圧倒的な光と音のユーフォリア「fhá
na Cipher Live Tour 2022」東京公演
ライブレポート

東京、新潟、大阪、名古屋を順に巡るツアー「fhána Cipher Live Tour 2022」が、2022年5月8日(日)の東京・中野サンプラザ公演を皮切りに幕を開けた。先日の4月27日に発売された、実に4年ぶりとなる4枚目のフルアルバムを『Cipher(サイファ)』を引っさげてのツアーとなる今回だが、まずはその4thアルバムについて触れざるを得ない。収録楽曲は全17曲、再生時間にして約75分とCDの容量限界ギリギリにまで詰め込まれた渾身の超大作が今回の主役だ。制作期間は約2年に”結果的になってしまった”わけなのだが、そんな環境の変化に翻弄されながらも過ごしたアフターコロナの2年間を今夜、一気に全て解放しようというのだから、それだけでも凄まじいパワーと熱量が込められた公演であったというのは言わずもがな。3時間弱のセットリストにはfhánaのこの2年間の生き様が刻まれていた。
「Cipher」とは暗号という意味の他にも「0」という意味もある。アルバム1曲目にも収録されている「Cipher.」はそもそもfhána結成前夜にリーダーの佐藤によって制作された楽曲だ。2021年には結成10周年を迎えたfhánaにとって、「0」は原点回帰でもあり、区切りの意味も込めている。そんな「Cipher.」はこれまで何度かライブでも披露されていた曲だったが、このタイミングでようやく音源化されたという経緯がある。奇しくも直前の5月5日が結成記念日ということで11周年の記念ともなったツアー初日。また再びゼロからイチを刻み始めたfhánaによる「Cipher.」からこの日のライブは幕を開けた。
舞台上には照明と楽器のみ。プロンプターはおろか、返しのスピーカーさえも置かれていない殺風景なステージは、これからfhánaによって展開されるであろう空間が、およそ一般的なライブとは違った様相であることを物語っており、中野サンプラザは静かにその時を待っていた。暗転から幻想的な青に包まれ、メンバーたちが姿を現すと場内からは拍手が湧く。yuxuki wagaがギターの弦をはじき、そしてかき鳴らす。あまりにも荘厳で堂々とした登場に、思わず着座で1曲丸々と聴きこんでしまった場内だったが、「Hello!My World!!」のtowanaの軽快な歌い出しが聞こえてくるとスタンディングで応じる。3曲続けて「nameless color」を披露すると、まるで曲の展開のようにドラマチックに、そしてカラフルにステージはライトアップされ、染め上げられていく。
「『fhána Cipher Live Tour 2022』開幕の瞬間に集まってくれて本当にありがとうございます。大きな音と光の空間に身を委ねて、最後まで楽しんでいってください!」というリーダーの挨拶もそこそこに4曲目の「世界を変える夢を見て」に突入。まさに直前の宣言通りに、思わず身を預けたくなる音の広がりと、ステージ上の演者のみならず客席に向かっても容赦なく激しく点滅する光の雨に、思わずライブレポ用にメモを取る手を休め、座席に深く座りなおし、目を閉じ、天を仰いだ。ステージ上だけではなく、会場全体を包み込む音と光の演出は「そうか、Cipherの物語は決してステージ上だけじゃなく、会場にいる僕たちも巻き込んで進行しているのか」と、そう受け取った。その刹那、全ての光がtowanaに収束して、純白のドレスに身を包んだ彼女にフォーカスが当たる。そして舞台のホリが真っ白に照らされると続けて「真っ白」、「Unplugged」では一変し、ムーディな雰囲気でkevin mitsunagaがtowanaとのラップを披露し、フラッグをはためかせて会場の一体感を煽る。
直後のMCでは改めて4年ぶり、4枚目のアルバム「Cipher」について触れ、まずは長い間待ってくれた事に感謝を述べ、続けてこのアルバムがリリースされるまでの困難を語った。「このアルバムには2019年に作った曲もあれば、今年の3月に作った曲も入っています。我々だけでなく皆さんにとってもこの2年間は困難の連続だったと思います。そんな中でもリモートで楽曲を制作したり、オンラインライブを開催してみたり、その時々でやれる最大限をやってきました。困難の中においても創作の手を止めずにやって来られたのは、間違いなく皆さんのおかげです。そんな創作のきらめきについて作った曲です。」と劇場版『SHIROBAKO』の主題歌を務めた「星をあつめて」を披露。
