新作ソロ公演『イデソロキャンプ』振
付・演出・出演の井手茂太に聞く

振付家、ダンサーで、イデビアン・クルーの主宰を務める井手茂太が、2022年6月3日(金)〜5日(日)、東京・三軒茶屋のシアタートラムでソロ公演『イデソロキャンプ』(振付・演出・出演:井手茂太、音楽:ASA-CHANG&巡礼)を上演する。
井手は、1991年にダンスカンパニー「イデビアン・クルー」を結成。1995年に旗揚げ公演『イデビアン』を発表し、以来コンテンポラリーダンス界で注目を集め続けてきた。その一方、野田秀樹、三谷幸喜、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、松尾スズキ、栗山民也など著名な演劇人たちの舞台に振付家として関わり、今年(2022年)3月には東宝『千と千尋の神隠し』(翻案・演出:ジョン・ケアード)の振付・ステージングを務めるなど、現代日本の演劇界にとって、なくてはならない存在となっている。今回上演する新作『イデソロキャンプ』は、2005年『井手孤独【idésolo】』、2010年『イデソロリサイタル』に続く待望のソロ公演第3弾。公演への意気込みや近況など、井手から話を聞いた。
2010年『イデソロリサイタル』

ー-井手さんは、今年(2022年)50歳を迎えられたそうですね。そんな人生の節目の年に、3月の『千と千尋の神隠し』で振付・ステージングを手がけ、そして、6月に今回のソロ公演をおこない、7月のNODA・MAP『Q』再演の振付を経て、8月にはイデビアン・クルーの新作公演も予定されています。ますます意気盛んですね。脳も身体も、依然、衰えを知らずといったところでしょうか。
以前より僕を知る人からは「もう!? 全然変わらないね」って言われます。昔から年齢不詳というか、けっして若いと言われていたわけじゃないけど、年齢がイメージと違うようで「そうは見えない」と反応されることが多いです。自分自身も気づけばっていうくらい、30代あたりで止まってる感覚です。ずっと舞台の仕事を続けてきていたからですかね、活動の隙間が空いた時は寂しくなりました。コロナ禍はまさにそれで、今、ちょっと皺寄せが来てるかなとも感じます。
ー-とはいえ、このタイミングで3度目のソロ公演をおこなうわけですからね。上演の動機は?
自分の作品に出演していないことの方が多かった時に、思い切ってソロ作品を発表してから12年ほど経ちました。今このタイミングなのは、50歳になったというキリの良さももちろんあるのですが、いろいろな作品の創作の現場を経験していく中で、自分の創作手法や考え方にも意識を向けるようになりました。そうして向き合っていくと自然とテーマも決まっていったし、作品になっていきましたね。
稽古場にて
ー-そうして産まれたのが『イデソロキャンプ』。作品のタイトルに込めた思いを教えてください。
ソロキャンプが流行ってると聞いて、一人で自然の中に入って考え事したり、孤独の味わいがブームなのかな?と考えました。ちょうど自分の作品にできそう!とも。このタイトルの中には、はじめて自然に溶け込んだ自分は何ができるか、何が起こるか、そんな風に考えつつ、どこにいっても舞台のことを考えていそうな自分が入っています。
ー-井手さんのソロ作品とは、どのようにして構想され、どのようにして稽古が重ねられていくのでしょうか。
イデビアン・クルーの作品でもそうですが、自分のパートは一度誰かに振り付けて、動線も決めて、と外から見られるようにしています。そうすることで自分を新鮮に取り込める。今回のソロ作品でもそうで、演出助手に振り写しして、客観的にみて、を繰り返しながら、加えて去年実験的に穂の国とよはし芸術劇場PLATにレジデンスしてマンツーマンで人に振り付ける時間もできたので、1年前から構想をすすめてました。
稽古場にて
ー-『イデソロキャンプ』において、ダンサー井手茂太、また、スタッフワークに対して、私たちが注目すべきポイントはどんなところでしょうか。
僕があまり好きじゃないのは、「ダンスには基本的に踊り出すスイッチがあり、スイッチが入ると身体がダンスの状態にチェンジする」という考え方です。そうではなく、身体が自然な形でダンスと日常に出たり入ったりするのが理想的で、振付をする上でもそうありたいと思っています。だから、僕にとっては呼吸や間、情景、照明効果、舞台の空間まるごとが一つの芸術としての作品なんです。ものすごく地味なことを、いい大人が真剣に取り組んでいて、その瞬間瞬間が作品になっていく。ただつまらない動きなんじゃなくて、音の響かせ方や照明の色合い、空気、動いた時の衣裳の揺れ、置いてある小道具、めまぐるしいことが起きています。ソロといっても、「ソロをみんなでつくってる」。たまたま演者が一人なだけで、周りの全てがあってのソロだと思ってます。そういうところを観客の皆さんにも、是非お楽しみいただきたいですね。
