Cocomi(Fl.)&高松亜衣(Vn.)&角
野未来(Pf.)「クラシック音楽を好
きになるきっかけに」 次世代の若手
演奏家たちのガラ・コンサートに登場

2020年に結成され、新進気鋭の若手演奏家が参加しているタクティカートオーケストラ。その演奏のクォリティの高さとともに、クラシック音楽の裾野を広げる活動にも意欲的に取り組むなど、各方面から熱い視線が注がれている。
2022年5月、タクティカートオーケストラはオーチャードホールにて特別公演『RISING STAR CLASSICS』​を開催する。ガラ・コンサートのスタイルのこの公演には、昨年1月に東京フィルハーモニー交響楽団のニューイヤーコンサートに出演したCocomi(フルート)、昨夏CDをリリースした高松亜衣(ヴァイオリン)、そして藝大フィルと共演した角野未来(ピアノ)が登場し、コンチェルトなどを披露する。
ソリストの3人が、SPICEのために本公演への思いを語ってくれた。(※編集註:写真撮影時のみ短時間マスクを外しています)
――演奏する曲について、選曲の理由、曲の聴きどころを教えてください。
角野:私はガーシュウィンの《ラプソディ・イン・ブルー》を演奏します。クラシック音楽になじみのないお客さまにも聴きに来ていただきたく、みなさまもご存知の曲が良いと思い選びました。ジャズの要素が強く入った曲なので、一緒に楽しんでいただけるかなと思います。
普段、クラシック音楽の作品を弾くことが多いので、ジャズの砕けた感じや即興的な要素などを表現するのは難しいなと感じています。でもその分、いつもよりも自由に表現できるので、そういうところが楽しいですね。
――お兄さまの角野隼斗(かてぃん)さんは、この作品をよく演奏していますよね?
角野:兄の得意な曲なので、アドヴァイスをもらう予定です。兄と弾き合う時、お互いに思ったことを言い合うことは時々あります。でも、レッスンしてもらうのは初めてです。
高松:私が演奏するチャイコフスキーの《ヴァイオリン協奏曲》は、ヴァイオリンの作品のなかでも特に有名です。ドラマや映画で取り上げられるなど、さまざまなところで聴かれるよく知られた作品。私にとっても、こどもの頃からの憧れの曲で、中学生のとき初めてのリサイタルで演奏した思い出の作品です。当時はピアノ伴奏での演奏で、この協奏曲をいつかオーケストラと共演するのが夢でした。今回、初めてこの曲をオーケストラと演奏させていただきます。
この協奏曲は3楽章構成ですが、コンサートでは第1楽章を演奏します。第1楽章だけでおよそ20分……中身の濃い音楽です。ボーっと聴いていたら「あれ、このメロディ……さっきも聴かなかった?」という感覚に陥ってしまうかもしれませんが、そういうものが積み重なったその先のラストは、とても感動的です。
Cocomi:クラシック音楽のコンサートに初めて来てくださるお客さまにも楽しんでいただければと思い、古典派の作曲家モーツァルト(《フルートと管弦楽のためのアンダンテ》)と、ロマン派の作曲家サン=サーンス(《ロマンス》)を選びました。2つの時代に書かれた美しいメロディや、それぞれの作品の魅力を感じでいただければと思います。
フルートは、弓やリード、マウスピースを使う楽器ではなく、直接唇に楽器が触れるので、はっきりと一人ひとり音が違うのが魅力のひとつです。サン=サーンスの《ロマンス》は、音楽の流れの美しさだけではなく、ひとつの小節やひとつのフレーズのなかでも、また曲を通してでもきらりと光る……例えば、原石のなかにあるダイヤのひとつを光らせる……そんなハーモニーの書き方もすごく好きです。まだ譜読み段階ですが、フレーズが少し長くて、その長いフレーズのなかでも和音を構成する音の色合いを少しずつ変化させ、いかに聴いている方を飽きさせないかを考えています。例えば、長調から短調へと移り変わると、こんなに音の色彩が変化するんだという、ワクワクした感じをどれだけお伝えできるかに、挑戦したいと思います。
――今回の演奏曲で、影響を受けたアーティストの演奏があれば教えてください。
