藤巻亮太、10年間の振り返りと共にラ
イブ『Back to the Music!!! 2022』
に向けて語る公式インタビュー到着

2022年2月、藤巻亮太はソロ活動10周年を迎えた。バンドという青春をあとにして、地図のない旅へと果敢に挑んだ、それは葛藤と成熟の10年間だった。そして今も、旅は続いている。3月9日、日本青年館で開催される記念ライブ『Back to the Music!!! 2022』は、これまでのキャリアのあちこちに刻まれた節目を確かめ直す、特別な一夜になる。10年間の振り返りと、目前に迫ったライブについて、藤巻亮太の言葉から、彼の現在地を探ってみよう。
――10周年おめでとうございます。ソロデビューは、ちょうど2月の今頃でした。
ありがとうございます。(シングル「光をあつめて」を)リリースしたのが2月29日で、うるう年だったので、そうなりますね。実際には、2012年のもう少し前から曲を作っていました。2010年にレミオロメンの10周年のライブをして、終わった後にいきなりヒマラヤでの登山に挑戦して、2011年が始まって。自分なりに考える機会が増えたことでソロという選択肢が出てきて、そこに東日本大震災が起きたということもありますし、2010年から2011年ぐらいは、いろんなことが変わっていく怒涛の時期ではありました。
――それは個人的な内面でも、社会的な状況の面でも。
いろんな意味で価値観がシャッフルされたというか、耕されてしまって、価値観が変わらざるを得なかった。その迷いの中から、ソロ活動が始まったんです。
――そこ、あらためて聞かせてください。まさに迷い、不安もあったと思うし、半面で希望や自由も感じていただろうし、ソロを始めた頃の自分を今振り返ると、どう感じますか。
まず、バンドで歌えたことというのは、すごくいいものだったと思うんです。みんなで夢を共有して、助け合ったり、情熱を注いだり、そういうものがレミオの歌にはこもっていて、あの時期なりに作れた曲なんだろうなとは思うんです。でも、それとは別に、もう一人の素の自分みたいなものとのギャップがあって、たぶん20代の後半ぐらいは、僕だけじゃなかったのかもしれませんが、レミオの自分とは違う自分がいたと思うんです。そこで、(レミオロメンの世界観とは異なる)パーソナルな部分が出てきて。あくまでパーソナルなものだから、光に満ちたものではなかったんですけど、当時の僕にとってはすごくリアリティがあったので。そういうものを表現したいなと思ったんです。
――はい。なるほど。
その表現には、叫びに近いものもあったので、バンドで共有するのは違うのかな?と思ったし、二人とも、言えばやってくれたのかもしれないけれど、バンドとしてそれがどう成立するのか、わからなかったんです。そういうことをやりたいんだったら、自分はそこに賭けてみよう、自分の心の声に従ってやってみよう、というふうに気持ちを切り替えて、ファーストアルバムの『オオカミ青年』(2012年)に向かっていった。その時にはすごく夢がありましたし、あれを作ることで、自分の心のバランスを取れたということはあると思います。だから、『オオカミ青年』以降がすごく大変だったんです。
――ああー。そうなんですね。
それを吐き出せたら、ソロはもういいやと思っていたんですけど、メンバーはメンバーで、それぞれに自分の人生にフォーカスが合っていくということがあって、その先に改めてバンドをやるという選択肢はなかったんです。でも自分は当初、吐き出したいというモチベーションだけだったので、そのあとに、吐き出すだけじゃないものってあるのかな?ということを考え始めるのが、2013年ぐらいからでした。そこから2枚目の『日日是好日』(2016年)までがすごく大変でした。1枚目はある意味、レミオロメンの貯金があったからできたけど、自分で歩いていく中でみつかることを歌っていこうと思えたのが、『日日是好日』だったので。あらためて、ソロでも頑張っていこうというふうに思えたのは、2枚目が大きいかもしれないです。
藤巻亮太
――当時、インタビューさせてもらっていて、藤巻さん、こんなことを言ってるんですよ。「1枚目は衝動だけど、2枚目以降は意志だ」って。
ああ、だとしたら、その言葉は今聞いても嘘じゃないなと思います。自分が藤巻亮太として音楽をやっていく、その覚悟を決めないと前に進めなかったので。そこに自分の意志がちゃんとあって、そこからいろんなことが変わり始めたんじゃないかな。ソロになって、うまくいかないことはうまくいかないし、求められることと自分のやりたいことがずれてきたりしたんですが、それは当たり前なんですよね。もうレミオロメンではないわけだから。そこで等身大の藤巻亮太というものをちゃんと受け入れなくちゃいけなくて、自分なりの歩幅で、自分なりの世界の感じ方で、しっかり1曲1曲作っていこうと思ったのが『日日是好日』だった。それが結果的に良かったと思っているんです。3枚目の『北極星』(2017年)は、ある意味で自分の原点に戻ったというか。
――地元で曲を作ったりしてましたよね。
