初舞台の成田凌「ワクワクが止まらな
い」~葵わかなと杉原邦生と共に語る
『パンドラの鐘』取材会レポート

2022年6月・7月、東京・大阪にて上演される、COCOON PRODUCTION 2022 NINAGAWA MEMORIAL『パンドラの鐘』。1999年に野田秀樹によって産み落とされた『パンドラの鐘』は、蜷川幸雄と野田によって、Bunkamuraシアターコクーンと世田谷パブリックシアターの二館で同時期に上演された。蜷川は“岩”、野田は“紙”と、同じ作品ながら全く違ったモチーフとアプローチで作品を創り上げた。

 
現役のまま惜しまれつつ2016年にこの世を去ったシアターコクーン前芸術監督・蜷川幸雄の七回忌を迎える今年、“NINAGAWA MEMORIAL”と題し、初演以来23年ぶりにシアターコクーンにて上演。蜷川作品より多大な影響を受け、アングラ、シェイクスピア、海外戯曲、歌舞伎まで様々なジャンルの作品を手掛けている、新世代の演劇界を担う気鋭の若手演出家、杉原邦生の手によって、記念すべき公演として再び現代に蘇る。
 
勝村政信、堤真一の怪演が話題となった葬式屋のミズヲ役を演じるのは、今作が初の舞台出演にして、初主演となる成田凌。そして、大竹しのぶ、天海祐希の演じた古代の女王・ヒメ女役を演じるのは、多くの映像作品に出演しながら、舞台にも定期的に出演を続けている葵わかな。フレッシュながら、その存在感と演技力の光るこの二人がダブル主演を務める。
都内で本作の取材会があり、演出の杉原、出演する成田と葵が作品への思いなどを語った。取材会の様子を写真とともにお伝えする。
凄まじいスピードで進む稽古。成田凌「ワクワクが止まらない」
成田凌
ーー稽古が始まって2週間ほどが経ちました。稽古の手応えなどお伝えください。
 
成田凌(以下、成田):もう2週間、経ったんですね。凄まじいスピードで進んでいっていますが、そのなかで皆さんがいろいろなチャレンジをしてくれているのを見て、ずっとワクワクが止まらない状態ですね。とにかく目まぐるしい毎日です。楽しくやっています、本当に。
葵わかな(以下、葵):今はまず形を作っている状況なので、セリフの量だったり、「ここはこんな風に進んでいくんだ」という新たに知ることがたくさんあって、頭がパンクしそうです。
 
成田:そうですよね。脚本を読んで、稽古に臨むと、それよりも遥か先に邦生さんの頭の中がある。あ、違った、想像なんてしていっちゃダメなんだと思いながら日々過ごしています。
 
葵:キャラクターも今つかんでいるところなので、毎日濃厚だなという印象です。
 
杉原邦生(以下、杉原):お二人も言っていたように、とにかくハイスピードで、ざっくり立ち上げている状況なんです。多分、本を読んでいるだけだと、「これ、どういう風になるの?」と想像できなかったと思うんですね。いわゆる部屋のセットがあって、そこで物語が進むというお話ではない。ひとまず僕のビジュアル的なイメージや空間的なイメージを俳優さんと共有することによって、今回の上演版の台本を読み切る作業をしています。
 
これから細かいところを詰めていって、芝居のところを立ち上げていく段階になると思います。あと1日、2日で最後まで仕上がるみたいな感じです。俳優さんもセリフ覚えが追いつかない状況ですけど、とにかく前に進めて、ひとまず完成図はこういう風になるらしいぞという共有作業をしています。
葵わかな「無鉄砲でも見栄でも堂々と胸を張っていたい」
葵わかな
ーー成田さんと葵さんはそれぞれ過去に名優が演じられた役を演じます。何か意識されていることなどはありますか。
 
