かりゆし58 デビュー15周年を経て、
自分たちと音楽とに向き合ったニュー
アルバム『七色とかげ』が“原点回帰
”を感じさせる理由

昨年デビュー15周年を迎えたかりゆし58が、約2年ぶり9枚目のアルバム『七色とかげ』を5月8日にリリースした。コロナ禍に翻弄された2年、バンドが自分たちと音楽とどう向き合ったかを記した作品が詰まっている。さらに故郷の沖縄が本土復帰50周年を迎える中で、改めて沖縄に感謝する作品も収録され“原点回帰”の意味合いを強く感じさせてくれる一枚になっている。前川真悟(Vo,Ba)、新屋行裕(Gt)、中村洋貴(Dr)、宮平直樹(Gt)の4人にインタビューした。
――前作のアルバム『バンドワゴン』では、15周年を前にその絆がより強固になったバンドの姿を見せてくれました。そしてコロナ禍に翻弄される中、昨年15周年を迎えて、この『七色とかげ』というアルバムは、メンバーの間でどんな位置づけの作品にしようと制作に臨んだのでしょうか。
前川:去年『バンドワゴン』というアルバムを引っ提げて、病気から復帰した(中村)洋貴も一緒に、かりゆしの新たな幕開けという感じで、ライブ(『ハイサイロード2021-バンドワゴン-』)で全国を回る予定だったのに、コロナの影響で全公演が延期、中止になりました。だから『バンドワゴン』が自分たちの中でケジメがついていないというか、もうあのアルバムが新しいのか古いのかさえわからなくなって。コロナが明けるのを待ちながら、でも何かしなければという思いに駆られて、とにかく曲を作って配信シングルとしてリリースしていました。『バンドワゴン』の後になんとなく生まれた曲ではなく、こんな時期だからこそ生まれた曲たちを、宙ぶらりんのまま放っておくのもかわいそうで。それでアルバムに向け追加の曲をレコーディングした段階で、地元にいる時間とか、身近な人と過ごす時間が増えた中で、自分たちが今こんな時代の中で聴きたいのは、多分シリアスなことより、もっと楽観的なことだったり、ただただ心躍るようなサウンドで、変にてらいがないものがいいのかなと思いました。一方で、今年5月15日で沖縄が本土復帰50周年を迎えるし、自分たちの地元に根っこがあるような作品になったらいいんじゃないかなという話をメンバーとして、制作しました。
――アルバムのラストに、反戦歌でもある「Where Have All The Flowers Gone」を置いて、過去と現在をしっかりと見つめ直してから未来に進みたいという意志を感じます。
前川:戦争反対を声高に叫んでいるつもりはありませんが、生きていることを肯定し合える何かになったらいいなって思いました。
――前川さんは去年は初めてソロ名義で作品を発表したり、体調を崩してしまったり……。
前川:そうですよね。いろいろありました。地元の新聞に「活動休止」って書かれてどうしようって思いました(笑)。
新屋:地元の有力紙にそうやって出たので、会う人会う人に「真悟大丈夫?」って聞かれました。つい最近も知り合いに聞かれました(笑)。
前川:この記事を通じてみなさんに生存確認していただければ(笑)。
――ソロ名義で動いていたことが、改めてバンドと向き合った時や今回のアルバムに影響はありましたか?