ー-素朴な質問で恐縮ですが、日頃、身体はどのように鍛えたり、健康管理したりしていますか。
実はスーパー銭湯が趣味です。週1、2くらいは通いますし、いろいろ遠方にも出向いたりするくらい。そして歩くのも好きなので、2、3駅歩いたり現場から家まで徒歩で行ったりもします。
2005年『井手孤独【idésolo】』
ー-これまで、野田秀樹さんをはじめ現代日本を代表する演劇人たちの創る数々の名舞台に、振付家として関わってこられました。そうした経験から得たことで特に井手さんにとって大きなことは何ですか。
芝居とダンスのメソッドの違いについて考えますね。具体的な動き、視線の運び、演技には様々な表現で観ている人へと伝わるための工夫がされていて、それを自然にやる役者さんや、細かく作り込んでやる役者さんもいて、そこは踊りとも似てるのかなって。演出家によって、演技への運び方・伝え方、ありかなしかの判断、役者からの引き出し方が違いますし、演者に対しての伝え方や接し方は勉強になりますね。自分の時は自分でやってみせて伝えていっちゃうことが多いので。
ー-つい先日の『千と千尋の神隠し』の振付・ステージングも、井手さんにとって大きな重要な仕事でしたね。翻案・演出のジョン・ケアード氏とは『ハムレット』以来のタッグ。橋本環奈さんや上白石萌音さんをはじめとする出演者の方々のことなど、井手さんの目を通しての、印象深かった事など教えていただけますか。
初舞台の橋本環奈さんは天真爛漫で細かくコミュニケーションをとりながら進められましたし、上白石萌音さんは本当に真面目で舞台が好きな気持ちがひしひしと伝わってきました。夏木マリさんとは『印象派』という舞台シリーズで表現者としてご一緒にしていましたが、女優としてのマリさんとご一緒したのは初めてでした。稽古場ではすぐ後ろの席がマリさんでしたが、台本をずっと読み込んでいて、音読したり、演出家とディスカッションしている姿をまのあたりにして感動しました。大澄賢也さんはミュージカルのベテランですが、印象深かったのは、アップの一環でバーレッスンをやっていらしたことですね、お一人で! ずっと努力し続けてるんだなぁと。ダンサー/コレオグラファーである菅原小春さんや辻本知彦さんとご一緒できたことも、楽しかった! 気持ちが入った瞬間の動きが変わる気持ち良さや人間らしさが、とても魅力的でした。
稽古場にて
ー-2020年以来のコロナ禍を経て、意識や方法、スタイルなど、変化したことはありますか。
もともとイデビアンではリフト(男性が女性の体を高く持ち上げたり投げ上げたりする動作)も、コンタクト(人と人が接触し続けながら踊る即興ダンス)もなかったので、制約を受けてもあまり変わらないかなと思っていました。ただ、今回のソロ作品は、ちょっとだけ出演する程度のアンサンブル・ダンサーさえ本当にいない。自分だけの出演でやっています。そこは勝手が違ってくるかもしれません。さらに、以前と変えた点を挙げると、歌うシーンはやめました、セリフも。また、計測、記録、規則正しさが習慣づいて、直行直帰するようになりました。寂しいけれども集中と切り替えはしやすくなりました。結果的に、コロナ禍を経て創作への意識は高まったかもしれません。
ー-最後に読者の皆さまにメッセージをお願いします。
ソロ作品というと、お固いイメージがあるように僕自身、思っています。その業界の大先生の《一見さんお断り》のような、近寄りがたいイメージがあるというか。かっちり綺麗にかっこよく全てが運んで、その人をずっと見続けなきゃいけないというような……ただ、そういう空気が自分には苦手に感じる時があります。でも今回の『イデソロキャンプ』、自分の中では「ダンスのソロ公演」ではなく「ソロでやる舞台作品」なんです。形はソロだけど、その周りの多くを感じながら観てほしいなと思います。さらに、本当のキャンプの場で真似できるところも創りましたので、機会があったら是非やってみてください。
取材・文=安藤光夫

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

新着