挾間美帆に聞く~映画音楽をジャズで
彩り大編成のオーケストラで挑む『T
OKYO JAZZ 2022 NEO SYMPHONIC!CIN
EMA JAZZ』

今年、21回目となる『TOKYO JAZZ』は、コロナ渦の影響により、観客入りという意味では3年ぶりとなる。今回は東京芸術劇場とともにスペシャルプログラムを組み『TOKYO JAZZ 2022 NEO-SYMPHONIC!CINEMA JAZZ』(2022年8月19日開催)として開催される。これは見逃せない。スペシャルな時間をプロデュースするのはニューヨークを拠点に今のジャズ・シーンを圧倒的なパワーで牽引している挾間美帆。第62回グラミー賞にもノミネートされた実績を持ち、世界各地で才能を発揮している彼女に意気込みを語ってもらった。
 (c)Kana Tarumi

――まず、確認したいのですが、挾間さんの肩書きは?
ジャズ作曲家です。自分としては4つのオキュペーション(職業)があると思っていますが、その筆頭がジャズ作曲家で、そして編曲家、指揮者、バンド・リーダーと続きます。
――ジャズ作曲家を真っ先に挙げた理由は?
小さい頃からクラシック音楽が好きだった私は、小学2年生の時に竹中直人さん主演のNHK大河ドラマ『秀吉』を見て、そのオープニング・テーマ曲にも惹かれました。いつか、こういうオーケストラの曲を書く人になりたいと思い、その夢を実現するために国立音楽大学に入ったのです。クラシックの作曲科で学びながら<ニュー・タイド・ジャズ・オーケストラ>というサークルでピアノを弾いているうちに、ジャズの作曲にも興味が沸き、その方面の勉強をするためにニューヨークにあるマンハッタン音楽院の大学院に留学しました。最終的にジャズ作曲科の修士課程を卒業したので肩書きを訊かれると<ジャズ作曲家>と答えています。
 (c)Kana Tarumi
――そんな挾間さんは2019年から2021年まで『NEO-SYMPHONIC JAZZ at 芸劇』のプロデュースを担当されていましたね。
元々、自分の頭の中ではクラシックのオーケストラの音が響いていますが、私自身の音楽はジャズの匂いがします。ですから、オーケストラでジャズっぽい感じの音楽を演奏したり、そういうシチュエーションをプロデュース出来るようになりたいと思い続けていました。要は、オーケストラとジャズの架け橋になるような、そういう活動をしたかったのです。キャリアを重ねていけば実現出来るかもしれないと思っていたところに、東京芸術劇場から<シンフォニック・ジャズ>の魅力をお伝えできるチャンスをいたただきました。非常に驚きましたが本当に嬉しかったです。
――今年は、『NEO-SYMPHONIC JAZZ』のコンセプトを継承・発展させた特別なプログラムということで、一体、どんなステージを体感出来るのか、今からとても楽しみです。因みに、『東京JAZZ』に初めて出演されたのは2017年でしたよね。
あの時も大感激でした。何故なら、『東京JAZZ』は中学生の頃からテレビで楽しんでいた唯一のジャズ・イベントで、世界的なトップ・ミュージシャンがプレイしていることすら解らず、只々、好奇心だけで観て聴いていたんです。そんな私に、2017年“デンマークと日本の国交150周年を記念した企画プログラムの編曲&演出をしませんか”と依頼があり、チャレンジさせていただきました。この年はジャズのレコードが発表されてから丁度100年という節目の年でしたので、その100年の歴史を演奏で辿るというテーマのもとにディレクション! まさに無我夢中でした。
 (c)Kana Tarumi
――この出演がきっかけで、デンマーク・ラジオビッグバンドの首席指揮者に2019年から就任、昨年は<挾間美帆&デンマーク・ラジオビッグバンド>名義のアルバム『イマジナリー・ヴィジョンズ』を発表されました。
ホント、びっくりしちゃうようなご縁ですよね。ですから、私にとって憧れだった『東京JAZZ』は今や恩人的な存在といっても過言ではありません。それ以降も出演させていただいている『東京JAZZ』という舞台で、『NEO-SYMPHONIC JAZZ』をどう発展させるか楽しみ倍増です。コラボするからには両方のファンの方々に喜んでいただけるプログラムにしたいと思い、“<現代版のNEO-SYMPHONIC JAZZ>がお届けする映画音楽”をテーマに、今、詳細を詰めているところです。
 (c)Kana Tarumi
――映画音楽をフィーチャーしようと思った理由は?
