ピアニスト・紀平凱成、ファンととも
に創りあげたサプライズ満載のバース
デーライブをレポート

2022年4月2日(土)、東京・渋谷のeplus LIVING ROOM CAFE&DININGでピアニスト紀平凱成のバースデーライブが開催された。今年、紀平は21歳を迎えた。「昨年に引き続き、17歳でデビューコンサートを開催した思い出深い場所で演奏できるのは嬉しい」と語った紀平。大入りの客席で見守るファンから熱い視線とあたたかい拍手で迎えられたステージの模様をお伝えしよう。

昨年に引き続き、今年も東京・渋谷のeplus LIVING ROOM CAFE&DININGで開催された紀平凱成のバースデーライブ。会場は超大満員の盛況ぶりだ。昨年8月にはフルアルバム第二弾『FLYING』をリリースし、現在もアルバムを記念してのコンサートツアーを続行中の紀平。先日、新アルバム収録曲の中から自作曲三曲を収めた初のピアノ曲集『―FLYING―オフィシャルスコア(ヤマハミュージックエンタテイメント刊)』も初出版されるなどその活躍ぶりと注目度はますます勢いを増している。
活動内容もさることながら、演奏会を経るごとに、そして時が経つほどにピアニスト・作曲家として目覚ましく成長ぶりを見せる紀平。そのみずみずしい音楽と熱気あふれる演奏を、まさにライブ感あふれる会場で多くのファンが堪能した。この日の演奏曲目は、事前にリクエストを募集し、その中から紀平がアレンジしたものを披露するという今までにない新たな試みが実現したのも興味深い。
ステージ空間がムーディなライトに変わると、スタイリッシュな衣装を着た紀平が登場。いつものように両手を高く挙げ、天を仰ぐようにして呼吸を整える。第一曲目――「さくらさくら」を思わせるオリジナルの導入部に続いて紀平がアレンジした「Amazing Grace」の旋律が会場を包み込む。祈るように心を込めて奏でるテーマ旋律。そして、中間部では低声部と右手のオクターブが奏でるグラマラスな音も聴かせた後、高音部の煌めく音で再びテーマ旋律を奏でると、次なる曲へ――。マイケル・ジャクソンの「Heal the World」。「この時に感じる気持ちで即興演奏した」という紀平。愛を込めて心の歌を紡いでいる様子が豊かな旋律から伝わってきた。
続いて、紀平が敬愛してやまない作曲家カプースチンの作品から。演奏の合間に流れる紀平本人による録音形式のナレーションでも「音楽の楽しさや面白さを教えてくれたカプースチンの魅力を今後も伝えていきたい」と抱負を語っていた。
一曲目は「8つの演奏会用エチュード」より「第5番~冗談~」。ブギウギ調のビートが効いたアップテンポな曲をフルスロットルで一気に演奏。紀平の冴えわたるリズム感とテクニック、そして、音楽に込められた紀平のカプースチンへの想いと情熱が会場を席巻する。
続いても同作曲家よる「24の前奏曲」から「作品53-17」。ラグタイム調の洒脱なリズムも感じさせるスイングジャズの大人の世界観を緻密な技巧を駆使しながらも香り豊かに作り上げていた。速いパッセージの中にも、これほどまでに雄弁にメロディを歌い上げる紀平のピアニズムのみずみずしさには感心させられる。どんなにアップビートで尖った作品でも、紀平の清純で天衣無縫な感性ゆえだろうか、気負いを感じさせることもなく、決して無機的な音楽にならないところが紀平の演奏の魅力だ。
続いて、お馴染みのオリジナル曲「Winds Send Love」。自ら作曲した作品の中でも紀平が「最も好きな曲」というこの作品。「風のある景色が次第に移り変わってゆく様子を描き出した組曲のような作品」と紀平自身語っている。
この日の演奏では、明るく穏やかな大地に吹き渡る風の情景に始まり、中間部では大地を揺るがす激しい風の様子をドラマティックに描写するとともに、後半部では展開とも、ヴァリエーション(変奏)と感じ取れる巧みな構成感で風のテーマの変容を印象深く聴かせてくれた。
