「お前の命の真実を掴め」~『銀河鉄
道999 THE MUSICAL』ゲネプロレポー

2022年4月8日(金)日本青年館にて幕を開けた『銀河鉄道999 THE MUSICAL』。漫画家・松本零士が生み出したSFファンタジーの名作に込められた愛と命のメッセージが、“今を生きる”私たちに力強く届く新作ミュージカルとなり、また新たな旅を始めた。そのゲネプロの模様をレポートしたい。

荒廃した未来の地球・メガロポリス。機械の身体で永遠の命を得た者と人間の身体のまま貧しく生きる者とに分断された社会で、虐げられながらも仲間たちとたくましく日々を生きる人間の少年・鉄郎。いつか機械の身体を手に入れることを夢見ていた彼が偶然謎の美女・メーテルと出会い、機械の身体をタダでくれるアンドロメダに向かうところから物語は動き出す。クラシックな造り(だが中身は最新鋭)の銀河鉄道999に乗り込んだ二人の旅の行方とは──。
 撮影:源 賀津己
果てしない宇宙を舞台に行く先々の星で様々な経験をしながら少しずつ大人へと成長していく鉄郎の青春の日々を描いた本作は、多くの人々に愛される原作に真摯に向き合いながら、それらエピソードの一つひとつを丁寧にミュージカルへと“翻訳”している印象だ。メインキャラクターは歌と芝居に集中し、周囲を彩るアンサンブルが身体表現を駆使して様々な場面を創り出していく。また、いくつかの稼働パネルと1台のスロープ、そしてそこに投影される映像と美しい照明が次々に彼らが生きる“その場”を表現する、シンプルながら観客のイマジネーションを心地よく誘導していく地に足のついた演出も効果的。全体を通じて歌の持つ力を改めて体感させてくれる“生身感”の強い空間は、この物語にとてもフィットする。
花總まり  撮影:源 賀津己
音楽も同様。今や国民的愛されソングとして定着している「銀河鉄道999」を世に送り出したゴダイゴのメンバー、ミッキー吉野によるミュージカルナンバーは、スローからアップテンポまで魂に直接語りかけるグルーヴが息づき、歌う者の感情がまっすぐこちらに語りかけてくる体温が宿っていた。
中川晃教  撮影:源 賀津己

花總まり  撮影:源 賀津己
主人公の鉄郎を演じる中川晃教は台詞も歌声もまさに少年の瑞々しさ。登場した瞬間から若者らしい躍動感を放出し、「僕は未来が楽しみで堪らないよ!」とまっすぐな生き様を見せつける。ひとつ星を訪れるたび、ひとり新たな誰かと出会うたび、ぐんぐんと心が成長し、戦う強さを身につけていく。そんな様子を眩しそうに見つめるメーテルを演じているのは花總まり。黒一色の装いにたくさんの哀しみと迷いを抱え込んだ憂いに、ほんのり少女性が同居するような凛とした美しさは格別。壮大な旅の道先案内人として観客をも導いていく。

徳永ゆうき  撮影:源 賀津己
梅田彩佳  撮影:源 賀津己
999の車掌役徳永ゆうきは親しみやすさと列車愛に溢れた愛すべき働き者。ウエイトレスのクレアを演じる梅田彩桂は慎みと包容力の人。この二人も『999』になくてはならないキャラクターだ。
三浦涼介  撮影:源 賀津己
北翔海莉  撮影:源 賀津己
男のロマンを体現する宇宙海賊・ハーロックとして雄々しく活躍する三浦涼介、真の愛を追い続けるクイーン・エメラルダスとして場を引き締める北翔海莉、最期の時まで自分らしく生きる真の革命家・トチローを飄々とした奥深さで演じる藤岡正明。彼らが鉄郎に向ける視線は、大人から子供へ「形」ではなく「想い」で伝えていくものの大きさ、深さ、大切さを体現、この物語の重要な柱となっている。後半、圧倒的な重厚さで場を支配した松本梨香のプロメシュームもまた、鏡合わせでその役割を担っていた。
藤岡正明  撮影:源 賀津己

三浦涼介  撮影:源 賀津己

そしてもうひとつの柱が鉄郎と鉄郎の母親を“人間狩り”で殺した機械伯爵との因縁だ。機械伯爵を演じる佐藤流司はキャラクターに共存する強く優しく誇り高い青年の魂と非道な虐殺者の心を巧みに演じ分け、ゴージャスな姿の奥底にある皮肉な運命をステージ上に引きずり出す。そこに揺るぎない思いで寄り添い続ける恋人・リューズを演じるのは矢沢洋子。二人もまたどんな状況にあっても互いの愛を守り抜く人だった。
佐藤流司  撮影:源 賀津己
矢沢洋子  撮影:源 賀津己
人は限りある命だからこそ、永遠に消えることのない「想い」や「誇り」を互いにリレーしながら人間の歴史を繋ぎ続けていくのだろう。旅を終え、再びメガロポリスに帰ってきた鉄郎と共に観客もまた、そうした当たり前だが大切な事実を静かに思い出すエンディングがやってくる。旅の中でより深い絆で繋がった鉄郎とメーテル、二人の人生はまだまだこれから……いや、いつまでも終わることはないし、もちろん、離れ離れでもさみしくなんかない。人生は出会いと別れの連続。そんなセンチメンタルな気持ちにラストナンバー「銀河鉄道999」のフレーズが重なっていく。まだまだ歩みを進めろと、力強く私たちの背を押してくれるかのように──。
中川晃教  撮影:源 賀津己
 撮影:源 賀津己
取材・文=横澤由香

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