野宮真貴の
圧倒的な存在感とニューウェイブの
猛者たちとの邂逅から生まれた
『ピンクの心』

何かが変で妙な個性的なサウンド

B面のトップを飾るのが前述したPANTA作曲のM8「恋は水玉」である。♪ルンルンランラン ルランラン〜が何と言ってもキャッチー。アイドルソング然としたスウィートさ全開で、これは当時にしても相当にスウィート度合いは高かったであろう。頭脳警察のイメージからすると意外に感じるというか、ほとんど驚愕されるような方もいらっしゃるかもしれないが、この時期のPANTAの路線からそれほど大きくかけ離れているわけでもない。その辺はPANTAのアルバム『KISS』と聴けばよく分かるので、ご興味のある方は是非どうぞ。『KISS』も1981年の作品だ。

M9「美少年」は、他収録曲とは雰囲気の異なるメロディーがいい。昭和の歌謡曲のような旋律で(これが作られたのも昭和だが…)独特のキャッチーさがある。シンプルだが躍動感のあるバンドサウンドがそれを彩る。デジタルの色付けもあるが、ギターやベースの演奏がそれを上回っている印象だ。

M10「絵本の中のクリスマス」は字義通りクリスマスソング。正調派と言えば正調派で、ディズニーの劇伴のような雰囲気であって、むしろここにこれを入れている辺りに違和感を持つというか、季節感も含めて不思議な気持ちになる。

M11「ツイッギー・ツイッギー」は、その後、彼女がPIZZICATO FIVEにおいてセルフカバーしたことでも知られる。PIZZICATO FIVE版が、如何にも渋谷系…と言うと語弊があろうが、1960年代っぽい音を都会的でダンサブルに仕上げている一方で、M11はサイケデリックロックの要素が色濃い。間奏以降はそれがどんどん濃くなっていく。アウトロ近くで走りまくるエレキギターは完全にロック。♪ツイッギー・ツイッギー〜のリフレインが楽曲の中心にあることは間違いないのだが、主役はむしろさまざまな楽器が奏でるサウンドにあるようだ。この辺が本作は野宮真貴のアルバムでありながらも、単なる女性シンガーのソロ作品に終わらせていないところであろうし、ひいては彼女がPORTABLE ROCKへと創作の場を移すことになる、その萌芽をうかがわせるものでもあろう。

マイナー調のM12「ウサギと私」は乾いたアコギのストロークがこれもまたマカロニウエスタンを思わせるし、やはりちょっとサイケな雰囲気もある。とりわけアウトロでフェードアウトしていく箇所に民族音楽的なコーラス(ていうか叫び?)とか、何かがおかしい(←褒め言葉です!)。《夢の中でも 退屈な私》という歌詞からすると、この不思議な感覚は狙い通りなのだろう。

そして、アルバムのフィナーレはタイトルチューンM13「ピンクの心」。♪ランラララン〜と可愛らしいハミングで始まり、全体を通して見たらアイドルソング的ではあるのだが、これもまた何か変だ(←褒めてます!)。最も面白いのは、イントロやCメロ前などで聴こえてくる、野球の応援ソングの♪かっとばせ!○○!〜で使われるメロディーだろう(あれは何という曲なのだろう?)。絶妙な入り方をしているのでパッと聴きには違和感は少ないが、聴けば聴くほどに“どうしてこれをここに?”と思ってしまう。歌詞もちょっと妙。《夕焼け空にうつる そんなわたしの思いは/そうね真赤なピンク 真赤なピンク色かな》。真っ赤なピンク? 分かるようで分からない。その他、《あなたの目玉/チクチクできるかな》や《道でバッタリ chance meetingしたとき》といったフレーズもかなり個性的。作詞は佐伯健三、作曲は鈴木慶一。今となっても“そりゃあ、単なるポップソングにはならないだろう”と思う。このふたりの面目躍如とも言えるだろうか。

ザっと解説するつもりが、図らずも全曲解説をしてしまったけれど、それはそれだけこの『ピンクの心』収録曲が多岐にわたっているからでもある。全体的にはアイドル寄りではあるようにも思うが、それにしても、前述したように“いわゆるアイドルソングにカテゴライズするのはどうなのだろう?”というタイプばかりである。やはり、バラエティー豊かという言い方が相応しいアルバムであろう。

しかしながら、音楽作品として一本筋が通っているのは、ニューウェイブというスタンスが貫かれていることもさることながら、すべて野宮真貴が歌っているからに他ならない。彼女のソロアルバムなのだからそれが当たり前と言えば当たり前なのだが、どの楽曲も歌の存在感がどっしりしている。凛としていると言い換えてもいいだろう。デビュー作だけあってさすがに若さを否めない箇所もあるものの、歌声は個性的なサウンドにまったく引けを取ってないのである。鈴木慶一、岡田徹を始め、日本のニューウェイブ界の主要メンバーと言っていいアーティストたちが彼女に興味を持って本作の制作に取り組んだことにも素直に想像できる。

この『ピンクの心』はセールス的には成功せず、一年ほどでソロ契約が切れてしまったのだが、そこからPORTABLE ROCKへとつながり、そしてPIZZICATO FIVEの大ブレイクに至って、この度の野宮真貴デビュー40周年まで続いたわけで、本作で示した彼女のポテンシャルからすれば、それも当然の帰結であったことが今は素直に理解できる。

TEXT:帆苅智之

アルバム『ピンクの心』1981年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.女ともだち
    • 2.モーター・ハミング
    • 3.フラフープ・ルンバ
    • 4.シャンプー
    • 5.原爆ロック
    • 6.船乗りジャンノ
    • 7.17才の口紅
    • 8.恋は水玉
    • 9.美少年
    • 10.絵本の中のクリスマス
    • 11.ツイッギー・ツイッギー
    • 12.ウサギと私
    • 13.ピンクの心
『ピンクの心』('81)/野宮真貴

OKMusic編集部

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