前川:僕の中で結構大きく作用していて、こういう音楽をやってみたいと思ったら、今までこのバンドメンバーで再現しようとしていました。でも、こういう音だったらそのフィールドの人と一緒にやってみた方が、面白いかもって思うようになって。うちのバンドも、もちろんメンバーそれぞれで音楽的な方向性、好き嫌いがあるし、それを全部詰め込まなくても、かりゆし58はもっとシンプルというかピュアでもいいんじゃないかって思えました。これはかりゆしでしかやるべきじゃないだろうという、かりゆしのコアのようなものも見えました。
前川 真悟(Vo,Ba)
――16年目に入って、改めてバンドのコアというのがどんどん明確になって、進化を続けている感じですね。色々あった15年でしたね。
前川:長くて濃い15年でした。10周年という大きな節目を迎えるタイミングで、洋貴のケガがわかって。そこから復帰を果たして、15周年をみんなできっちりやろうという時にコロナに包まれてしまっての今なので、複雑です。節目がなかった分、大事な節目を先に見据えて今をやりきるということを続けていくしかないと思えました。節目に期待したり、きっかけを自分の理由にするよりも、もう今日1日とか、このライブ1本、この一作、という向き合い方が必要だと思い知らされるこの3年間でした。ただ、メンバー3人で始まったバンドが、今はサポートのドラムも入れて、5人でやれているっていうのは、音楽隊としては財産が増えているということなので、いい歩みだと思っています。
――メンバーの方にも、どういう思いを経てこの『七色とかげ』というアルバムに辿り着いたのかお聞きしてもいいですか。
中村:僕はバンドを4年ほど離れていて、何もできないその4年間が苦しかったです。今もまだケガは完治していないのですが、少しずつできることが増えている状況で、最近はライブも楽しくやらせてもらっています。休むまでは当たり前ですが、客席からバンドを見るということがなく、初めて真正面から歌を聴いた時“なんていい歌だったんだろう”って思いました。それができただけでも、その4年間も無駄ではなかったのかなと思います。
前川:選手兼監督みたいな立ち位置で、色々と意見を言ってくれました。
新屋:色々あった16年ですが、特にこの3年は誰もがそう思っていると思いますが、こんな世の中になると思わなかったです。悪いという言葉ではもう言い表せないというか、この先をどう切り開いていくかは自分次第だと改めて感じました。
宮平:今回のアルバムのタイトルは、かりゆし58がデビュー前、“ひめゆり船団”っていうバンド名だった時に自主制作したアルバムのタイトルで、僕はその時まだメンバーではなく、お客さんとして普通にライブを観に行っていました。その時にライブ映像を観る機会があって、今の感じと昔の感じを比べて、それぞれの良さがあって、今も進化していると感じました。その時やりたかったことをずっとできてきたという意味では楽しかったし、紆余曲折があってもいい15年だったと思います。
前川:コロナ禍で音楽は不要不急と言われ、思うように動きが取れなくなって、楽器も手にしない、人前どころか音楽にも向かってない自分は、そもそもミュージシャンなんだろうか? ということも考えました。そういう思いに至ったミュージシャン、少なくないと思います。そんな時、地元にいる時間に、地元の人がどれだけ自分たちの音楽を大事にしてくれているかということに、たくさん触れることができました。それも高校生、中学生、小学生から“あの曲が好きだ”って言ってもらえる機会が多くて、素直に嬉しかったんです。自分たちはいつも新しい音楽を作って、かりゆしの音楽をどうやって聴いてくれる人の裾野のを広げるのかにあくせくしていて。でも、元々そこにあったもの、今も変わらず持っているものを地元の人が教えてくれて。だから沖縄への感謝と、誰かを愛する歌だけでいいと思って、原点回帰的なアルバムを作りました。さっきも出ましたが、今は歌詞の中であまりごちゃごちゃしたことは聴きたくないのでは? と思って。だから楽観的でありたいし、子供っぽくても青臭いと思われても、そういう歌詞にしようと。原点回帰を色々な方向からしていると思います。
――そんな中で「再々会会」という曲がすごく広がっていて、また一曲かりゆしの名曲が誕生しました。
