静御前役の石橋静河 (C)NHK

静御前役の石橋静河 (C)NHK

【大河ドラマコラム】「鎌倉殿の13人
」第20回「帰ってきた義経」義経の最
期を際立たせた2人の女性

 NHKで放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。5月22日放送の第20回「帰ってきた義経」では、源義経が悲運の最期を迎え、斬新な展開と義経役の菅田将暉ら、俳優陣の見事な演技が話題を集めた。
 そのドラマの盛り上げに貢献した存在として筆者が注目したのが、2人の女性、義経の愛妾・静御前(石橋静河)と正妻の里(三浦透子)だ。
 静との悲恋は義経を語る上で不可欠なエピソードであり、誰もが登場を期待していたに違いない。とはいえ、静はあくまでも義経の愛妾に過ぎず、直接歴史を動かす働きをしたわけではない。
 そう考えると、北条義時(小栗旬)が主人公の本作では立ち位置が難しく、ともすれば「義経のかたわらに寄り添っているだけ」になりかねないのでは…とも思っていた。
 だが、名手・三谷幸喜の脚本は、そんな素人の予想を遥かに上回るドラマを生み出した。それを明らかにするため、この回の静の活躍を振り返ってみたい。
 都から姿を消した義経が奥州・平泉にたどり着いたと知った義時は、「九郎を生かして鎌倉に連れて帰るな」という源頼朝(大泉洋)の命を受けて平泉を訪問。
 「私はもう戦をするつもりはない」と畑仕事に勤しむ義経と再会した義時は、ふと、「静さんのことは残念でしたね」と静がたどった悲痛な運命を口にする。
 それは、義経の子を身ごもっていた静が、義経と別れた後、鎌倉方に捕まり、軟禁された状態で出産。生後間もない男の子の命を奪われた後、鎌倉から姿を消した、というものだった。
 これを聞いて悲しみと怒りを募らせた義経は、兄・頼朝との戦いを決意。ところがそれは義時の計略だった。計算通りに義経が動いたことを察した義時は、義経を疎んじる平泉の主・藤原泰衡(山本浩司)を唆し、義経を討ち取らせる…。
 普通であれば、離れ離れになった義経と静は、それぞれ無関係な形で悲劇的な末路が描かれてもおかしくない。ところがこの回では「義経が藤原泰衡の裏切りに遭い、最期を迎えた」という史実に絡める形で静のエピソードを挿入することで、義経の最期を描くドラマの流れに組み込むことに成功。
 義経への思いを込めて「しづやしづ」と頼朝の前で舞った見せ場も鮮やかで、より強く2人の一体感を印象付けた。
 一方、正妻の里もまた、義経の最期を際立たせる重要な役割を果たした。里の場合、先週の第19回がこの回につながる伏線となっている。
 頼朝の命を受けた元興福寺の僧兵・土佐坊昌俊(村上和成)が、義経を襲撃したという史実を、本作では義経と静の仲を嫉妬した里が、静の命を狙って手引きしたものと解釈。それを義経が頼朝の陰謀と誤解したことで、兄弟の決裂が決定的になる、というのが第19回だった。
 これを受けて、第20回では、泰衡に追い詰められた義経の前で里が事の真相を告白。それを聞いた義経は、湧き上がる怒りに任せて衝動的に里を刺殺してしまう。
 その直後、里の亡がらにすがりつき、「すまぬ」と涙を流す姿からは一味違う義経の人間味も伝わり、その悲劇性をより高めた。こうして里も、義経の最期を巡るドラマの中で強い存在感を発揮することとなった。
 史実を基にした時代劇では、歴史の表舞台に出てくることが少ない女性を物語上で生かすことはなかなか難しい。だが本作では、これまでも何度か触れてきた通り、三谷の鮮やかな脚本により、女性たちの活躍が生き生きと描かれている。
 改めてその見事な筆致に舌を巻いたのが、この第20回だった。毎回、視聴者をあっと言わせる驚きの展開が話題の「鎌倉殿の13人」だが、それが好評を得ているのは、こうした脚本上の緻密な計算があればこそといえる。
(井上健一)

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