Absolute areaが挑戦の先に描く理想
の姿──ワンマンライブ「mirroring
」を観た

Absolute area One man Live 2022「mirroring」 2022.5.21 代官山SPACE ODD
5月21日に、代官山SPACE ODDにて、Absolute areaのワンマンライブ『Absolute area One man Live 2022「mirroring」』が行われた。本公演は、5月18日に同時リリースされた「mirroring」と「まだ名のない歌」のリリース記念が兼ねられていると同時に、「たくさんの挑戦が詰まったライブ」であると公言されていた。2021年10月以来のワンマンライブとなるこの日、彼らは新たな試みの先にどんな景色を作り出すのだろうか?
山口諒也(Vo/Gt)、萩原知也(Ba)、高橋響(Dr)の3人が最初に届けた楽曲は、「mirroring」だった。今回のイベントタイトルにもなっているこの曲は、前回のワンマンライブにて会場限定CDとして発売していた作品。「身の回りで起こるいろんな出来事は、自分自身の在り方で良い方向に変わっていくと信じている」という信念と共に、寛容な心持ちで人と接していけるように、という願いが込められた豊かな楽曲だ。さらに言うと、<そんなに焦らないでいいよ/ゆっくり僕の方へおいでよ>という冒頭の歌詞は、彼ららしい慈愛が感じられるフレーズだ。「焦らないでいいよ」や「僕の方へおいでよ」と伝えるだけではなく、相手の歩幅やタイミングを尊重する枕詞が添えられている。そうしたさりげない優しさは、山口が弾く鍵盤の調べと歌声と共に、オーディエンスの肩の力をするりと解いていった。
「mirroring」で生み出された穏やかな雰囲気は、続く「カフネ」と「May」へと継承されつつ、ジャジーでアダルティックなメロディとロックサウンドが融合した「ビニール傘」では心機一転、艶やかなベースとタイトかつダイナミックなドラムがオーディエンスの心を躍らせる。彼らは、そこからさらに「SABOTEN」をドロップし、オーディエンスのハンズクラップと共に会場の温度をグッと引き上げていく。この「SABOTEN」の演奏中もそうだが、今回のワンマンライブでの「挑戦」のひとつとして、ステージ後方に設置されたスクリーンに、楽曲の世界観に応じた映像が投影されていた。風景、人物、イラスト、幾何学模様――生演奏と共に映し出される様々な映像が視覚的に作用し、楽曲が持つイメージを立体化していく。シンプルなロックナンバーを鳴らしていた時代を経て、自分たちの目指すバンド像とやりたい音楽性を自問した上で、今のようなポップバンドとしてのAbsolute areaを育んできた3人にとって、「楽曲の持つ世界観」をより明確に共有できるこうしたライブの在り方は、彼らが抱く理想のひとつなのではないだろうか。
また、ポップバンドが重んじる要素のひとつに「共感」があると思うが、今回リリースされた「まだ名のない歌」は、山口が高校生時代に抱いた、悲しさや寂しさを根源に持っている楽曲だ。楽しさや嬉しさ、励ましといった、ポジティブな気持ちを共有し合う景色は確かに美しいけれど、実際の人生に於いては、どうしても負の感情が勝って挫けたり、やるせない気持ちに苛まれたりする日が多いのが事実だ。人には伝えづらく、自分の心の中に押し隠したくなる感情。アーティストがそれを開放することを恐れずに、音楽として解き放ってくれるからこそ、聴き手は「自分だけではないんだ」と思えるのだろうし、その曲が持つエネルギーが、聴き手の生きる活力へと昇華されていく。その関係性は、Absolute areaが追い求めているもののように思えるし、今のこの時代に「まだ名のない歌」を放ったことは、大きな意味を持っているように思う。
そして更なる挑戦として、サポートメンバーにハナブサユウキ(Key)を招きつつ、「パラレルストーリー」をプレイ! 明瞭度を上げた輝かしい音の中で、オーディエンスのハンズアップが気持ちよさそうに揺れていた。キーボードが加わったことで、演奏に於いてもステージングに於いても、自由度がぐっと増したように思えたし、映像を含めて、バンド以外の誰か/何かの力を借りるという選択は、今のAbsolute areaにとって最善且つ最適だと思えた。ここからキーボードを加えてのアクトが続いていくのだが、その中で、新曲「70cm」が初披露された。甘酸っぱくて弾むようなメロディに宿されたテーマは「相合傘」とのことだが、幸せいっぱいな恋愛関係を歌うのでなく、濡れた肩をモチーフにして、ふたりの間に生じる擦れ違いを描くところがアブソらしい。
ライブも後半に差し掛かると、90年代のJ-POPに通ずる切なさと愛らしさが気持ちを高揚させる「Girl」では、ステージから桜を模した紙吹雪が放出され、フロア一面が桜色で満たされていた。夏の気配を感じ始めた5月に舞い散る季節外れの桜の花びらが、心に穏やかさをもたらす、とびきりのサプライズだ。さらに「記憶の海を泳ぐ貴方は」では、山口がハンドマイクでの歌唱を披露。水中を想起させる映像と共に、ひとり没頭するかのように歌い上げる姿が印象的だった。
そして最後に、事前に公募していた「あなたの忘れたくない思い出の一枚」をテーマにした沢山の写真を繋ぎ合わせた動画と共に、「いつか忘れてしまっても」をプレイ。曲が進むにつれてどんどんと切り替わっていく数々の写真をじっくりと見ていくと、マスク姿でも楽しそうに笑っている人たちの姿がたくさんあった。自分の力ではどうしようもできない事態の中でも、人間は、幸せを見出すことができる。この曲の演奏が始まる前に、山口が「人生というのは、ありきたりで、面白くない瞬間の連続だけど、その時々で幸せな瞬間を見つけられるかどうかが大事なんだと思います」と話していたが、まさにその通りだなと思った。そしてきっと、今日という日はまた、ここに集った人たちにとって忘れたくない思い出のひとつになったのだろう。言葉を交わさずとも感じ取れる、そんな温かい空気に包まれつつ、万感の拍手と共に本編が締め括られた。
アンコールに応えた4人が再びステージに登場すると、この日を迎えた喜びと感謝の想いを順に告げていく。その中で萩原が「サポートメンバーを迎えたことで、曲の見え方が変わってきたんです。一緒にやり始めてからまだ一週間くらいしか経っていないんですけど、4人で演奏する度に触発されて、自分の想像を超えたフレーズが溢れてくるんですよ。すごく刺激的でした」と感想を述べていたのだが、その言葉は、この日の挑戦が最高の形で還元された証に他ならない。そしてこの成功体験は、「徐々に徐々に、自分の作りたいライブや景色を作れているような気がしています」という山口の言葉から感じる自信を、更に確固たるものにするだろう。もっと力をつけて、もっと広い場所で、もっと多くの人に感動を届けたいという彼らの意志は、ライブを重ねる毎に強くなっているように思う。
キーボードの生演奏を加えた特別アレンジでの「遠くまで行く君に」と「ひと夏の君へ」を届けた後、12月4日に渋谷WWW Xにてワンマンライブを行うことが発表されたが、その時にはまた一皮むけたAbsolute areaに会えるだろう。着実に歩を進めている彼らの成長を、季節を超えながら心待ちにしていようと思う。

取材・文=峯岸利恵
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