Awich、新時代の幕開けを感じさせた
日本武道館ワンマンライブの公式レポ
ートが到着

女性ラッパー・Awichが、自身初の日本武道館公演『Welcome to the Queendom at 日本武道館』を昨日・3月14日に行なった。彼女のMV制作も手掛ける山田健人が日本武道館公演のステージ演出を担当。本記事では、同公演のオフィシャルライブレポートをお届けする。

3月4日にリリースした最新アルバムに『Queendom』と冠したのは、「日本のヒップホップを次のステージに押し上げるためにもっと大きな存在にならなければいけないと思ったから」と、Awichは明かしている。そのリリース直後に開催された初の武道館公演は、「ゴールでもあり始まりでもある」大きな分岐点と位置付けられた。
3月14日武道館。開演時刻が過ぎ、場内が暗転し、ステージ上に立つAwichにピンスポットが当たり、『Queendom』の1曲目を飾る表題曲「Queendom」からライブは始まった。なぜ武道館に立つのかというAwichの半生が綴られた前半パート。これからどうなっていくかという未来への覚悟を綴った後半パート。途中、ステージから炎が勢いよく上がり、文字通り挑戦の舞台の火蓋が落とされた形に。ラストの「荊棘を抜け、立つ武道館!」というフレーズを歌い切り、巨大なビジョンに「QUEENDOM」の文字が映る。その前でしばし仁王立ちし、この武道館を圧倒的なパフォーマンスでもって成功させ、Queenとして歩を進めるんだという決意を漲らせるAwichの姿に大きな拍手が送られる。
あの不敵なイントロが聴こえ、「まさか女が来るとは」と挑発する「Shook Shook」へ。真っ黒いボディスーツのような衣装に身を包んだAwichは歴史的なステージを見届けようと集まったたくさんのオーディエンスを前にアジテートしまくる。ヘビーなビートが貫く「NWO」を披露した後、「まさか女が来るとは。まさかこの私がこんな形でこの場所に立てるとは想像もしてなかった時もあります。だけど今はそれができてる。何でもできる気がする。どこにでもいける気がします。付いてこれんの? 武道館!」とさらにアジテート。
Awichの大きな魅力である「媚びないエロス」が炸裂したブロックへ突入。「Poison」ではゆるふわギャングのNENEが登場し、Awichとふたりでファンキーなリフに合わせてなまめかしいフロウを展開。それぞれが噴射器を持ちお立ち台の上に立って同時にCO2を吹き出しながら「ハマっちまうほど Gimme the poison!」とシャウト。かっこよすぎだろう。このライブは豪華な客演のラインナップが事前に告知されていたが、まず“同志”であるNENEとのコラボから始めるところがAwichらしい。
Awich『Welcome to the Queendom at 日本武道館』
「興奮するのはわかるけど、今日は声に出しちゃダメ。いつかこのためてた分、全部口に出せるの待っててねー!」というコロナの収束を願うMCからの「口に出して」。口に出せない代わりにハンドクラップが巻き起こる。途中で音を止め、「生死をかけて愛されるのは罪?」から始まるとびきりのバースを聴かせる。続くRIEHATA 率いるRIEHATA Dancersの面々が登場した「どれにしようかな」での「女は女らしくとか うるせぇんだよShut the fuck up」というシャウトが武道館に響く痛快さといったら! 女性のためのファイトソングが次々と投下されていく。
「最強ガールズたちでしょ? でも今日は最強のガールズパワーだけでなく私の大好きな仲間たちが駆けつけてくれてます」。DJ U-LEEを紹介し、自らも一員であるYENTOWNの面々を呼び込むブロックへ。破壊力爆発のビートが炸裂した「UP IN SMOKE」が武道館を揺らし、YENTOWN CREWの凄みを見せつける。
武道館2階席からつるされた沖縄の旗を指差し、「あの島で教えられた精神が今の私を作ってます」と話し、同じ沖縄出身のOZworldとCHICO CARLITOを呼び込み、沖縄のカルチャーの象徴でもある首里城が3年前に火災で焼失したことについて書いた「琉~Ryu~」。AwichのリクエストによってOZworldがスペシャルゲストの唾奇を招き、ふたりでOZworldの楽曲「NINOKUNI」を披露するサプライズもあった。
白いベアトップオールインワンの衣装に着替えたAwich。アメリカで最愛のパートナーを亡くし、彼の遺志に則り、愛娘と一緒に遺灰を海と空にまいた時のことを歌った「Ashes」へ。ビジョンには海辺で亡き家族について話す幼き日の愛娘とAwichの映像が流れる。その映像を見つめるAwich。「いつもそばにいてくれて笑顔と勇気をくれたとても強い人がいます」と言い、愛娘Yomi Jahを迎えた「Jah Love」を披露。親娘3人の絆が母と娘によって歌われる。特に「どん底からここまで You held me up」というフレーズは、武道館において格別の響きを伴って鳴っていた。