続いては誰もが一度は耳にしたことのあるナンバーをカイル風にオリジナルメドレーで。一曲目はSMAPの名曲「世界に一つだけの花」。聴いている私たちも歌い出したくなるほどの小気味よいリズム感とピアノならではの豊かな響きでこの作品の魅力を存分に引き出した。続いてもSMAPの楽曲から トライアングル を経て、最後は昨年、紀平も出演した24時間テレビのチャリティソング演奏で共演したMISIAの「アイノカタチ」と チャリティソング「歌を歌おう」で締めくくられた。両作品ともに、右手のオクターブと低声部のアルペッジョを駆使し、ピアノアレンジらしく重厚感ある響きで終始ロマンティックに歌い上げた。
休憩をはさんでの後半第一曲目は、紀平が幼稚園生の時に初めてピアノで弾き語りをしたというジョン・レノンの不朽の名作「Imagine」。会場では演奏前に当時の弾き語りを録音した実際の紀平の声とピアノが流され、会場のファンも感慨深いものがあったのではないだろうか。
昨年のこの日に開催された二十歳(はたち)を記念するバースデーコンサートでも、この作品を自らが歩んだ音楽の軌跡を感じる一つのモニュメンタルなものと捉え、完成度の高いオリジナル演奏を聴かせてくれた紀平。この日の演奏では、真摯に音に向き合う姿勢がさらに深まり、飾り気のないまっさらな音楽を通してこの曲への特別な想いがよりいっそう力強く伝わってきた。ピアノにまっすぐ向かい、淡々と音楽の深みを一直線に見つめるその一途な想いには心を打たれるものがあった。
続いては紀平がコロナ禍自粛中に書き上げた「No Tears Forever」。本人曰く「今日はバースデースペシャルバージョン」での演奏だそうだ。イントロダクションにモーツァルトの「幻想曲 二短調」の冒頭、美しいアルペッジョの序奏部分を奏でた後、流れるように自らのオリジナル曲へ。先日、札幌で演奏会を開催した際に、ふとモーツァルトを感じる想いが芽生えたそうだ。
メランコリックでしんみりとした冒頭部。しかし、中間部では晴れた空に虹がくっきりと出たように明るく希望に満ちた世界へと誘われる。最後に再びメランコリックな色調に戻っても、もうそこには今までの憂いや悲しみは無い――。そんな繊細な心のうつろいを感じさせるかのように、一つの困難を乗り越えた自らの自信と未来への勇気に満ちた想いが力強い音で奏でられた。
続いても紀平のオリジナル曲「Fields」。「自由な気持ちが表現されている」というこの作品。ファンからのリクエストでも「ぜひ生演奏で聴いてみたい」という声が多かったそうだ。紀平の演奏も自由闊達そのもの。大旦な遊び心の中にも、よりいっそう音楽的な進化が感じられた。
プログラム最後は、客席への感謝の気持ちを込めてシューマン=リスト「献呈」。紀平らしく、ひねりを利かせたジャジーなスタイルのロマンティックな演奏だ。密やかな想いを繊細に歌い上げた中間部を経て、冒頭のメロディ再現でのストレートで情熱的な心の高まりと、フィナーレへ向けてすべての想いを昇華させるかのような明るく輝きに満ちた感情のほとばしりが快かった。
最終曲が終わると、満場の客席から惜しみない拍手が贈られる中、会場のモニターでは、紀平の幼少期の写真や動画が時系列に収められたビデオが流され、客席の一人ひとりがモニターに見入っていた。そこへアンコールに応えて再び紀平がステージに登場。
今度は白いスニーカーにポップなレギンスという出で立ち。アンコールの一曲目は、何とBTSの「Dynamite」。ポップな出で立ちにふさわしく、最後は立ち上がって華麗に即興を披露しつつ、次の曲へ―― 伝説のロックバンドQueenの名曲「We will rock you」。レッドの照明に照らされ、ダイナミックかつムーディに。そして、アンコールメドレーの最後は、これもQueenのヒットナンバー「We are the Champions」。
ピアノの名手としても知られたフレディ・マーキュリーを彷彿とさせるアルペッジョとオクターブを駆使した雄弁な紀平の演奏は歌詞を語らずとも弾き語りのように感じられた。立ち上がって客席を向き華麗に弾き納める姿もフレディ張り。大向こうからもロックコンサートのようにエールが飛び交う。
ファンからのリクエストによるラインナップと “ロックな” アンコールで最後までサプライズ感満載の紀平凱成バースデーライブ。来年のさらなる試みと紀平のより一層の進化が楽しみでならない。
取材・文=朝岡久美子 撮影=富永泰弘

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