HEY-SMITH、dustbox、koboreの轟音が
鳴り響いた『となりのバンドマン 〜
誕生日特別編〜』ーー渾身の願いを音
に乗せ、ライブハウスの熱気を取り戻

『となりのバンドマン 〜誕生日特別編〜』2022.4.7(THU)大阪・なんばHatch
4月7日(木)、大阪・なんばHatchでHEY-SMITHdustboxkoboreが出演するロックイベント『となりのバンドマン 〜誕生日特別編〜』が開催された。本イベントは熱いライブと新しい出会いを提供すべく、関西を代表するイベンター・GREENSが主催するもので、1月に開催予定だったが出演者の新型コロナウィルス感染で開催が見合わせとなり、この日ようやく振替公演が実現。当初はHEY-SMITH・猪狩秀平(Gt.Vo)の誕生日を盛大に祝うべく名付けられた「誕生日特別編」ではあったものの「毎日が誰かの誕生日」ということで、タイトルそのままにお祭り騒ぎとなった1日の模様をお伝えしたい。
MC テッペイマツイ 撮影=田浦ボン
この日の会場は感染症対策を万全にとりつつ、スタンディング形式での公演が再開。大声をあげることやダイブやモッシュなどは制限されているが、コロナ前の環境に近づくような、ぎゅっと人が集まった「ライブハウス然」とした姿にライブが始まる前から心にぐっとくるものを感じる。
開演前にはThe Suicide Machines、バッド・レリジョンなど、ご機嫌なナンバーがBGMに。また、HEY-SMITHのマネージャー・マツイ、神戸にあるライブハウス・太陽と虎のスタッフ哲平の2人によるMC「テッペイマツイ」が準備運動を混ぜ込みながら会場の空気を温めていく。
dustbox
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まずトップバッターはdustbox。「大阪ぁーーー!」と、景気良く大声を張り上げると1曲目「Right Now」から瞬間で観客と息を合わせ、盛大な音を放っていく3人。YU-KI(Dr)のドカドカと体に響く特大のリズムが会場を大いに揺さぶる。メンバーとオーディエンス、互いが煽り合うように楽曲のスピードが増すと、突き上げる拳の勢いが増していく。<Set you free,don’ t close your heart anymore>と歌詞の言葉の通り、初っ端から開放感がたまらない。たった1曲でこの日のイベントがうまく行くし、壊せない壁はないんだということが音を通じて伝わってくる。SUGA(Vo.Gt)の「さぁさぁさぁ! 思いっきり今日は1日楽しもうぜ!」、メンバー自身も昂っているのがステージの節々から感じ取れる。

