの気持ちがリンクして、その先に思ったのは“そもそも私は何になりたかったんだろう?”ということで。
――“私は実はそんな大人に憧れていなかったかも”ということに思い至った時、Karin.さんは楽になったんですか。それとも、がっかりしたんですか。
答えが見つからない、もやもやした感じはありました。私が思い描いていた大人はどういう大人で、その待ち合わせた時になぜ“そんなに大人にならなくてもいいや”と思ったんだろう?って。その気持ちをうまく表現できないことにモヤモヤしました。大人ということではなくて、何かなりたい人物像があったのかな? あれだけなりたいと思った気持ちはなんだったんだろう?という、不思議な気持ちになりました。
――その答えは出ましたか。
まだ出ていないんですけど、待ち合わせ場所にたどり着かなくて焦ってた気持ちと、たどり着いて安堵した気持ちと「大人になったね」と言われてあまり嬉しくなくなっちゃった気持ちというのは、私のなかでそれまでにあまり感じたことのないふわふわした感じだったんです。そのふわふわした感じをまたどこかで味わえたらいいなっていう、楽しみな感じがあります。ジェットコースターに乗って“わっ”と驚いた時の感覚というのは日常ではなかなか感じることがないじゃないですか。だからまたジェットコースターに乗りに行くように、あの時の焦った気持ちと安堵した気持ちと、特に憧れてたわけじゃないんだなってちょっとがっかりしたような気持ちをまたどこかで味わいたいなって。だから、答えを急いで探すことをしていないのかもしれないですね。
――「永遠が続くのは」を聴いて、「過去と未来の間」という曲についてKarin.さんが「この曲は10代の間ずっと書いてきた愛や孤独ということについてまとめられたなと感じた曲です」と話してくれたことを思い出しました。“区切りがついたと言ってた愛や孤独についてまた歌ってるな”って。それはすごく興味深いし、もっと言えばすごくいいことだと僕は思っているんですが、Karin.さん自身はまた愛や孤独について歌っていることについてどんなふうに感じていますか。
私は自分の曲のなかでもっとたくさんの題材に関して話したいなと思っていたんです。でも、事務所の社長と「今後の曲とかどうする?」という話をした時に、社長が「今までいろんなアーティストを見てきたけど、みんな言いたいことは一つしかないんだよ」と言ったんです。「Karin.はそれが何かと言えば、孤独なんだよ。孤独をまとめ切ったと思ってるかもしれないけど、実際にはずっと続いていて、これからも孤独を夢見て曲を作っていくんじゃないかな」って。“確かに、そうかも”と思ったんですよね。多分、私が一生かけて伝えたいことは孤独だったんだなって。「永遠が続くのは」も、一人になった時に感じる誰かと一緒にいた時とのコントラストというか、自分の違いを歌っていて、それは愛だったんだなと時間が経った後で気づいた時の気持ちに自然とメロディが付いてできた曲だから、新しく始まったというよりもずっと続いている感じですね。相変わらず孤独は続いていて、だから歪なものではあっても愛という言葉も入ってるんじゃないかなという気がします。
――ただ、同じことを繰り返しているという感覚とは違うんですよね。
そうですね。どんどん次に向かうんじゃなくて、一生かけて一つのことを歌っていて、その大きなパズルにピースを嵌めていってるんじゃないかなあっていう感じです。
――Karin.さんの2ndアルバムのタイトル『メランコリックモラトリアム』が意味するのは大人になるまでの猶予期間というか、大人でも子供でもない中途半端な時間を過ごすことの憂鬱ということだったと思います。一生かけて一つのことを歌っていくんだと思い定めた今、大人でも子供でもない時間を過ごすことはやはり憂鬱でしょうか。
大人にはそんなに憧れてなかったんだなと気づいた時、最初はがっかりしたけれど、その後に感じていた気持ちはそんなに負のものではなくて、例えば大人になるというようなゴールは元からなかったんだなっていう(笑)。それは諦めの気持ちとは違って、一つのコンプレックスから解放されたような気持ちにはなりました。
――これまで何度かインタビューさせてもらったなかで、Karin.さんが自分で感じている大人達成度はどれくらいか聞きましたよね。最初は60%くらいで、時間が経つにつれてその数字は上がっていったんだけれど、70%くらいから上がらなくなって、それについてKarin.さんは「ずっと、これくらいのところでウロウロしてると思いますよ」と話してくれたんです。それは、今となっては正解だったということになりますね。
そうですね(笑)。
――自覚はしてないにしても、そういうものだということは最初から感じていたんでしょうか。
どうなんでしょう? でも、そのことを初めて自覚したのが、「永遠が続くのは」ができるきっかけになった友達との会話だったんでしょうね。多分、大人になる手前の70%くらいのところでウロチョロしていて、その間に“大人になりたい”という気持ちが薄れていったというか見失ったりしてたんだけど、友達から「大人になったね」と言われた時に初めて、ホントはそういうものはなかったんだなって。サンタクロースを信じてて、でも「ホントはいないんだよ」と言われた時に、「そうか」と思うような感じというか。そこで、怒りを覚えたりとか、そういうことはないじゃないですか。それと同じように、ゴールがないということを知って、悲しかったり腹が立ったりというんじゃなくて、自然と受け入れられた気がします。
――さて、9月から2回目のツアーが始まりますが、どんなふうになったら“うまくいったな”と感じると思いますか。
前回は、お客さんがみんな座っているのを見て“次は立たせたいな”と思ったんです。それと、前は共感できるような空間作りをしたいという話をしていて、小説を読んでいるかのように、お客さんと同じものを共有したいと思ってたんですけど、そこに止まっていてもしょうがないので、それを超えて、一緒に音楽そのものを楽しんでほしいし……。このご時世ですから、なかなかライブに行けなかった人、もしくはこれまで一度もライブに行ったことがない人も多くて。この間のツアーをきっかけにして、今度はさらに距離を詰められたらいいなと思います。その結果として、みんなで一緒に楽しめたら成功なんじゃないかなと思います。それから、前回は私自身がバンド・サウンドに慣れてなかったなという反省もあって、だから今回はもっとバンドのグルーヴに対応できるようになったらいいなと思っています。ライブで盛り上がる曲を増やしていきたいという気持ちもあるので、それはツアーまでの一つの目標ですね。

取材・文=兼田達矢 撮影=高田梓

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