人それぞれの光りかたを探す旅ーーリ
ーガルリリーのコンセプトツアー『L
ight Trap Trip』インタビュー

黒鉛にもダイヤモンドにもなり得る炭素の元素記号、Cをわれわれあらゆる人間に喩えた
2ndアルバム『Cとし生けるもの』を1月にリリースし、タイトルを冠した東名阪ツアーを行ったリーガルリリー。次なるツアーはアルバムツアーではなく、『Light Trap Trip』と銘打った全国13ヶ所を巡るコンセプトツアーだ。これまでも2019年に『羽化する』と題したツアーやコンセプトのある単体公演を開催してきた彼女たち。今回はどんな意図を込めて臨むのか、メンバー全員の言葉から紐解いていこう。
――アルバムリリースから約3ヶ月ぐらいなんですよね。『Cとし生けるもの』はバンドにとってどういうアルバムになりそうですか?
たかはしほのか(Vo/Gt):周りから「聴けば聴くほどいい」って言ってもらうことが多くて。それは自分でも感じていて、そういう作品になったのかなと思います。
海(Ba):今回のアルバムはライブとの相性が結構いいなと思っていて。それを軸にセットリストを考えた時もすごく肌なじみがいいというか、ライブでもしっかり届けられそうなアルバムだなと思います。
ゆきやま(Dr):『Cとし生けるもの』のラインナップを見ていると、確かにライブですごく映えますね。これまでは引き込む力が強かったと思うんですけど、今回は放す力が強いなとライブでやっていて思うんです。私が人から言われるのは、「一緒に楽しめる感じが強くなった」と。『Cとし生けるもの』の収録曲って、まだツアー3ヶ所とイベントで少し演奏したくらいなんですけど、それにも関わらずノリノリの人が多い印象が強いです。
たかはし:たぶん歌詞の書き方を変えたからだと思うんですけど、他人との距離感が近い言葉がたくさん入っているからそういう風になるのかなと感じました。自分でもライブで歌っていて、人に届けるために言葉を歌っているなと感じているので、ライブですごくやりやすいんだなと思います。
たかはしほのか(Vo/Gt)
――個人的には、このアルバムは鋭く光っていて、どこで聴いてもリーガルリリーの発光体に気づける印象が強いです。今回は4月23日からスタートする『Light Trap Trip』ツアーについてうかがいたいんですが、コンセプトツアーと明言している理由はなんなのでしょう。
たかはし:アルバムをもっと広めたいというのが理由で。CDからまた新しく作り上げる物語、ゼロから1にするんじゃなくて、1から、さらに新しいものを生み出そうということで、コンセプトライブを行うことにしました。
海:リリースツアーってなると、その音源を広めるためのまわり方になると思うんですけど、コンセプトツアーって言うことによって、その楽曲やアルバムに対する受け取り方の幅をこっちから提示できるというか。世界観を体で感じられるようなツアーにしたいなと思ったので、リリースツアーというよりはコンセプトツアーという形でまわりたいなという感じです。
ゆきやま:「リリースしました」っていうツアーと、それを経て今までの曲も全部ひっくるめてやるツアーはまた違うと思うので。演奏側の体感とか意味とか。だから両方大切にしたいなと思っています。
海:1月と2月にリリースツアーで東名阪をまわった時はアルバムの曲がメインだったんですけど、今回はそれもメインでやりつつ、今までの曲をうまく織り交ぜたセトリになる予定なので、今までのリーガルリリーと新しいリーガルリリーというよりも、もうちょっと混ざりあったというか……そういった全てをきれいに出せるのかなと思っています。
海(Ba)
――リーガルリリーの場合、単体のライブでもコンセプチュアルなものが多かったので、今回も腑に落ちました。テーマがある方が足を運ぶ立場としても細部まで見るんですよね。会場に入ったところから見ちゃうし。
海:でもそういうライブは意外と東京でしかできていなくて。アルバムをちゃんと全国にも持っていきたいので、ツアーでそれをやりたいねって話をしてました。
たかはし:最近よく美術館に行くんですけど、絵の展示が地方を巡回するじゃないですか。そんな感じでライブもできたらいいなと思って。
――なるほど。ツアータイトルの『Light Trap』=誘虫灯というこのタイトルの由来はどういったところから?
