「映画 オッドタクシー」花江夏樹&
飯田里穂 伝わるんだなと思った面白
さ、色をつけない芝居

(c) P.I.C.S. / 映画小戸川交通パートナーズ 昨年放送され大きな話題をよんだオリジナルテレビアニメ「オッドタクシー」を再構成し、最終回のその後も描かれる「映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ」(4月1日公開)。ほのぼのとした動物キャラクターのビジュアルで、女子高生失踪事件をめぐるミステリー・サスペンスが群像劇として描かれる。

 主人公のタクシー運転手・小戸川役の花江夏樹と、小戸川と奇妙な縁でつながるミステリアスな看護師・白川役の飯田里穂に、テレビアニメと今回の映画版の収録を振り返ってもらった。(取材・構成:五所光太郎/アニメハック編集部)
――テレビアニメの放送中に視聴者の反応をどのようにご覧になっていましたか。
花江:僕はすごく面白いなと思っていたので、視聴者の方の反応が楽しみでした。収録のときはよく分からない部分もあって「面白いのかな」と感じたところもあったのですが、完成した映像を最終話までいただいたら1日で全部見てしまうぐらい面白くて。最初は3日ぐらいかけて見るつもりだったのを引きこまれて一気に見てしまったので、これは早く皆さんにも見てほしいなと思いました。ただ、オンエアは週1の放送ですから、シリーズ通しての細かな伏線など気づいてもらえるかなとは少し気になっていました。
 オンエアがはじまってからは、それなりに盛り上がっているようだけれど、「ああ、もっと面白いんだけどな」「もっと伝わらないかな」みたいな感じでいまして――。
飯田:(深くうなずく)
花江:最終話がオンエアされて口コミなどで徐々に評判が広がっていって、やっぱり伝わるんだなとうれしく思いました。
飯田:ミステリー要素にも引き込まれて、私も完成した映像は一気見しました。言葉遊びのような会話劇が特徴的で、芸人さんたちの掛け合いなどもすごく心地よく、今まで見たアニメとはまったく違う“アニメだけどアニメじゃない”ような感覚がありました。
 収録のときは分からないことが多すぎて、「この先どうなっていくのだろう」と謎解きしているような状態でした。ラップで会話するヤノのところとか、いったいどんな映像になるのか想像できない部分が多かったです。キャストのなかには物語の結末を知っている人と知らない人がいて、私は知らないほうだったので、台本を読んでいるときはアニメの台本というより小説を読んでいる感覚に近かったです。
――テレビアニメには、小戸川と白川の恋愛ドラマの要素もありました。
花江:小戸川にはそういう感情はないのかなと思っていたのですが、意外とまんざらでもない感じがあったので、そこはちょっとかわいいなと思いました。小戸川にいろいろなピンチがあったとき、白川に救ってもらったり、彼女がいたから精神的に乗り越えられたりしたので、小戸川にとって特別な存在なのだなと収録しているときから感じていました。
飯田:小戸川のキャラクターがすごく立っているから目立たないかもしれませんが、白川もかなり特殊なキャラクターですよね。カポエイラをやったりして(笑)。そんな彼女を受け止めて、ときにつっこみながら会話を展開させることができる小戸川のポテンシャルって本当にすごいなと。白川にはもう小戸川しかいないんじゃないかというぐらい、ふたりはマッチしているように思います。
(c) P.I.C.S. / 映画小戸川交通パートナーズ――小戸川と白川の相性がよいことは演じているなかで思われたのでしょうか。
飯田:白川は役柄的にミステリアスな部分があったので、演じている自分の心情的にもそれに近いものがあったのですが、後半は白川の人間味のようなものもでてきて、そこからは小戸川とのやりとりがさらに楽しくなってきました。
――おふたりの共演は「オッドタクシー」が初めてだったそうですね。作品をとおして、お互いのイメージが変わったところはありますか。
花江:じつは収録のときは一度も一緒になったことはなくて、お会いできなかったんです。なのでご本人のイメージは、やっぱり出演された作品からアイドルのイメージが強くて、僕のなかではきらびやかな方という印象がありました。実際にお会いしたら、想像よりも身近な感じがあってすごく優しい方でした。
飯田:うれしい。私も花江さんとはこれまでお会いしたことがなかったので、作品をとおしての印象のほうが強かったです。ど真ん中の主人公をやられていることが多いので、「ついてこい!」とみんなを引っ張っていくような雰囲気をもってらっしゃるのかなと思いきや、いつもにこやかで常に優しいオーラを身にまとっている方でした。挨拶をかわすだけでまるで神様とお話しているような感じで(笑)、お会いするたびに癒されています。
(c) P.I.C.S. / 映画小戸川交通パートナーズ――テレビアニメの収録で、役を演じるにあたって面白かったり難しかったりしたところはどんなところだったでしょうか。
花江:小戸川の第一印象はちょっと人相が悪くて、これまで自分があまり演じたことがなかった声だったので、最初は意識して低くつくっていったのですが、監督から「もう少しナチュラルなほうがいい」と言われ、低くはあるけれど、あまり無理のない範囲の低い声に落ち着きました。小戸川は感情があまり表に出ないので、あせったり、トラウマがよみがえったりして声が変わるとき、彼には叫ぶイメージがなかったので、そこをどう演じるかはけっこう難しかったところです。
