『フジロック』の嗜み方 〜オトナ女
子のソロ活・自由時間〜

何をするにも躊躇してしまうコロナ禍だけれども、復活しつつある⾳楽フェスを楽しみたい。そんな人にお薦めしたいのが“ソロ活・音楽フェス”だ。
音楽フェスと聞くと気の合う仲間や恋人、家族と⼀緒にワイワイがやがや過ごすイメージが浮かぶかもしれないが、実際にはソロで参加する⼈がかなり多い。特に『FUJI ROCK FESTIVAL』(以下、『フジロック』)では顕著で、観たいステージを気兼ねなくひとりで楽しむ参加スタイルは長らくスタンダードとされている。
コロナ禍中に放送され話題になったドラマ『ソロ活女子のススメ』で江口のりこが演じたオトナ女子は、ひとりで何かを実行する⼀歩さえ勇気をもって踏むことができれば気楽に自由を謳歌することや新たな⾃分の発⾒にも繋がることを体現していた。もちろん人生において他者との交流は大切なことだが、誰かに⼀声かけたり誰かと時間を共有することが難しくなってしまった今、ソロ活は音楽フェスでも有効な選択肢のひとつになるだろう。
そこで今回ご登場していただくのは、『フジロック』参加歴12回のほとんどを“おひとりさまスタイル”で満喫してきたという牧田さん(仮名、40代)。夫とともに子ども2人を育てながら都内の会社でフルタイム勤務をしているワーキングマザーが、『フジロック』ソロ活を選んだ理由や『フジロック』にかける思いについて話を訊いた。
『フジロック』の3日間だけは何者でもない日。余計なことは考えずに自分ファーストで過ごせる。自分の責任で自由になります。
――初めて『フジロック』に参加したのはいつですか?
2006年です。以前から毎年会社の誰かが入れ替わりで行っていたので、その⼀員として行ってみようかなあって思ったのがきっかけで。
――当時はまだ音楽フェスの数も少なく、『フジロック』=洋楽というイメージも強かったと思いますが、洋楽がお好きだったんですか?
洋楽はあんまり聴いていなかったんですよね。なんで行くようになったのかなぁ……。わからないけど行く気になったんですよ。その時は行くって決めてから、電気(電気グルーヴ)が出ると発表されて“わーっ!”ってなって。最初は誘われて参加したけれど、行ってみたらすごく楽しくて。1日中、夜中まで音楽を聴けてぼーっとして、電気も観られて最高だったので、その後も参加するようになりました。
初めてのフジロック。スカートを履いてることに、自分でも驚き。(写真:牧田さん提供)
■気になる『フジロック』ソロ活の交通手段&宿泊
――牧田さんの、会場までの移動手段について教えてください。
1回だけ新幹線で行ったことがありますが基本は車で行ってます。
――おひとりで、ですか?
会場までの移動や宿泊は友達や知り合いとシェアして参加しています。ここ何年かは会社の同僚を誘って⼀緒に行っていますね。その方は男性ですが、何の問題もなくシェアしてますし、『フジロック』の会場に着いたらひとりで動きます。
――宿泊はどうシェアされるのでしょう?
大体は苗プリ(苗場プリンスホテル)の4人部屋をシェアしていますが、苗プリは取れないときもあるので、近くの民宿の大部屋で会社の社長や同僚と⼀緒に寝たりしたこともあります。去年は苗プリの抽選に外れてしまったのと、参加をぎりぎりまで悩んだこともあって民宿に泊まりました。会場から歩ける距離だったので良かった面もありましたが、料金が苗プリよりも高くて衝撃でしたね(笑)。
――『フジロック』ではキャンプをする方が多いですがご経験はありますか?
普段からキャンプしたことがないので無理です。こんな私が『フジロック』に行っているのは奇跡だと思います。
いちごけずり (写真:牧田さん提供)
――『フジロック』の会場では毎回ひとりで行動されているとのことですが。
そうですね。タイミングが合えば途中で合流したり、観たいヘッドライナーが共通なら誰かと⼀緒に行くこともありましたけど、基本はひとり⾏動です。
――それはなぜですか。
観たいものが違うから。人に合わせるというよりも、観たいものに行ってしまうというか……。自分のタイミングで行動したいので、好きな時に好きなところへ動きます。でもそれは20代、30代の頃のことで、今はもう⼀緒に行く人もいないから“独り”というのもあります(笑)。あとは体力ですかね。昔はとにかくライブが観たかったのでステージからステージへダッシュで走ったりもしていました。
――年齢を重ねると楽しみ方も変わりますよね。
その頃の私はグリーンに大きな椅子を置いて、ずーっとそこで座って観ている人が信じられなくて“いろんなステージでいろんな⼈が出てるのに、もったいなーい!”って思ってましたけど、40代になった今はその人たちの気持ちがすごくよくわかる。グリーンにずっといても気持ちいいですからね。のんびり観るのもいいなって思うようになりました。
走り回って疲れた (写真:牧田さん提供)
■母になっても『フジロック』ソロ活できる秘訣
――出産時期は『フジロック』をお休みされたそうですね。
長男を生んだ年とその翌年の2年はお休みしてから復活しました。いつもなら3日間通しで参加するのが当たり前でしたが、復活してからの最初の年は1日しか行かず。でも次男出産時は翌年からはフルで参加しています(笑)。
――産後の『フジロック』、しかもソロ活って感慨深そう。
そりゃそうですよ! 産後は育児、家事、仕事に追われて自分ひとりの自由な時間なんてなかなか持てませんもの。子どもから離れてひとりで行動するのも久々でしたし。でも、産後も『フジロック』に⾏きたいとは思ってはいましたが、それをあまり口に出して言えなかったのは覚えています。
――ご家族は牧田さんの『フジロック』参加に対して協力的ですか?
旦那さんは大体のことは駄目と言わない人なんです。そして幸運なことにライブにまったく興味がない。いつも子どもを見てもらっているだけで悪いので、何年かひとりで行かせてもらった後で「⼀緒に行く?」って聞いたこともあったんですけど、全然行く気なくて(笑)。だから旦那さんが映画を観に行きたい時には「どうぞ」って言わないとって思っていて。お互いに「どうぞ、どうぞ」という感じです。
――お互いをリスペクトする素敵な関係ですね。『フジロック』期間中、お子さんのお世話はどなたがされているのですか?
旦那さんです。それにお爺ちゃん、お婆ちゃんもいます。それに、旦那さんの弟も『フジロック』へよく行くらしいので義両親も理解してくれています。子どもも小さなうちから行ってるから慣れているのかもしれませんね。年に⼀回だけ“ママだけどっか行くなあ”って思っているんでしょうけど、パパがいるので問題はなさそうです。
初めて見たグリーンステージ (写真:牧田さん提供)