海:それは私がひらめいて……そのまんまなんですけど(笑)。さっき言っていただいたように、今回のアルバムは発光という力がすごいなと思って。それにみんながどこからともなく集まって来てくれたらすごく素敵だなと思っていて。以前『羽化する』というツアーをしたんですよ。アルバムを広めるという意味でも、私たちも羽化したことだし、アルバムを持っていろんなところに行って寄ってきた人たちを罠に嵌めたいじゃないですけど(笑)、そんな気持ちもありつつ。『Light Trap Trip』は、旅っていう意味でもあるんですけど、日常から私たちの音楽とかライブを経てトリップしてもらう、そういう意味でも付けました。
――光に集まってくる虫って、もう習性みたいな感じですよね。
海:そうですね。きれいなだけではないじゃないですか。本能のままにいろんな虫が集まるっていう、そういうライブができたらいいなって。
たかはし:本能が求めている言葉とかあるじゃないですか。そういうのが表現できたらなと思っています。
ゆきやま(Dr)
――漠然とした質問ですが、例えば何に誘われますか?
たかはし:なんだろうな。自分の想像していない意外な音や光とか、そういうことがあると反応してしまいますよね。「え?」ってなってしまう。
――意外なことに気づくのは目的が特にない時だったりしますね。みなさんは割と自由に外に出ていますか?
たかはし:散歩をよくしますね。
――散歩はある種の瞑想でもあるそうです。
たかはし:はい。同じテンポで行うことはいいみたいですね。
――たかはしさんは前回のインタビューでサウナにハマっていたと話してましたが。
たかはし:ああ! でも最近はサウナに行ってなくて。
――水風呂と交互にやるのは危ないらしいですよ?
たかはし:でもそっちの世界に行けるじゃないですか。それがいいんでしょうね、サウナって。ちょっと死を味わうと生きようと思うじゃないですか(笑)。それがたぶん希望につながるのかなと。
ゆきやま:ちょっと異空間を求めちゃうところは私もあって、逸れたいなみたいな。それが私にとってライブだったりします。
たかはし:私、ライブが好きなのはまさにその理由で。現実ではないところに行っているんだけど、それが現実っていう。本を読んでいるときも現実じゃない話を読んでるんだけど、文字を読んでいる私は現実にいて……それがすごく面白くて、そういうライブがいいと思います。だから、トリップさせればさせるほど、「あ、でもこれは現実なんだよな。現実ってすごいな。現実にこんな世界があるんだ」と思えたらいいなと。だから現実とすごくかけ離れたい。離れれば離れるほど嬉しいんじゃないかなって。
リーガルリリー
リーガルリリー
――そういう体験を知っていると、毎日しんどかったり同じことの繰り返しでもだいぶ楽しめますよね。
たかはし:だからそういう感覚を知るとただ木を見ているだけでも、なにか物語が生まれるんじゃないかと思えますし。ライブの帰り道とか。
海:確かに。現実を現実で受け止めると、結構ヘビィだなと思ったりするんですけど、現実に対して余裕を持ってファンタジーで受け止められるようになると、より楽しめるというか。
たかはし:それが本来の“ちゃんと現実を見つめる”っていう行為なんじゃないかなと思います。現実は苦しいみたいな、あれって本当に見つめていない気がするから、余裕を持つって大事なんだなと思います。
――自分が感じてることをちゃんと因数分解すると、実は厳しいだけじゃないというか。
海:自分の感情とか気持ちって、意外と名前がついていたりするじゃないですか。科学的な用語だったり心理学とか。そういうものって名前が付くだけで少し安心するというか。自分の目線で見て不安だっていうことを俯瞰で見ると、その現象にはこういう名前があるとか、「ああ、みんな一緒なんだ」って思える。そうやって現実を見るから少し気が楽になるのかなと思います。まぁ、そういう体験の練習みたいなライブです(笑)。
――でもそれはそれで、例えば「自己肯定感が低い人の特性は」とか言われちゃうと……。
たかはし:おかしいですよね、あれ(笑)。
――それさえフォーマット化されたものというか。
たかはし:でも、それをファンタジーに落とし込む、自分の中のルールを先に決めればいいと思っていて。誰かが決めた科学的な言葉じゃなくて、自分の中の解釈を生きている間にたくさん決めたいなと。曲作りってそんな感じなんですけど、それもみんなに共有したいと思っています。
リーガルリリー
――ツアーのテーマ曲でもある「セイントアンガー」に関してなのですが、この曲は珍しく登場人物が多い曲で。しかも違う立場の人たちですね。たかはしさんとしては色々な人を描きたかったんですか?