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この先に楽しそうなことがあるんだと期待感高まる「Bird of Passage」、SUGAがメロを刻みまくるファストチューン「Don’ t Call Me An Average Guy」、高みへと連れていくように気持ちを鼓舞する「Riot」。スタートから4曲、名曲続きで観客は手拍子にジャンプにと満面の笑みでメンバーの音に応えていく。もちろん、その反応にメンバーも気分上々でJOJI(Ba.Vo)はあまりの手拍子の大きさに驚きを隠せない。
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MCではステージ後ろに掲げられたイベントタイトルが描かれた巨大フラッグを眺めつつ、副題にある「誕生日特別編」をイジる3人。それでもイベント3日前に44歳の誕生日を迎えたJOJIがいるので、なんとか名目は果たせたかもと笑い合うシーンも。JOJI自身も「40歳過ぎてもバンドマンをやってるとか何やってんだか……」と皮肉を言いつつも「でもイイ人生ですよ。みんな楽しそうだし。大声はまだ出せなくても、どんどん(状況は)良くなってるよね」と、この日のスタンディング形式でのライブや、最近のライブハウス事情が明るくなりつつあることに喜びを隠せない。
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ライブは名曲「Try My Luck」からまたギアを上げていく。パンクロックの痛快さに、メタルの要素をふんだんに取り組んだ激しいギター、ポジティブなリリックを叫ぶSUGAのハイなボーカル。JOJIのご機嫌なビートに、YU-KIのタフなリズムも気持ちいい。この日の出演者はジャンルも世代も違いがあるけれど、トップバッターが彼らである理由がよく分かる。MCでは初対面であるkoboreとの楽屋での出会いについてトークする場面もあったが、こちらは後ほど……。
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ライブ後半は新曲「Chocoholic」でポップ&ダンサブルな一面を見せつつ、今年中に新しい作品を発表し、ツアーも始まるかもと期待の募る発言も。そして「たくさん人が集まると楽しいことが起きるはず。奇跡を起こしていきましょう」と、「Here Comes A Miracle」から怒涛のラストへと突き進む。モッシュやダイブはできないけれど、「好き」で溢れた空間はとにかくたまらなく最高で、胸の奥の気持ちいいとこを突きまくる3人の音に観客は盛大な拍手と中声(not、大声!)で応えていた。
dustbox
kobore
kobore
「東京・府中から来ましたkoboreです」、薄暗い照明のなか、SEもなくシンプルな挨拶で始まったkoboreのステージ。「ヨルヲムカエニ」、まっすぐに想いを綴った言葉、エモーショナルにかき鳴らすギターの音色。ひたすら音に心酔する4人の音は次第に轟音へと変わり、がむしゃらなライブパフォーマンスに視線が奪われる。冷たいと思っていた水温が気付けば熱湯に変わっているような感覚。観る者を没頭させるパワーが彼らにはあるように思う。
kobore
早々にオーディエンスの視線を奪うと、「FULLTEN」「HEBEREKE」と全力疾走のロックサウンドをぶつけていく。伊藤克起(Dr)の軽快なビート、田中そら(Ba)の場の空気を華やかにするリズムと、1曲目とは印象をガラリと変えた、突き抜けた明るさに溢れた楽曲たち。続く「るるりらり」ではグッドメロディと安藤太一(Gt.Vo)のコーラスに思わず胸が熱くなる。佐藤糾(Vo.Gt)はテンションが高まりすぎて、ステージで転がりながら歌い叫んでいる。1曲目とのテンションの違いはどこから来るのか? 楽曲ごとにいろんな表情を見せてくるから、観ているこちらも目が離せない。

kobore

「結論、どっちも悪かったです!」、MCでいきなり叫ぶ佐藤。その理由はdustboxのライブでも語られていた楽屋トークから。koboreはこの日のイベントがdustbox、HEY-SMITHとの初対面。先輩への挨拶にと楽屋へ足を運ぶも、JOJIと猪狩、2人の先輩の圧に押されてか、なかなかスムーズな顔合わせとはいかなかったらしい。佐藤は「『となりのバンドマン』て何やねん! 遠いし、隣におらんし!」と初対面の気まずさを笑いに代えつつ、「ジャンル関係ないとか、ダサイこと言いません。オレたちの音楽を味わってください!」と意気込み新たに次の楽曲へと繋げる。
kobore
kobore
そして「夜空になりたくて」。koboreには「夜」を描いた楽曲が数多くあって、どれも風景の輪郭がしっかりと描かれている。シンプルなロックサウンドに詰め込んだ言葉はすっと頭の中に入り込んできて、短距離で心に突き刺さってくる。「幸せ」「爆音の鳴る場所で」も同じように、感情を溢れさせて歌う佐藤の姿に吸い寄せられるように観客の拳は高く高く突きあげられる。
kobore
ステージ後半「ヨルノカタスミ」、観客に真っ直ぐに視線を向けて歌う佐藤。そしてその歌声を極致へと誘うように情感たっぷりな安藤のギターが鳴り響く。メンバー4人の感情が音に乗っかり昇華していくのが伝わってくる。最終曲「アケユクヨルニ」、優しさを纏った柔く和やかな音が観客の心をほぐしていく。終盤には4人の音はよりエモーショナルに、全身から絞り切るように轟音を鳴らし、その存在感をしっかと観客の心に焼き付けていった。