Cocomi:いろんな演奏家を聴いていますが、音楽の作り方としては、エマニュエル=パユさんにとても憧れています。楽譜に書いていないところで、アーティキュレーションを施してみたり、ふつうでは考えられないところで間を入れたりするのですが、音楽の作り方は不自然ではなく、その読譜力と言いますか、譜面からを浮かび上がる物語をすごく巧みに表現するフルーティストだと思います。
高松:私は、昔のヴァイオリニストですけれど、ダヴィット・オイストラフ。ずっと聴き続けている大好きなヴァイオリニストです。彼が演奏するチャイコフスキーの《ヴァイオリン協奏曲》の動画を、それこそ頬の動きもマネできるくらい(笑)、何度も聴いています。こどもの頃から、クライスラーやメニューインといった昔のヴァイオリニストの音源を聴いて育ちましたので、その時代のヴァイオリニストの方が詳しいかもしれません。
オイストラフさんのこの曲の演奏は、初めて聴いた時、音がキラキラしているところに惹かれて好きになりました。でも、聴き続けていくうちに、奥が深くて芯が太い音にも魅せられ……もちろん技術も素晴らしいのですが、特に彼の音色が好きです。
角野:小曽根真さんの演奏する《ラプソディ・イン・ブルー》が大好きです。それから、兄がこの曲を演奏するのを、実際にコンサートで聴きましたが、この曲は作品自体も素晴らしいのですが、それぞれの演奏者が自分のパーソナリティを強く打ち出し、表現する曲だと思っています。ガーシュウィンのどの作品もそうですけれど、そのリズムの感覚を身体に落とし込むのに時間がかかります。
――みなさん、指揮の榊真由さんとは初共演だそうですが、角野さんと高松さんはタクティカートオーケストラと以前に共演していますね。
高松:このオーケストラには、ソリストとして演奏していてもおかしくないレヴェルのみなさんがたくさん出ています。若くて演奏水準が高く、とても刺激的なオーケストラだと思います。
角野:メンバーのみなさんは同世代ですが、すでに音楽家として積極的にさまざまなところで活躍されています。とても生命力のあるオーケストラだと思います。
――このオーケストラが掲げる「クラシック業界に新しい風を」という方針や、今回の企画についてどう思いますか。
角野:タクティカートオーケストラは、クラシック業界を活性化するような新しい企画にいつも取り組んでいます。クラシック音楽の品位を保ちつつ、入り口を明るく広くすることは、やっていかなければいけないことだと思うので、とても共感します。
高松:「クラシック音楽ってわかりにくい」とか「コンサートにはどんな服を着ていけばいいの?」という話をよく聞きます。今回のコンサートでは、広く知られていてわかりやすい曲をとり上げています。オーケストラの素敵な音色を楽しんでいただき、クラシック音楽をもっと好きになってもらえるきっかけになることができれば、と考えています。
Cocomi:お二人の意見にとても共感しています。「クラシック音楽をしている」と言うと、「あ、そうなんだ……でも私わかんないんだよね」と言う方もいらっしゃるので、このオーチャードホールの公演では、初めてクラシックの演奏会に来ていただいたお客様にも、一瞬でも音の響きや楽しさ、そして美しさを感じていただけるように演奏ができたらと、願っています。
――みなさんは、オーケストラと共演されています。オーケストラと演奏する時の心境などを教えてください。
角野:ピアノは基本的に一人で弾くことが多いのです。オーケストラのように、大勢の奏者が一緒に弾いてくださることは何よりも心強く思います。音楽的にも、さまざまな掛け合いはひとりでは絶対にできませんし、いろんな楽器の音が聴こえてきます。そういう楽しさがありますね。難しいところは、ぜんぜん種類の違う楽器がたくさんあるので、ピアノの響きがオーケストラに埋もれないためには体力的にもかなり大変です。それから、いろんな楽器との掛け合いのなかでバランスを考えるなど、一人で弾く時とはまったく違うように構成していかなければいけないところが多く、そういう楽しさもあり、また難しさもあります。
高松:一緒に演奏してくださる方がたくさんいらっしゃること、そして曲としてソリストを務めさせていただくことに責任を感じて、とても緊張します。でも、オーケストラは楽譜が緻密に構成されていて、いろんな種類の楽器がひとつの方向に進んでいく……そこがとても素晴らしいと思います。すごい景色を見ている感じで、楽しいですね。
