山本耕史、姿月あさと、鈴木福らが出
演 ミュージカル『不思議の国のひな
まつり』公演レポート到着

J-CULTURE FEST presents 装束 meets ミュージカル 『不思議の国のひなまつり』が、2022年3月3日(木)に初日を迎えた。
『J-CULTURE FEST』は、2017年1月の初開催以来、音楽や狂言、歌舞伎など日本古来の伝統芸能に新たな価値を見出して頂きたいとの思いから、日本が誇る各界のアーティストが出演する公演や、魅力的な「にっぽん」の文化体験空間を創出し、毎年お正月の恒例イベントとして東京国際フォーラムを会場に実施。
J-CULTURE FESTのオリジナル企画として2018年から始まった井筒による、本物の装束を纏う舞台公演は、「伝統と革新」の公演として好評を博してきた。
そして今回は開催時期にふさわしい、「ひなまつり」をテーマに、花組芝居の加納幸和が書き下ろし作品を自ら演出。仕舞われたままの雛人形達が、飾って欲しい!と人間を箱の中へ誘い込み起こる騒動を、本物の装束(資料に基づき研究のために再現された衣服)を纏った多彩な出演者が演じる。
このたびオフィシャルレポートが到着した。(以下、ネタバレあり)

雅でファンタジックな世界へようこそ! 装束meetsミュージカル『不思議の国のひなまつり』公演レポート
2022年3月3日(木)、東京国際フォーラムにてミュージカル『不思議の国のひなまつり』が幕を開けた。「現代に続く日本文化体験」を目的とするJ-CULTURE FESTの一環として開催された本作は、本物の装束✕エンターテインメントを届けてくれるシリーズの最新作でもある。今回のテーマはずばり、「ひなまつり」。数十年仕舞われたままの雛人形たちが「今年こそ飾って欲しい!」と持ち主の少女を箱の中に誘い込んだことから起こる騒動を描くファンタジックミュージカル。作・演出を手がけるのは花組芝居の加納幸和だ。
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観客を物語へと誘う合図はピアノの調べ。少し怪しげでどこか懐かしげな旋律に徐々に和洋の楽器が重なり合い、やがて二胡が「うれしいひなまつり」のメロディーを奏ではじめる。ここはどこ? ──どうやら現代の日本のようだ。
ミュージカル『不思議の国のひなまつり』 写真:宮川 久
街の中、制服姿の弥生節子(寺田 光)が、可愛さと凛々しさを兼ね備えた着物姿の太郎(鈴木 福)に遭遇する。不思議な存在感を放ちながら歌い出す太郎。寄り添う笛の音も心地よく流れる歌は、太郎が節子に告げる雛人形たちの嘆きの思い。節子を包む空気が少しずつ変わっていく。そして迷い込んだ、雛人形たちの世界=箱の中! 黒背景に浮かぶ蜘蛛の糸の模様も印象的な空間で、節子の不思議な旅が始まる。
ちなみに場内は幅広な会場の形を生かして真ん中にステージ、左右にそれぞれスクリーンと演奏者たちというシンメトリーなセットになっているが、これもまたシンプルだがそこにあるものを引き立てる雛壇のしつらえに想起した配置、と考えるのもまた面白い。
ミュージカル『不思議の国のひなまつり』 写真:宮川 久
三人官女のお姉様方、右と左の立ち位置がわからず混乱する左近衛中将と右近衛中将…と、節子が次々に遭遇する人形たちはみな年に1度の晴れの日に備えて綺麗な衣裳に身を包み身支度を整えているが、長く箱から取り出されないことに寂しさと少しの苛立ちを抱いている様子。
ミュージカル『不思議の国のひなまつり』 写真:宮川 久
目の前の少女が自分たちの持ち主であることを知ると、「いよいよか」と心を踊らせる。どの人形も雛人形を眺めたり飾ったりしたことのある人なら「あの人形たちか」とわかる出で立ちに親近感が湧く。また、それぞれにチームワークもよく、コミカルな仕草とキャラクターの特徴を生かしたオリジナルナンバーの数々も耳に楽しい。「私の雛人形たちもオフシーズンの箱の中ではこんな風に過ごしているのかも」と、つい想像を巡らせてしまった。
ミュージカル『不思議の国のひなまつり』 写真:宮川 久
ミュージカル『不思議の国のひなまつり』 写真:宮川 久
ミュージカル『不思議の国のひなまつり』 写真:宮川 久
続いて登場したのは小野小町(岩立沙穂)・清少納言(行天優莉奈)・紫式部(込山榛香)の三賢女だ。「女3人寄ればかしましい」の言葉通り、一見仲良く見えてもそれぞれ譲ることのない“マウント取り合戦”、プライドにじむ“平安あるある”満載のガールズトークが新鮮。装束もパステルカラー風の色合わせや、元気な橙系、可憐な紫系などが取り入れられ、大振りな花モチーフの髪飾りも可憐さを引き立てる。和装ならではの衣装の揺れを生かしたダンス、しっとり可愛い系の歌で舞台上にフレッシュな華が咲いた。
