今ふたたび、『フリーホイーリン・
ボブ・ディラン』で
ディラン、22歳の言い分を聞く
探究心旺盛な、若きディランの
フォーク・ルーツが散りばめられた傑作
ブルースミュージシャンのヘンリー・トーマス(Henry “Ragtime Texas” Thomas)が1927年に録音した「ワン・モア・チャンス (原題:Honey, Just Allow Me One More Chance)」のカバーなど、20代の若さながら渋いところを突いているディランのルーツ志向もうかがえる。そして、なかなか難易度の高い歌いまわしを、器用にこなしていることに今さらながら驚かされる。
※ オリジナルとしながらディランは米英の伝承歌、トラッドのメロディを拝借して…という例は少なくなく、英国の一部コアなフォーク研究者から「それをオリジナルとクレジットするのは不適当では?」云々と攻撃されることが度々ある。いわゆる“パクリ疑惑”である。同様の、伝承歌、トラッドのメロディーを拝借して…というパターンはディランの他のアルバムでもしばしば見られる。
あれから60年の時を経て、人類は過去の歴史に学ぼうとせず、かつての、いやそれ以上の絶望的な状況にさえ陥りかねない局面に向かいつつある。ディランは今、それをどう思っているだろう。その答えも“風の中を舞っている”のか。
音楽には、残念ながら戦争を止めるほどの力はない。それでも歌によって人々に何かを気づかせることはできるかもしれない。私たちはそれを信じ、詰問し続けなければならないだろう。
TEXT:片山 明
関連ニュース