ジュディ・ガーランド生誕100年記念
(Part 2) その生涯を代表する名盤
を堪能しよう~「ザ・ブロードウェイ
・ストーリー」番外編

ザ・ブロードウェイ・ストーリー The Broadway Story

番外編 ジュディ・ガーランド生誕100年記念(Part 2)その生涯を代表する名盤を堪能しよう
文=中島薫(音楽評論家) text by Kaoru Nakajima
 今年2022年は、不世出の天才エンタテイナー、ジュディ・ガーランド(1922~69年)の生誕100年。それを記念して、久々に映画館で再上映された主演作「若草の頃」(1944年)と「イースター・パレード」(1948年)をすでに紹介済だ(下記一覧参照)。Part 2では、彼女の功績を語る時には欠かせないライブ録音を取り上げよう。タイトルは、「ジュディ・アット・カーネギー・ホール」。究極の名盤と呼ぶに相応しいレコーディングで、折りしも新たにリマスターされたCDが今年の2月に発売された。さっそく特集しよう。
場内は立錐の余地もない超満員 Photo Courtesy of Scott Brogan
■アルバム本来の魅力を伝える再リリース盤
 まずはミニ・ヒストリーから。この録音は、1961年4月23日にNYのカーネギー・ホールで開催された、ガーランドのコンサートを収録したもの。同年7月に2枚組のLPで発売されるや、絶賛を浴びベスト・セラーを記録(ビルボードのヒット・チャートで、13週にわたり第1位をキープ)。グラミー賞では、最優秀アルバム賞など5部門で受賞を果たした。その後もLPは再発売を繰り返し、1987年に初CD化。だがこれが、オーヴァチュアを含む4曲をカットした短縮版のシングルCDだったため、世界中のファンから苦情が殺到し、2年後に2枚組でリリースされた。さらにコンサートから40周年を迎えた2001年には、それまでは収録されなかったガーランドのトーク入り完全版を再発売。その臨場感溢れるサウンドが話題を呼ぶ(国内盤は2020年に発売)。
「ジュディ・アット・カーネギー・ホール」。これは、1961年にリリースされた2枚組LPのジャケット
 今回紹介するのは、イギリスのAVID ENTERTAINMENTから発売された2枚組CDだ(アマゾンやタワーレコードから、¥1,000前後の輸入盤で入手可)。これは、LPのマスターテープからリマスターされたもので、ボーカルとオーケストラの音のバランスが良好な上に、リズム・セクションのギターやピアノの柔らかい音色を忠実に再現。そして何よりも、2001年版では時に冗長に感じられたトーク部分を割愛したため、「次から次へと歌いまくるガーランド」という、このライブ盤の神髄が息づく優れたアルバムに仕上がった。
新たに、AVID ENTERTAINMENTからリリースされたCD
■ガーランドのスタンダード・ソングブック
 1939年に「オズの魔法使」で、ヒロインの少女ドロシーを演じ大ブレイク。以降ガーランドは、MGMの看板ミュージカル女優として、前記の「若草の頃」などに主演し人気を高めた。しかし過密な撮影スケジュールを乗り切るため、映画会社の首脳部は、10代の彼女に興奮剤と睡眠薬を交互に投与。やがて精神を病み、撮影に穴を空けた結果、1950年にMGMから解雇されてしまう。その後1954年に、「スタア誕生」で銀幕復帰を果たし、50年代後半からはコンサートに活動の拠点を移す。「ジュディ・アット・カーネギー・ホール」は、歌手ガーランドにとって、キャリアの頂点を築く公演となったばかりか、ショウビズ史に残る記念碑的一夜と賞賛された。
「スタア誕生」から〈スワニー〉を歌う。 Photo Courtesy of Scott Brogan
