SOIL&"PIMP"SESSIONS
『PIMPIN'』を聴いて思う
サブスク時代だからこそ、
この圧倒的サウンドを推す

充実しまくったバンドアンサンブル

前述したようにM1「Intro」はアジテーターによるパフォーマンスが中心ではあって、万人が思うジャズと趣が異なることははっきりとしているので、そちらはともかくとして、実質的なオープニングナンバー、M2「Fuller Love」は、序盤はジャズらしいアンサンブルを聴かせる。ドラムの手数が多くやや派手な印象はあるものの、ピアノ、ホーンの旋律、ベースの動きもそれっぽい。“なるほど、確かにこれはジャズだ”などと思いながら聴き進めていくと、だんだんとこのバンドの本性が露わになっていく。まず55秒を過ぎた辺りから入るサックスがかなり凶暴に鳴り響く。狂乱とも言うべきその鳴りに合わせるかのようにベース、ドラムもさらに激しく動く。そこにアジテーターの叫びも重なる。いったんベースとピアノが引く(演奏しなくなる)が、それゆえにフリーキーを通り越してカオスな様相。しかしながら、だからこそ、そののちに再びベースとピアノが入った時、音楽的な気持ち良さが強く発揮されるように思う。そして、そこからはサックスが引き、ベースとピアノとのアンサンブルへと展開していく。この2名の競演が何ともすごい。まさに競い合っているかのような──変な言い方かもしれないが、お互いがプライドをかけて演奏をぶつけ合っているかのようなアツい演奏を聴くことができる。3分半を過ぎた辺りでリズムレスとなり、ピアノのみの、それこそバーで聴こえてくるような音色が聴こえるが、それも束の間、再びホーンがリードするパートへ。主旋律はメロディアスであって、決して荒々しさだけでないことも分かる。ループするピアノの旋律もポップだし、ダンスミュージックとして十二分に機能していることもうかがえるし、グルーブの要となっているように思う。ホーンとピアノのユニゾンがアウトロに向かってリフレイン。全体で昇り詰めていく…といった感じだ。

M3「Wives And Lovers」もM4「Harbor」もタイプこそ異なるが、いい意味で構造はM2と同様。リズム隊とピアノやキーボードから始まって、そこにホーンズが重なり、さらにサックスがソロで暴れ、それに追随して各パートもフリーキーとなっていく。どちらも荒々しい演奏があるにはあるのだが、かと言って、耳触りが悪いかと言ったらそうでもない。いや、人によっては、それこそうるさいと感じる人がいるかもしれない。だけれども、楽曲全体を通してうるさく感じるかと言ったら、そうでもないのではないかと思う。それは基本的に各パート、特にピアノとホーンが奏でる旋律に十分な抑揚があることを大前提として、それを奏でるタイミングとリフレインにあるのではないかと感じる。前述したように、リズム隊を含めてフリーキーに演奏する箇所があって、それがひとつの方向にまとまった時に気持ち良さがこのバンドにはあるが、それも主旋律がキャッチーであればこそ、より凛としたものに感じられるのだと思う。混沌と秩序。全員がそれをしっかりと理解した上で演奏しているのだろう。また、リフレインの気持ち良さも知っているのだとも思う。しかも、単純に繰り返すのではなく、背後を支えるドラミングが変化していったり、リフレインの度にそれこそ強弱を変えていったりすることで、同じメロディーでも聴こえ方が良いふうに変化していく。そのこともまた、メンバーは演者の本能として理解しているのではないか。いずれもそんな気がする演奏なのである。

スムースジャズっぽい匂いも感じるM5「First Lady」、ゆったりとしたテンポのM6「Pimpnosis」、どこか可愛らしい印象もあるM8「J.D.F」──あるいはラテンっぽいM7「Mature」もそうかもしれないけれど──いずれの楽曲にしても、どのパートも暴れるまくるような箇所はないものの、それゆえにアンサンブルの妙味を楽しく聴くことができるだろう。やはり静と動をしっかりと捉えているようにも思うし、簡単に言えば、バンドが発散するグルーブの何たるかを分かった人たちが演奏していることを感じられるところである。もっと言えば、この演奏は伴奏ではない。歌がないインストバンドではなく、これだけの演奏があれば歌を入れる必要がない──そんな不埒な想像をしてしまうほどに演奏が充実しているのである。冒頭でイントロとギターソロの話をしたが、もし歌だけを欲しがる人がいたとしても、少なくとも歌のメロディーの良さや、それを歌う演者ならでは特徴を捉えることができるのなら、このM5~M8に限らず、アルバム『PIMPIN'』収録曲で披露されている演奏の気持ち良さは実感できるのではないかと思うが…。

アルバムの後半はいずれもモノローグやシャウトが聴こえる、SOIL&"PIMP"SESSIONSならではの楽曲で締め括られる。各パートがエッジの効いたプレイを魅せるM9「16 Blues」。エレピの音がロック的でありつつも不穏な雰囲気を作り出しているM10「CARNAVAL」。そのM10のパンクバージョンとも言うべき、アップチューンM11「殺戮のテーマ」。どれもこれもスリリングで、まったく飽きることがない。初見では次に何が出てくるかワクワクしながら聴かせてもらった。昨今の日本の音楽シーンはイントロ0秒時代で、ギターソロも嫌われているのかもしれない。それほどに歌に寄せたシーンになっているのだろう。しかし、時代が変わったら真っ先に再評価されるのはSOIL&"PIMP"SESSIONSなんだろう。その想いを強くした『PIMPIN'』であった。いや、そんなこと言ってないで、今すぐにもっともっと評価しよう。

TEXT:帆苅智之

アルバム『PIMPIN'』2004年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.Intro
    • 2.Fuller Love
    • 3.Wives And Lovers
    • 4.Harbor
    • 5.First Lady
    • 6.Pimpnosis
    • 7.Mature
    • 8.J.D.F
    • 9.16 Blues
    • 10.CARNAVAL
    • 11.殺戮のテーマ
『PIMPIN'』('04)/SOIL&"PIMP"SESSIONS

OKMusic編集部

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