サカナクションの
『GO TO THE FUTURE』で示された、
これまでになかった
混ぜ合わせを試みる音楽的実験

混ざり合わないもの同士の融合

オープニングM1「三日月サンセット」。イントロでの旋律が(あれはシンセだろうか)左右に振られて鳴らされている箇所から不思議な世界観に誘われる。わずか10秒足らずのタイムにもかかわらず、しかも、音数は少ないというのに、独特の雰囲気を醸し出しているのは、やはりすごいと言わざるを得ないだろう。これをサカナクションの楽曲と知らない段階で聴いたとしても、いい意味で“おや?”と思わせるものである。そこからギター、ベース、ドラムが入ってバンドサウンドとなり、歌が始まる。メロディアスではあるものの、サウンドがループミュージックに近い感触であることもあってか、比較的淡々している印象。ただ、ファンク…とは言い切れないけれども、ダンサブルではあって、それがサビでダイナミックに展開する。各パートも躍動的にそれぞれの音を鳴らし、それが折り重なってひとつの楽曲を形成していくという、極めてバンドサウンドらしいバンドサウンドだ。楽曲の基本構造はAメロとサビというシンプルなものだが、5人それぞれがそこに抑揚を与えているという言い方をしてもいいだろうか。イントロで聴こえてくる音のような、エレクトロ的なクールさがある一方で、人力での熱もしっかりとそこにある。まぁ、その辺は1980年代から存在する手法ではあるので、それをことさらに“混ざり合わないものを混ぜ合わせている”と言うのもアレだが、デビューアルバムの1曲目から、その意気込みを垣間見ることができるのではなかろうか。また、歌の主旋律も印象的。特にサビメロは単純にキャッチーだとかメロディアスだとかいうことではなく(それも確かにあるが)、独特の色っぽさを感じさせる。この辺りは今に至るまで、いい意味で変化がないことが分かると思う。興味深く感じたのは歌詞。こんな感じだ。

《僕はシャツの袖で流した涙を拭いたんだ/空には夕暮れの月 赤い垂れ幕の下/もどかしく生きる日々の隙間を埋めた言葉は/頼りない君が僕に見せる弱さだった》《下り坂を自転車こぐ いつも空回り/東から西 果てから果てまで通り過ぎて行け》《夕日赤く染め 空には鳥/あたりまえの日没の中で/君は今 背中越しに何を言おうか考えてたんだろう》(M1「三日月サンセット」)。

物語的な観点から見たらその内容がはっきりと分るものではないけれども、どことなく花鳥風月を感じるというか(《赤い垂れ幕》≒花、《空》《自転車こぐ》≒風)、日本的な情緒があるようには思う。エレクトロ要素を交えたバンドサウンドでありながらも、そこに和テイストがあるというのは、まさに山口一郎が言うところの“良い違和感”なのかもしれない。そんなふうにもちょっと思える。

と、アルバムの冒頭から半可通なりにサカナクションらしさを感じていると、M2「インナーワールド」以下もその感覚が持続していく。本格的にサカナクションワールドに突入するという感じだろうか。M2はシンセの音がいかにもシンセで、M1以上にデジタルミュージックを感じさせる。それでいて、リズムは4つ打ち。ギターのカッティングも楽曲全体を引っ張る、軽快なダンスチューンである。ディレイの深さや、《思い込んで合図した》とか《噛み砕いて吐き出した》といった言い回しが続く歌詞にも“らしさ”を感じるところだが、その最たるものはAメロでの《描いた 描いた 描いた 描いた》の繰り返し箇所だろう。ここはかなり特徴的であって、デビュー作からこうであったことは、コンポーザーである山口の早くからの非凡さをはっきりと示していると思う。

M3「あめふら」でもシンセがリバースっぽい音や8ビット的な音を出していて、これもデジタル感じが強い。かと思えば、全体的にはファンキーなノリがあるナンバーであって、後半ではテンポを落としてインプロビゼーション的な演奏になるという、摩訶不思議な構成。まったくひと筋縄ではいかないが、それもまた“良い違和感”と好意的に受け止めたい。タイトルチューンのM4「GO TO THE FUTURE」も、今現在のサカナクションを感じさせるという意味で興味深い。主旋律が所謂ヨナヌキ音階である。ギターもオリエンタルなムードだし、ピアノの旋律もどこか唱歌や童謡っぽい。和風、日本的なのである。それでいて、サウンドはややジャジーなバンドサウンド。間奏ではリバースっぽい音も聴こえてくるが、M1~M3に比べてデジタルな匂いは薄い。それはそれでバンドらしく、ここもまたいいところではないかと捉えたところではある。

OKMusic編集部

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