近藤良平×勝山康晴が語る、コンドル
ズ埼玉公演 2022新作『Starting Ove
r』~「やり直し、新しく始める」こ
とからおもしろいものが生まれる

2006年より続く、彩の国さいたま芸術劇場でのコンドルズ埼玉公演が15作目を迎えた。今年の新作のタイトル『Starting Over』は、ジョン・レノンのラストシングル名から付けられ、「やり直そう、新しくはじめよう」というメッセージが込められている。コンドルズ主宰の近藤良平が2022年4月、彩の国さいたま芸術劇場芸術監督に就任したこともあり、より一層注目が集まる。近藤とコンドルズプロデューサーの勝山康晴に意気込みを聞いた。
■昨年の感動の劇場公演再開から1年、新展開へ
ーーコンドルズ埼玉公演は一昨年(2020年)の『Golden Slumbers』は公演中止になり、新作ビデオダンス2020『I Want To Hold Your Hand』の映像配信を期間限定で行いました。昨年は2年ぶりに劇場で公演し『Free as a Bird』を上演しました。去年を振り返っての思いは?
近藤良平(以下、近藤):『Free as a Bird』はフルキャパシティで上演できました。自分たちもフルメンバーでやれて。無事に乗り越えた感がありました。
勝山康晴(以下、勝山):カーテンコールで感動しました。暗い客席にお客さんの白いマスクが浮かぶんです。マスクは皆さんの覚悟の印。このご時世で劇場に来て応援してくれている。いかにコロナの前までが恵まれた場所で、恵まれた環境で舞台芸術をやらせてもらってきたかというのを痛感せざるを得ませんでした。僕は『Free as a Bird』をコンドルズ史上最高傑作と思っています。2年間くらい新作が創れなかったので、そのパワーが溜まっていました。
ーー埼玉公演は今回で15作目ですが、近藤さんがこの4月から彩の国さいたま芸術劇場芸術監督に就任されてから初めての公演です。公共劇場の芸術監督の立場とコンドルズ主宰という立場の兼ね合いをどう考えていますか?
近藤:芸術監督に就任して、「劇場は仕事場なんだな」ということを身に沁みて感じます。舞台芸術に関わって、社会とのつながりがあって。コンドルズとしては、埼玉の主催公演で継続して新作を創り続けていること自体が奇跡みたいなもので、自信になるし、やる気にもなります。15作目というのは感慨深いですね。これまでずっとクリエーションを続けて新作を発表しているという自信を皆さんにお見せしたいです。
近藤良平
勝山:良平さんと僕は昔、同じ家賃2万円のアパートの別々の部屋に住んでいたので、その頃に戻って、「30年後の良平さんは芸術監督になりますよ!」と言いたいですね(笑)。
芸術監督の就任が決まって、良平さんは以前よりも気配りをするようになりました。インタビューに答えるのも上手くなった(笑)。でもコンドルズで活動する時は、いい意味で適当に、自由にやってくれれば。それからもうひとつ、これもいい意味でですが、良平さんが芸術監督の仕事として良いものを創ったら、コンドルズはもっと良いものを創りたいという相乗効果が生まれます。そういうことが積み重なれば、舞台業界も盛り上がっていくんじゃないかな。
■公演タイトルに込められた深い思いとは
ーー埼玉新作のタイトル『Starting Over』は、ジョン・レノンの生前に出た最後のシングル名から取られています。レノンが主夫活動を経て5年ぶりに活動再開した際、まさに「新たな始まり」にあってリリースしました。タイトルに込めた思いを教えてください。
近藤:いつ使うのかは別にして、4、5年くらい前からカツ(勝山)と温めていたタイトルです。Starting Overというのは、「やり直す」とか「次に踏み出す」とかいろいろな捉え方があります。今回のタイトルに決まったのは今年1月ごろ。2月以降、ロシアとウクライナの戦争という予期せぬことが起こったのですが、そこにStarting Overという言葉自体も重なってきます。
勝山:グローバル化の極みでコロナがあって、ウクライナの戦争があって、「やり直すしかないよね人類」、みたいに皆思っているわけですよね。21世紀の途中で道を間違えたんじゃないかなと皆薄々感じている。コロナになって、死が身近にあるという恐怖に気が付いたと思うんです。でも戦争が始まると、見ているだけで何もできないという死に対する無力感を感じてしまう。ダブルパンチなんですよね。どこかで間違えてこの世界を作ってしまったんだったら、やり直すことってできないのか、やり直せないのかなあと。
勝山康晴
ーーコンドルズ埼玉公演の場合、以前巨大な壁が出てきたりしました。舞台機構を駆使してスペクタクルとして魅せるだけではなくて、「壁」というものから想起されることは多々ある。声に出さなくても、社会的なメッセージのようなものが感じられたりもします。
勝山:『Free as a Bird』をご覧になったある評論家の方が「パンデミックに関して、演劇でやるとしつこいと感じてしまうこともあるけれど、ダンスだとしばらく考える時間があるので、入っていきやすいんだよね」とおっしゃいました。時事問題とか社会にコミットした題材を取り上げる時、コンドルズは割と受け入れやすいスタイルなのかもしれません。途中で何も関係ないことをやっていたりするし(笑)。感じたことを整理する時間が結構あります。時事ネタとか社会の問題を僕は凄く大事にしています。
近藤:直接的な言葉では語らないけれどね。
■ダンス、音楽、そのほかが等しい価値を持つからこそ、おもしろい
ーーコンドルズの舞台には人形劇やコントが入り、映像もあります。他にはないユニークで親しみやすさもあるスタイルを築き上げていますが、埼玉ではさらにアート性・実験性も加わり評判です。今回、クリエーションを進める上で重要になっていることは?