成田:自分は23年前にやられていた、蜷川さんのものと野田さんのものを、3日前ぐらいまで(映像で)毎日見ていました。けど、稽古が進んでいくにつれて、これをなぜ見ているのか、意味が徐々に変わってきて。これは壊していかないと意味がないと思って。ここ数日は見ずに行ってみようという頭に切り替わりました。
 
自分の演じるミズヲという役は勝村(政信)さん、そして堤(真一)さんが演じられていて。また違うお二人のエネルギーを持っているので、自分もまた違うエネルギーを発信できたらなぁと思っています。お二人のお芝居、すごすぎて、ちょっと打ちひしがれる思いはしていましたが(笑)、そっちのものを信じていると、正直今一緒にやっている人たちに失礼だなと思っているので、途中から見方を変えて、役の演じ方じゃなくて、その人たちの心の奥を見ていこうと。
 
野田さんの作品は何層にもなっていて、最初脚本を見ていた楽しさは忘れちゃいけないと思うんですけど、ここから野田さんが言葉遊びの中に入れ込んだ、この作品の要素みたいなのを昔の映像から学んでいるということですね。これから自分と、今一緒にやっている皆さんと一緒にミズヲを一緒に作っていただけたらなと思っていますね。
葵わかな、成田凌(左から)
葵:私は成田さんとは真逆で、逆に(映像を)見ないでやってみようと思って。野田版と蜷川版の『パンドラの鐘』の映像作品をいただいたのは、ポスターを撮影する前だったと思うんですけど、その時も見るかどうかものすごく迷って……(ビジュアル撮影を担当する蜷川)実花さんもいらっしゃるし、そこでお話をうかがって、そこでやるのもいいのかなと思っていたのですが、私、逆に今、どんどん見たくなっている(笑)。
 
この作品の持っている名前というか、名誉というか、パワーというのが大きすぎて、知らない方が強い時もあるのかな。ちょっと重たく感じてしまうかもしれないというのが一番怖くて。最初の本読みの時に、邦生さんがおっしゃっていたんですけど、野田さんがコメントの中で「好き勝手やって欲しい」と言ってくださっていて、もちろんすごい作品ではあるんですけど、今この時にこの作品を作ろうとしているのは邦生さんをはじめとする私たちだから、ちょっとだけ無鉄砲でも見栄でも堂々と胸を張っていたいなという気持ちがあります。
 
できれば見ないでやりたいと思っているんですけど……台本が進めば進むほど難しすぎて、この台詞どうやって言ったらいいんだろうと。以前この役をやられた素晴らしいみなさんが、どんなふうに解釈して、どんなふうに言ったのか、気になって気になってしょうがない。今日か明日には見ちゃうんじゃないかという日々を過ごしているところです(笑)
 
成田:邦生さんを信じていけば、大丈夫。
 
葵:別に見たって全然間違いがあるわけではないんですけど、自分との葛藤が今あって……気になります!(笑)
成田凌
ーー成田さんは本作が初舞台となりますが、初舞台について思うことは。
成田:ずっとやりたかったことなので……。今まで自分が映画やドラマでやってきたことって、今やっていることと真逆のことというか。何もしないでそこにいることをずっとやってきたわけですけど、今回はやらなきゃ伝わらないということをやっている。それはそれは楽しいですよ。気持ちがいいというか。
 
あ、これがやりたかったんだと今思っています、本当に。(周りの)みなさんが本当にすごいので。暴れん坊がいるわけですよ。「こんなことやっていいんだ」という道を先輩方が作ってくださるのがあって、今動きやすい。昨日とかも邦生さんに聞くのもいいけど、一緒にいる……例えば玉置玲央さんに「ここってどうしたらいいですか」と聞いたら、すごく丁寧に教えてくださった。映像の現場でそれができることって、あまりしてこなかったなと思うんです。
 