たかはし:色々な立場にいる主人公を出すことによって、周りの境遇は全く違う人達だとしても、“みんな光りかた探していた”という人間の本質として大切なものは持っているんじゃないかなと思って書きました。みんなに共通することっていうのを考えて。
――この曲は穏やかに入ってきて、深いところで理解できたというか。そしてライブの映像はエネルギーに満ちてますね。
たかはし:そうですね。人が表に出す感情って普段セーブしていたり、涙とか笑うのも制御する時がありますよね。ここで笑っちゃダメだっていう時とかに、光みたいなものがあるんじゃないかなと思って。何も気にせずに自分自身を解放している瞬間っていうのが“光りかた”だと思っていて。で、その自分が解放される時って、例えば歌詞でホームレスのおじさんがタイムカプセルを開けたことを書いていますけど、私自身がタイムカプセルを開けた時とか、恋をした時ってまわりを気にせずに感情を出すことができるんです。なので、この曲の「怒った歌」という歌詞をライブで歌う時も、本当に自分自身、咳やくしゃみが出ちゃうとか発作みたいな自然な気持ちで歌うことができます。
――抑えても出ちゃうということですね。ところでこの“聖なる怒り”というタイトルと中身のギャップが……。
たかはし:幼稚園生ぐらいの時に父親がメタリカっていうバンドが好きでよく流していて。『セイントアンガー』っていうアルバムがあるんですけど、この単語を幼稚園の時に聞いていたら、アルバムとはかけ離れたところで言葉だけ独り歩きをしていて。それからどうしても頭の中に残ってて、ふとこの曲名にしたら面白いんじゃないかと思って付けました。
――意味とかけ離れて覚えていたのに、ここにきてバッチリはまった感じですね。さて、今回テーマを設けたことで、どんなセットリストを組めそうですか?
