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本当に困る〜陰謀論の人との接し方〜
:ロマン優光連載212

ロマン優光のさよなら、くまさん
連載第212回 本当に困る〜陰謀論の人との接し方〜 Twitterで陰謀論者を引退すると宣言したアーティストのその後のツイートを見てみたら、Qアノンや神真都Qみたいなものを否定しているだけであって、普通にグレートリセットという言葉が出てきたり、日ユ同祖論を信じてるし、Q自体が体制側の陰謀(九割の真実の中に意図的に一割のデタラメな情報を入れることで、九割の真実だと思わせる)と考えていたり、何というか普通に陰謀論者そのものなので頭を抱えてしまった。
 彼が陰謀論者を名乗っていたのは、彼一流のユーモアセンスと韜晦によるもので、あえて陰謀論者を名乗ることでトリックスターとして世間を撹乱して「真実」を広げていこうという意図だったのだと思う。あえて「陰謀論者」を名乗りつつ「真実」を振りまく自分かっこいい、そんな感じ。
 別にその狙いが成功したとも思えず、実際のところ、周囲やファンの大半は「また何か言ってる。困ったなあ。基本無害だし、そっとしとこう」みたい感じだったのだろう。主張自体も弱者をスケープゴートにしたり、差別を煽ったり、現実世界における破壊活動をよびかけるものではない。日本の国際社会での立ち位置や世界情勢、大国や巨大資本の横暴への憂いからくるものなのだけど、それが何故か全てが何者かによって仕組まれているという風になってしまっているのが困ったところで。
 基本無害だと考えられてるし、そう扱われてきたのだろうけど、彼のそういった発言にリプを飛ばしている本気の人たちを見てみると、何というか別のもっとマズイ感じの陰謀論を抱えている人だったりするわけで、そういった人の陰謀論を彼の主張が補強してしまっているのはうかがえる。ああいう人同士は会話が成立しているように見えても、それぞれのホームに行ってみると主張のベクトルが全然違うことも多い。話しかける方が自分の論に都合のいい部分に反応しているだけだったりする。
 彼自身の主張を周囲やファンが相手にしていなくても、SNSで発信することで、より社会に悪影響をもたらすような他人の持論を強化する役割をはたしてしまっているということだ。
 本人に「色々な利権や思惑が絡み合ったりして国際情勢が生まれていくのは確かにそうなんですけど、それを何者が明確な意思で全てコントロールしているなんてことはないですよ」とか「日本とユダヤを結びつけるのは、戦前のオカルトな人とか変な軍国主義の人たちによる妄想とか捏造とかで生まれたもんでしかないんですよ」と言ったところで膨大な情報を持ち出してきて反論してきそうで、聞き入れるわけがないし。陰謀論にはまる人の中には凄く「勉強」している人も多い。ただ、そもそものテキストの内容が間違っていたら、どんなに勉強したところで間違った結論にしかたどり着かない。答えが決まってから、それに合致する情報だけを探すようなやり方をしていたら、そういう情報ばかり集まってしまうわけで。
 昔からそういう主張をしがちな人で、そういう部分も「ああ、この人は『ムー』とか『地球ロマン』とかが好きなんだろうなあ」みたいな感じで、陰で面白がられていたのだけれど、現在の社会情勢も、SNSでやたらと色んな人間と繋がってしまうネットの状況も、そんな風にはほっとけない感じになってきている。かといって、SNSから来た人が否定的な意見を直接ぶつけたところで、本人が意固地になるだけだろう。SNSで知らない奴が何か言ってきたところで単に攻撃されたとしか思わないと思う。
 陰謀論にはまってしまう人の中には充足感の欠如、不安、不幸といったものを生活の中に抱えてしまっている人も多い。余命ブログに乗せられて弁護士に懲戒請求をしてしまった人の中にも「自分が世の中に役にたってないのではないか。世の中の役に立ちたい」という想いをもった人、人の役にたつことで自分の人生を充実させたい気持ちの人間が多くいたことだろう。新型コロナ禍がもたらした不安から荒唐無稽な反ワクチン運動にはまってしまう人もいる。自分の身におこった不幸で弱ってしまった心が日常からの逃避のために壮大なスケールで世界を捉えようとして陰謀論にはまってしまう人もいる。理不尽に思える運命に苦しんでいる人にとって、全てに理由がある、理由がある以上是正できるという陰謀論の持つ世界観は魅力的なものなのかもしれない。
 こういう人たちに論理的に陰謀論を否定しても反発されるばかりだ。彼らがそこから抜け出すためには、彼らの抱えている心理的な問題が解決されるしかないのだから。論理的に陰謀論を否定していく行為は、陰謀論にまだはまってない人に対して、正しい認識を広げたり、警戒をよびかける行為でしかないのだ。
 SNSでその主張を否定したところで反発を招くだけ。かといって、放置しておいていいものでもない。彼らを変えることができるのは、環境の変化だったり、現実での信頼関係が形成されている人間との心の繋がりだったりするのだろう。しかし、環境が急に変わるわけでもない。どんな親しい人間でも、本人が気付くタイミングがくるまで見捨てずに根気よく待っているしか基本的にはない。ましてや、ネットでその人たちを見ているだけの関係性の人間に何ができるというのか。
 そして、私はどうしたものかと頭を抱えてしまうのだ。
(隔週金曜連載)
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『SNSは権力に忠実なバカだらけ』https://books.rakuten.co.jp/rb/15204083/
『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』
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【ロマン優光:プロフィール】
ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。現在は、里咲りさに夢中とのこと。twitter:@punkuboizz
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