中島美嘉の
1stアルバム『TRUE』に見る
時代の変遷にも紛れない
唯一無二の歌声
讃美歌、ゴスペル調の円環構造
ラスト2曲は、1stシングルでもあったM12「STARS」とM13「A MIRACLE FOR YOU」。まずM12からいくと、これもまた初々しさが残るのは当然として、逆に言えば、そんなに背伸びもしてないことが分かる。これもコンテポラリーR&Bに分けられておかしくないナンバーではあるけれども、フェイクに頼ることなく、素直にメロディーを歌っているところがいいし(特にサビ)、そこが中島美嘉というシンガーの良さであることを、ここに来てダメ押し気味に示してくれているようだ。個人的な見解としては、彼女の声はそれ自体に独特の揺れがあって、そこが聴いていて心地よく感じられるので、変にブラさないほうがいいのだと思う。
M13ではそれも証明しているようだ。オルガンとピアノの音色に彩られたミディアムバラード。冒頭のコーラスから讃美歌っぽいというかゴスペルっぽいというか…なのだが、《歌うよ この声 張り裂けて燃え尽きても》と歌っているものの、それほど声を張り上げていない。…いや、それは冗談だが、張り上げられないと言ったほうがいいかもしれない。でも、それが正解だったと思う。レンジが広く突き抜けるようなハイトーンを駆使するシンガーも、黒人さながらのフィーリングで迫力のあるボーカリゼーションを披露するシンガーも他にいる。だが、中島美嘉は中島美嘉の歌しか歌えないし、それが唯一無二なのである。このアルバム『TRUE』はオープニングM1「AMAZING GRACE」で、ラストが讃美歌、ゴスペル調のM13で締め括られる円環構造っぽい作りだ。実際のところ、その意図は不明だが、こうした作りにしたことで(奇しくも…ではあるかもしれないが)、彼女の声質、その特性は際立ったようなところはあるように思う。彼女自身が“どうしても歌手になりたい!”というような強い想いがなかったからか、微妙にシンガーとしての方向性が定まっていないようなところもあるにはあるが、それゆえに、最も特徴的である彼女の声が浮き彫りにされたところもあるだろう。当コラムで好んで用いている“デビューアルバムにはそのアーティストの全てがある”理論は、この『TRUE』にも当てはまった。彼女の歌声だけは20年経った今でも輝き続けているのである。
TEXT:帆苅智之