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HEY-SMITH

HEY-SMITH 撮影=HayachiN

イベントはいよいよトリのHEY-SMITHへ。ステージの袖から気合を入れるメンバーの声が聞こえる。いつものようにMad Caddies「Villains」がSEに流れると、観客はジリジリと前方フロアへと詰め寄っていく。ライブの始まり、ライブハウスのおなじみの光景、それだけでテンションが高まってしまう。「大阪極上バンド」を名乗るバンドが地元大阪で、しかもイベントのトリを務めるんなら、全力で振り切ったライブをしてもらわないと! それを知ってか知らずか、1曲目「Endless Sorrow」から全力疾走で突き進んでいく。
HEY-SMITH 撮影=HayachiN
HEY-SMITH 撮影=HayachiN
満(Sax)がヘドバン(相変わらず高速!)で髪を振り乱しながら暴れ、猪狩秀平(Gt.Vo)はドヤ顔で観客を煽る。ご機嫌&極悪なサウンドは今この瞬間、このご時世に鳴らして欲しいと心底思う音で、観客も全力で拳を突き上げて音に応える。5人の音が屈強な音の塊でぶつかってくる「Be The One」では踊れるのに気持ちはハラハラする、スリリングで圧の強いサウンドにフロアの熱量が高まっていく。新旧のたった2曲でこのテンション、この先がどうなるのか楽しみでしかない!

HEY-SMITH 撮影=HayachiN

「踊り狂っていけー!」の言葉を合図に、観客はその場でステップを刻みまくる「Over」ではTask-n(Dr)のタフでタイトなビートが攻めたてていく。「こんな大層な時代、生きてるだけでもラッキーって曲を」とくれば、やっぱり「Alive and Lucky」で。観客は満面の笑みを浮かべて体を揺らし、音に乗っかる。
HEY-SMITH 撮影=HayachiN
「やっと会えたな~。心配ご無用、思う存分楽しんでくれ!」、久しぶりの再開に完全復活を宣言する猪狩。1月に新型コロナウィルスに感染した満だが、ステージの後ろでクネクネと踊っている様子から完全復活どころか「もうちょっと落ち着いてくれ……」とメンバーから突っ込まれる始末。そして、dustbox、koboreから続く「先輩の圧」に関するトークでは先輩として無言の圧を反省しつつも、「挨拶をするためにバンドを始めたわけじゃない。ライブがカッコよければそれでいい。今日はそれを見せたろうやないか!」と気合十分にキラーチューン「Dandadan」へと繋ぐ。轟音鳴り響くなか、YUJI(Ba.Vo)と猪狩が大口をかっ開いて思いの丈を叫ぶ。かなす(Tb)、イイカワケン(Tp)、満のホーン隊は楽曲にリスキーな雰囲気を加えたかと思えば、「Stand up For Your Right」では高速ヘドバンで大暴れ。拳を突き上げたところへ踊れと煽られるし、観ているこっちも忙しいったらない。フロアはライブハウスならではの熱が高まっていて、一触即発でモッシュが起きそうなんだけど観客はみんなぐっと我慢をしている。その姿が嬉しくて頼もしいんだけど、それがなんとも切ない……。

HEY-SMITH 撮影=HayachiN

ライブ後半は来たる夏フェスへの予行練習と言わんばかりに「Summer Head」「Summer Breeze」と夏先取りな楽曲陣を連投。メロディックパンクにスカやレゲエ、メタルとジャンル多彩に盛り込んだ楽曲に観客もご機嫌で応えるも、メンバーは一歩先を突っ走り、スピード狂のごとくステージは次々に展開していく。「色んなルールがあるけど、ちゃんと楽しめてるか? 自分自身のために思いっきり遊んで帰れよ」、観客への気遣いを忘れないのも彼らの優しさ。アンコールでは最近のライブ事情が明るくなりつつあることに喜びを噛みしめつつ、「だんだん(ライブの現場が)ポジティブになってきてる。我慢した甲斐があった。曖昧さを大きくして、前進していこう」とミュージシャンも観客も一緒になって、一歩ずつ進んでいこうと思いを交わし、最終曲へ。「パンクバンドこそ歌わずにはいられない」と、「STOP THE WAR」へ。共に上げる声は大きくなくとも、上げることに意義がある。声が増えるほどに力強くなる。渾身の願いを、想いを音に乗せて突っ走ったメンバーに称賛の拍手が送られ、客席に終演を告げる照明がついても、その拍手の音は長く途切れることはなかった。
HEY-SMITH 撮影=HayachiN
2022年、1発目の「となりのバンドマン」はこれにて閉幕。次はどのバンドマンがやってくるのか、ライブハウスの熱気も取り戻しつつある今、早々に次の報せが来ることを願いたい。
取材・文=黒田奈保子 撮影=田浦ボン、HayachiN(HEY-SMITH)

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