たかはし:光の曲を入れます(笑)。歌詞や意味の中に光が入っている曲が結構あって、自分たちを改めてまた見つめ直す機会でもありました。
ゆきやま:光にまつわる曲しかやらない。意外とあるんですよ。
海:“みんな光りかたを探している”という本質って、今回セトリを組んでみて、場所とか状況とか時代とかを、ちゃんと区分けして組んでみることで、いろんなところでいろんな人が光りかたを探しているっていうのがすごく見えてきて。そういうものを流れに沿って届けられたらいいなと思います。
――テーマがあるとお客さんも単に受け身じゃなくて意味を考えると思うので、そこでまた新たな反応が起こりそうです。
海:今まで“自由に受け取ってください”っていうスタイルでやっていたライブが多かったんですけど、コンセプトツアーということで、ちゃんと自分たちが提示して、受け取れるキャパシティを広げてもらうことを大事にしたいなと思っています。世界観だけじゃなくて、セットリストとか音とか、視覚的なものも全部含めて表現するライブです。
リーガルリリー
――コンセプトツアーならではの演出も企画しているとか。
たかはし:はい。まだ内緒ですけど(笑)。
海:でもバンドの良さもちゃんと残しつつっていう。いろんなところに力を入れすぎて、どこを見ればいいか迷うライブも結構あるなと正直思っていて。やっぱり3人をちゃんと見てもらえるように、かつ伝わるようにと思っています。
ゆきやま:私の解釈としては、今までやってきたライブって全部『Light Trap Trip』だと思っていて。全部同じことをしてきたんだけど、それをちょっと誘導してあげることで、もしかしたらみんながなんとなく感じてたことがはっきりわかるかもしれない。そういうところに行けたらいいなって思っていますね。
――わかりました。ツアーのティザーも以前『羽化する』のライブフライヤーも撮影された写真家・吉川然さんとコラボレーションしていて、どういう内容になっていくのか楽しみです。そしてツアー直前から、先日の中野サンプラザ公演のライブ音源も配信されます。これまで映像はありましたけど、ライブ音源は初めてですね。
たかはし:そうですね。初めてです。
海:大切なツアーなので、新しいことをして、ツアーまでの間に段階を経て行きたいなというのもあって。
たかはし:コロナでライブに来れない環境になった人もいると思うので、そういう人たちにもライブを届けたいなと思って。普段音源を聴いている耳でライブの熱量も含めた音源を聴いてもらえることは大切なんじゃないかなと思います。お客さんもすごくたくさんいる、お客さんの感情とかもすべて入っているような音源な気がして、心がすごく動くので。
――毎週月曜日に配信というのは、すごくいいなと思いました。タイトルは「Lumen(ルーメン)」というんですね。
たかはし:Lumenは光の束という意味なんですけど、光を束ねた……あ、ちょっと違う話しをしていいですか? こないだ大山っていう山を登りに行ったら、“るーめん”っていうラーメン屋さんがあって、「いいなあ。光の束、食べるんだ」と思って(笑)。すごくかっこいいなと。
――(笑)。これはツアーに各地で参加する人も、盛り上がって行くんじゃないですかね。一気に全曲配信されるわけではないので。
海:確かにそうですね。ライブ音源を聴くと、ライブに行ってみたいなと思ったりするので、そういうのいいなと思って。リーガルリリーのライブに行きたいなと思う人が一人でも増えたらいいなと思います。
リーガルリリー
――ツアーが始まるのは春ですが終わる頃には夏です。ここで意気込みをひとつ。
たかはし:夏に向けての意気込み……あ、違う(笑)。
ゆきやま・海:あははは(笑)。
たかはし:回数を重ねるごとに自分自身でも歌詞の捉え方が全く変わったりすることもあるので、そういうものを何周できるかがとても楽しみだし、一つ一つのことを書き残してしっかり最後までライブに挑みたいと思います。
海:今までのツアーって自然体で楽しむとか、そういうことを言ってきたと思うんですけど、今回のツアーに関しては届けたいって気持ちがすごく強くて。今までは自分自身で楽しめていたんですけど、お客さんに届いて初めて得られるものがあるっていうことに最近になって気づいたので、そういうところに重点を置いて、届けたい、伝えたいっていう意気込みでツアーをまわりたいと思っています。
ゆきやま:今の話を聞いていて、確かに届けたいと思いながら、自分がただドラムを叩いているって感じじゃなくて、音が最終的に自分にまわってくる感じ? なんだろう。「ああ、それをやってるのか、今は」と。それが初めての体験だなと思っているので、そこに向き合って行きたいなっていうのが私自身にはあって。皆さんに対しては、なんとなく楽しそうだなと思ったら、ぜひ来てほしいです。なんとなく誘われちゃうなっていう感覚、すごく大事だと思うんです。最近、春になってみんなすごく楽しそうで、“なにかやりたい”っていう雰囲気をすごく感じるんですよ。軽はずみに聴いたところにすごくいいものが落ちてるんじゃないかなって私は思うから、楽しそうだなと思ったらぜひ足を運んでみてください。

文=石角友香 撮影=新家菜々子

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