前川:ぐっときますよね。地元の先輩から“子どもたちが通っている学校(糸満市兼城中学校)が、コロナの影響でずっと行事もなにもないから、歌いに来て欲しい”と言われて。じゃあみんなで歌を作ったら思い出になるし、そのお手伝いをしたいと思いました。それで去年の12月に1年生から3年生まで、みんなで“春”をテーマに絵や詩の断片、ひとことフレーズを描いてもらって、それを歌詞に反映させました。学校生活の様々なシーンを親御さんが撮影して、生徒たちの動画とレコーディング風景を織り交ぜた記念ムービを卒業式当日に公開しました。みんなエネルギッシュだったし、ポジティブに日々を生きていましたね。
宮平:コロナ禍で何もできない状況が続き、失敗をしていましたが、確かにもらった絵や詩の欠片を見たり読んだりしても、健康的でエネルギッシュな感じが伝わってきました。
新屋:僕は、宿題を増やしてごめんねって思いながら見させてもらって(笑)。絶対自分が中学生のときにこういうお題をだされたら“ええ?”ってなるので(笑)。でもみなさん協力的で、300人の思いが十分伝わってきました。
前川:曲の感じ方は人それぞれだと思いますが、“何か”が起こったわけじゃないですか。両親や先生が、自分たちのことを思ってやってくれたんだってわかると思うし、そこに感謝の気持ちも出てくるし、曲とか映像も、自分たちで作れてしまうんだということがわかったと思うんです。だから今回のことで何かを感じて、何かをやろうと思ってくれる気持ちが、生徒たちの中に芽生えてくれたら嬉しいです。
新屋 行裕(Gt)
――今年は沖縄本土復帰50周年という節目の年で、今放送中のNHK朝の連ドラ『ちむちむどんどん』も本土復帰からの歩みを描く内容で、沖縄という土地・文化に改めて注目が集まっています。「群青」「掌」「国際通りに雪が降る」など、前川さんが言うように沖縄への感謝の気持ちが込められ、伝わってくる一枚になっています。
前川:コロナ禍で、沖縄の先輩と話す機会が多くて、その時先輩の言葉で印象的だったのが“沖縄で起こっている問題を解決できたら、世界中の問題を解決できる”という言葉です。政治や色々なものの縮図が沖縄だって。本当に50年をどう迎えるか、もちろん、まだ解決してない問題もあるけれど、50年目をどんなテンションで迎えて、次をどう見据えるかが大事だという話をしました。
――その思いが「群青」という曲に込められ「掌」という曲につながっている感じします。
前川:まさにそうです。作曲が2曲とも(宮平)直樹だし、そう聴こえて欲しいと思って並べました。「群青」と「掌」はワンセットです。
――「群青」は《ミサイルの雨》とか《発射ボタン》とか、ヒリヒリする言葉が入っています。歌詞は前川さんと宮平さんの共作です。
前川:神様とか運命とか政治とか国とか、誰かのせいにしないで、君の口から、何でこうなったかを聞きたいんだよ、ということなんです。それを聞いて納得できたら、あなたと、あなたのふるさとを含め、もう1回愛し合えるかもしれない。前に向かうためにあなたを愛したいっていうときに、ただ優しい言葉を並べたりオブラートに包んで“あなたを愛したい”だと、あまりにも赦しの根っこが浅くなるかもと思ったからです。深い根っこから想像できるような言葉が必要だと思いました。
宮平:元々は、アルバムの最後の「Where Have All The Flowers Gone」が劇中歌になっている、50年前のコザ暴動がテーマの『hana-1970、コザが燃えた日-』という舞台があって。それを観に行った時に沖縄の当時の基地の話や色々な歴史を、沖縄の人は知ってるつもりだけど、そこに住んでいた人の気持ちははっきりとした言葉にはできないけれども、感じるところがあって。沖縄をテーマに、沖縄の人が今年出せるような曲があったらいいなと思って。自分の歌詞と、舞台を観に行って感じたことを真悟にも話して、言葉にしてもらった感じです。ね。
前川:誰が歴史に落とし前をつける資格を持っているのか、ということになると、誰も“OK、もういいよ、終わりにしよう”って言えないまま、100年後もそれが続いたとしたら、俺たちみたいに、人を赦すことに気を遣ってしまう子どもたちを、また俺たちが育てたら終わりが来ません。いつか来るべき赦しのタイミングを示すくらいのことを、この50年目でやるということを、かりゆし58の楔(くさび)にしてもいいのかなと思いました。だからこの曲の後に「掌」が来るというのは、そういう意味があります。
