福岡で3年ぶり開催『CIRCLE'22』が
愛される理由とはーー初日は岡村靖幸
ら10組出演、福岡への想いに溢れた全
身全霊のステージ

『CIRCLE'22』2022.5.13(FRI)〜5.15(SUN)福岡・マリンメッセ福岡B館
福岡の春の野外フェス『CIRCLE』のライブレポートに、関西から出かけることになった。現地に行くのは初めてであり、私の予備知識としては「福岡の海の方で緩やかにスタイリッシュに開催されている春の野外フェス」なんていう薄すぎるイメージしか恥ずかしながら無かった。もちろん素晴らしい春の野外フェスという話は、色々なところから聞いてはいたが、詳しくは何も知らない状態で向かった。百聞は一見に如かずとはよく言ったもので、今となっては自分の目でしっかりと見ることができて本当に良かった。なので、いわゆる1組ずつのライブレポートを書いていく形式ではなく、紀行文というと大袈裟すぎるが、感じて想ったことを真っ直ぐに書いた感想文だと思っていただきたい。
『CIRCLE '22』
まず『CIRCLE』の主催者は、今回も出演しているLITTLE CREATURES高田漣らのマネージメントも行なっているマネジメント事務所「トーン」の代表で、過去に出演している細野晴臣Corneliusのライブ制作も手掛けてきた是澤泰志氏。いわゆるイベント業専業ではないにもかかわらず、宮崎出身で同じ九州の福岡に予備校時代の1年住んだことから、九州での野外イベントを考えるようになる。2007年にブッキングと制作を担当して『CIRCLE』を開催するも赤字に終わり、翌年は東京の日比谷野外音楽堂で開催。が、やはり九州で開催することに意義があると感じて、コンサートやイベントの勉強をし直し、2012年は腹を決めて100%リスクを背負い、主催者として再び5年ぶりに福岡で開催する。そこでも、ビールが午前中に売切れたり、まさかの観客用リストバンドが足りなくなり、無地のバンドを買いに走ったりとアクシデント満載。それでも純利益を出し、運営を手伝ってくれたイベンター・BEAとの利益折半を申し出て、翌年以降の共同主催をお願いしている。
『CIRCLE '22』

『CIRCLE '22』

過去のネット記事で歴史を調べただけでも、悪気がなかったとはいえ「緩やかなスタイリッシュな春の野外フェス」と勘違いしていた自分が嫌になる。誠に人情味があって誠実な祭。それからこの御時世により、2020年は中止、2021年は配信イベントに切り替えて、今年は晴れて有観客での開催となった。しかし、まだこれまでの会場・海の中道海浜公園 野外劇場では開催ができず、マリンメッセ福岡B館で開催。指定席の屋内ステージ「CIRCLE STAGE」と、駐車場にオールスタンディングの野外ステージ「KOAGARI STAGE」という2つのステージが作られた。
『CIRCLE '22』Technicsの試聴ブース

