特別展『宝石 地球がうみだすキセキ
』鑑賞レポート 世界中から集まった
200種以上のジュエリーに癒され、輝
きの秘密を学ぼう!

特別展『宝石 地球がうみだすキセキ』が、2月19日(土)から6月19日(日)まで東京・上野の国立科学博物館(科博)で開催されている。本展はダイヤモンドやルビーなどに代表される宝石の不思議を科博ならではの科学的、文化的なアプローチで紐解く特別展である。200種類以上もの宝石が集まる本展の見どころを、実際の会場の様子とともにお伝えしていこう。
巨大アメシストドームから幕を開ける「知の宝石展」
宝石、それは人々を魅了する言葉である。光煌めく石を持つことは時代を越えて人々の憧れであり続け、ひとつのステータスにもされてきた。ただ、私たちはジュエリーとして製品化された宝石の美しさや価値ばかりに目が行きがちで、その石がどこでどのように生まれ、掘り起こされ、加工されるのかを考えることはあまりない。
5つの章によって宝石が煌びやかなジュエリーに変わるまでのプロセスを追っていく今回の特別展『宝石』は、前半のパートを物質や材料としての宝石を解説する内容にあてている。その過程の中で宝石という極めて神秘的な存在の価値に感動を覚えるはずだ。
会場入り口
会場では冒頭から目玉展示のひとつ、高さ約2.5メートルの巨大アメシストドームが待っている。アメシストドームとは、内部にアメシストが作り出された岩石を割って断面を見せたものだ。まるで巨大化した牡蠣の貝殻のような岩の断面には、地中でシリカ(酸化ケイ素)が固まって生まれたアメシストがびっしりと貼り付いている。
「アメシストドーム」の展示
同じく第1章「原石の誕生」の展示では、地球内部の「宝石の原石が生まれた場所」に着目し、火成岩、熱水脈、ペグマタイト、変成岩というポイントごとに実際の原石を紹介している。その中にはダイヤモンド、ルビー、オパールというよく知られた鉱物から、ペリドット、アマゾナイト、ハイライトなどパワーストーンとしておなじみの鉱物もある。どれもこの段階ではカラフルな石の域を出ないが、これらがどのように輝く石へと変わっていくかは、次章より先で知ることができる。
会場風景

「変成岩から見つかる宝石」の展示

続く第2章の「原石から宝石へ」では、原石が宝石になるプロセスである採掘とカット(整形と研磨)に着目している。映像による採掘風景の紹介の後には、ダイヤモンドのカットの変遷や宝石の代表的なカット技術などについて見本を交えた解説がある。
「ブリリアントカットの工程見本」の展示
およそ2800年前には発見されていたダイヤモンドを磨く技術が発明されたのは14世紀ごろのことだ。そこから技術が進歩し、現在の宝石はファセット(多数の研磨面)を付けたカットと付けないカットとに大別されている。さらにそこから複数の種類に枝分かれして、原石に合った適切なカットが選ばれる。その流れを知ると、宝石の美しさをより際立たせるためにさまざまな人々の叡智が注がれてきたことがわかる。その次には古美術コレクターの橋本貫志氏が国立西洋美術館に寄贈した「橋本コレクション」から約200点の指輪を年代順に並べた「指輪が語る4000年の宝石史年表」があり、古代から続く宝石の歴史をより深く理解することができる。
「指輪が語る4000年の宝石史年表」の展示
なお、本展は漫画『のだめカンタービレ』の作者・二ノ宮知子が講談社『Kiss』で現在連載中の『七つ屋 志のぶの宝石匣』とコラボ。展示とリンクする作中シーンがところどころに散りばめられていて、本作から宝石ファンになった人たちも嬉しい構成になっている。
宝石を科学的に解説! “かはく” の真骨頂を見よ
第3章「宝石の特性と多様性」は、宝石の美しさを構成する輝き、煌めき、彩りという3つの要素、そして、もうひとつ重要な強さ(耐久性)という要素を科学的なアプローチによって紐解いている。展示室内にズラッと並べられた展示ケースの中には比較鑑賞も交えた無数の展示物が並べられ、その上のパネルには詳細な解説が添えられている。実に多角的な解説による展示は「これぞ “かはく” の真骨頂!」と唸らされる内容だ。
会場風景
その上で局面ごとに関連性の高い種類の宝石をフィーチャーしている。例えば、トルコ石の展示にはウズベキスタン、イラン、中国、オーストラリア、アメリカ、ブラジルの計8か所から算出された石が並べられ、同じ種類の鉱物でも産出地ごと成分によって微妙な色の違いがあることがわかる。そのほかにも解説の中には「なぜ宝石は七色に輝くのか」「カラットの語源は?」といった次の日の職場や学校でうんちくとして語れそうなギモンの答えが詰まっており、知識になることは尽きない。
「ガーネットの種類」の展示