それこそ勝村さんと共演したときは、そういうことをしてくださった。「ああしたほうがいいんじゃないかな」と色々アドバイスをいただいていたので、そういうことかと(自分の中で)つながりました。(舞台の現場は)聞ける人がたくさんいて、同じことを何度も積み重ねていく。やっていけばやっていくほど葵さんとの会話も増えていくし。改めてこれはどういう意味なんだろうと、突き詰めていく時間は本当に楽しいですね。頭も体も前のめりです。楽しいです。
葵わかな
ーー葵さんは『冬のライオン』に続いて、2作目のストレート。「冬のライオン」で得たことや感じたことは本作に生かされていたりしますか。
 
葵:どうなんですかね。前回の作品と今回の作品は、毛色が全然違うなと思っていますし、森(新太郎)さんという演出家さんと邦生さんのタイプも違うのかなと感じています。ただ、前回学んで、続けようと思っているのはあまり準備をしないこと。
 
さっき成田さんもおっしゃっていましたけど、自分で固めて作っていくことがもちろんいいときもあるけど、長い時間向き合う時や周りに助けていただける空間があるときは、凝り固めずに「何にでも対応できます!」という柔軟性が一番大切なのかなと思っているので。それは前回学んで、今回もやっていきたいなと思っているところです。
葵さんは「すごくバランスの取れた人」、成田さんは「猫のよう」
ーー葵さんと成田さんはNHK連続テレビ小説『わろてんか』以来の共演。改めてお互いの印象や再共演できる心境を教えてください。
 
成田:(前回は役柄上)ずっと、おかあちゃんと呼んでましたからね(笑)。
 
葵:一回も下の名前で呼ばれなかったと思う(笑)。
 
成田:立ち姿から何から違うので、全然、前のこととか気にしていないというか。初めて共演するわけではないけど……。
 
葵:分かります、はじめましてという感じですよね。
 
成田:知り合いではあったけど、なんていうんだろう、独特(な関係性)かもしれないですね。
 
葵:前回の役を引っ張ることは意外となく、今回は今回です。
 
成田:5年前ですから、時も経っていますしね。
 
葵:一緒の作品を長いこと一緒にやっていたという、信頼はあるので。
 
成田:確かに当たり前に信頼がある状況で、今回、この作品をやらせてもらえるのは大きいかもしれないです。
杉原邦生、葵わかな、成田凌(左から)
ーー改めてお互いをどういう人だと感じていますか?
 
葵:……どうですか?
成田:すごく成熟された人間だなと思うんです。それは10代の頃からちゃんとしてきた人だと思って。邦生さんに言ってもらったことをメモをされる方なんですけど、ちらっと見たら、意外と無邪気な言葉遣いだったりしていて。
葵:見ていたんですか!?(笑)
成田:「わくわく!」みたいな。すごく無邪気。人間的バランスの取れている人だなと思います。柔軟だし、確固たるものもあるし、すごくバランスの良い方という印象です。自分の中の最上級の褒め言葉ですよ、バランスのいいって。
 
葵:やったー、ありがとうございます。成田さんは見た目もあると思いますけど、飄々としているイメージ。クールそうに見えて、実は熱い印象です。それは今も昔も変わらないんですけど、じっくりお話させていただいたりして、テンポ感というか、ノリというか、波長が、猫みたいだなと思っていました(笑)。
 
例えば、話していて「こうだよね」と言ったら全然聞いてないとか、話して「この話ちょっとつまらなかったかな」と思ったら、そこにはすごい乗ってくるとか(笑)。不思議だな、この人という印象です。ミズヲという役には私はリンクして見えるので、すごく面白いなと思いながらご一緒しています。
いろんなイメージが乱反射して、ひとつの物語に集約されていく
杉原邦生
ーー噛みごたえのある作品ですが、現時点での杉原流演出ポイントは?
 
