【神山羊 インタビュー】
クローゼットの中から音楽を通じて
いろんな人に会いに行く
「セブンティーン」はTikTokでの
届き方も意識して作った
今作のリード曲「セブンティーン」はロックのテイストを持つ曲で、“思春期”をテーマにした楽曲ですが、こういう曲を書こうと思った動機は?
思っていたのは、コロナ禍の影響で僕らが10代の頃とは違う生活をしているだろう今の17歳の子たちのことですね。そういう子たちがどういうふうに悩んでいて、どうやって苦しんでいるのかが気になって。そういう人に向けて曲を作ってみたいと思ったのが最初のきっかけです。ロックサウンドにしたのは、自分が17歳の時に没頭したのはロックだったので、そういう意味で嘘がないものになるだろうなと。歌詞についても17歳の少年少女に届けたいから、なるべく共感性を高めるような言葉を使って、自分のことなんだと思ってほしいと考えながら書きました。
歌詞には《日陰で育った価値観に》とか《外の世界は気付けば夏》とか、どちらかと言うと陰の側にいる視点が表れていますよね。
そうですね。自分もそうだったし、音楽にめちゃめちゃのめり込むのは陰の奴が多い気がするんで。
この曲が今年の3月に配信リリースされての反響はどうですか?
YouTubeのコメントでも“今、聴けて良かった”と言ってくださる17歳の方もいて。それは嬉しかったですね。あとは、たくさんの方がTikTokで「セブンティーン」を使った動画を作ったり観てくれているという状況があって、それは幸せです。今の10代はスマホでTikTokを観て暮らしていると思っているので、そこでの届き方も意識して作った曲だからこそ、その甲斐があったと思います。
TikTokを意識して作ったというのは、例えばどういうポイントなんでしょう?
いろいろありますね。曲を短くしたり、ワードを分かりやすくしたり、舌打ちを入れたり、動きのつけやすさを考えたりもしました。
TikTokで自分の曲が聴かれるようになる、バズるということにはどんな感触を持っていますか?
自分の曲がTikTokで聴かれるようになったのは「YELLOW」もそうだし、「カトラリー」(2017年に有機酸名義で発表した楽曲)もそうなんですけれど、それは2年前くらいの頃で。当時はまだTikTokというものが分からなかったんです。“楽曲が広がっていくのはいいけど、扱われ方としてはどうなんだ?”みたいなことを考えることもあったし。でも、この2年で音楽を取り巻く状況も変わって。ティーンの子たちはスマホを観ているし、そこでTikTokを観ている。ポップスを人に届けるということを考えると、そういう新しい場所に飛び込んでいくことも当然意識するわけです。僕がボカロを始めた時と気持ちは近いものがありますね。
今作の中でも「CLOSET」もとても大事な曲だと思います。どういうふうに作っていった曲なんでしょうか?
“CLOSET”というタイトルの曲は、実は30曲ぐらいあるんです。ワンコーラスを30曲ぶんくらい作っていて。それくらい悩んだんですよね。こうやっていろんなテイストの曲を作っているので、“本当に自分らしい曲、神山羊らしい曲ってなんだろう?”ということに向き合った時に、なかなかこのタイトルの曲が素直に出せなかった。
なるほど。“CLOSET”という曲名と、そこに自分のアイデンティティーを込めるということだけが最初に決まっていた?
そうなんですよ。それだけ決めていたので、“自分でハードル上げちゃったな。しんどいなぁ”と思って。でも、そこに頑張って向き合って作りました。
サウンドはシンプルなリフと4つ打ちのビートの曲ですが、この決め手になったのは?
自分のルーツとして、UKロック、USロックの2000年代のアーティストがすごく好きなんです。そういうアーティストのリフで持っていくようなタイプの曲がずっと好きで、そういうアプローチの曲を作りたいと思って作りました。ビートの部分も自分のアイデンティティーだと思います。ギターの音だけ鳴っていてもダメだし、打ち込み感というものが自分を形成している大きい部分でもあるので。そこは切り離せないという感じもありました。
歌詞や曲のテーマに関してはどうでしょうか?
自分の本質とか核みたいなものに向き合って書いたので何度も書き直しました。でも、いろんな扉を開けて、いろんな場所に行ったから、戻ってきた時にこの曲が生まれたんだと思います。
いろんな扉を開けて、自分として変わったことと変わらなかったことは?
変わらなかったことは、やっぱりクローゼットの中にいるということ。自分の居場所、帰ってくる場所は本質的に変わらなかったですね。変わったことは、誰かにつながることをもっと求めていくようになった。音楽を通して人と握手していきたい。今はそういう気持ちです。
取材:柴 那典