ミュージカル『不思議の国のひなまつり』 写真:宮川 久
ミュージカル『不思議の国のひなまつり』 写真:宮川 久
さあ、いよいよ次は男雛と女雛の登場…と思いきや場面は一転、舞台上は沈んだ空気に。雪洞がぼうっと照らすのは、銀の刺繍が高貴な光沢を放つ白い装束を纏い、紫の病鉢巻の男雛(山本耕史)。長く仕舞われたままで木々の匂いや春の風を感じることもできなくなり、すっかり病んでしまったのだろう。その様子を思いやり寄り添い励ます女雛(姿月あさと)。
ミュージカル『不思議の国のひなまつり』 写真:宮川 久
ミュージカル『不思議の国のひなまつり』 写真:宮川 久
鮮やかな紫色にやはり刺繍の光沢が身分の高さを感じさせる装いだが、やはり憂い顔だ。芯の強さと優しさがにじむ男雛の歌声がしっとりと場内に満ちていく。呼び合うごとく続く女雛の歌声は、二人を見守る私たちの心にも問いかけてくるよう。訪ねてきた市松人形の花子(加納幸和)も心配顔だ。しかしこの花子、入ってきた姿を見て男雛がたいそう吃驚したほどには、大人びた顔立ちと子供らしい大柄が入った赤い着物がアンバランス。何かがおかしい?と、波乱の予感が的中したところで──第一幕はおしまい。
休憩を挟み、二幕冒頭はキャスト総出の「SHOW TIME!」。節子と出会った雛人形たちの起死回生の物語、その結末を前に“雛人形たちが前夜祭的に楽しんでいる宴”の実体化という趣向である。人気のミュージカルナンバー、バリバリに響くエレキギター、和洋のスタンダードな名曲から、心踊るインストゥルメンタルのメドレーまでバラエティー豊かな選曲。装束もロックスター風にブルーに輝く袖なしの上下があったり、裾を引きつつ黒をベースにモダンな柄合わせで現代風のシャープな着こなしを演出したり、小粋なハットを合わせたりととてもおしゃれ。
女性陣の殺陣、意外な顔合わせのコラボダンスのサプライズも。キャスト、スタッフともに楽しみながら好きな歌を選び楽しいパフォーマンスに仕上げていった過程も感じられ、客席も笑顔と大きな手拍子とで参加。これもまた、ここにしかない“たのしいひなまつり”である。
さて、雛人形たち。花子は人形の箱に巣くった蜘蛛の精であることがバレ、節子をさらって逃亡。陽気で機敏な五人囃子も加わり、人形勢が一丸となって蜘蛛退治の戦いへとなだれ込む。蜘蛛の精が逃げ込んだのは豪華な雛御殿! 黒く閉鎖的だった舞台上が一気に華やかな色彩で埋め尽くされる。
しかし、美しい雛御殿に張られた大きな蜘蛛の巣には節子が捕らわれている。ここは全員総出、消沈していた男雛も烏帽子をつけ、漆黒の地に金の模様が映える勇壮な装束で参上。桜色と鶯色の取り合わせが春らしく華やかな女雛も後に続き、自分たちの場所を守る大捕物の始まりだ。何度も蜘蛛の糸を撒き散らし応戦する蜘蛛の精と、刀に薙刀に弓に楽器に和歌にとそれぞれの得意を存分に発揮して立ち回る雛人形たちが入り乱れる舞台上! 行き着く先はもちろんHAPPY END。さあ、節子と共に念願のひなまつりの準備だ。
ミュージカル『不思議の国のひなまつり』 写真:宮川 久
作・演出の加納が遊び心を大事にしながら創り上げた“和モノファンタジー”の世界は、昔ながらのセリフの言い回しや歌詞の数々も耳に心地よく、物語に引き込まれるにつれ意味も自然に理解できた。その手触りは民話や伝説、丁寧に紡がれた絵本に触れるような心地で、これはぜひ子供たちにも体験してほしい世界。
物語を彩る大貫祐一郎が手がけたオリジナルのミュージカルソングもおしゃれ。良質な映画音楽を思わせる軽やかさや普遍的な親しみやすさが備わっていた。ミュージシャンたちによる生演奏も贅沢で、和と洋の楽器が共にあるからこそ生まれる上質な音色はこちらの情緒に大いに訴えかけてくれた。
山本と姿月を筆頭に、花組芝居メンバーなど手練れの舞台人たちと鈴木や寺田、岩立、行天、込山の真っ直ぐでハツラツとしたパフォーマンスのコンビネーションも楽しく、春気分も高まり「綺麗なモノに触れたいな」「エンタメを楽しみたいな」というカジュアルな気持ちも満足させてくれるこの特別感は、ほかにはない本作の個性である。もちろん、照明に映えてさらに素晴らしさを感じさせる本物の装束がもつ「美」は秀逸。まさにリアル雛人形を私たちの目の前に出現させた。
それぞれの思い入れや思い出とも寄り添うひなまつりは、いわば世代を超えた“共通言語”だ。そこを入り口に、楽しみながら日本文化に触れ、ステージパフォーマンスを堪能できる『不思議の国のひなまつり』。2022年に生まれた、ひなまつりの新しい楽しみ方である。
文:横澤由香   写真:宮川 久
ミュージカル『不思議の国のひなまつり』 写真:宮川 久

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