福井晶一が芸能生活25周年 ディナー
ショー開催に向けてデビューから現在
までの歩みを聞く

ミュージカル俳優・福井晶一が芸能生活25周年を迎える。この度、オフィシャルインタビューが届いたので紹介する。

劇団四季に17年間在籍後、『レ・ミゼラブル』『ジャージー・ボーイズ』等の舞台で活躍するミュージカル俳優、福井晶一が3月23日、芸能生活25周年記念のディナーショーを東京會舘で行う。開催に向けて鋭意準備中の福井に、25年間の感慨、いくつかの出演作の思い出を訊いた。
人生の節目、節目に“夢”があった
ーー今回は芸能生活25周年を記念してのディナーショーとのことですが、25年はご自身としては早かったですか?
そうですね、特に20年から25年は早かったです。順調にお仕事をさせていただいたこともあるし、歳のせいもあるかもしれません(笑)。
劇団四季時代は組織に守られていて、先輩や仲間もたくさんいたので、自分で強い意志を持つというより、いい意味でみんなで調和しながらやっていましたが、退団後は、自分自身の意見を持っていないと壁にぶつかることもあり、苦労することもありましたね。
劇団だと皆、同じ方法論で同じ方向に向かっているのであまり迷いはないけれど、外部ではいろんなジャンルの方が集まっていて、演出家の方法論も様々。それは自分が求めていたことでもあるけれど、その方によって重きを置くところが変わってくるので、自分がどういう芝居をしたいのかを明確にしないと、変に影響されてしまうこともあるし、逆に要求された時に対応できる柔軟性も必要だと感じました。退団して9年目の今は視野も広がり、少しずつ分かってきたなと感じています。
ーー今回のショーの副題は“Dreaming”。夢見ること、というストレートなテーマが素敵ですね。
僕の初舞台が、(『青い鳥』のミュージカル化である)『ドリーミング』だったのと、僕が舞台を夢見たきっかけの舞台『シャボン玉とんだ 宇宙までとんだ』に“ドリーム”という曲があることから、今回、この言葉を選びました。
僕は高校野球で甲子園を目指していましたが、挫折し、目的もないまま高3の夏を過ごしていた時、この作品の映像を観ました。この時(主演の)土居裕子さんの歌声に感銘を受け、舞台という“第二の夢”が見つかったのです。今回のディナーショーでは、“夢”を通して初心に戻り、皆さんと僕の軌跡を振り返ることができたら、と思っています。
初舞台~劇団時代のあの役・この役
ーー初舞台にはどんな思い出がありますか?
僕の故郷の北海道での公演で、『ドリーミング SAPPORO』というタイトルでの上演でした。光の精役の志村幸美さん、夜の女王役の下村尊則さん(現・下村青さん)はじめ豪華なキャストで、すごいカンパニーに入れていただいたな、と圧倒されました。必死すぎてあまり記憶がないのですが(笑)、人間のエゴに対して森で怒りを表現する“牛”役とか、“呑む幸福”とか、アンサンブルとしていろいろな役を演じましたね。今回はこの作品のテーマ曲を、オープニングやエンディング、語りのシーンなどで使わせていただく予定です。
ーーその後『キャッツ』でマンカストラップに抜擢され、様々な大役を体験。代表作のなかからいくつか振り返りたいと思いますが、まずはヌビアの王女との禁断の恋におちるラダメス将軍を演じた『アイーダ』はいかがでしょうか。
転機になった作品でした。それまで動物役が多かったので(笑)、初めて一人の人間を掘り下げて演じさせていただいたのですが、実はオーディションでは落ちていたんです。ラダメスはシングルキャストという方向性になりかけていたところ、“絶対もう一人いないと喉がもたない”という声があがったそうで、突然呼ばれて勉強することになりまして。既に半分くらい出来上がったところから、参加することになりました。
当時、劇団内ではブロードウェイに観劇に行く人が多くて、僕も『アイーダ』は現地で観ていたのですが、その時はゾーザー役がかっこいいな、将来この役をやれたらいいなと思っていました。でも仲間たちから“ラダメスは福井君にぴったりの役だよ”と言われて、“そうなのかな?”と意識するようになっていて、確かにリーダー役は『キャッツ』でも経験していたので、将軍役には違和感なく入ることが出来ました。あと、アイーダの主張を聞いて自分の間違いを認め、考えを変えるところも魅力的ですよね。男性としても、時代的にもなかなか出来ることじゃない。アイーダも彼のそういうところに惹かれたのではないかと感じました。
ーー女性からすると、終盤のあの四角い空間に閉じ込められて以降の演出は、残酷でありつつ、非常にロマンティックに映ります。男性の福井さんはどんな感覚でしたか?
