『MAMALAID RAG』は
流行廃りとは
まったく無縁と言える
普遍的音楽良品

旋律を損ねず構築されたサウンド

サウンドは、これまた分かりやすい派手さこそないものの、こちらも良質、上質と言っていい。下世話ではないバンドアンサンブル。抑制が効いたアンサンブル。そんな言い方もアリだろうか。アコギ1本の演奏で弾き語りとも言えるM9「感情」を除いては音数が少ないわけでもないし、前述したように歌以外のパートもしっかりとメロディを奏でているので、楽器が伴奏に徹しているわけでもない。出るところと出ないところをちゃんとわきまえているのではないかと思う。分かりやすいのが、本作中で最もアッパーなナンバーと言えるファンクチューン、M6「ワトスン」だろうか。イントロは軽快なギターのカッティングから始まって、そこにホーンセクションが絡むのだが、そのブラスもドカンと入るわけでなく、華を添える程度というか、“主役は我々ではない”と言っているような顔の出し方。一方で、ドラムとパーカッションは生真面目にリズムをキープしながら進み、ベースは弾き過ぎない程度に楽曲にノリを与えていく。歌と並走するオルガンも押し引きを分かっている様子で、その旋律もまたこの楽曲に不可欠なノリをプラスしつつも、ヴォーカルが歌う主メロを決して邪魔しない。Bメロ辺りからテンションが高まっていき、サビで密集するにはするけれど、それにしてもドカンと迫るような圧力はない。ブラックミュージック的なキレはあるけれども、圧しはないといった感じだろうか。間奏やアウトロでは、歌がない分、ギターソロにブラスも絡むので、そこは少し派手にも聴こえるかもしれないが、それにしても長尺ではないので、圧しの強さも感じないだろう。

サウンドの例をもう一曲上げるとするならば、M10「目抜き通り」もそう。印象的なエレキギターから始まり、ストリングスもゴージャスに配されているのだが、それぞれまったくと言っていいほどに歌を邪魔していない。もう少し弦楽器が出ていれば如何にもサイケデリックロックに寄ったかもしれない。そうなれば、味わい深いギターの音色にも何か別の意味が加わったかもしれない。だが、とても絶妙なバランスで入っているので、聴き手は歌やギターが奏でるメロディーと、バンドが発散するグルーブだけに集中できるのではないかと思う。その辺がホントいい案配なのである。また、全体を通して見ると、M2「彼女のタペストリー」やM7「Her life」、M9「感情」(M1「悲しみにさようなら」もそれに近いか)など、ボサノヴァが多い印象はあって、強いて言えば、そこに時代性を感じなくもないけれど、ボサノヴァが生まれたのは1950年代だし、日本で流行ったのは1990年代前半というから、やはり時代云々はあまり関係がないと言える。ただ──これも強いて言うのであれば、『MAMALAID RAG』がリリースされた時点でその半世紀前に生まれたボサノヴァを多用したことで、当時も今も直近の音楽ではないことを際立たせることになったと言えるかもしれない。ホント強いて言えば…だが──。

さて、最後に歌詞について。歌詞は見事に時代性が漂白されているようだ。あえて探せば、「夜汽車」というタイトルとか、M8「春雨道中」に出てくる《珈琲茶碗》辺りが少なくとも現代ではないといった気はするけれども、蒸気機関車は最近ではあまり見かけなくなったものの、“汽車”には[日本国有鉄道(国鉄)もしくはその後継であるJRの列車を指す通称]という意味もあるらしく(知らなかった…)、それなら令和でも通用する。《珈琲茶碗》に至っては“コーヒー・カップ”とルビが当てられているので、聴く分には何ら違和感はなかろう。[ファースト・アルバムの楽曲ではラウンジ系のサウンドを取り入れ、歌詞にコーヒーや紅茶が多く登場する事、更にコンピレーション版「喫茶ロックnow」に「春雨道中」が収録され、注目を集めた事などから「喫茶系」などといったジャンルに分類される事も多]かったともいう。“喫茶系”なんてジャンルがあることも今回、初めて知ったが、そう分類されたこと自体、『MAMALAID RAG』をどの時代のフォルダに収めることができなかった証左ではあっただろう。彼らの発する音楽は何にもまみれない。“ロック”としか呼べない──もっと言えば、“音楽”としか言えないものであったのだ。(ここまでの[]は全てWikipediaからの引用)

TEXT:帆苅智之

アルバム『MAMALAID RAG』2002年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.悲しみにさようなら
    • 2.彼女のタペストリー
    • 3.カフェテラス
    • 4.向こう側
    • 5.夜汽車
    • 6.ワトスン
    • 7.Her life
    • 8.春雨道中
    • 9.感情
    • 10.目抜き通り

『MAMALAID RAG』('02)/MAMALAID RAG

OKMusic編集部

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