杉原:僕も蜷川さんと野田さんの映像を何回も見て、同じことをしたくないから、やっぱり僕なりの、そして、今回集まるスタッフ・キャストの一緒に作る新しい『パンドラの鐘』にしたいという想いが一番。それをどうやっていったらいいか考えていたところなんですけど、最初にお二人がやられた作品を学生時代に拝見したときに、歌舞伎の『京鹿子娘道成寺』の鐘入りのイメージがすごくブワッと沸いたので、そのファーストインプレッションを大事にしたいと思っていて。
 
今回は空間的に能の道成寺と、歌舞伎の娘道成寺の二つの世界と、現代劇の世界観を内混ぜにしたような世界観をつくっています。そこにm-flo☆Taku Takahashiさんの現代的な音楽が重なり、また、衣裳のAntos Rafalさんという方は、京都など日本の文化に魅せられて海外で活動しているデザイナーなので、融合した世界観を作ってくれています。
 
野田さんの言葉の世界って、いろんなイメージが乱反射していく、そしてひとつの物語に集約されていく世界観。それを空間とか、ビジュアル的に体現しながら、キャストも出自も本当にさまざまで、見ているだけで目眩を起こすような乱反射が起こるキャスティングなので(笑)、いろんな世界観、いろんなイメージが内混ぜになっている。古代と現代という行き来する物語なので、日本の演劇の古典と現代を行き来する世界観の中で物語を構築していきたいなと感じています。
 
ーーイメージを共有される時に、どういったものを共有されたのですか。
 
杉原:舞台美術に関しては、稽古初日に模型を見ながら、「おー」みたいな(笑)。片岡亀蔵さんは歌舞伎俳優の方なので、「これは道成寺じゃん」とすぐ気付いてくれました。稽古場ではイメージできないことは、その都度「こういう風になります」と言葉で伝えられる限りは伝えていくという形ですね。
杉原邦生、葵わかな、成田凌(左から)
ーー成田さん、葵さんからご覧になって、演出家の杉原さんの印象は?
 
成田:優しいです。なんですかね、優しいにもいろいろあると思うんですけど、すごく芯の通った優しさというか……すっごくいいベッドみたいな(笑)。柔らかいけど、しっかりしている。ずっとそこで寝ていたいと言いましょうか。包み込んでくれる優しさがあるんです。
 
ものすごく視野が広い方なので、すごく短いシーンでも、こっちを指示したと思ったら、あっちも指示している。さらに、音に関しても指示をしている。頭の中どうなっているんだろうと思っています。邦生さんをどうにかして困らせてみたいぐらい、視野が広い方。すごく柔らかい頭をされているという印象です。うーん、困らせたい!(笑)
葵:すごい優しいというか、穏やかですよね。しなやかな印象です。私もたくさんの方知っているわけじゃないですけど、今までお会いしたことないタイプの演出家さんです。優しいけど、確かにゆらゆらしているとも違って、不思議な方だなと思います。
 
ーー杉原さんからみた、お二人の印象は?
 
杉原:本人を目の前に言うの恥ずかしいよね(笑)。成田くんは映像で何回も拝見していて、稽古に入る前にも取材でお会いしていて。取材でお会いした時はテレビとかで見るクールな印象がそのままあったんですけど、稽古場入ってみたら、かなり前のめりで熱い人なんだなと感じました。
ずっと開いているというか、マインドがオープン。「なんでも吸収します! なんでもこい! なんでもやってみます!」みたいな感じがすごくあって。「自分はこうだ」という思いが強い方なのかなと勝手に思っていたら、全然そうじゃなかった(笑)。自由さとオープンなマインドを持っている。それは新たな発見で、舞台を一緒に作っていく人としてはすごくやりやすいし、僕は実は舞台に向いているのではないかなと思っている。本当にやりにくい部分はなく、むしろいい作業がこれから続けていけるんじゃないかなと思っています。
 