Cocomi:私はオーケストラと共演させていただいた経験は少なくて、普段、演奏会などでは主にピアノと演奏しているのですが、ピアノと演奏するだけでもとても幸せです。フルートは、和音が奏でられない楽器……ひとつの音しか出せないので、ピアノが同時に鳴るだけですごく楽しいのに、オーケストラと一緒に演奏するとなると、違う楽器のさまざまな音色が重なり合い、幸せ度がとんでもない感じです! 冷静でいなければ、すべての音を聴きとれなくなってしまうので、しっかりと音を聴かなければなりません。大きなアンサンブルという感じですので、オーケストラとどう交わって溶けていくのかを、頭に入れて奏でたいと思います。
――目指す演奏家像について、今後どのように演奏活動をしていきたいですか。
角野:刺激にあふれたこの世の中……自分が能動的に動かずとも脳を楽しませる刺激が世の中にあふれていると思います。コンサートで最初の音が出る瞬間、多くの人が息を呑んで待ち望む緊張感に満ちたその瞬間が私は好きです。あの瞬間って、日常ではありえないと思うのです。そういう刺激のない刺激のようなものが、コンサートの醍醐味だと思っています。そのような良さを、みなさまに知っていただければと思います。
高松:例えば、クラシック音楽のコンサートになかなか足を運べない、またそういう心の余裕のない方にも、音楽を届けられる演奏家でありたい。人の心の隙間を埋められる人になりたいと思い続けてきました。その心の隙間にも音楽を通してアプローチできる音楽家でありたいと、ずっと思っています。それから、クラシック音楽やヴァイオリンという楽器の魅力や面白さも伝えていきたいです。
Cocomi:クラシック音楽だけではなく、いろんなジャンルにも挑戦していきたいと思っています。それから、演奏させていただく者としては、「音楽を届けたい」という願いは共通しているので、そのきっかけと言いますか、第一段階になれればと思います。例えば、自分が好きな紅茶を誰かに紹介したとして、相手の方から「この間すすめてくれた紅茶、とても美味しかった」と言われるのって嬉しいじゃないですか。それと同じ感覚で、「この曲すごくいいよ」とおすすめして、例えばそれがチャイコフスキーの曲だとしたら、「チャイコフスキーのその曲が好きになった」「クラシック音楽が好きになった」……そういうきっかけとなれるような音楽を届けられる演奏家になりたいですね。
――SPICEの読者の皆さまに、コンサートへの抱負をお聞かせください。
高松:憧れの曲をオーケストラと演奏させていただけることを嬉しく思っています。この曲への思いや今まで学んだことすべてを注ぎ込めるように準備して、本番に臨みたいですね。この素敵なホールに負けないような演奏ができればと思います。ソリストの角野さんとCocomiさん、そしてオーケストラのみなさんもとても素晴らしく、楽しい曲が揃っていますので、コンサートへ行こうかどうしようかと迷っている方は、「今しかない!」ということで、お越しいただけましたら嬉しいです。
角野:このコンサートは、ソリストもオーケストラも若いエネルギーのあるみなさんで構成されています。それから、いろんな時代の作品によるプログラムもとても魅力的で、聴いていてまったく飽きない、楽しいコンサートになるんじゃないのかなと思います。オーチャードホールがある渋谷は、アクセスも街の雰囲気も良いと思うので、みなさまのおでかけの予定のひとつに加えていただければと思います。
Cocomi:オーチャードホールという素晴らしいホールで、再び演奏する事ができて本当に嬉しいです! とても光栄です。そして、角野さんと高松さんがそれぞれ演奏されるガーシュウィンの《ラプソディ・イン・ブルー》やチャイコフスキーの《ヴァイオリン協奏曲》は、すごく好きな曲なんです。自分の演奏が終わった後、そのままオーケストラに加わって演奏したいくらい好きな曲なので、ぜひ聴いていただきたいです。
左から Cocomi、高松亜衣、角野未来
取材・文=道下京子 撮影=髙宮悠里

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