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【SION インタビュー】
アレンジしてもらった音を聴いて、
“やった!これは面白いぞ”と思った

歌を作ることしかできないと認める生粋の歌うたい、SIONの5年振りとなる新作『I like this, too』はジャズ畑の3人のミュージシャンと制作。決してジャズとは無縁ではなかったものの、デビュー37年目の新たな出会いが大きな刺激になったことは、アルバムについて語るゴキゲンな口調からも伝わってきた。

通しで聴いたら“素晴らしい”以外、
何も言うことはなかった

5年振りの新作のリリース、とても嬉しいです!

俺も嬉しいです(笑)。3年ぐらい前に出す予定が大人の事情を含め、いろいろあってなかなか出せなくて。時間が結構かかったんだけど、ディレクターが頑張ってくれました。自分ひとりで作っている『Naked Tracks』は毎年出していたから、自分の中ではちゃんと作品を出している気持ちはあったけど、やっぱり何年かに一回はレーベルから出さないとね。俺のことを知っている人とか、毎回ライヴに来てくれる人とかは『Naked Tracks』を出しているのを知ってくれているからいいんだけど、やっぱレーベルから新作を出すってネットのニュースでも流れたら、“昔、SIONって人がいたね”っていう人にも知ってもらえるかもしれない(笑)。だから、ディレクターに感謝です。

今回はいつものTHE MOGAMI(池畑潤二:Dr/井上富雄:Ba/細海魚:Key/藤井一彦:Gu)、The Cat Scratch Combo(藤井一彦:Gu/清水義将:Ba/相澤大樹:Dr)ではなく、初めて組むウッドベースの鈴木正人さん(LITTLE CREATURES)、ドラムの芳垣安洋さん、ピアノの林 正樹さんというジャズ畑のミュージシャンとのレコーディングなのですが、それは3年前には決まっていたのですか?

その時はまだTHE MOGAMIとThe Cat Scratch Comboでやろうって話をしていたんだけど、改めてアルバムを作ろうってなった時、みみたぶっていうエンジニアの集団の会社をやっている大矢朋広が提案してくれて。デビューした時から俺が使っている音響ハウスってスタジオが新富町にあって、もともと大矢はそこの社員で、ずっとレーベルでのアルバムやライヴ盤のレコーディングをやってもらってるんですよ。その大矢が“ジャズ畑のミュージシャンで、SIONと一緒にやったらどんな音が出るのか楽しみな人たちがいる”って言うから“じゃあ、任せた”って。全部そこから始まったんだよね。

ジャズ畑のミュージシャンとのレコーディングを提案された時はどう思いましたか?

俺、最初のレコーディングが日本人じゃなくてね。

そうでした。ニューヨークのフェイク•ジャズバンド、The Lounge Lizardsのメンバーとでしたね。

そう。広尾かどこかのスタジオに呼ばれて行ったら、いきなり知らない大きな異人さんたちが十数人いて、当時の事務所の社長に“何かやれ”って言われて(※そのセッションが1987年1月発表の2ndアルバム『春夏秋冬』)。その経験があったから楽しみでもあったんだけど、本当のことを言うと、俺、あんまり新しい人って得意じゃない(笑)。安心できる人が中に最低ひとりはいてくれないとね。今回、久しぶりに誰も知らない人たちとやるわけだから、“『Naked Tracks』から曲はどれでもいいから、大矢が選んで何曲かアレンジしてもらって、その音を聴かせてほしい”と言ったんだけど、そのアレンジしてもらった音を聴いて、“やった! これは面白いぞ”と思った。俺が『Naked Tracks』を作る上で大事にしているところは全部残っているし、3人のそれぞれのテクニックがもうすごくて、音でいろいろなことをしゃべっているように聴こえるのが快感で、おぉ、おぉ、おぉって(笑)。それから“一回ぐらいリハーサルしてみる?”と言われてやってみたんだけど、全曲一回ずつやって、“じゃあ、レコーディングよろしくお願いします”と言ったら、3人が“早っ”ってびっくりしてるから、大矢が“言ったでしょ。一回しかやらない”って(笑)。それで安心して、もう大丈夫だって思えたんですよ。

そのリハーサルが3人とは初対面だったわけですね?

うん。お互いの何を話すわけでもなく、こういう時だからそのあとに飲みに行くわけでもなく、音だけで“いいな”ってなった。ニューヨークに行って向こうのミュージシャンとやった時もそうだったけど、レコーディングはいつも同録なんですよ。演奏が“せーの”で始まって、そこからの全員の呼吸と、お互いにちょっと遠慮したり、ちょっと前に出たりが今回とにかく楽しくて。

それはリハーサルの時からですか?

一回目からそうだったね。マイクなんか使わないんだから。普通バンドでやるとPAがいて、ちゃんと全部セッティングするんだけど、今回はヴォーカルマイク1本だけで、他は何もないんだもの。みんな生音だから。3人の出たり引っ込んだりが絶妙でね。生のピアノは気持ち良いって、またすごく思った。ひとりひとりのことは何も知らないけど、めちゃくちゃ楽しかった。ゴキゲンだったんですよ。

それで、普段はアルバムが完成したらあまり聴かないというSIONさんが今回は 繰り返し聴いているわけですね。

そう。聴いてるんだよ(笑)。

選曲は大矢さんがして、3人に渡したそうですが。

大矢とディレクターとふたりでね。

ということは、SIONさんは選曲にはかかわっていないのですか?

うん。“これ? いいよ”“これ? いいよ”“何でもいい”って(笑)。

(笑)。おふたりの選曲はいかがでしたか?

曲順も任せたんだけど、ふたりが主張したり譲ったりしているのが分かったよ(笑)。俺としては、どんな選曲でも曲順でも良かったんですよ。いいアルバムになる!って良い予感しかしなかったからね。ミックスが終わった時、通しで聴いたら“素晴らしい”以外、何も言うことはなかった。“あとは、いつもよりもちょっと売れたらいいね。これが遺作になったら売れるかもね”って冗談を言ってたら、マスタリングが終わったあとにちょっと体調を崩しちゃって。でも、それでも後悔はないと思えるくらい、本当にいいアルバムができたと思います。

いやいやいや(笑)。逆に、それだけいいアルバムができたのだからもっと作りたいと思わなかったのですか?

キリがないからね(笑)。そう言いながらも、起きている時は自宅の1坪スタジオで作業しているよ。新しい歌のね。出す出さないは別として、毎日歌を書くことはね、もうしょうがないんだよ。15歳ぐらいからずっとやり続けていることだから。昔、“日記のように歌を書きたい”と言って“バカじゃないの”って言われたことがあったけど、その頃は今みたいにこんなにしゃべれなかったから全部歌にしていたんだよね。もし今回のアルバムが遺作になっていたら、我が家にとっても、レコード会社にとっても嬉しい売り上げを作ってたかもしれないけど、生きちゃってるから(笑)。今、6曲ぐらい同時進行で作ってるんだけど、『Naked Tracks』を今年も出すぐらいの気持ちにはなっているよ。

やっぱり作っているんじゃないですか(笑)。

歌を書いて、録音する以外、俺は能がないからね。50歳をすぎてからは女子にもさ…恋はしていたいと思うけど、もうね(笑)。
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アルバム『I like this, too』

OKMusic編集部

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