 小戸川はあまり人に話しかけないタイプなので、会話をしているときに「あまり会話をしていないように」というディレクションもありました。収録はずっとひとりだったのですが、ひとりだったおかげで“会話していない感じ”が出しやすくもあったと思います。収録は僕が先のときもあれば、他の方が先のこともあって、まちまちでした。一回の収録が3本録りのときもあって、最初の2話ぐらいは先に声が入っているみたいな感じでした。
 今回はプレスコだったので、自分の間(ま)で演じられたのもやりやすかったところでした。自分の感情もつくりやすかったですし、ベースとなる部分で絵に引っ張られすぎなかったところもよかったと思います。皆さんとご一緒したかったなと思いつつ、相手がこうくるだろうなと想像しながら収録していきました。
(c) P.I.C.S. / 映画小戸川交通パートナーズ飯田:私はプレスコが初めてで、まずプレスコの言葉の意味を調べるところからのスタートでした。収録を振り返ると、難しかったなと思うことがたくさんあります。作風的にもナチュラルな感じというか“色をつけないお芝居”がもとめられて、最初に自分でつくっていったものからディレクションをうけて変わったので、悩みながらけっこう何度もトライさせていただきました。監督からは「隣の人と会話をしているぐらいナチュラルな感じで」と言っていただいたのですが、それっていちばん難しいことなんですよね。お芝居をすると、どうしても色をつけたくなってしまうので、そこから“色をぬく”作業をかなりやりました。ナチュラルな感じをだすのにプレスコはやりやすかったです。
――映画版の収録はいかがでしたか。
飯田:映画化の話を聞いてから、また演じたい、早くやりたいという気持ちがどんどんわいてきました。ただ、テレビアニメの収録から1年近くあいていたので、あれだけ苦労した白川をまたパッと演じられるかなと言う不安もありつつ挑みました。
花江:基本的にはテレビアニメのときと一緒でしたが、映画版の収録は物語の時系列的にいろいろ片付いたあとのものが多かったので、小戸川的には気分がほどけた感じを少しのせられたかなと思います。テレビアニメのパートを使った1話の小戸川には、ちょっと牙(きば)があるなと自分で聴いて思ったんですよ。
――「牙」ですか。
花江:牙を意識して話しているなと。それが徐々にほどけてきているので、自分でも慣れてきているんだなというのが分かりました。
――ブルーレイボックス化クラウドファンディングの好評を経ての、うれしい映画化発表でした。
花江:テレビアニメで作品としてはきちんと終わったので、映画では何をするのだろうと楽しみにしていました。くわしいことはお話できませんが、映画ではまた違った角度から「オッドタクシー」の物語を見ることができて、初めての方も楽しめますし、すでに物語を知っている方も「あのとき、このキャラクターは何を考えていたんだろう」ということが分かって、より理解度が深まると思います。
飯田:テレビアニメを見てくださった皆さんの声で映画化が決定したことを聞いて、作品の力が本当にすごかったんだとあらためて思いました。それと同時に、映画化のお話を聞いた時点で公開日まであまり日がなかったので、楽しみではあるものの、スタッフさんは大変なのではないかと心配にもなりました。
 完成した映画は新規のシーンも多く、テレビアニメを見た方も新しい発見ができる内容になっています。初めて見る方もテレビアニメを見た方も楽しめる作品になっていると思います。
(c) P.I.C.S. / 映画小戸川交通パートナーズ――作品にちなんで、タクシーにまつわる思い出がありましたら聞かせてください。
飯田:以前どこかでお話したことがあるかもしれませんが、同じタクシーに3回乗り合わせたことがあります。同じ男性の方が運転していて、3回目で相手のほうも「あれ。君、前も乗ったよね」と気がついてくれて、「じゃあ、おまけしてあげるよ」と運賃を10円おまけしてくれました。「10円かー」って……いや、「ありがとう!」って思いました(笑)。
花江:2015年に「幸運のタクシー」に乗ったことがあります。テレビや新聞で紹介されたこともある川口(政則)さんという方がやっている個人タクシーなんですけど、乗ったら「お客さん、おいくつですか」と聞かれ、年齢にあったお勧めの曲をかけますと言われて(笑)。
飯田:(笑)
花江:ダッシュボードに、年代別の曲を録音したカセットテープがそろっているんです。「私のタクシーに乗ると幸運になるんですよ」みたいな話をしてくれて、とりあげられた新聞記事のファイルを見せてくれたり、「私は全部の国の挨拶ができるんです」と、国の名前を言ったらその国の言葉の挨拶で返してくれたりして。最初は正直とまどったところもあったんですけど、お話しているうちにだんだんと「これはエンターテインメントだな」と思えてきて、素敵なおもてなしがすごく印象に残っています。
 最後、乗車した人たちのメッセージが残されているメモ帳にサインとメッセージを書いたのも覚えています。芸能の仕事をしていると話したら、「ここに書くと売れるよ」と言ってくれました。

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