それは葵さんも一緒。いい意味で真面目な部分な部分があります。きちんと自分なりに本を読んで、「自分はこう思います」とある程度自分を持っている方。僕が「こうしてみよう」と提案すると、「へ? そっち?」みたいな驚きがあるんですけど、そこに自分からぶつかっていく人。そして、自分でつくったものを壊せる人。
 
彼女の中でちゃんと破壊と想像ができる。それも演劇を作る仲間としてはとても重要でやりやすい部分。……お二人には何も心配がないので、このまま作業していけば、絶対初日までにいいものを作ってくれるんじゃないかなという信頼があります。
 
成田・葵:ありがとうございます!
自由に“壊してくれる”先輩たちに囲まれて
成田凌
ーー稽古場で印象に残っているエピソードがあればぜひ教えてください。
成田:(物語の設定上)現代と古代が分かれていて、自分たちは古代パートで、基本的に(現代パートの人とは)会わないんですけど、印象的だったのは、稽古初日に、ちょっと体を動かしてから稽古しようと思って、30分前に稽古場に行ったら、すでに南果歩さんは汗だくでした。さすがだなと思って。頑張らなきゃなと思いました。
 
杉原:果歩さんはピンカートン夫人という役なんですけど、「ピンカートン劇場」という通称ができているぐらい、果歩さんが自由にやりすぎているシーンが2つぐらいできていて、演出・振付 南果歩というシーンがあります(笑)。実際それがこの後どうなるか分からないんですけど、面白いよね。
果歩さんとは、僕は2回目なんだけど、俳優が今はとにかく自由にいろんなことを試せるような空気をつくれたらいいなと思っていたので、それを率先して果歩さんがぶち込んでくるので、皆さん笑いながら見ている。楽しいですね。
成田:壊していく作業を先輩がやってくれると、いきやすいですよね。全体の士気をあげてくださっているなと感じています。
葵:何やってもいいんだなと思わせてくれる先輩方で。私、“もっかいボーイ”がめっちゃ好きで……邦生さんが「もう1回やるよ」というと、玉置さんが……(笑)。
成田:もう1回やるためにセットを組み替える時間があったりして、待ち時間的な1、2分を玲央さんが「もう1回ボーイ!」と登場してステージ上を動き回るというね(笑)。
葵:エンタメにしてくれるんですよね。本人はただ踊っているだけなんですけど(笑)。私が何回もシーンもやってしまったことがあって——重要なシーンなので、ありがたかったんですけど、時間を使ってしまうので、その分、申し訳ないなと思っていたら「もっかいボーイいく?」と言ってくれて(笑)。優しいなと思いました。
成田:玲央さん、さすがです。一番いい返事をして、場を盛り上げてくださるしね。
 
葵:めっちゃ声でかいですよね。あんなに声でかい人見たことない(笑)。
葵わかな
ーー改めて、作品自体の魅力について教えてください。
 
成田:魅力だらけなんですけど、まずキャスト。本当に面白い方々が揃っています。その人たちがどう混ざり合っていくのか。野田さんが書いた壮大な言葉遊びをどれだけ深く掘っていって、エンターテインメントにしていけるかは、これからだと思うんですけど、やっぱり自分が見ていて、やっていてすごい楽しいなと思うのは、ポスターに写っている人間たち以外のダンサーの皆さんたちの動き。人間にもなって、植物にもなっていくんです。その絵としての『パンドラの鐘』。どうなっていくのか、ここからすごい魅力的になっていくなと思っています。
 
