串田和美が運命に立ち向かうリアに挑
む『KING LEAR -キング・リア-』ま
つもと市民芸術館にて開幕

2022年3月12日(土)まつもと市民芸術館 小ホールにて、『KING LEAR -キング・リア-』が開幕。このたび公演のゲネプロレポートと主演の串田和美、演出の木村龍之介のコメントが到着した。

シェイクスピアの4大悲劇の一つで、数々の名優たちがタイトルロールを演じてきた『リア王』を、まつもと市民芸術館が『KING LEAR ―キング・リアー』のタイトルで上演。シェイクスピア劇の若きスペシャリストである木村龍之介が演出し、主人公のリア王は串田和美が、実に45年ぶりに演じるという。まつもと市民芸術館小ホールでの、濃密で贅沢な公演のゲネプロ・レポートをお届けする。
防災シートで作られた銀色の紗幕の向こうで、立ち尽くす王。「世界滅び あなたは揺れて…」とソプラノ歌手の歌声が響き、王の手前では人々がゆっくりとうごめく。歌声に銃声や爆撃音が重なり、彼らが「逃げまどう人々」であることが明らかになると、場内にはリアルな緊迫感が充満。紗幕は血の色の照明を浴びせられる…。
シェイクスピア劇を現代の視点で捉えた演出に定評のある木村龍之介らしい、“まさに今、世界で起こっていること”を想起せずにはいられないプロローグを経て、本編はスタート。リア王の宮殿・大広間に集まった人々が談笑し、場内の空気は先ほどとは打って変わって和やかだ。
上機嫌の老王は娘たちへの領土の分割を宣言し、上の2人の娘ゴネリルとリーガンは王への愛を語るが、末娘のコーディリアはリップサービスを拒否。「私はお父様を愛しています。それ以上でも以下でもありません」というすげない言葉で老王を怒らせてしまう。『リア王』では姉たちが最初から悪女然として登場することが多いが、今回の舞台の彼女たちは、面倒くさい父親に(いつものように)調子を合わせているといったていで「企み」感はなく、むしろ率直すぎる末娘の「KY」ぶりが際立って見えるのが新鮮だ。
『KING LEAR -キング・リア-』 撮影:山田毅
王は末娘を追放して領土をゴネリルとリーガンに分け与え、彼女たちの館にひと月ごとに逗留することを決定。しかしゴネリルたちにとって、気まぐれで何を言い出すかわからない父の相手など、迷惑でしかない。いわば老親の介護にプレッシャーを感じる娘たちが、次第に野心や愛欲にまみれて道を踏み外してゆく過程を、ゴネリル役の毛利悟己、リーガン役の下地尚子が登場の度、隠れた本性をあらわしながらヴィヴィッドに表現。対するコーディリア役の加賀凪は、真っ直ぐで嘘がつけないがゆえに悲劇の端緒を切ることになるヒロインをきっぱりとした口跡で演じ、姉たちと好対照をなしている。
グロスター役の武居卓は軽率にもエドマンドを深く傷つけ、大き過ぎる代償を払うことになる伯爵を人間くさく演じ、一度は王から遠ざけられるも、変装をしてまで忠義を尽くすケント役の近藤隼は終始、一貫した正義感と安定感のオーラをまとってこの役を演じている。また、エドマンドは本作一の策略家だが、その邪悪さのきっかけは、父であるグロスター伯爵からの心無い言葉。この役を演じる串田十二夜は、この台詞を吐かれた瞬間にひどく顔を歪ませ、エドマンドの人間性がこの時、根底から変わってしまったことを印象付けている。
しかし本作の見どころはなんと言っても、実に45年ぶりだという串田和美のリア王だ。
『KING LEAR -キング・リア-』 撮影:山田毅
上の娘たちからのおべっかに相好を崩し、裏切られたと知るとせわしなく歩き回りながら「地獄の悪魔!」と悪態をつく。大自然に向かって叫んだかと思えば、「俺は忍耐の鑑になってみせる」と言って踏ん張る。遂に狂気に囚われながらも、「生まれ落ちると泣くのはな、この阿呆の檜舞台に引き出されたのが悲しいからだ」と鋭い洞察を述べ、最も愛した存在を喪うと、その亡骸を呆然と引きずり、最後に残った僅かな感情を使い果たして倒れ込む。
そうした姿、台詞の一つ一つが串田の肉体を通して圧倒的な迫真性を持って発せられ、愚かしく、間違いも犯してきたが過酷な運命に果敢に立ち向かうこの主人公から、観客は目が離せなくなる。80歳のリアと同年代であり、リアと同じ、いやそれ以上の強靭な精神の持ち主である串田だからこその表現なのだろう。彼…串田リアが見せる「真に人生を生ききる姿」が、悲劇的な結末にもかかわらず、観るものの魂を熱く鼓舞する、この春必見の舞台である。
『KING LEAR -キング・リア-』 撮影:山田毅
主演:串田和美 コメント
シェイクスピアの壮大な作品に取り組むにあたり、普段は演出も兼ねることが多いのですが、今回は役者に専念できて嬉しかったし、タイトルロールということで興奮と喜びを感じながら稽古してきました。その分、期待に応えなければという緊張感で一杯です。
演出:木村龍之介 コメント
串田和美さんとの出会いから始まった今回の『リア王』は、ある時代を特定した作品ではなく、もっと普遍的で雄大な時間を感じられる作品になっていると思います。なぜ、この悲劇が400年前から演じ続けられているのか、この作品を見て感じてもらえれば嬉しいです。
今も、400年前も、同じ悩みを抱えながら、どんな辛い状況になっても前を向いて生きていこうとする、そのエネルギーの中に真実があるんだなと。悲劇ではあるのですが、私たちが生きていく上で前向きになれるような舞台をお届けしたいと思っております。
(取材・文 松島まり乃 / 撮影山田毅)

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