森山直太朗という
シンガーソングライターの奥深さを
1stフルアルバム
『新たなる香辛料を求めて』で痛感

随所で感じる新進気鋭の芸術性

もっとも、プロテストソングよろしく世間への告発だけに主眼を置いているわけではないことも、これまた明白である。M3「愛し君へ」はピアノバラード。彼らしいハイトーンを聴かせるメロディアスなナンバーで、歌詞もストレートな内容のようだ。トーキングスタイルのM4「旅立ちの朝」はオルガン入りのバンドサウンドだが、そうアツアツで迫っていないのがポイントであろうか。サビメロもキャッチーでありつつ柔らかく、歌詞の表現方法も普遍的で時代性を感じない。M5「青春のメモワール」はボクサーを主人公に据えた内容。ブルージーなエレキギター、Cメロでの深めのディレイ、アウトロ近くのストリングスで盛り上り…など、シアトリカルなサウンドメイキングも物語になぞらえたものだろう。バラエティー豊かだ。メッセージ性だけを標榜しているわけではなく、メロディー、サウンドと併せてトータルで楽曲をクリエイトしているミュージシャンである。

…と、少し油断(?)していると、M6「例えば友よ」で再び森山直太朗の何たるかを突きつけられる。ケルトミュージック風の音使いでミディアムテンポ。リズムは3拍子っぽい。何だか楽し気だ。フォーク然としたメロディーではあるが、やはりハイトーンが響くところも随所にあって、ここまで聴いてくると、自分のような“森山直太朗弱者”でもその歌唱に慣れてくるというか、ちょっとした安心感のようなものを抱くから不思議だ。そのM6「例えば友よ」はこんな歌詞だ。

《今僕らは 変わらない時代の尖端で/戸惑いながらも 未来へと続く扉を叩く/例えば友よ 隣の芝が気になったら/よく見てみろよ 何もないだろ》《今僕らは 慌ただしい歴史の隅っこで/はにかみながら 夜な夜なコンビニで立ち読みしてる/例えば友よ 誰かに詰られたとしても/詰り返すことなかれ 限がないから》(M6「例えば友よ」)。

プロテストソングとも言えるし、カウンターカルチャーでもある。フォークでもあるし、ロックと言うこともできるだろう。《コンビニで立ち読み》と時代性をサラッと入れているところも見逃せない。弾き語りスタイルでのパフォーマンスも少なくなく、昭和にもあったようなこの楽曲タイトルからしても、いわゆるフォークシンガーと見られてもおかしくなかっただろうし、そう見るリスナーもいたかもしれないが、こうした時代性の取り込みからは、彼の新進気鋭っぷりが如何なく感じられる。少なくとも懐古主義的なシンガソングライターではないことをダメ押しされるようだ。

OKMusic編集部

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