Awich『Welcome to the Queendom at 日本武道館』
「私のことずっと見てきた人たちはもうわかるよね? 辞めなければいつでもリベンジできます」といって、「Revenge」へ。“最大の復讐は許すこと”。巨大な喪失に何年も苦悩し続けてきたAwichが出した答えとオーディエンスが揺らすスマホライトの光が、多くの傷を救済に導くかのように武道館を照らした。「ヒップホップを諦めないでやってきてよかった。ヒップホップが私を助けてくれたし、私の声をみんなに届けてくれた。いろんな場所にストーリーがあるって教えてくれた。そんなヒップホップに感謝」。ヒップホップの流儀のひとつである自らの育ったエリアをボースティングする「Link Up」だ。沖縄をボースティングするAwichに、東京出身のKEIJU、東海出身の¥ellow Bucksが続く。「そこにもストーリーがあると知った」「要らない壁はもう、砕け散った」というリリックを体現するリアルが炸裂する。
盟友KEIJUと「Remember」を披露した後、ビジョンにAwichと鎮座DOPENESSとDOGMAの顔写真がでかでかと映し出される。「洗脳」の最強のトライアングルによるマイクリレー。「バカばっかだ全く」のシャウトにたくさんの拳が上がる。興奮冷めやらぬフロアに向かってAwichが「武道館まだまだいける⁉ 私のQueendomを語る上で無視できないKingの存在があります。私が日本に帰ってきてまだ誰にも知られてない頃、彼は私に言ってくれました。『やっちまいな!』」。ANARCHYとふたりお立ち台に立って、それぞれの闘志と決意をマシンガンのようなラップでかましあう。最後のAwichの「やっちまいな‼」のシャウトに大きな拍手が送られる。
Awich『Welcome to the Queendom at 日本武道館』
ANARCHYが感慨深げに「俺はこんな日が来ることが最初からわかってた。俺は『やっちまいな』って言ったらしいけど、俺の一言目を彼女は忘れてる。(Awichは)『ヤバすぎる!』って思ったんだよ。『お前誰?』」。もちろんAwichの名を知らしめた代表曲のひとつである「WHORU?」だ。畳みかけるようなセットリストに、右肩上がりに盛り上がる武道館。
JP THE WAVYとYZERRとゴリゴリの掛け合いを展開した「GILA GILA」のパフォーマンスを終え、YZERRが「GILA GILA」の名フレーズにかけて「この会場見て思ったけど、姉さんならもっとイケる!」と言い放ち、Awichが照れくさそうな笑顔を浮かべる。
Yomi Jahのボイスメールをサンプリングした「Skit」が流れ、ドレスに身を包んだAwichが再登場。『Queendom』のラストを飾る「44 Bars」でYomi Jahとの関係性と決意を歌い、「Let’ s go Awich!」と自らを鼓舞。「子持ちの未亡人だってこんなところに立てるんだよ。だからなんだってできる。日本だけにとどまらず世界を目指す。そして日本でもヒップホップがもっとオーバーグラウンドになっていくように私が引っ張っていく。来年はアリーナでやります」という、力強い宣言に拍手が起こる。
「今日はこれまでの私の人生のゴールです。でもこれからの人生の出発点でもある。この神話の始まりの証人になってくれてありがとうございました! この曲もいつかみんなで大声で歌えることを私はあきらめない!」と言ってからの「Love Me Up」。
最後の曲は、再び登場したYomi Jahがしなやかなダンスを披露し、愛娘ふたりでパフォーマンスされた狂おしいラブソング「Bad Bad」だった。オーディエンスがAwichへのサプライズでそれぞれ手に持った1輪のバラを掲げているのが目に入り、感極まったAwichは「みんなにもっと大きな景色を見せるから」と固く約束し、濃密過ぎる約二時間の公演を締めた。
自らの半生を辿り未来への決意を吐露したところから始まり、ガールズパワー、CREW愛、地元愛、ヒップホップ愛、家族愛……深い傷と葛藤を抱きながらもあらゆる存在に愛とリスペクトを捧げ、オーディエンスの心を掴み続けた圧巻の武道館、新たなQueenがそこにいた。
Awich『Welcome to the Queendom at 日本武道館』

文=小松香里 撮影=cherry chill will.

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