『CIRCLE '22』ウエストのごぼう天うどん 撮影=編集部

これまで通り2ステージな上に、マリンメッセ福岡B館内入り口に「KAKU-UCHI Annex」というDJブースエリアも設けられている。そりゃ全てがこれまで通り野外で開催されるこしたことは無いが、まずは今年開催したことに意味があるし、ひとつでも野外ステージがあるというのは、『CIRCLE』初心者の私でもうれしかった。屋内ステージから野外ステージまで徒歩2~3分で行き来できるし、その間には地元飲食店10店の出店が並んでいるのも、心がウキウキする。その中には福岡では老舗的存在のうどん店を営むウエストが並んでいるのも、九州以外から来た私の様な観客には或る意味、観光地に行ける感覚でありがたかった。屋内には、これまた福岡で開発されているオーディオ機器会社・Technicsがイヤホンの視聴を行なっている。その2社が協賛として名を連ねていたことからも、地元福岡に根差したフェスであることが伝わってきた。
初日・5月13日(金)は生憎の雨。それでも「KOAGARI STAGE」に向かうと、テント内に入りきれないほど人も多く、みんなレインコートを着ながら楽しんでいた。朝11時「KOAGARI STAGE」トップバッターは吉澤嘉代子。2020年初出演がわず昨年の配信開催時に出演。今年は念願となる福岡での出演となり喜びに溢れていた。君島青空のギターと共に登場したが、彼女が「平日の午前中にも関わらず、どうやって来られたんですか?」と言った瞬間に、ふと我に返った。そうだ、今日はド平日の金曜日である。それなのに、この人出の多さは何だ!? 九州だけの祝日でもあるのかというくらいの動員である。改めて、それだけ『CIRCLE』が待ち望まれていたフェスであることがわかった。九州が大好きで、なかなか来られず寂しくて、今日の出番のために早起きを頑張ったという吉澤が、「福岡の大好きなミュージシャンの楽曲を歌います」と、井上陽水の「帰れない二人」を歌ったことにも九州愛、福岡愛を感じた。
それは同じく「KOAGARI STAGE」出演のTENDREもそうで、「好きな福岡のフェス」と明言した上で、「僕なりの思いやりの歌を歌って帰ります!」と話してから披露した「HOPE」は、いつも以上に心に沁みた。ラストナンバー「hanashi」での<みんなで輪になって話したい それだけさ>という歌詞を変えた言葉には、『CIRCLE』への想いを個人的には強く感じた。福岡でしか、『CIRCLE』でしか、観れないライブが間違いなくある。
九州愛という意味では、やのとあがつま(「CIRCLE STAGE」出演)にも強く感じるところがあった。昨年は配信出演だった矢野顕子と上妻宏光のふたりだが、矢野の「みんなでお弁当を広げて食べてる、いつもの『CIRCLE』が大好きですけど、雨に濡れないのも良いですね」というひと言にも、何が何でも『CIRCLE』を止めなかった心意気を褒めている様でグッときた。8曲中、熊本民謡・奄美民謡・鹿児島民謡と4曲の九州の音楽を用意していたことにも驚いた。それも持ち曲だけでは無くて、新曲として用意していたのも素晴らしかった。
あと、当たり前だが、東京在住のミュージシャンにとってはなかなか九州や福岡は頻繁に来れる場所では無く、この御時世において、より遠征しにくくなったからこそ、福岡を心から希求しているのだ。また、基本的にライブ自体が明らかに減ってしまったミュージシャンも多い。「CIRCLE STAGE」トップバッターのnever young beachも今年初ライブであり、7ヶ月ぶりのライブだった。福岡でのライブも3年ぶりであり、だからこそ新曲2曲披露という気概もかっこよかった。
また、キセル+エマーソン北村(「KOAGARI STAGE」出演)のキセルもそうだったが、never young beachもキセルも次のツアーを発表しているが、福岡が入ってないことを謝るのも印象的だった。やはり、東京のミュージシャンにとって福岡は決して近くはなく簡単に来られる場所では無いわけで、だからこそ、福岡でライブができる喜びはひとしおだし、全身全霊で良いライブをするのだろう。
スチャダラパー
全身全霊で良いライブをするといっても、この2年で一定の距離を保つことだったり、声を出せないという今までならばありえなかったルールは決して楽なことでは無い。そのことをリアルに感じたのは、続くスチャダラパーのライブだった。登場した瞬間、BOSEは「どうなんだろう、この距離? 心のセイホーお願いします!」と投げかけた。本人も言っていたが、ヒップホップにおいてコール&レスポンスは必須であり、それが全くできないのは、とても大変なことだ。それでも30年前の名曲から新曲まで交え、「今夜はブギーバック」で<心のベスト10第一位は?>というフリから、石川ひとみまちぶせ」を流したり、森進一近藤真彦のモノマネを交えたりと、どんな手を使ってでも盛り上げようとする姿には胸が熱くなった。どこかこちらも最近のルールに慣れていたが、やはり、この環境で音楽を生で届けることがいかに大変か、そして音楽がいかに楽しいかを教えてくれたスチャダラパーだった。
『CIRCLE '22』
早いもので気が付くと、時刻は夕方に差し掛かろうとしていた。雨は降り続いているが、この頃になると「CIRCLE STAGE」と「KOAGARI STAGE」の屋内野外の行き来も慣れたもので、転換時間10分を上手に使いながら移動していた。道すがらの出店で飲食を楽しむ中でも、人からのお薦めがあったりすると、とても行きやすかったりする。
そんな中で素敵だったのは、夕方16時半に登場のハンバートハンバート。佐藤良成の父が福岡で単身赴任していた話から、福岡で初ライブをしたのが2005年で、それも出店しているCAFÉ SONESだと明かす。また、同じく出店している喫茶 陶花のお店ではご飯がおひつで出てきたという話も。この日もいつもどおり、佐藤と佐野遊穂の他愛も無い会話から始まり、そこに歌が合わさっていく、ふたりにしかできないライブだったが、何気ないMCから出店店舗への興味を持たせてくれたのは素晴らしかった。ハンバートのライブ終わりに、すぐさまSONESと陶花に向かったのは想像がつくだろう。とても美味しかった。
Original Love
そして、「CIRCLE STAGE」のOriginal Loveへと向かったが、どのミュージシャンも久しぶりの福岡、久しぶりの『CIRCLE』への強い気持ち強い愛は持っているわけで、それはここまでの文章でもわかってもらえるだろう。そんな中で、田島貴男の、その強い気持ち強い愛は声で表現されていた。「お久しぶりです『CIRCLE』! お元気ですか?」という良い意味でシンプルな挨拶も、その声の大きさからくる気合いで胸が揺さぶられる。「月の裏で会いましょう」、「接吻」という名曲が凄まじいのはわかりきっているが、そこに挟まれるMCが、これまた、とてつもなく凄まじい。先程の挨拶じゃないが、「福岡博多ベイビー!」という煽りから、魚が美味しい、芋焼酎が美味しいという何気ない話までが、彼のソウルフルな声でシャウト気味に話されると、一気にソウルメッセージになる。いつも彼のライブからは魂を感じるが、この日のライブは、いつも通りのようで異様に魂が込もっていた。
薄々気付いていたというか、ずっとそれしか書いてないし、この後の2日間も、それをひたすら書いていくことになるのだが……福岡への想い、『CIRCLE』への想いを感じまくるライブばかりで、熱情的な人も飄々とした人もみんな魂が込もっていた。Original Loveのライブが終わり、「KOAGARI STAGE」では堀込泰行。相変わらず10分の転換しか無いのに、さっきまでOriginal Loveの舞台にいたコーラスの真城めぐみが、堀込の舞台で何事も無かったかの様に立ってたことには感動した。本番だから舞台に立ってることは普通といえば普通で、2~3分あれば移動できるとはいえ、ライブが終わってすぐ次のライブを生で観られることには、ライブが、フェスが戻ってきたなと心から思えた。堀込も去年配信ライブに出演。その際もフェス同様に1分1秒押さずにやったことを話していたが、ライブの終わりを観客から惜しまれると、「与えられた時間というものがあるし、多分ちょっとオーバーしてるよ!」と茶目っ気たっぷりに返すのも微笑ましかった。生だからこその感覚が確実に戻ってきている。
いよいよトリの岡村靖幸。本来ならば2020年に初出演するはずだったが、今回、満を持しての登場。まぁ、ホーンやフルートまでいる編成はゴージャスだし、相変わらず岡村の動きはキレキッレである。何より魂が込められ、気合いを感じたのは「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」から「だいすき」、そして「カルアミルク」へのしょっぱな3曲の流れ。大興奮するしかないスタートであったし、MCでサポートベースの横倉和夫が岡村の気持ちを代弁していたが、実験的かつチャレンジしたセットリストを心がけたという。岡村ほどの大御所が本気でフェスを盛り上げようと、代表曲人気曲を立て続けにぶちかましてきた気概がたまらない……。そして、最大の情熱と最大の努力で、どんな状況下でもライブを行なおうと、本番前にサポートメンバーたちに話していたという。また、次のツアーに福岡が入っていないことを詫びるのも、それまでの演者と同じく誠意しか感じなかった。  
福岡を、『CIRCLE』を、少しずつ掴めてきてすっかり楽しんだ初日。2日目は、また違った福岡を、『CIRCLE』を感じていくことになる。
取材・文=鈴木淳史 写真=オフィシャル提供(日隈天明、ハラエリ、ヤマモトハンナ)

