DOPING PANDAが
新たな日本のロックを創造せんとした
志しを『DANDYISM』に見る
バランス感覚の面白さ
M6「Get You」はどこまで意図的なのか分からないけれど、カートゥーンのようなシアトリカルな箇所も含めて、この妙なテンションはここまで何度か述べてきた熱量、そこに通底していると考えていいと思う。M7「Moralist」はボサノヴァタッチからパンクに展開。M8「Hi-Fi」はキラキラとしたディスコティックなナンバーだが、ギターの音がかなり凶暴。いずれもそのバランス感覚が面白い。M7では滑るように流れる主旋律が印象的で、M8ではリフレインする《I love you》《hold me tight》がキャッチーと、それぞれタイプは異なるものの、ベーシックは良質、前述の喩えを用いれば食材の良さを確認できるということになろう。
M9「I'll give (this happy time for you)」もファンクであるが、M5とは雰囲気が異なるところも、このバンドの懐の深さをうかがわせる。ダンスはダンスでも、いろんな躍らせ方を知っている人たちの所業といったところだろう。間奏のギターに先達へのオマージュを感じたのは筆者だけだろうか。実際どこまで影響を受けているのかは分からないけれど、この辺には彼らの音楽が聴き手を選ばないものであることを示しているようにも思う。また、M9は歌詞にも注目したい。
《このdelight持って行こうI hope you like my effort/いま未来見せるnightいつの間にかyou'll stop crying》《どのくらいその部屋でhow long do you wait for whose coming?/その世界抜け出そうI can change your world now》《you pretended you never hear me but/I know you hear my brand new song/いつの間にか踊れ世界はsoul/止まらないit's a happy time》(M9「I'll give (this happy time for you)」)。
前向きで希望を感じさせる内容である。これを即ちDOPING PANDAの音楽性に結び付けるのはいささか短絡的過ぎるかもしれないが、ここに至るまで躍動的なサウンドを浴びていると、真っ直ぐに受け止めたくなるのが人情である。
ミドルテンポのM10「Snow Dance」はメロディアス。歌はゆったりとしていて、Bメロはどこかフォーキーだし、Jポップ的と言ってもいいかもしれない。冒頭はわりとシンプルなバンドサウンドだなと思いながら聴いていくものの、ソウルなコーラスが聴こえてきたり、サイケなストリングスが入ってきたりする一方で、後半のサビに重なるフィドルがカントリーっぽかったりと、さり気ないようにも大胆にも思えるアレンジが興味深い。
M11「Tell Me My Speaker Box」は跳ねるピアノが印象的なポップなシャッフルナンバー。古き良きR&Rの匂いもある。軽快なギターのカッティングに引っ張られるM12「Teenage Dandyism」は、ベーシックはやはりパンクだろうか。若干パーカッションのような音が聴こえるものの、サウンドはかなりシンプルのように思える。コール&レスポンス、シンガロング的な要素もあるし、ライヴバンドであることの矜持が少し含まれているのだろうか。
後半は大分駆け足で紹介したこともあってか、よく言えばバラエティー豊か、逆に言うと、やや彼方此方に行ってる作品と見る向きもあるかもしれないが、その辺も冒頭で述べた志の高さ、高い熱量ゆえのことと、あくまでも前向きにとらえたい作品である。本作はチャート初登場18位とメジャーデビュー作としては好発進。噂が噂を呼び、DOPING PANDAがフェスに参加した際には入場規制がかかるほどだったという。その約3年後に発表された2nd『Dopamaniacs』もチャート18位を維持と今思えば大健闘したのだが、それ以上に突き抜けることなく、2012年にバンドは解散を選んだ。解散時、YUTAKA FURUKAWAは“バンドを取り巻く商業的な環境は必ずしも良くはありませんでした”とコメントしたことから、スターに成り切れなかったことに忸怩たる思いもあったようだ。
そこから10年。再結成に寄せて、彼は“これから向かうのはあの時失った未来とは違う場所ですが、むしろそこへ向かうためにあの日僕らは道を分けたのかもしれないと、今はそんな気持ちです”とコメントしている。メンバーがそう言うんだから、向かう場所は10年前とは違うかもしれない。しかしながら、メジャーデビュー時に示したバンドのポテンシャルまでが違ったものになるとは思えない。『DANDYISM』でも見せた音楽性をさらに進化させ、シーンを揺さぶってくれることを期待したい。個人的には、10数年前のとある宴で“ドーピングパンダ!?”と言った人たちの鼻を明かしてほしいとも思うのだが…。
TEXT:帆苅智之