ここ数年、映画とジャズのシンクロを強く感じているんですよ。例えば、スティーヴン・スピルバーグ監督のリメイク映画『ウエスト・サイド・ストーリー』が大ヒットしたことでレナード・バーンスタインの音楽が再注目されていたり、ジャズ・ピアニストのジョン・バディステが音楽を手掛けた映画『ソウルフル・ワールド』は第93回アカデミー賞作曲賞を受賞しました。
――彼は、アルバム『We Are』を発表し、第64回グラミー賞で11部門ノミネート、5部門を受賞するという快挙も成し遂げています。
そういった事象が重なっている今こそ、アップデートした映画音楽を<シンフォニック・ジャズ>で描けば、音楽シーンに新しいプレゼンテーションが出来るのではないかと思ったのです。私自身も、鷺巣詩郎さんが作曲で携わっている『新世紀エヴァンゲリオン』のアレンジを10年近く担当していますし、その音楽をジャズ・アレンジしたアルバム『The world!EVAngelion JAZZ night=The TokyoIII Jazz club』にも参加しています。そういった楽曲の中から、今回、東京フィルハーモニー交響楽団の皆さんと一緒にお届けしたいと思っているんですよ。
 (c)Kana Tarumi
――そこに、中村佳穂(vo)さん(※コンサート全編にわたっての出演ではありません)、黒田卓也(tp)さん、江崎文武(p)さん、須川崇志(b)さん、石若駿(ds)さんといった人気若手ミュージシャンの参加も決定!
今、才能溢れる若いミュージシャンが揃っていて、そういった若手が輝けるジャズ・シーンこそ健全であり重要だと感じています。そして、彼らと同世代の音楽ファンが“ジャズとは何ぞや”といった難しいことは抜きにして、この人がカッコいいから見たい、曲がいいよね、と思ってもらえるようなラインナップにしたかったんです。演奏曲を考えながら出演者を決める部分も勿論あります。例えば、ビョークが主演したミュージカル映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の音楽は現代ミュージック・シーンを語る上で欠かせない作・編曲家のヴィンス・メンドーザがアレンジを担当していて、まさに今を代表する映画サウンド。この曲も取り上げる予定ですが、そうなるとどうしても必要な楽器が出て来る。そういった観点からもゲスト・ミュージシャンを選出しています​。
 (c)Kana Tarumi
――ところで、ジャズ作編曲家の醍醐味とは?
私が書いた譜面と演奏者に委ねたソロの部分が混在していることです。ジャズの場合、それぞれのミュージシャンが各々のバックグラウンドを持って即興演奏するので、自分が頭でイメージしていた演奏とは違うことも少なくありません。そこが面白くもあり難しくもあり、挑戦し甲斐がある部分ですね。
――本番当日、挾間さんはコンダクターとして舞台を飾るんですよね?
そのようです(笑)。ただ、私の場合、指揮をしている時に自分がイニシアチブを握っているとは思っていません。例えるなら、旗を持ったバスガイドさんみたいな感じかも。間違った方向に行かないように目印を出す役目。指揮に慣れていないジャズ・ミュージシャンもいますので、その道しるべ係としてコンダクトしています。
 (c)Kana Tarumi
――では、<シンフォニック・ジャズ>を挾間さん流に定義すると?
ずばり、オーケストラで演奏出来るジャズ音楽です。オーケストラというのはあれだけ大勢のプレイヤーが舞台で楽器を鳴らすのですから、仮に生演奏を聴いたことがない方でも迫力あるサウンドを想像出来ますよね? それをジャズでも出来るんだよ、と<シンフォニック・ジャズ>で伝えたいのです。たくさんの演奏者による音のシャワーを浴び、その圧力を感じると同時に即興演奏も楽しめる。スペクタルな音楽を多くの人に味わって欲しいです。
――このステージで挾間さんが1番、アプローチしたいことはなんですか?
“JAZZフェスティヴァル感”ですね。複数のゲスト・ミュージシャンが入れ替わって登場しますので、このコンサートの中だけでも“フェス感”を出せたらいいなと思っています。それと、会場となる東京芸術劇場は、クラシカルなのに現代的なホールで、重厚感と近未来的な設計が建物全体に施されています。つまり、新しい音楽を表現する場所としても最適なんですよ。3年に渡り『NEO-SYMPHONIC JAZZ at 芸劇』のプロデュースを担当したことで会場の特性も掴めていますし、そういった経験を活かして『TOKYO JAZZ 2022 NEO SYMPHONIC!CINEMA JAZZ』では、パワー・アップした私の音楽を皆さんにお届けしたいと思っています。
 (c)Kana Tarumi
取材・文=菅野聖

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

新着