 当夜、ガーランドが歌ったナンバーは全28曲。「オズ」で彼女が歌い、終生のテーマソングとなった〈虹の彼方に〉を始め、「若草」の〈トロリー・ソング〉、「スタア誕生」の〈行ってしまったあの人〉と〈スワニー〉など主演作の十八番曲はもちろん、ブロードウェイ・ミュージカルの歌曲も含まれる。ガーシュウィン兄弟作詞作曲による『ロザリー』(1928年)の〈いつ頃からこんな気持ちに?〉や、ラーナー&ロウ作詞作曲の『ブリガドーン』(1947年)から〈まるで恋をしたみたい〉などのスタンダードは、ガーランドのような卓越した表現力を誇る歌手が歌い継いだからこそ、息の長い楽曲へと昇華した事を痛感させられた。
■波瀾万丈の人生を歌に重ねる
 聴きどころと言えば、全曲が聴きどころなのだが、まずは〈トロリー・ソング〉、〈虹の彼方に〉、〈行ってしまったあの人〉の3曲をメドレーで演奏するオーヴァチュアが圧巻だ。音楽監督はモート・リンズィー。彼が指揮する、大オーケストラ(40人編成)のド迫力サウンドに息を呑む。そして、ガーランドが登場しての1曲目が〈君微笑めば〉。張りのある声で堂々と歌い上げ、場内は早くも興奮の極みだ。以降は熱唱に次ぐ熱唱で、パワフルなボーカルに感嘆あるのみ。〈フー・ケアズ?〉や〈プティン・オン・ザ・リッツ〉のように軽快なナンバーでは、持って生まれた絶妙のスウィング感を発揮。またリンズィーのピアノ伴奏で、あり余る声を抑えて静かに聴かせる、〈霧の日〉や〈愛がすべてなら〉などのバラードも実に味わい深い。
ステージに登場 Photo Courtesy of Scott Brogan
 中でも特筆すべきナンバーが、〈カム・レイン・オア・カム・シャイン〉。〈虹の彼方に〉の作曲家ハロルド・アーレンの代表曲として知られ、多くの歌手がレパートリーに入れたが、極め付けはガーランド・バージョンだ。「降っても晴れても、誰にも負けないほど、あなたを愛し続ける」と情熱的に歌われる一曲で、歌が進むにつれ声は熱を帯び、ぐいぐいと盛り上げる彼女お得意の演唱は、聴くたびに血沸き肉躍る素晴らしさ。観客の熱狂振りも凄まじい。そして、感動の絶唱となったのが〈虹の彼方に〉だ。少女のように遠くを見つめ、「虹の彼方のどこかに、夢が叶う場所がある」と歌うガーランド。やがて目は潤み声が消え入りそうになると、観客は決して幸福ではなかった彼女の人生に思いを馳せ、共に涙した。
アンコールを求める歓声が延々と続いた。 Photo Courtesy of Scott Brogan
■その後も歌い続け、47歳で燃え尽きる
 上記2曲は、ガーランド最晩年の凄絶な姿をリアルに演じ切り、アカデミー賞主演女優賞に輝いたレネー・ゼルウィガー主演の「ジュディ 虹の彼方に」(2019年)でも、映画終盤で効果的に使われていた。御記憶の方も多いだろう(DVDとブルーレイはギャガより発売済)。
カーネギー・ホールでのコンサートの最後に子供たちを紹介。右から長女のライザ・ミネリ、長男ジョーイ・ラフト、次女ローナ・ラフト Photo Courtesy of Scott Brogan
 カーネギー・ホール以降、ガーランドは初のTVレギュラー「ジュディ・ガーランド・ショウ」(1963~64年)で円熟したボーカルを披露。しかし視聴率が奮わず、番組は半年で打ち切られた。失望から、薬物とアルコール依存に拍車が掛かり、ライブは好不調の波が激しくなる。加えて、金銭感覚が皆無だった彼女は破産を繰り返し、ギャラのために引き受けた仕事が、「ジュディ 虹の彼方に」でも描かれたロンドンのナイトクラブへの出演だった(1968~69年)。内幕は映画の通り。酩酊状態でステージに登場し非難を浴びる。それから北欧を巡演した後、1969年6月22日に鎮静剤の過剰摂取で急逝した。享年47。正に生き急いだ人生だったが、「ジュディ・アット・カーネギー・ホール」は、気力と体力共に充実した38歳の彼女が、生涯最高のパフォーマンスを披露したコンサートとなった。CDで楽しんで頂ければ幸いだ。

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