同じです。すごくロマンティックだと思うし、幕開けと最後が同じ光景で、来世で……というのを想像させる演出が素敵だなと思っていました。実際演じているときは、二人とも苦しいですが。心は苦しいけど、一人じゃないという思いと、生まれ変わってもきっと…という思いがあって、その後の美術館のシーンでは自然に“居る”ことができました。
ーー今回のディナーショーでも歌われますが、エルトン・ジョンのメロデイはいかがでしたか?
劇団四季のそれまでのレパートリーにはないタイプの楽曲でしたね。そのひとつには、立ち上げの時に役者自身が原曲に訳詞を乗せていく作業に関わることが出来て、自由度が高かったんです。歌い方についても、普通初演の歌い方はそれ以降も継承されるけど、『アイーダ』の場合はここは自由に歌っていいというのがけっこうあって、僕ともう一人のラダメス役の阿久津(陽一郎)さんとでは違う部分があって、自分の歌いやすいように歌えたので楽しかったです。ブロードウェイ版のアダム・パスカルの(パンチの効いた)歌声の印象が強いだけに、どうしたら日本語であのロックのグルーブ感をだせるかな、と阿久津さんと相談しながらやっていましたね。
ーー最近スピルバーグ版の映画が公開された『ウエストサイド物語』では、トニー役を演じました。
とにかく歌が大変でした。“トゥナイト”にしても“マリア”“サムシング・カミング”にしても、それまで歌ったことのないような繊細な曲調で、テクニックも必要で。ファルセットも多くて、苦労しました。
当時僕は別の演目に出ていたのですが、『ウエストサイド物語』のトニー役のうち、一人がけがをしてしまって、もう一人も新作の立ち上げで抜けなくてはならなくなり、急遽出演することになったんです。座内オーディションで女性の受験者の相手役をつとめたのですが、その時に浅利先生がトニーに合っていると思ってくださったらしく、呼び出されて“お前、出来るか”と言われまして。その時点で“トゥナイト”しか歌えなかったけど、一週間で舞台に出ました。毎日、ベルナルド役の加藤敬二さんとリフ役の飯野おさみさんが練習につきあってくれて。
若かったからできたんでしょうね。それまで、トニー役は(山口)祐一郎さんや石丸(幹二)さんはじめ、爽やかな二枚目が演じてこられて、最初は先生から“お前がやるとガツガツしてるんだよ”と怒られましたが(笑)、最終的には“今までにない、男くさいタイプのトニーが生まれたな。これはこれでいいな”と褒めて下さって嬉しかったです。
ーー芸域が広がったのですね。
それまでフィジカルな役が多かったのが、『アイーダ』『ウエストサイド物語』で恋愛ものをやらせていただいたことで、『美女と野獣』での繊細な野獣(王子)役のヒントになったと思います。
楽しみなスペシャル・コラボ
ーー退団後の代表作としては、まず『レ・ミゼラブル』が挙げられますが、今回のディナーショーでは昼の部のゲストに、ともにジャン・バルジャン役をつとめた佐藤隆紀さん(LE VELVETS)を招かれていますね。
ちょうど昨年、『レ・ミゼラブル』に出演中に今回のディナーショーの構想を練っていて、ゲストはどなたに……と考えていたとき、“あ、隣にいるじゃないか”と(笑)。シュガーのバルジャンに対して僕がジャベール、という組み合わせでやれたら面白いなというのがあって、『レ・ミゼラブル』で指揮している森亮平君にアレンジをお願いしたら、“面白いですね”とノリノリでやってくれて。スペシャル・バージョンのバルジャン✕ジャベール対決をお楽しみいただけると思います。