セット自体はシンプル。この強烈な人たちと、ダンサーの人たちをどう視覚的に楽しんでいたけるかはすごく自分の中では楽しみで、見どころかなというのは思っています。
 
葵:最初に脚本を読ませていただいた時に、すごくポップなテイストで進んでいくんだけど、深いテーマを抱えている印象があって。脚本の中で個人的に素敵だなと思ったのは、成田さんがおっしゃったように、言葉遊びがたくさんあって、セリフもたくさんあるのに、本当に大事なことだけは言わないのは、逆にやさしいなと思った。
ヒメ女とミズヲの関係性であったり、その行く末だったり、抱えているもっと大きな問題だったり。あえて言葉で説明しないで、作品の流れというか、全体として見せるのがやっぱり緻密だし、巧妙だなと感じて。言い過ぎないということがどんな立場の人、状況の人、年齢の人が見ても、見た人に委ねられるみたいなところがすごいな、素敵だなと思いました。
稽古場に入って、邦生さんの演出を受けながら進んでいくのを見ると、見た目な華やかさというか、これが杉原さん版の『パンドラの鐘』なんだなと。目で見て得る情報も多い演出になっているのかなと思うので、台本の緻密さプラス、見た目の情報でこの作品が深まって、尚且つ、難しいけどとっつきにくくなく、いろんな人に伝わりやすいような感じになっているのじゃないかな。脚本にもリスペクトを持ちつつ、現代の『パンドラの鐘』というのを作れたらいいなと思っています。
杉原邦生
杉原:この物語は基本的に、現代に発掘で発掘されたパンドラの鐘の謎を解くというサスペンスと、古代のミズヲとヒメ女という2人のラブストーリーという二つの軸が同時に進行していって、最終的には長崎に落とされた原爆の話に集約されていきます。
 
パンドラの箱って、ギリシャ神話では希望だけが残ったとされていますけど、パンドラの鐘に残された希望——野田さんが伝えたいメッセージや希望を、僕らが今の人たち、そして未来にどうやってつないでいけるかなと考えていきながら作品を立ち上げていきたいと思っているので、そういう作品になったらいいなと思っています。
 
それにやっぱり演劇というものはエンターテインメントなので、見て、華やかで楽しいものであってほしいものと僕は思っている。それを第一に考えながら、本当に豪華なキャストの皆さん、いろんなところから素敵なスタッフが集まってくださっているので、必ず楽しんでいただけるものになるんじゃないかなと思っています。
壮大なエンターテインメントをお届けしたい
COCOON PRODUCTION 2022 / NINAGAWA MEMORIAL 『パンドラの鐘』
ーー最後に観客の皆様にメッセージをお願いします!
 
成田:いろいろお話しましたが、やっぱり野田さんの楽しい言葉遊び、序盤のわちゃわちゃとした楽しい部分があって、最後駆け足で去っていくような作品。難しいことは俳優側が引き受けるので(笑)、(観客の皆様には)視覚的に楽しんでいただけて、内容も面白いエンターテインメント、すごく壮大なエンターテインメントをお届けできると思いますので、楽しみにしていただきたいと思っています。
 
葵:今まで『パンドラの鐘』という作品が見たことがある方はもちろんですけど、いい作品は現代にリンクする——23年経って、現実とリンクし出していることは悲しいことかもしれないんですが、私たちが信じているエンタメの持つパワーみたいなものがこの時代に作用して、今を生きている方たちに少しでも何かを届けられるような力を持つ作品だと思います。
  
それと反対に、ひとつのエンターテインメント、ひとつの娯楽としての側面もすごくあるような作品だと思うので、それぞれにそれぞれの楽しみ方をしていただければ。そういう風に届けられるようにこれから頑張りたいと思っています。
 
杉原:いろいろな社会状況のなかで、ライブのエンターテインメントというものを見にいくこと自体、ちょっと腰を上げるのが重くなっている時代かもしれないですけど、観に来てくださった方に必ず楽しんでいただきたい。そういう作品を作っていくことが僕らの使命だと思います。
 
100人が100人面白いということはないかもしれないし、杉原が演出じゃなければなと思う人もいるかもしれないけど(笑)、でも観て良かったと見た方に必ず思っていただけるように。僕らはそれを使命と感じて、稽古を続けて、作品を作っていきたいと思いますので、ぜひ劇場に生のエンターテインメントを体験しにきていただきたいなと思っております。
取材・文・撮影=五月女菜穂

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