■“おひとりさま”で堪能した『フジロック』の名場面
――これまでの『フジロック』で印象に残っているライブを教えてください。
最初に観た2006年の電気。あと、2018年のユニコーンです。
――2006年の電気グルーヴはレッチリ前のグリーンステージ。『フジロック』10周年の時ですね。
それまでリキッドルームとかの小っちゃいところでは観たことがありましたが、自分にとって初の『フジロック』で電気が観られたのがすごい楽しかったんですよ。その日は電気以外にもホワイトステージ終わりでレッドマーキーが始まるみたいなステージを観たくて走りまくっていたせいもあったと思うんですけど、あまりにも高揚してしまってオアシスでお酒飲んで倒れました(笑)。
――16年前……若き日の思い出ですね。
あのときだけはアドレナリンが出るんですよね。“こんな軽やかに⾛れるんだ、私”みたいな感じで(笑)。『フジロック』マジックとしか言いようがないですね。
――ユニコーンは再結成後、『フジロック』初出演のライブでしょうか。
ですね。高校生の時、初めて観た武道館公演が最初で最後のライブで。初めて『フジロック』に行った時、ここでユニコーンを観られたらって思ったんです。その後、ユニコーンが再結成してからはライブはもちろん通っていますけど、毎年『フジロック』の出演アーティスト発表のたびに“今年は出るか?”“今年も出なかったな”ってガッカリしながら何年も待ってたんですよ。だから出演が発表された時は“やっと発表された!”って。
――待った甲斐がありましたね。
人生の夢のうちのひとつが叶った。ほんと最高でした! ただ、グリーンステージで観たかったのにホワイトだったのが残念だったので、次はグリーンで夕陽が沈む頃に観たいです(笑)。
電気グルーヴ (c) Masanori Naruse
ユニコーン (c)Tsuyoshi Ikegami
――『フジロック』に参加後、牧田さんの音楽趣向に変化はありましたか?
洋楽をまったくわからなかった私が、ミューズやコールドプレイもワンマンがあったら観に行こうかなっていうふうになったのは間違いなく『フジロック』へ行くようになったからです。苗場で出逢わなかったら絶対に今も知らないままだったと思います。
コールドプレイ (c) Yasuyuki Kasagi
ミューズ (c) Masanori Naruse
――2021年はコロナ禍での“特別なフジロック”でした。
中止にならないんだったら行こうと思っていました。でも、行くかどうか直前まで迷って……でも、『フジロック』が潰れちゃうと困るから行きました。行ったら行ったで、“来てよかったのかな”ってずっと悶々としてましたね。
――現地の新型コロナ感染防止対策はどう感じましたか?
空間はいつも以上に広くとられていて、トイレも飲食ブースもすごく空いてて快適でした。消毒液もたくさん置いてありましたし、花王のお手拭きまでフリーであって。みんな声も出さないし、監視の人もいましたし、みんながすごく気をつけているのが分かりました。
――例年と違ったことはありましたか。
アーティストもみんな、悩みながらステージに立っているんだっていう不思議な状態でしたよね。サンボマスターのライブの途中で雨が降り出して、みんながカッパを一斉に着始めた光景を見て『フジロック』らしいな、最高だなとか思った瞬間もありもしましたが、宿に帰ってからは感染しなかったかどうか心配したりして。あとは『フジロック』でいつも連絡をとる人にも連絡しませんでした。感染防止を考えたら、現地で人に会うことはやっぱりできないなと思って。
――今年『フジロック』は“いつものフジロック”開催を宣言しましたが、今年は参加されますか?
今年はどうしようかなと考えているところです。またぎりぎりになって感染者数が増えちゃったりすると……悩みますね。もし行くと決めたら感染症対策をしっかりして楽しめたらと思っています。
――牧田さんにとって『フジロック』とはどういう存在ですか?
私は『フジロック』の3日間だけタバコを吸うし、その3日間だけは何者でもない日。そうやって自分を自由に解放しています。親になると自分のことは後回しにしがちなのですが、『フジロック』では余計なことは考えずに自分ファーストで過ごせる。そんな場所です。ひとりで行動できるから独身時代のように、いつご飯を食べても食べなくてもいいし、いつ寝てもいい。『フジロック』は“自分の責任で”と言っていますしね。ルールやマナーは守って、自分の責任で自由になります。

取材・文=早乙女ʻdoramiʼゆうこ

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