「トルコ石」の展示

独立した展示ケースの中に置かれていたのは、1カラットを越える石が少ないルビーにおいて、大粒で透明度が高く、濃く美しい赤色が特徴のミャンマー モゴック産「ピジョン・ブラッド ルビー」だ。吸い込まれそうなその宝石の近くには、フローライト(蛍石)など紫外線を当てられることで光る宝石を見せる暗室のコーナーもある。
「ピジョン・ブラッド ルビー」の展示 個人蔵、協力:モリス

「あまり知られていない宝石」の展示

途中には「あまり知られていない宝石」や「巨大宝石」、「日本産の宝石」の展示も。翡翠は日本古来の宝石として知っていたが、オパールやアクアマリンが日本で採れるというのはやや驚きだった。
ヴァン クリーフ&アーペル、ギメル、そして古代のジュエリーにうっとり
既にここまでで展示数も解説の文字数も大量。あまりの情報量の多さに脳みその中が渋滞する人も少なくなかろう。しかし、これより後は職人の手によって芸術の域に昇華されたジュエリーの数々を堪能できる内容だ。
第4章「ジュエリーの技巧」では、フランス・パリに本店を置くハイジュエリーメゾン「ヴァン クリーフ&アーペル」と、神戸・芦屋発のジュエリーブランド「ギメル」の製品を展示し、宝石の美しさを引き立てる「仕立て(セッティング)」の仕事に着目している。

「ヴァン クリーフ&アーペル」によるジュエリーの展示

《ランビタシオン ネックレス》〈パル ド レジャンド(伝説の舞踏会)〉コレクション ヴァン クリーフ&アーペル 所蔵
金やプラチナなどの素材を使い、宝石にあった方法でセッティングを行う。常日頃から身につけるものだからこそ、美しい芸術性とともに強度も重要になる。当たり前のことであるが、その2つが共存してひとつの逸品が成り立つ。その輝きと技巧の共演に見惚れる。そして「ギメル」による日本らしい春夏秋冬のジュエリーも見ものだ。
「ギメル」による四季折々のモチーフをジュエリーで表現したシリーズ「Four Seasons」展示
ラストの第5章「宝石の極み」では、装飾品の域を越えて歴史的な美術品、文化財として伝承されてきた古代のメソポタミアやエジプトから現代までのジュエリーたちを見ることができる。展示ケースだけに照明が灯る展示室は、それぞれが放つ鮮烈な美しさを集中して味わえる空間だ。
ナポレオンの名将モルティエ元帥よりリュミニー侯爵夫人へ送られたピンク・トパーズとアクアマリンのパリュール 1820年頃 個人蔵、協力:アルビオン・アート・ジュエリー・インスティテュート

50's ブルガリサファイアとルビーのムガール・スタイルのネックレス 1950年頃 アルビオン・アート・コレクション

それぞれの豪奢な造形もさることながら、ネーミングからも背景にあるドラマが伝わってくるかのようだ。《ナポレオンの名将モルティエ元帥よりリュミニー侯爵夫人へ送られたピンク・トパーズとアクアマリンのパリュール》や《エジプト宰相ラモセのためのグリーの蛇紋石の心臓スカラベ》といったものたちが、持ち主にどう愛され、あるいは権力の象徴とされてきたものなのか。人々を魅了し、時に魅惑させる宝石という存在の中に歴史のロマンを感じる。
きっと、もうこれ以上の言葉はいらない。煌めくジュエリーの世界にどっぷりと浸ってほしい。
ヴュルテンベルク王室旧蔵 ピンク・トパーズとダイヤモンドのグラン・パリュール 1810-1830年頃 個人蔵、協力:アルビオン アート・ジュエリー・インスティテュート
第2会場にも関連展示があるので最後までお見逃しなく。なお、今回は極めて小さな展示品が多い展覧会なので、より詳細まで見るためには鑑賞用のルーペを持参した方がいいかもしれない。特別展『宝石 地球がうみだすキセキ』は、6月19日(日)まで東京・上野の国立科学博物館で開催中。

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