藤巻亮太がキャリアもルーツも音楽愛
もたっぷり込めた、ソロ10周年の"3月
9日"ライブ

Back to the Music!!! 2022 2022.3.9 日本青年館ホール
今年2月、ソロデビュー10周年を迎えた藤巻亮太が3月9日、東京・日本青年館ホールでワンマンライブ『Back to the Music!!! 2022』を開催した。“キャリアの中で節目になった楽曲を演奏する”というコンセプトの下、レミオロメン時代も含む自身の楽曲に加え、ルーツとも言えるカバーも織りまぜた全17曲を披露した約2時間の熱演は、ファンからのリクエストを基にセットリストを作った今年1月22日の有楽町・オルタナティブシアター公演同様、10周年のアニバーサリーにふさわしいスペシャルなものとなった。
「今年も記念すべき3月9日がやって参りました。ようこそ! サンキューの日だから、いつも応援してもらっていることに感謝の気持ちを返していきたいと思います。みんなの思い出の中にある曲の在り方とシンクロしたらうれしいです!」
観客が拍手で迎える中、サポートメンバーとともに登場した藤巻はそんなふうに、ライブに臨む思いを語りながら、「日日是好日」をはじめ、アップテンポのロックナンバーを立て続けに演奏して、序盤から客席を盛り上げていった。バンドの熱演に対する観客の熱烈な歓迎に藤巻も思わず声を上げる。「いいね!」
「日日是好日」は16年3月にリリースした2ndアルバムの表題曲。
「ソロになっていろいろ悩んでいるとき、今日できることをがんばろうと、ものすごく前向きになれた、ターニングポイントになった曲です」
なるほど。ハートウォーミングな歌ににじむ、前へ前へという勢いの理由は、そんなところにあったわけか。そんなふうにキャリアの中で節目になった曲にまつわるエピソードを語るMCもこのライブの聞きどころ。観客全員が耳をそばだてる。
そして、大きな一体感が生まれた序盤の盛り上がりから一転、中盤はピアノの音色を印象的に使いながら、レミオロメン時代の「粉雪」をはじめ、藤巻の曲が持つ、もう1つの魅力であるメランコリーを物語る曲の数々を披露。
「サンキューの日だから、ずっと明るい曲でもいいんじゃないかと思いながら、いろいろな景色を、みなさんに見てもらえたらと悩みながらセットリストを決めました」
テンポを落としながらも、静と動を大胆に行き来する演奏に熱を込める藤巻の歌に、演奏中はじっと聴きいっていた観客が大きな拍手を贈った。
前述したオルタナティブシアター公演でソロになってから初めて演奏したという、レミオロメン時代のロックンロール・ナンバー「モラトリアム」ほか、アップテンポの曲の数々で、再び盛り上げた後半戦では、「ギターを買って、初めて弾けるようになったのがこの曲のイントロだった」というユニコーンの「すばらしい日々」のカバーも披露した。その際、藤巻はこの日、ずっと弾いていたフェンダー・テレキャスターを、ギブソン・レスポールに持ち替え、「中2の時、買ったギターです」と、奥田民生と同じギター=レスポールを買うために、地元・山梨で桃の出荷のアルバイトをしたことを回想。
「バイト代だけでは足りなくて、結局は親が助けてくれたんですけど(笑)。ギターを買って、プロになろうとまでは思わなかったけど、音楽という道が開けた。「すばらしい日々」のイントロが弾けた時の感動は、いまだに忘れないですね。そういう原点があっての今なのかな」
因みに、藤巻のレスポールには奥田のサインが入っているそうだが、その「すばらしい日々」ほか計3曲のカバーを、この日、藤巻は披露した。それぞれの楽曲にまつわるエピソードは、彼のルーツを物語るものなので、会場に足を運べなかった人を含め、興味のある方はアーカイブ配信で、ぜひ。
原点と今、そしてその間にある幾つもの節目を、この日、観客とともに振り返ってきた藤巻が本編の終わりに選んだのは、「光をあつめて」とレミオロメン時代の「3月9日」の2曲だった。「光をあつめて」を節目と考えるのは12年2月にリリースしたソロデビュー・シングルということ以上に東日本大震災の後、被災地を月に1度、訪れる中で生まれた曲ということが大きいようだ。
「1人1人の光を集めていけば、きっと未来は明るくなるんじゃないか」と藤巻が語った曲を作った時の気持ちは、ソロアーティストとして歩み始めた当時の彼の心境とも重なるものだと思う。なかなか歌う機会がなかったというこの曲を、この日、歌おうと思ったのは、2022年の今だからこそ届けられるメッセージがここにはあると考えたからなんじゃないか。
混じりけのない伸びやかな歌声を、たっぷりとした声量で響かせながら、<今はどんな未来も 色を失ったままだけど 光をあつめて>と歌い、その思いを観客と分かちあった瞬間、10年前に作った「光をあつめて」に新たな命が吹き込まれた。楽曲そのものの魅力もさることながら、そうやって歌は歌い継がれていくのだと思うが、友人の結婚式のために作った「3月9日」もその後、20年間、卒業、門出の歌として歌い継がれてきたことは、ファンならご存じのとおり。
「門出の歌としていろいろなところで歌ってもらえている。年々、心を込めてしっかりと歌いたいと思っています」と語った藤巻は、3月9日がとあるファンの新たな記念日になったエピソードを紹介した。
「ファンの1人1人がいろいろな記念日にしてくれている。ほんとにうれしい。物語がどんどん紡がれていく曲なんだと思います。3月9日を共有できた感謝の気持ちを込めて、最後に届けたいと思います」
藤巻の弾き語りに寄り添うようにバンドが音を加えていく演奏を聴きながら、「3月9日」という曲が楽曲本来の意味を越えたところで歌い継がれていくのは、人と人の繋がりの中で大切なことを、声を張り上げたりせずに淡々と、しかし、迷うことなくしっかりと歌っているからなんじゃないかと思ったりも。そんなふうに観客の1人1人がそれぞれに「3月9日」を受け止めたに違いない。演奏が終わった瞬間、大きな拍手が沸き起こった。そして、その拍手は鳴りやむことなく、やがてアンコールを求める手拍子に変わったのだった。
ソロデビュー10周年という節目を迎えた藤巻亮太がこれからどんな曲を作っていくのか、さらに楽しみになってきた。

取材・文=山口智男 撮影=風間大洋

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