鈴井貴之インタビュー~CS衛星劇場で
TAKAYUKI SUZUI PROJECT OOPARTS vo
l.6『D-river』(ドライバー)を放送

「水曜どうでしょう」において「ミスター」の愛称で人気を誇った鈴井貴之が作・演出を手掛け、自らも出演するOOPARTS(Out Of Place ARTiSt)の最新公演『D-river』(ドライバー)が、2022年6月12日(日)16:00よりCS衛星劇場にて早くもオンエアーされる。主演の渡辺いっけいや田中要次など、OOPARTSにゆかりのあるキャストが一堂に会した本作で挑んだのは“機械との共存”。公演を終えた今、改めてこの作品に込めた思いを鈴井自身に聞いた。
鈴井貴之

■AIは人間の生活を助ける反面、退化させる可能性もある
ー- OOPARTSの最新作『D-river』は人間とAI(人工知能)との共存がテーマでした。まず最初に、この物語が生まれた経緯から教えていただけますか?
今の時代って、実生活のいたるところにAIが使われていますよね。炊飯器にまで《AI搭載》って書かれていると、“何ぞ!?”と思ってしまいますけど(笑)、それぐらい日常にあふれている。そうした中で、今回は車の自動運転に着目してみたんです。実際に自動アシスト機能が付いた車に乗っている方に話を聞くと、性能が非常に優れていて、僕らが想像している以上に便利らしくて。ただその一方で、僕が今乗っている車にもたくさんのカメラが付いていて、バックで駐車する時なんかもとてもラクなんですが、少し前にそうした機能を搭載していない車にたまたま乗ったら、駐車場で何度も切り返さないといけないぐらいバックが下手になっている自分がいたんです。昔は切り返しなしで、一発で駐車することに美学を持っていたぐらいなのに(笑)。その時、AIの進歩は人間の暮らしを助けるけれど、その反面、退化させることにもつながっているんじゃないかと思い、そこから今回の物語を考えていきました。
(c)CREATIVE OFFICE CUE
ー- 以前からOOPARTSの作品では人間のエゴを描いている印象がありますが、今作でも決してウソをつかないロボットに対して人間が放つ、「機械が一番人間らしい」というセリフが皮肉めいていて、すごく心に残りました。
自分も含めてですが、やっぱり人間が一番身勝手だと思うんです。ほかの生き物に対してもそうですし、機械や道具に対しても、どこか自分より下の存在として扱っているところがある。それに、今僕は北海道の赤平という大自然に囲まれた田舎で暮らしているのですが、そこで生活していると、どうしても“地球って人間だけのものじゃないよな”っていう思いが湧き上がってしまって。ヒグマが札幌市内に現れたというニュースや、海岸にプラスチックゴミがあふれているという問題にしたって、どれも人間が自分の都合で動物たちや地球の環境を破壊して墓穴を掘り、それに対して、今頃になってSDGsだとかいって自分たちでその穴を埋めようとしているように思える。そうした人間の馬鹿げた行動への情けなさは昔から抱いていたことなんです。
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ー- 今作の出演者には渡辺いっけいさんをはじめ、温水洋一さんなどベテラン勢が揃いました。
皆さん、過去に何らかの形で一緒にお仕事をさせてもらった方ばかりです。特にいっけいさんは稽古初日から全力できてくれる素晴らしい役者さんで。稽古序盤だからといって手探りで芝居をするようなことが一切ないんです。僕と同年代で、年長者でもあるので、そんないっけいさんの姿を見せられると、当然ほかの共演者たちも全力で挑まないといけない。それもあって、今回の芝居は完成するのがものすごく早かったです。
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ー- 温水さんに関しては、物語が進むに連れて、どんどん可愛く見えてくる不思議さがありました。
それは狙いとしてありました。実際に稽古場でもそうでしたから。こういう言い方をすると失礼かもしれませんが、どんどんチャーミングに見えてくるし、マスコットキャラクターみたいに感じて(笑)。でも、役柄的にもそれがすごく合ってましたよね。
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ー- 今作は鈴井さんにとってコロナ禍になってはじめての舞台でした。やはりこれまでと違いを感じることはありましたか?
SNSなどを通していろんなお客さんの声が聞けましたね。「久々に劇場に足を運びました」という方もいれば、「かなりの覚悟を決めて来ました」という方もいて。もちろん、中にはチケットを買っていたけど、ギリギリで断念された方もいて。ですから、チケット自体は売れていても、空席が目立っていたりしたんです。そうした空席についても、これまでとは意味が違って感じられました。“本当は見たかったのに……”という皆さんの悔しい思いが感じられましたし、そんな無念さが聞こえてくるような体験もはじめてのことでした。それもあって、最終公演では「ぜひまたお会いしましょう」というメッセージを残すことにしたんです。これで終わりにしないからって。というのも、実は前作の『リ・リ・リストラ~仁義ある戦い・ハンバーガー代理戦争』(2019年)を上演している時に、“OOPARTSはもういいかな”と思いはじめていたんです。自分の気力や体力を考えて、ここらで一回閉めようかなって。
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ー- それは活動に区切りをつけるという意味ですか?
そうです。ですから、今回の『D-river』ではスタッフにも「これで最後かもしれないよ」と伝えた上でスタートさせてもらっていて。でも、あの空席を見て考えが変わったんですよね。いろんな方が待ち望んでくださっているのを実感しましたし、舞台を完走させるために多くの方が背中を押してくれて、協力もしてくださったので、逆に今回でやめるわけにはいかないという思いに駆られたんです。ですので、また2年後か3年後……もうマスクなんて必要なくて、なんの気兼ねもなく劇場に足を運んでいただける状況になったら、また芝居をやりたいなと思っています。
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ー- なるほど。となると、今回の『D-river』については当初、ご自身の中で集大成にしようという思いもあったのでしょうか?
ありました。それもあって、今回は結果的にAIをテーマにした作品になりましけど、それとは別に、原点回帰といいますか、自分が20代の頃に感化されたり、感銘を受けた映画・マンガ・音楽に触れ直すというところから創作活動を始めていったんです。『ブレードランナー』や『レザボア・ドッグス』を見たりして。それに、今回の放送では残念ながら使われていないのですが、舞台の幕が開く時のオープニングの曲もOOPARTSの初期の頃から使っていたものを復活させたりしてました。そうやって最後の作品に向けて、“自分は何か好きだったのか”、“どんなことをやりたかったのか”ということを検証しながら舞台を作っていったんです。……ただ、何度も言いますが、これで最後じゃありませんからね(笑)。
(c)CREATIVE OFFICE CUE
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【プロフィール/鈴井貴之】
Takayuki Suzui。大学在籍中に演劇の世界に入り、1990年に劇団「OOPARTS」を結成。「OOPARTS」解散後は、タレント・構成作家としてHTB「水曜どうでしょう」などの数々の番組の企画・出演に携わる。2010年、「OOPARTS」再始動。2021年までに6作の舞台公演を上演、表現の枠にとらわれない作品を生み出している。所属事務所クリエイティブオフィスキューのタレントが総出演する「CUE DREAM JAM-BOREE」が7月30日(土)、31日(日)に札幌市「北海きたえーる」での開催が決定している。

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