■2日目・14日(土)のレポートは、明日6月8日(水)正午公開予定
■3日目・15日(日)のレポートは、明後日6月9日(木)公開予定

■『CIRCLE '22』LIVE PHOTO
次のページにて、ソロカットなどライブ写真を掲載中
『CIRCLE '22』LIVE PHOTO(5月13日)
『CIRCLE '22』
■吉澤嘉代子
吉澤嘉代子
吉澤嘉代子
吉澤嘉代子
■キセル+エマーソン北村
キセル+エマーソン北村
キセル+エマーソン北村
キセル+エマーソン北村
キセル+エマーソン北村
■TENDRE
TENDRE
TENDRE
■ハンバート ハンバート
ハンバート ハンバート
ハンバート ハンバート
■堀込泰行

堀込泰行
堀込泰行
■never young beach
never young beach
never young beach
never young beach
■スチャダラパー
スチャダラパー
スチャダラパー
スチャダラパー
スチャダラパー
■やのとあがつま(矢野顕子&上妻宏光)
やのとあがつま(矢野顕子&上妻宏光)
やのとあがつま(矢野顕子&上妻宏光)
やのとあがつま(矢野顕子&上妻宏光)
■Original Love
Original Love
Original Love
Original Love
Original Love
Original Love
■岡村靖幸
岡村靖幸

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