中村 洋貴(Dr)
――「HeartBeat」は全員で歌詞を書いていて《Heratbeat》のところが、ハッピーに聴こえてきました。
前川:“HAPPY”でもいいと思います(笑)。『バンドワゴン』の制作のときにセッションで一番最後に録った曲でした。でもみんなで歌詞を書いて歌い分けしたら面白いんじゃないかということになって。
新屋:本当に自分たちのことを好きでいてくれる人たちだけに特化した曲にしたいなって思いました。だからみんなの声とそれぞれが考えた歌詞で構成しました。
――かりゆし58というバンドの繋がり、絆の強さを感じさせてくれると同時に、みんな楽しくやろうよという、バンドの根底に流れている気持ちがすごく出ている曲だと思いました。
前川:嬉しいです。さっき出てきたように、15周年をコロナの影響でぬるっと過ごしてしまったという中で、15周年の記念日に配信リリースした曲です。3ピースバンドから始まって、今は5人になっているという、それが、うちのバンドの一番誇らしいところなので、それを象徴する曲だと思います。
宮平 直樹(Gt)
――それでは難しいお題を。アルバムの中の推し曲を教えて下さい。「再々会会」以外でお願いします。
宮平:僕は、「JUMP UP!」が好きです。何かライブの画が見えるようで。コロナ禍でもジャンプはできるので、みんなでライブで飛びたいな、と。やっぱりライブで、お客さんと一緒に盛り上がりたいです。
――この曲は前川さんの作詞・曲ですが、ライブで盛り上がることを前提に書いたのでしょうか?
前川:そうですね。(宮平)直樹が書いた「群青」がアルバムの軸になると思ったので、全体の流れと、ライブで楽しめることを想像しながら1曲目から決めていったので。「JUMP UP!」はまさにその役割です。
宮平:こちらも演奏していてすごく楽しい曲です。
新屋:僕は自分が歌っている曲で「あいをくらえ」です。これは、おなかがいっぱいだったら何か平和だよな、っていうザックリしたテーマがあって。
――《お腹やっぱ減ってく 感情が削られる》という言葉が印象的ですが、すごく言葉数が多いですよね。
新屋:そうなんです、言いたいことを全部言いたい派なので(笑)。去年初めてリモートで作って、沖縄組と東京組でデータのやりとりをして“こういうやり方でもできるんだな”って、まだまだ色々な可能性がこのバンドにもあるということがわかったレコーディングでした。一瞬、“伝わらねえ!”って思ったりもしましたが(笑)、それでも形になるもんだなって思って。この曲と「掌」「小麦色恋心」はリモートでレコーディングしました。先ほども出ましたが、「花はどこへ行った」からの「群青」、「群青」からの「掌」みたいに、アルバム全体で色々な繋がりがある一枚なので、1曲決めるのは難しいです(笑)。
中村:俺は「ミルクと包帯」が一番グッときます。最初、歌詞のテーマが二つあって、元々はもう少しラブソングっぽいものが候補としてあったんですけど、今の歌詞になったときに、僕の中では、おじさんが泣けるテーマだなと思って(笑)。実際に友達とかミュージシャン仲間とか、周りの同世代の人が聴いてくれて“よかった”って言ってくれました。40代って仕事もある程度余裕があって、家庭もそこそこ安泰で、もっと仕上がってる時期かと勝手に思っていましたが、それぞれうまくいってる人もいれば、そうじゃない人もいて……。さらにコロナ禍でなんかもやもやしてる人もいるし。みんなそういう色々な思いを抱えている中で、この曲に感じてくれたものがあるのが、すごく嬉しくて。若いときの挫折や悩みよりも、年を取ってくるともっと重くなるものってあるじゃないですか。それで頑張ってる人がこの曲を聴くと、涙が出てくると思います。
――5月8日からツアーがスタートします。
前川:アルバムが“原点回帰”がテーマなので、今まであまり人前でやっていなかった曲、特に初期の曲を盛り込めたらいいなと思っていて。今回の作品はアレンジがシンプルというか、自分たちのピュアな感じが出ていると思うので、初期の曲とも相性がいいはずなんです。新旧の曲が交差して、混じり合って、1本1本いいライブにしたいです。

取材・文=田中久勝 撮影=大橋祐希

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