ーー夜の部のゲストは中川晃教さんです。
退団後の大事な演目として『ジャージー・ボーイズ』が浮かんできて、アッキー(中川晃教さん)は忙しいから無理だろうな……と思いながらダメもとで聞いてみたら、快く引き受けてくれました。
『ジャージー~』は初演キャストの一人として、すごく苦労した思い出があります。稽古場ではみんなで喧嘩することもあって、まさにジャージー・ボーイズみたいでしたね(笑)。初演を経て、再演の頃には音楽的にも、4人の絆もぐっと深まって、お互いを分かり合い、尊敬しあいながら、個性をぶつけあうことが出来たと思います。最終的には“ホワイト・チーム”はいい形で終わって、次の世代に渡せたなという感慨がありますね。
ーーですが今回、中川さんとデュエットするのは『ジャージー~』ではなく、『スターライト・エクスプレス』のナンバーだそうですね。
これまでのショーでは自分で選曲していましたが、今回は劇団四季時代の同期で、今は主にオペラの演出をやっている原純君に構成・演出をお願いしました。
僕の中では別の曲を考えていて、『RENT』の“I’ ll cover you”という、男性の低音と高音の魅力が出せる曲をアッキーと歌ったらどうかなと思っていたのですが、原君に話したら“それもいいけど、もっと二人の声が引き立つ、迫力のある曲が聴きたい”と『スターライト・エクスプレス』を推してくれたんです。
“あー、いいな”と思ってアッキーに話したら、彼もこのナンバーは(井上)芳雄くんと歌ったことがあったらしくて、“いい曲ですよね、僕も歌いたいです”と言ってくれて、決まりました。劇団四季の『ソング・アンド・ダンス』で取り上げられたことがあって、僕としても耳馴染みのある曲です。
25年間の感謝を胸に
ーーショーの最後で歌うのは『シャボン玉とんだ 宇宙までとんだ』の「ドリーム」。福井さんの人生を変えたナンバーと言っても過言ではありませんが、高校3年生で初めて耳にした時、なぜそれほど惹かれたのだと思いますか?
キャッチ―で、シンプルに言葉が心に入ってくるナンバーの魅力もありますが、なんといっても土居さんの歌声ですよね。土居さんの声にはなんともいえない透明感があって、人の心を動かす力があると思います。何度聴いても、そう思いますね。
土居さんとは2020年に『シャボン玉とんだ~』で共演させていただきましたが、あんなに伝説を作ってきた方なのにとても謙虚だし、芝居に真摯に向き合う姿に勉強になることばかりでした。その姿を見て自分はまだまだだと思ったし、いっぽうで、演じる事や歌うことを楽しんでいらっしゃることもうかがえました。演劇って本来楽しいものなんだな、楽しむという姿勢が自分の中で薄れていたかもしれないな、と思い、いろいろな意味で土居さんからは学ばせていただきました。
ーー今回のお客様に、どんなものを持ち帰っていただきたいですか?
今回のショーは、この25年の感謝を込めて企画させていただきました。応援してきて下さった方々と、これまで歩んできた道を一緒に振り返りながら、ともに未来に進んでいけたら……と思っています。
こんなご時勢ではありますが、これからも夢のある世界であってほしいなと思いますし、僕自身がかつて『シャボン玉~』に光をいただいたように、エンターテインメントは人々に、生きる力や光を与えることが出来ると信じています。皆様に楽しんでいただき、希望を感じていただけるショーになれば、と思っています。
取材・文・撮影=松島まり乃

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