地元の公民館を借りて、甲府盆地を見ながら、ここが自分にとっての原点なんだなと感じながら、『北極星』の曲を作りました。このアルバムは、ポピュラリティとかはあんまり考えなかったと思うんです。『オオカミ青年』から『日日是好日』へは、開けて行った印象があって、自分の中にあるポップス感を表現したんですけど、次もそっちの方向に行くかと思いきや、もう一回自分のマニアックな部分を掘り下げていくような方向に行ったアルバムなので、自分なりの色は出せたと思っています。もしかしたら、(『北極星』の)次に進むという状況が今あるとすれば、広がりも深さも両方持った上で、音楽をやっていきたい感覚がすごくあるので、その表現を模索しているのが、この5年間だと思います。
――よくわかります。なるほど。
それ以外にも、2018年に事務所から独立したり、『Mt.FUJIMAKI』という地元での野外フェスを始めてみたり、いろいろあって。自分は何が歌えるのか?というものを、頭の中で考えることも大事だけど、体を動かして歌うことで感じて行きたいという気持ちがあって、そういう意味では『Mt.FUJIMAKI』はすごく大きいです。自分で主催しながら、いろんな人たちとちゃんと音楽を作りあげていくという。
――そういうことができる人だとは思ってなかったんですよ。すごい失礼を承知で言うと。
いや、わかります。だから、それをやらないまま、生きていくこともできたと思うんです。それはそれでいいなとも思います、そのぶん違うことに集中できるから。『Mt.FUJIMAKI』は、2年やって、1年はできなくて、去年は現地開催はできず配信で開催して、4年トライして3回できたんですけど、そういう(イベントをオーガナイズする)ことが自分に向いてるかは別として、精一杯やらせてもらいました。それまでは出る側だったので、自分がオーガナイズする側で見える景色は、自分のキャリアの中では見たことのない景色だったし、スタッフのみんなと一緒に作り上げて、自分の思いを出演者に伝えて、その思いを受け止めてくださった方が出てくれて。それはすごくシンプルな原点だと感じたんです。
――はい。なるほど。
『Mt.FUJIMAKI』は、いろんな世代のミュージシャンが、どういうたたずまいで生きていて、どういう歌を歌うのかを直接的に体感できて、ただただ刺激でしかなかったですし、すごく感動しましたし、その中で自分が揺さぶられていくことがありました。フェスをうまくマネージメントすることが目的ではなくて、粗削りだとしても、そこにある生々しさや人間らしさを感じられたら、それは一つの価値だと思うんです。
藤巻亮太
――間違いないですね。時を同じくして、楽曲提供が増えたり、ほかのアーティストとの交流や共演が増えたり。この5年間は、広がりという意味がすごくあったと思います。
日常の生活の中にはないような刺激だったり、価値観だったり、そういうものに自分の常識を揺らされて揺らされて、違う自分が見えてくる。そういう発見や気づきが、音楽を作っていく楽しさだと思うんです。それは、自分が止まると止まるものですけど、今はありがたいことに、そういうことをさせてもらえる環境にあるし、自分自身も変わりたいなと思ってるんでしょうね。だから、得意とか苦手とか、最近あんまり考えなくなったんです。
――とりあえずやってみようと。
とりあえずやってみて、得意不得意がわかるだけでもいいのかな?と。そうやって自分なりに、一か所にとどまらないようにしているのかもしれないです。常にインプットとアウトプットを繰り返して、自分の中で循環させて、ちゃんと何かを感じていきたい。そういう思いが、あると思うんです。
――一貫してますね。この10年間。循環させるという意味では。
一貫してるのかな? でもそういう意味では、写真を撮ってみたり、登山にハマってみたり、フットサルをやったり、20代よりも本を読むようになったり、落語を聞いてみたり、サンドウィッチマンさんにハマってみたり(笑)。レミオをやってる頃は、音楽だけで良かったんです。バンドというコミュニティの中で、いろんなものが完結していたし、それはすごく大きなものであったけれど、同時に狭い世界でもあったと思います。それが良いとか悪いとかではなくて、そのコミュニティを信じて、ただただ音楽を掘って行けた、とてもありがたい時間だった。そこでは、音楽をやっている自分を疑ったことがなかった。でも、そのコミュニティを出た時に、自分の心が安定した状況で音楽を掘っていくことができなかったんです。ソロになって、自分の中を深く見つめて掘っていくことに、なかなか気持ちが向かなかった時に、切り替えて、横に行ったんだと思うんです。広がりの方向に。
――ああ、なるほど、下に掘るのを一回やめて。
根っこを下じゃなく、横に伸ばして行った。横の養分を吸っていくみたいな、そういう言い方をするとポジティブですね(笑)。30代はそういうふうに、横に伸ばしていって、気づけるものがたくさんあったと思うんです。でもやっぱり、自分の中心にある根っこは自分の音楽でしょ?と、今、40代になって、そこに立ち返っている感じがします。広がって得られたものは、自分の10年を支えてくれた大事な栄養分なんですが、そのまま根を横に広げていく人生を歩みたいのか?といったら、やっぱり、もっと深く根を下ろしていくような音楽を作りたいんです。
――また、その時期が来ましたか。
