『BOLERO』から感じる
反抗・反逆の姿勢は
Mr.Childrenが
ロックであることに他ならない

反抗的姿勢を感じるアルバム

さて、そんなミスチルの6thアルバム『BOLERO』である。筆者が聴いたのはおそらく25年前だと思うし、その時もじっくりとは聴いていなかったように思う。というか、シングル曲以外はほとんど耳馴染みがなかったから、当時は聴き流していたと言ったほうがいいかもしれない。今では考えられないほどCDが売れた時期である。すでにこの仕事に片足を突っ込んでいたので、取材用に聴かなきゃいけない音源が他に山ほどあったのだ(言い訳ですみません)。

ちなみに今回『BOLERO』でM10「everybody goes -秩序のない現代にドロップキック-」を聴いて、当時、その歌詞にある《晩飯も社内で一人インスタントフード食べてんだ》なんてことが実際に何度もあったことを思い出したのだが、そんな前世紀の思い出話はさておき──。自らの仕事に直接関わりがなくとも、こうした音楽史に残る作品はリアルタイムで聴いておくべきだと、四半世紀を経て今さらながらに、ちょっと後悔し反省したところではある。それというのも、今回、ちゃんと『BOLERO』を聴いて、“この作品が発するメッセージを当時のリスナーはどうとらえたのだろう?”と強く感じたからだ。トリプルミリオンを達成し、1997年度年間アルバムチャート2位、歴代アルバムランキングでも14位となっている作品であるから、セールス的には大成功しているし、概ねリスナーの評価も高かったと言えるだろう。ただ──それは発表から25年後に冷静になって聴き、しかも、ミスチルがその後に発表する音源は軒並みチャート首位、レコ発ツアーはドームやスタジアムが当たり前となったことを知っているからなのだろうけど、誤解を恐れずに言えば、こんなにロックなスタンスを取ったアルバムが300万ものリスナーに受け入れられたのか興味深い。正直言えばちょっと不思議である。ロックなスタンスとは反抗的姿勢と言い換えていいし、反逆と言ってもいいかもしれない。以下、そこに絞って解説してみたい。

インストでオープニングSE的なM1「prologue」とM2「Everything (It's you)」は、とりわけロックだ何だという感じもない。M2のギターアレンジには聴くべきところはあるが、この楽曲はミドルテンポの乗せられた大らかなメロディーが中心ではあって、少なくとも反抗、反逆の影はない。問題は(?)M3「タイムマシーンに乗って」とM4「Brandnew my lover」であろう。仮タイトルが“バカ・ロック”だったというだけあって、全体にはポップなギターロックでありつつ、グラムやサイケの匂いも感じさせるM3。繊細なアルペジオにディレイがかかった感じからしてニューウェイブっぽさも感じるM4。タイプの違いこそあれ、バラエティーに富んだロックではあるのだが、それ以上に注目は歌詞だ。M3の《マスコミがあおりゃ》や《侵略の罪を 敗戦の傷を》、M4の《Kiss me…》や《Fuck する豚だ》辺りは、初期のミスチルのイメージからはかけ離れている。また、M3での《How do you feel? どうか水に流してくれ/愚かなるこのシンガーのぼやきを》といった心境の吐露と思しきフレーズもちょっと衝撃的ですらある。

続くミドルテンポのM5「【es】 〜Theme of es〜」では──これはこれでロックなサウンドではあるのだが──甘いメロディーラインで《甘えや嫉妬やズルさを/抱えながら誰もが生きてる/それでも人が好きだよ/そして あなたを愛してる》と歌っている。さらに、頭打ちの軽快なリズムで全体的にさわやかな印象のサウンドに乗せて、《恋なんて言わばエゴとエゴのシーソーゲーム Ah/いつだって君は曖昧なリアクションさ》と歌っているM6「シーソーゲーム 〜勇敢な恋の歌〜」は文字通り、恋の歌だ。それらと比較するまでもなく、M3とM4はエッジが効いていると言わざるを得ないし、当時、本作を聴いた人たちはこれらの歌詞をどう解釈したのかは気になるところだ。

まだ続く。M7「傘の下の君に告ぐ」とM8「ALIVE」。アナログ盤ならB面の頭にあたる、これらのナンバーもかなり興味深い。間奏ではサックスが主役を張るシャッフルビートのM7は、そのサウンドは浜田省吾や尾崎 豊の楽曲を彷彿させる上、そのヴォーカリゼーションは否応にも桑田佳祐を思い起こさせ、ミスチルの音楽が邦楽ロックの保守本流であることが分かる。《一般市民よ平凡な大衆よ/さぁコマーシャルに酔って踊ってくれ…》《数字次第でスポンサーは動き/古き良き時代を消去》《資本主義にのっとり/心をほっぽり虚栄の我が日本です》などの歌詞も先達からの影響を感じられなくもない。そうは言っても、ミスチルもそれまでCMソングや民放のドラマ主題歌をやっていたわけで、クライアントはどう捉えたのか、余計なお世話だが、考えてしまう。

M8「ALIVE」は冒頭に打ち込みのビートとシンセが聴こえてくるものの、全体のサウンドは力強く骨太で、ミスチルがバンドであることをはっきりと示されているような楽曲。そこではバンドの貫禄を感じるところだ。歌詞は、サビでは《夢はなくとも 希望はなくとも/目の前の遥かな道を/やがて何処かで 光は射すだろう/その日まで魂は燃え》などと言っていることから、基本的には前向きであることは理解できるものの、《全部おりたい 寝転んでたい/そうぼやきながら 今日が行き過ぎる》や《手を汚さず奪うんだよ 傷つけずに殴んだよ/それがうまく生きる秘訣で》といった辺りには、これもまた当時のリスナーのとらえ方が気にはなる。ミスチル流の「A Hard Day's Night」や「Eight Days a Week」が垣間見える。

OKMusic編集部

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