アルバム「Cipher」はAct1/Act2と前後半で2部構成のような構造になっている。その転換点に置かれているのが「Logos」。towanaによる6分間の朗読だ。どこか近未来を想起させるような前置きから、人と人が精神的にも肉体的にも分断されてしまった世界。突然の変化を強いられた生活が産んだ功罪。決してただのフィクションと一蹴することのできない物語の最後は、それでも人は言葉や感情を失うことはなく、対話を求めるということ。そしてゼロへと向かう物語が紡がれていく。
ロゴス、つまり論理に続くのは情熱、「Pathos」だ。白からオレンジへと舞台は色付き「お願いわたしを忘れないで」とtowanaが歌う。続く「願い事」では「繋いだこの手夢だったか何度も確かめ」る」と、光の柱が天井にまでグンと伸びる。その光の柱がtowanaのいる元を指し示すと、両手を大きく広げ、空を見上げ「where you are」を叫ぶように響かせる。
音と光で作り上げていくステージであるからして、特に今回はfhánaをサポートする面々においても特筆すべきであろう。サポートメンバーはベースの前田恭介氏、ドラムに北村望氏が参加した他、「バッキバキの照明」と紹介された小池氏、「舞台袖で見えませんが」とマニュピレーターの沢田氏がMCで呼ばれると、ひょっこり腕だけが袖から姿を見せたが、それだけfhánaにとっても重要な仲間であることが改めて強調され、改めてそんな裏方のスタッフに向かっても大きな拍手が送られる。この時、ステージ上手/下手に向かってきちんとお辞儀をするメンバーの姿にスタッフとの絆を感じずにはいられなかった。そんな真面目なトークの後にはいつもの(?)ゆる〜いトーク(主にリーダーによる)も待ち構えており、雑な「12年目どうすか?」というフリにも「え!?……いや、その振り方はヤバいでしょ」とyuxukiが応じたり、これまたゆる〜い”三戦の構え”のフリに対して完璧な構えで応じるtowanaだったりと語れば長くなるが、ステージは後半戦へと進んでいく。
「GIVE ME LOVE (fhána Rainy Flow Ver.) 」や、「愛のシュプリーム!」、「Air」と軽快なダンスナンバーで続けていく。「愛のシュプリーム!」では、MVでもお馴染みのダンスを「みんな踊って!」とステージを縦横無尽に駆け巡っていく。「Relief」ではまるで大フィナーレのようにそんな流れを回収していくが、まだだ。fhánaが歩んできたこの2年の旅路には、まだこの先がある。
「Airの歌詞は1月のビルボードライブの頃に書いたものなんですけど、みんなの事を想いながら作ったんだよ、って歌いながら次のMCで伝えたいなって考えてたら、思わずグッと来ちゃいました」とtowanaが語る。いつもクールでポーカーフェイスなリーダーも「だいぶ楽しい!」とダンサブルなパートを振り返るが「ホントに楽しそうな顔してます〜?」とツッコミが入ってしまう。改めて佐藤から「Cipher」の意味が説明されるが、図らずも色んな事がリセットされてしまった世の中になったおかげで「何度でも立ち上がるぞ!」というアルバムになったのではないか?と振り返る。
いよいよライブも終盤戦に差し掛かり、7分弱の壮大なバラード「僕を見つけて」からライブは再開。2番のAメロではtowanaのメロディラインに寄り添うように優しくユニゾンする佐藤の鍵盤の音色に思わずウルッとしてしまった。続く17曲目は「Ethos」。人は人との対話の中で信頼を育んでいく。そんな当たり前のことに気付かされてしまうほどに面と向かって話す機会が失われたこともあった。そして多くの音楽家にとってのコミュニケーションの場が”ライブ”だったはずだ。言葉じゃなくたって、音楽でボクらは分かり合えるはず。答えはシンプルで、それ故にたくさんのパワーをもらえた気がした。最後の曲はもちろん「Zero」。このアルバムは区切りであり、ゼロへと戻る原点回帰なのだ。この曲に限らずだが、終盤は特にyuxukiのギターの存在感に圧倒されっぱなしだったように思えた。彼のギターは何かを伝えようと必死に叫んでいたし、困難にもがき苦しんでいたし、大きく笑っていた。fhánaがゼロへと戻っていく瞬間は本当に圧巻で、演奏終了後に皆が拍手するのをためらう一瞬の静寂がハッキリと分かる程に、会場が思わず息を飲んだ。