近藤:「埼玉アーツシアター通信 VOL.98」にカツが書いているように「音楽とダンスが同価値で舞台空間に“共生”する」ことです。昔から日本語の曲も使ったり、クラシック音楽も使ったりしていますが、こんなにロックをガンガン踊っているダンスカンパニーはないですよね。たとえ既成のロックの曲であったとしても、そこに僕らの今の思いをぶつけている。すると、曲と凄くマッチングするのがおもしろいですね。今回あらためてコンドルズのやり方でやりたいと思っていて、今ちょうど見直しているところです。
勝山:一本の作品を創ることに関して、我々は特殊だったんだなと思っているんですよ。全部が同じ価値なんです。僕の最近の持論は「照明が7割」(笑)。バンドではドラムが7割とよくいわれますが、ドラムさえよければカッコいいんですよ。それと同じくらい照明をリスペクトしているし、音楽も従属物として扱いたくない。色々な要素が均等に集まって、なぜか上手くマジックを起こすんですね。優先順位というか従属物がある中で「ここをみせたいんです」という感じの作品を僕はおもしろいとは思わない。その点、コンドルズはやっぱり楽しいですね。
(左から)近藤良平、勝山康晴
ーー選曲については、ロックを勝山さんが担当し、それ以外を近藤さんが選ばれるそうですね。『Starting Over』で何か考えていることはありますか?
勝山:日本語の曲を使おうかなと考えています。メッセージがしっかりしたものを使いたい。あと、いつもよりは古めの選曲かな。フィジカル感があったほうがいいなと思ったんです。今流行っている打ち込み中心の音楽も使ってきたんですが、若干そこを抑えめにしようかなと。時代感覚というか、僕のアンテナの中で判断しているだけなんですけれど。
コンドルズの場合、良平さんが選ぶ曲も含めてですが、舞台を見なくても頭から終わりまで音楽を聴くだけでストーリーができているのが売りなんですね。2時間の音楽コンサートをやっているつもりです。舞台を観なくてもいいよ(笑)というくらいの気持ちで創ったものとダンスをぶつけてみたい。あと昔は全部を緻密にやりたかったのですが、猥雑なものが入っていないと作品はおもしろくないんです。そういうことが感覚的につかめるようになりました。
■コンドルズがやってきたこと/やっていきたいこと
ーーコンドルズはSDGs(持続可能な開発目標)、社会包摂などの観点においてダンス界の先陣を切っています。今回もそうした面は反映されるのでしょうか?
勝山:あるんじゃないでしょうかね。自ずと。
近藤:自ずと、としかいえないけれど。
近藤良平
勝山:SDGsという言葉が出始める前からやっていましたからね。ただしホームページに載せたりしてアピールするのは大事だと考えています。コンテンポラリーダンスという非常に脆弱なジャンルが生き残る方法、社会とコミットしていく方法があることをアピールしたかった。若いダンスチームは多くありますけれど、もう少し生き残れる道があるんじゃないのかなと思うんです。ただでさえ弱いジャンルで、どんどん忘れ去られちゃいそうな予感がしますが、SDGsを上手く取り入れていくには最適のジャンルだとも感じています。
近藤:(スズキ)拓朗とか(黒須)育海とかはコンドルズ以外でも作品を創っています。彼らと横につながっている人たちもいます。色々な場所で、SDGsに無関心な作品は創れなくなります。「コンドルズでSDGsをやっているから自分たちも」という風に広がるといいですね。
ーーでは、逆に今後のコンドルズに必要になってくるものは何でしょうか?
勝山:インターネットでがんばれる能力(笑)。がんばれないもん!
近藤:僕も似たようなことを考えています。コロナ禍で映像に強くなったんですよ。ちょっとだけ。だけど、まだ把握できないものがいっぱいある。
勝山:せっせとインターネットをやれる能力が無いんですよ。どんな困難な環境でも舞台はやりたいのに。
勝山康晴
近藤:そこが謎なんですよね。
ーー最後にうかがいますが、『Starting Over』で新たなチャレンジをしている部分はありますか?
近藤:15作目で『Starting Over』といっていますが、今回ちゃんと良い作品ができると、この先の15年に繋がっていきます。
勝山:(笑)。
近藤:いや、そうなんですよ。そういうスタンスでの『Starting Over』でもあるんです。それが結果的に新たな方向といえるかどうか分からないけれど、これから先に繋がっていくものが掴めればいいなと。そういう決意の上でやれば、きっとおもしろくなりそうです。ですから、この先15年も見届けてください(笑)。
勝山:僕が考えるチャレンジは、作品のテーマ設定のレベルアップですね。僕はアニメや漫画が好きですが、日本では身近な距離の話か神話の2種類しかほぼないんですね。我々は「社会」に生きているのに、「社会」が抜けて語られない作品が多い。そこをコンドルズでやりたい。今回は戦争がちらつかざるを得ないという話をしましたが、非常に難しいハードルに取り組みます。タイトルを決めた時、戦争は始まっていませんでした。タイトルに重みが増してしまうけれど、やるしかない。プロデューサーとして個人的に賭ける思いはそこにあります。僕は昨年の『Free as a Bird』が超最高傑作だと思っているので、それを超えるのは大変なのですが。
近藤:それくらいに思っている方がいいですよね。
勝山:超えたいですね。毎回最高傑作でないと!
(左から)近藤良平、勝山康晴
取材・文=高橋森彦    撮影=高橋定敬

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