来たと思います。そこに気づくのに、10年かかりました。そのぐらい、人生が大きく変わる経験をしました。ポジティブにとらえると、深さと広がりと、両方の景色が見えたと思うんです。縦に深く関わっていく時のコミュニティのあり方と、横に広がった時のコミュニケーションのあり方は、全然違うので。横のつながりは、人とやりとりしながら、お互いにいい場所をみつけましょうねということだと思うので、そんなコミュニケーションのあり方は、ダントツで30代に学んだような気がします。そういう意味で、20代、30代と積み重ねてきたことで、見えてくる40代もあるなと思っています。
藤巻亮太
――そして、ソロデビュー10周年の2022年。1月22日、有楽町のオルタナティブシアターでの今年初ライブ、すごく評判が良かったですね。ファンから募ったリクエストに基づいた、10周年らしいスペシャルライブ。
久しぶりにスリーピースのバンドでやったこともありますし、ファンのみなさんがくれるリクエストには、本当に愛情を感じました。レミオの頃にはやってたけど最近やってない曲を、「本当に聴きたいんです」とか、ソロの曲でも、「この曲で人生が変わりました」とか、そういうコメントを読ませてもらいました。一人一人の中に根付いてくれている音楽があるんだなと思って、すごくうれしかったですし、その思いに出来る限り応えたいなというのが、大きなモチベーションになりました。とにかく、楽しかったですね。セットリストは、ついついその時の自分の旬みたいなものがあって、今これを歌いたいなと思うと、そればっかり歌っている時があるんですけど、そうでない曲を何年振りかにやってみると、作った時のことを思い出したり、それが脈々と自分の中で生きていることも感じられたり。やっぱり時々は歌わなきゃ駄目だなと思いました。自分の旬だと思っているものばかりやっちゃうと、見えない景色があるんです。そういう意味でも、すごくいいライブでした。
――あの順位は、予想通りだった?
「粉雪」とか「3月9日」は、入ってこないだろうなとは思っていました(笑)。ずっと応援してくれている方々のアンケートらしいなと思ったし、ちゃんと聴いてくださっているなという順位で、すごくうれしかったです。
――1位「モラトリアム」、同率2位で「オオカミ青年」と「指先」でした。
「モラトリアム」は、ソロになって一回も歌っていないんです。レミオの頃はあんなに歌ってたのに。久しぶりにやったら、確かにこの疾走感は、コンピューターの前に座って作っていたら絶対できないなという、曲でしたね。当時はライブで、アッパーな曲で盛り上がりたいという思いもあっただろうし、野心もあっただろうし、現状にとどまらずに前へ前へ突き抜けていく、そういうエネルギーを感じました。それはすごく大事だなと思います。
――そして、次のライブは3月9日、日本青年館での、『Back to the Music!!! 2022』。これは、どういうコンセプトになりますか。
10周年ということで、いろんな節目を感じながら歌うライブになると思います。ミュージシャンにとって、人生が変わるのは、やっぱり曲なんです。もともと自分はミュージシャンになりたいという夢があったわけではなくて、大学生ぐらいまではそんなに思っていなかった。それが大学生になって、自分の曲を1曲作った時に、雷に打たれたように、「なんだこれは!」という経験をして。すごいことに出会ってしまった気がしたんです。そこから人生が変わってしまった。全部は網羅できないけど、「こういう思いで作って、こういうふうに景色が変わったんですよ」ということを話しながら、歌えたらいいなと思っています。そして、あの時エレキギターを手にしなかったら、とか、あの時あの曲を聴いていなかったら、あのライブを観ていなかったら、とか、色々な節目があるんです。十代の頃の記憶として、色あせないものがあるので、そういう曲たちも2,3曲カバーしたいなと思います。
――ということは、2年前に同じタイトルでやったライブ『Back to the Music!!!』は、ほぼカバーでしたけど、今回はバランスが違う。
今回は、自分の曲が多いです。それと、1月のリクエストライブで歌えなかった曲も、何曲か歌えたらと思っています。みなさんに喜んでもらえるよう、どこまでバランスが取れるのか、今考えているところです。
――つまり、藤巻亮太の音楽人生を振り返るようなセットリストになる?
そこまで壮大に振り返ることはできないと思いますけど(笑)。限られた時間の中で、ちゃんと嘘がない部分で、自分の分岐点になった曲や、影響を受けたなと思う曲を、やりたいと思います。10周年の3月9日=サンキューの日なので、応援してくださっているみなさんに感謝を言える日は、自分にとってもありがたいです。コロナ禍で大変な状況なのに、ライブに来たり、応援してくれて本当にありがとうって、いい音楽でお返ししなきゃいけないし、それ以上のものをみなさんにお届けできるようにしたいという、気持ちは強くあります。
――編成は、どうなりますか。
ドラム、ベース、ピアノと、4人のバンド編成でやります。アコースティックギターを弾きながら歌っていくことは、ソロになってからの自分の新しい楽しみなんですけど、やっぱり自分の原点はエレキギターで、バンドで歌うことが好きなんだろうなと思います。アッパーなナンバーも含めて、いろいろな楽曲をお届けしたいと思います。

取材・文=宮本英夫 撮影=成田颯一

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