odolが新たな布陣で挑んだ1年3ヶ月ぶ
りのワンマンライブ『individuals』
を振り返る 

odol ONE-MAN LIVE 2022 “individuals” 2022.3.4 SHIBUYA PLEASUREPLEASURE
JR東海のCM「会うって、特別だったんだ。」テレビCMに書き下ろした新曲「望み」も話題のodol。人と人の距離や時間について、飾らず深度のある表現を得意とする彼らにぴったりなコラボレーションを通し、新たなリスナーを拡大している今、ステージを舞台のように見せる演出を盛り込んだ自主企画『individuals』の3回目が2Daysに渡って開催された。
ワンマンライブとしては実に一昨年の12月以来。この間、アルバム『はためき』のリリース、ギターの井上拓哉とドラムの垣守翔真の卒業(脱退)、そして3人体制で初のEP『pre』のリリースなど、バンドには大きな動きがあった。今回は11月に行われたイベント『Soundscape』でもサポートを努めた西田修大(Gt)と深谷雄一(Dr)を迎え、演出には同企画を手掛け続けている石向洋祐(POOL inc.)、映像担当で写真家の濱田英明もスタッフに加わったスペシャルな布陣だ。
ステージ上は楽器こそ多いもののすっきりと横一列に並んだスタイルで、背景に2面のスクリーンが垂らされている。前回までの紗幕に囲まれた箱状の物体はないが、スタンドライトと椅子は残されている。開演までの時間を緩やかに変化する色と森山公稀(Pf/Syn)作のインストがループする。メンバーが登場するとイマジネーションに富み、ひたひたと迫るようなインストがしばし続き、椅子に座ったミゾベリョウ(Vo/Gt)が歌い出すと、スクリーンにはピンホールの円が拡大していくような映像が投影される。いわゆるギターサウンドのイメージを凌駕していくスタイルの西田が後半に向かって呻きのような音を奏で、静謐なのにカオティックな空間を醸成。Shaikh Sofian(Ba)のシンセベースも会場を震わせる。一転、森山のピアノが導く「独り」では左右のスクリーンの左はミゾベの横顔、右にはベッドに腰掛けた後ろ姿を投影。その映像の中央で生身のミゾベが歌う構図も面白い。
深谷の4つ打ちのキックがごく淡白な「four eyes」はこれまで以上に複雑な楽器の絡みで、ドロップに向かうまでのカタルシスを積み上げていく。正常な精神から逸脱してく歌の主人公の心情を映すようにギタープレイも逸脱したムードでエンディングに着地。既に披露されてきた楽曲だけに、この5人でのライブアレンジに攻めた姿勢を感じた。さらに新曲である「reverie」はミゾベの三連など独特の譜割りのボーカルが、意味より音として届く。ここまでの4曲はプレイのチャレンジと実際の音像のアグレッシヴさに、新生odolのメッセージが込められていたように思う。
歌を音として聴いている自覚がある中で、偶然かもしれないが、次の曲が「声」だったのも符丁を感じた。ミゾベのファルセットもどこか楽器的。真空に吸い込まれそうな収縮するシンベも、自分がどこにいるのかいい意味で曖昧にさせる。そして、ピアノリフを軸としたオーソドックスなイントロにようやく歌を歌として捉えたのが、今回のセットリストの中では歴史が長いレパートリーにあたる「生活」や「夜を抜ければ」だった。特にこれまでならライブ後半にセットしていた「夜を抜ければ」を前半に演奏したことで、一つの山場を早々に作れた意味は大きい。この曲のエンディングで左のスクリーンから右のスクリーンに移動するかのように、カーテンを開けるミゾベの映像が映ったのはまさにここから“外に向かう”とか、“夜が明けた”印象を与え、直後に右のスクリーンに「夜明」の文が投影された。色やグラフィック以外の映像が説明的にならないギリギリのところで入ってくるさじ加減が、ライブに流れとうねりを生み出す。
その後、インタープレイに突入し、そのまま「眺め」につなぐ。寄せては返すようなピアノと歌に人が一人ずつ加わり、音のレイヤーが生まれていく。プリミティヴなビートに乗り、振り子っぽい譜割りが特徴的なボーカルの「泳ぎだしたら」へ。スクリーンには水面が投影され、水や海の感触を音像とともに想像させてくれる。そして、今回のライブアレンジで聴きどころだったのが、「憧れ」を西田がアコギにリアレンジして、リズムを生み出していたこと。アブストラクトなピアノリフとともに曲を牽引する効果的なアレンジだ。さらに深谷が作り出すシンコペーションが流れるような曲にアクセントをつける「未来」は、隙間の多い音像が新鮮だ。
思えば『はためき』リリース後もワンマンライブはなかったわけで、「未来」も未だ新曲と感じられるわけだが、不思議と続く「小さなことをひとつ」のピアノのイントロには大きな安堵感を持った。映像は窓から見える海、団地、親の背中を掴む子どもの姿など、ごく日常的な景色が投影されるのだが、<この日々が続くことを願った>という歌詞や穏やかなメロディに重なることでもたらされる自分の気持ちのような共振。良くも悪しくも慣れてしまった現在の状況だが、思いの外、緊張している部分もある。それらを溶かして涙に変換するような演奏と演出に感銘を受ける。
本編ラストはピアノのフレーズが繰り返し、ビートも淡々と刻まれる「虹の端(Rearrange)」。徐々に徐々に打音の強さでボリュームを上げていくドラム、喜びの咆哮のようなギターソロでダイナミズムが増幅されていく。ポストジャンル的な辣腕サポートミュージシャンである西田と深谷を迎えて、抜き差しが絶妙な演奏を聴かせてきた流れの中、最も素直な熱演と言えるエンディングで締めくくった。
アンコールに応え登場したミゾベは1年3ヶ月ぶりのワンマン、しかも2日に渡る開催を心から感謝し、関わってくれたクリエーター、そして観客に改めて謝辞を述べた。森山に大事なことを失念していると指摘され、3月16日に「三月」という新曲を配信リリースすることを慌てて告知していたあたりのたどたどしさはいい意味で変わらない。そして最後に演奏されたのは「望み」。ミゾベも西田もアコギを弾き、柔らかいムードを醸す中、躍動するスネアがしっかりと今を刻むように響く。映像はMVが流され、別の場所にいながら心は交差しているふたりを介して、曲のメッセージも伝わった。
ちなみに初日はインタープレイを挟んで逆のセットリストだったそうで、カタルシスの感じ方もまた違ったことだろう。今後のライブやサポートメンバーがどうなるのかはまだわからない。今回は5人が干渉しないパフォーマーとして独立した存在感を放っていたが、次回はどんなodolが見られるのだろう。楽曲評価の高まりに比例した新たなステージを期待したい。

取材・文=石角友香 撮影=濱田英明

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