パラパラとした拍手が大きく鳴り響き、そしてアンコールを求める音へと変わっていく。ツアーTシャツにお色直ししたメンバーが再び姿を見せると「Outside of Melancholy 〜憂鬱の向こう側〜」でゼロからイチへと再び動き出す。みんなでジャンプし、towanaもステージから落ちそうなくらいにギリギリまで前へ出て、フロアの熱気に応える。アンコール2曲目の「青空のラプソディ」は、この日最も自由で、笑顔に満ち溢れていた時間だったと思う。
最後のMCではkevinが「やっぱり皆さんの顔を見ると、絶対に全部振り絞るぞ!全部出し切るぞ!」という気持ちになります!」と完全燃焼宣言。ずっと念願だったリーダーの地元、新潟でのライブが控えていることも合わせてアナウンスがあると大きな拍手が会場を包む。
「みんなの声を合わせて作った『Choir Caravan with fhánamily』という曲がアルバムに入っていますけど、キャラバンというのは皆で身を寄せ合いながら隊を組んで砂漠を進んでいくんです。まだまだ砂漠みたいな世の中だけれども、皆で身を寄せ合いながら、これからも一緒に旅を続けていきましょう。今日は本当にありがとうございました」と佐藤から最後の挨拶があると、「World Atlas」を披露し、大団円の中でCipherは幕を閉じた。……と思われたのだが、アンコール後の記念撮影後に、ステージ中央で何やら話し込むメンバー。「最後にもう一曲だけやってもいいかな?」とリーダーがマイクを握ると、まさかのダブルアンコールへ突入。「星屑のインターリュード」のイントロが聞こえてくると、全ての光の柱が頭上の巨大ミラーボールに向けられ、さながらプラネタリウムのような光景に包まれる。「inspiration 喜びとか言葉を分かち合うたびああいつか終わりの日が来るそう感じさせるよ」8年前に紡がれた歌詞だが、こんな世の中になってしまったからこそ、切なく感じさせる何かがあって、光の演出も相まって、思わず涙を溢してしまった。
そう、冒頭にもリーダーから説明があったように、このライブは極限までソリッドな構成で、音と光だけの空間に徹頭徹尾貫いた潔さと勇気に敬意を評したい。そしてやはりfhána渾身のアルバム「Cipher」の完成度は筆舌に尽くし難い。世界への絶望を描きつつも、そこから多幸感あふれるラストへと展開するスペクタクル感は、アルバムのボリューム感も加わり長編映画を1本見た後のような、疲労感さえも感じさせるほどの高揚感で締めくくられる。そして何よりそれをライブでも、MC込み3時間弱のパフォーマンスで完走しきる熱量とパッションにとても勇気と元気をもらえた。既に発表がある通り、大阪/名古屋公演では1部/2部制でのライブとなっているので、恐らく今夜のようなアルバム通しての形態では無くなるだろう。それもまた気になる所ではあるが、間違いなくまず最初にこの体験を出来た人たちは幸運だったと言えると思う。
人生山あり谷ありというが、その実、平坦な道のりが続くことだって結構あると思う。いや、むしろ大人になるにつれて「なるべく平坦な道でラクして生きていこう」という考えに至ってしまいがちな気もする。そんな半生を振り返ってみた時に、一体自分の心には何が残るのだろうか。そして、fhánaの11年は一体どんな道のりだったのだろうか?名は体を表すというが、決して平坦な道のりでは無かったことだろう。止まない雨が無いように、上り坂を過ぎれば必ず下り坂も待っている。だから長い長い坂道だとしても、一歩ずつ登り続けていくしかない。そのことをfhánaは誰よりもよく分かっているはずだ。だから彼らは音楽を生み続けるし、それを頼りにボクらも歩みを止めてはならないのだ。
レポート・文:前田勇介

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