OUTRAGEのスラッシュメタルが
世界標準であることが克明に示された
メジャーデビュー作『Black Clouds』

ラウドに留まらない多彩な展開

アルバムのオープニングナンバーはM1「Curtain Of History」。ゴリゴリなギターリフとキレのいいビートで始まりつつも、途中からそこにメロディアスなリードギターが絡むイントロからして、決して彼らの音楽が単純なものでないことが分かる。 “ラウドでありながらメロディック”というのは本作、引いてはOUTRAGEの大きなポイントではあろう。爆音で攻めつつも決して爆音だけに留まらない。その中にしっかりと抑揚ある音階を入れてくる。これは本作収録曲の随所に見られるものだ。M1のイントロは47秒あるので、サイドギターだけでは長尺に感じられるところを、リーダーギターの旋律がそう思わせない。1番から2番のブリッジや2番終わりも同様。しかも、その旋律はどこかオリエンタルでどこか妖艶。間奏のソロパートでは転調があったりして、ここでも変に間延びした感じはない。ヴォーカルはハスキーではあるものの、癖は強くなく、(こう言っては失礼かもしれないが)生真面目で、しっかりと歌の旋律を堅持している印象が強い。当たり前だが、音楽として極めてちゃんとしているのである。うるさいだけとか、演奏が長くてしつこいだけとか、そういう類いのバンドではないことははっきりとしている。

M2「Under Control Of Law」はM1より若干速め。冒頭からギターリフがザクザクと進んで行くところは相変わらずだが、歌が入るとドラムがブラストに変化するので、余計にテンポアップした感じがある。コール&レスポンス的な箇所があったかと思えば、その後に転調したりと、展開も多彩。とりわけ間奏でギターが変化する様子がおもしろい。速弾きからメロディックに移行して、さらにはミドルテンポ風に白玉でのコード弾きへ…といった具合で、初見では先が読めないのではなかろうか。間奏とは言ったものの、ここが楽曲のメインの演奏と言ってほうがいいように思う。

M1、M2で、このバンドがヘヴィメタル、スラッシュメタルと言っても、ライトユーザーが想像するような“ヘビメタ”ではないことを実感するとは思うが、それはM3「Slowly But Surely」で決定的になる。この楽曲はフラワー・トラベリン・バンド(以下FTB)が1973年に発表したアルバム『Make Up』収録曲のカバーである。未体験の方は、ぜひ原曲を聴いてからこのM3に臨んでほしい。OUTRAGEのテクニックとセンスがより理解できると思う。FTB版にはオルガンやピアノが配されているが、OUTRAGE版にはそれがない。キーボードを駆使してプログレッシブロックの構築美を表現したFTBに対して、OUTRAGEは同楽曲を4人の音だけで構成している。しかも、妙に個性的なバージョンにするのではなく、コピーに近いカバーと言っていいだろうか。こうしたことは自らの演奏に自負がなければ容易にできるものではなかろう。ギター、ベース、ドラムのみの演奏ながら、原曲と印象が大きく変わらないのは、原曲での印象的な歌やギターのフレーズを自らのものとして堂々と鳴らしているからに他ならない。OUTRAGEからFTBへの敬意と共に強烈な矜持を感じるところである。ジョー山中のハイトーンを完璧に表現するのは流石に無理があったようで(あのハイトーンは他の誰にも真似できないだろうが…)キーを下げているけれど、変に小細工を弄することなく、素直に自らのレンジで歌っているのはむしろ好感が持てるところではないかと思う。

続くタイトルチューン、M4「Black Clouds」でまた少し驚かされる。ギターがアルペジオを奏でており、テンポはミドル。1分を少し過ぎた辺りからはアコギの音色も聴こえ、2本のギターでアンサンブルを取っていく。この辺りはそこらのメタルバンドが簡単に仕掛けられる技でもなかろう。そして、ヴォーカルが入ると重めのエレキギターが楽曲を引っ張ってダイナミックになっていく。と思ったのも束の間、1番の終わりで転調。きれいなアコギの旋律から、そこに折り重なるようにヘヴィなギターリフが鳴らされ、そこからまたアコギに成り代わる格好でエレキギターのソロが奏でられる。そのヘヴィリフは次第にカッティングが強めに変貌していきながら、そこにまたユニゾンのエレキギターが重なり、さらにそれが速弾きへと変わっていく。変幻自在とはまさにこういうことを言うのだろう。そういうギタープレイだ。この間、リズム隊は時にラウドに、時にスパートし、最後はダイナミックにバンドのボトムを支えていく。こうした楽曲を単純にヘヴィメタルやスラッシュメタルと呼びたくないし、これを聴くとM3でFTBをカバーしたこともさもありなんというか、このバンドの懐の深さ、志の高さを改めて感じて背筋を伸ばしたくなるほどである。

OKMusic編集部

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