『レキシ』は
日本音楽史での大発明!
レキシはもはや歴史上の人物である!

もはや説明不要だろうが、そうしたレキシの気負いのないスタンスをはっきりと読み取るのは歌詞である。子供の頃から日本史好きだったという池田にとって、レキシの楽曲に散りばめられたワードは、彼自身から極めて自然に紡がれるものなのであろう。アルバム『レキシ』からもそれはうかがえる。山川の日本史教科書辺りから無理矢理に用語を引っ張り出してきた感じがないのである。韻の踏み方と、ファンクミュージックのマナーに則ったようなリフレインにそれが感じられる。例えば、本作のボーナストラックとしてラストに収められているM12「兄じゃ I need you feat. シャカッチ」。タイトルからそうだが、《兄じゃ》と《I need you》が韻を踏んでいる。洋楽、とりわけソウルミュージックで多用されているであろう《I need you》というフレーズ。韻を踏むなら語尾を“ユー”や“じゅ”辺りで揃えるのがポピュラーではないかと思うけれども、《兄じゃ》に揃えている。日本史好き、時代劇好きじゃないと、そこに《兄じゃ》という言葉をサラリとは出てこないのではないだろうか。ファンクと日本史に造詣があるからこその業だったと言える。

リフレインで言えば、M5「ええじゃないか」が素晴らしい。“ええじゃないか”もまた日本史の出来事。[日本の江戸時代末期の慶応3年(1867年)8月から12月にかけて、近畿、四国、東海地方などで発生した騒動]のことで、[「天から御札(神符)が降ってくる、これは慶事の前触れだ」という話が広まるとともに、民衆が仮装するなどして囃子言葉の「ええじゃないか」等を連呼しながら集団で町々を巡って熱狂的に踊った]ものだという([]はWikipediaからの引用)。さまざまな節で連呼されたようだが、現代の流行音楽のような旋律があったわけではなかろう。今村昌平監督の映画『ええじゃないか』(1981年)では祭り囃子の“ワッショイ”に近い調子で描かれており、おそらくそれと大きく違いはなかったのではないだろうか。しかし、レキシ版のこの「ええじゃないか」は実にスウィートなメロディーに乗せられている。初めて聴く人が歌詞を見なかったとしたら、それが“ええじゃないか”とは思わないのではないかと思われるほど、独特な言葉の乗せ方と言える。端的に言えば、ちょっと英語っぽい。“ええ”も“じゃない”もそうだし、“か”も“ka”ではなく“k”と子音で締めているような印象がある。想像だが、メロディ優先で、そこに合う言葉を探してぴったりきたのが“ええじゃないか”だったのだろう。これもまた日本史好きでなければ想像もしないマッチングであろう。

細かな話だが、日本史好きがファンクを作っているのではなく、ファンク好きが自らの音楽に日本史を取り込んでいるのがレキシであると思う。もっと言えば、日本史好きに共感してもらおうとかそういうことではなく、いいメロディーといい演奏をリスナーに届けようとしているアーティストと言える。分かり切ったことではあるが、紛うことなき音楽家=ミュージシャンなのである。M4「真田記念日 feat. Dr.コバン」にそれを見る。アッパーで爽やかなメロディーライン。アイドルポップというと少し語弊があるかもしれないけれど、そう受け取る人がいてもおかしくない親しみやすさがある。派手なギターも景気がいい感じだ。そこに乗っている歌詞は以下の通り。

《あれ 大阪 あれ いつの陣? あれ冬の陣? いや夏の陣/大阪 あれ いつの陣? あれ冬の陣? やっぱ夏の陣》(M4「真田記念日 feat. Dr.コバン」)。

真田幸村が大阪夏の陣で活躍したとか、真田一族が親兄弟が敵味方に分かれて戦ったとか、そういう池波正太郎の小説的話を描きたいなら、歌詞がこうなることはなかろう。タイトルも俵万智の『サラダ記念日』のパロディーだ。あくまでもメロディーに寄った語感から導き出されたと考えられるし、ここからも、彼があくまでも音楽の人であることがよく分かる。ただ、彼は生粋の日本史愛好家であったがゆえに、日本史の用語や、日本古来の言葉がブラックミュージックと相性がいいことを発見した。いや、相性の良さを発見した人は過去にもいたかもしれないが、それをこれほど大量にポップミュージックに注入することができたのは、かつて池田貴史以外には誰もいなかったことは間違いない。池田=レキシのポピュラーミュージック史における功績は相当に大きい。日本に渡来したファンクを独自の解釈を加えることで大きく飛躍させたという意味で、彼はまさに歴史的な人物と言えるのだ。

TEXT:帆苅智之

アルバム『レキシ』2007年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.歴史ブランニューデイ feat. 足軽先生, シャカッチ 
    • 2.Let's忍者 feat. パープル式部
    • 3.Good bye ちょんまげ
    • 4.真田記念日 feat. Dr.コバン
    • 5.ええじゃないか
    • 6.万葉集 feat. つぼねぇ, シャカッチ
    • 7.参勤交代
    • 8.HiMiKo feat. 切腹さん
    • 9.踊り念仏 feat. シャカッチ
    • 10.LOVEレキシ
    • 11.和睦
    • 12.兄じゃ I need you feat. シャカッチ
『レキシ』('07)/レキシ

OKMusic編集部

全ての音楽情報がここに、ファンから評論家まで、誰もが「アーティスト」、「音楽」がもつ可能性を最大限に発信できる音楽情報メディアです。

新着