大竹しのぶが全身全霊でピアフを生き
る! 舞台『ピアフ』が開幕

フランスが最も愛する歌手と名高いエディット・ピアフの情熱的な人生を描く舞台『ピアフ』が、2022年2月24日(木)に東京・日比谷シアタークリエにて開幕した。
パム・ジェムス作の『ピアフ』は2011年に栗山民也演出✕大竹しのぶ主演で日本初演を果たし、その後も約10年に渡って上演を重ね、本公演でついに5度目の上演を迎えることとなった。
初日前日の2月23日(水)に行われた、囲み取材とゲネプロの模様をレポートする。
(左から)竹内將人、山崎大輝、大竹しのぶ、中河内雅貴、上原理生
囲み取材には大竹しのぶ、中河内雅貴、上原理生、竹内將人、山崎大輝ら5名のキャストが舞台衣装を身にまとい登壇した。前回公演から4年ぶりにピアフ役に挑む大竹は「栗山さんが新たに細かく演出をつけてくださっているので、また新しい気持ちでやっているし、新しいキャストとも一緒なので新鮮な気持ちです」と率直な気持ちを述べた。
エディット・ピアフ役の大竹しのぶ
役がブルーノからシャルル・アズナブールに変わって2度目の出演となる上原は「心機一転、初参加するつもりで新鮮に演じていけたらなと思います」と力強く語る。今回が初出演となる中河内、山崎、竹内らは、それぞれが“挑戦”という言葉を掲げて本作への意気込みを熱く述べた。
テオ・サラポ役の山崎大輝
イヴ・モンタン役の竹内將人
コロナ禍での稽古の様子について、大竹は「恥ずかしがっている時間もないので、最初から自分を出して最初から愛さないと、もう無理!(笑)」と答え、続けて「でもお互いに芝居をきちんとできれば、こんなに信頼し合えるチームになれるんだということがわかりました。こういう状況でもチケットを買って来てくださる人に、『ああやっぱり来てよかった』と思わせなくてはいけないので、私たちは」と、一人の役者としての真剣な眼差しを見せた。
(左から)大竹しのぶ、中河内雅貴、上原理生
大竹の座長ぶりについて男性キャスト陣に質問が及ぶと、「正直に言ってごらん!」と大竹が凄んで笑いが起きる場面も。山崎は「ちょっと遠慮しちゃうところもあるなあと思いつつ、でもそこを大竹さんがぶち壊しに来てくださっているのをすごく感じました。なんて器の大きい方なんだろうと、甘えながらやらせていただいています」と笑顔を見せる。続けて竹内も「すっごく優しくて。本当にありがとうございます!」と大竹に感謝した。
(左から)竹内將人、山崎大輝、大竹しのぶ
上原は「稽古でうまくいかないときに、しのぶさんが『みんなで最後まで一緒になって作っていくものだから。気にしないで一緒に頑張ろう』とパッと声をかけてくださったことがあって、それがすごく印象的。見習わなきゃいけない姿勢を行動で見せてくださる方ですね」と、稽古場でのエピソードを明かした。稽古場で遅くまで残る大竹の姿を見た中河内は「自然と僕らもそこに残って見届けてしまうというか。自分から動こうという活力をいただいた感じがします」と、大竹の座長ぶりを振り返った。
シャルル・アズナブール役の上原理生
マルセル・セルダン役の中河内雅貴
特に印象的だったのは、大千秋楽まで公演を重ねると通算200回目の公演になるということに対し「関係ない!」と即答する大竹だ。大竹は「1回1回なんです、本当に。今日のゲネがどうなるか、明日の初日がどうなるかという感じだから。200回をやりたいとか、そういことは全くこれっぽっちも思っていないです」と、実に清々しくはっきりと答えていた。
囲み取材の最後は、座長の大竹からの一言で締めくくられた。「今回改めてピアフと再会して、ピアフの愛に対する想いをまたさらに知って。新しい人たちと出会うことによって、愛って本当に素晴らしいことなんだなと、私自身がまたさらに教えられて。だからこういう状況ではあるけれども、ピアフの魂をこのチーム全体で一つになって届けたいと思います」

囲み取材後、まもなくゲネプロが行われた。そこにはほんの少し前まで朗らかに話していた大竹の姿はない。全身全霊で己の人生を生き抜く、ピアフがいた。
フランスの貧民街で生まれたエディット・ガシオンは、路上で歌うことで日銭を稼ぎ、貧しいながらもたくましく生きていた。やがて彼女はクラブのオーナー・ルプレに見い出され、“エディット・ピアフ”としてステージで歌い始めるようになる。歌手としての道が開けてきたピアフだったが、待っていたのは愛を渇望し続ける壮絶な人生だったーー
上演時間は1幕1時間、休憩25分、2幕1時間30分の合計2時間55分。約3時間の中で、ピアフの人生がこれでもかという程ギュギュッと濃密に描かれていた。1シーン毎の場面転換も鮮やかでスピード感がある。全体を通して非常にシンプルな演出なのだが、それ故に役者一人ひとりの魅力が全面に押し出されているように感じた。
本公演で5度目となるピアフ役に挑む大竹は、圧巻の一言。舞台上に彼女が現れると一瞬たりとも目が離せない。あどけなさが残る少女時代から年老いて死を迎えるそのときまで、ピアフの内にある感情を全身全霊で表現し尽くす姿が脳裏に焼き付いている。そこには出し惜しみなど微塵の欠片もない。舞台上で大竹の全てをさらけ出し、ピアフとして生きているのだ。特に、劇中でピアフの歌唱として披露される「愛の讃歌」「バラ色の人生」「水に流して」等10数曲はまさに絶唱。大竹しのぶという役者の体を通して、ピアフの魂の叫びがダイレクトに心に突き刺さる。
ピアフの人生に登場する人々も、若手からベテランまで実力派揃いだ。
ピアフと最も熱い恋をしたとされるボクサーのマルセル・セルダン役の中河内は、包容力のある芝居で魅力的なマルセルを熱演。孤独を抱えるピアフとマルセルの、燃え上がる刹那的な愛のシーンを見せてくれた。
竹内が演じたのは、ピアフが才能を見出し、フランスで最も偉大な歌手となるイヴ・モンタン。登場してまもなくはカウボーイ姿のうぶな青年なのだが、歌い出すとまるで別人。素朴ながらも力強くまっすぐな歌声は聴き応えたっぷりだ。
身も心も傷ついたピアフの前に突如現れるのは、上原演じる歌手、シャルル・アズナブール。持ち前の艶のあるバリトンボイスを響かせる歌唱シーンはもちろん、どんなときでも献身的にピアフに尽くし続ける姿に胸が打たれた。
ピアフの人生最後の恋人、ギリシャ人のテオ・サラポを演じたのは山崎。病に冒されたピアフに無償の愛を捧げる彼の存在は、天使としか形容できない。「愛はなんの役に立つの」と、透明感ある歌声を響かせる微笑ましいデュエットも必聴だ。
日本初演から大竹とタッグを組む女優陣の存在が、本作を支えているようにも思えた。梅沢昌代は、底抜けの明るさでピアフと共にたくましく生きるトワーヌをエネルギッシュに演じ、時が経っても変わらぬ女の友情を味わい深く見せてくれた。
ドイツの大女優であるマレーネ・ディートリッヒと、ピアフの秘書マドレーヌという対象的な2役の演じ分けが印象的なのは彩輝なお。宝塚歌劇団での男役時代を彷彿とさせる凛々しい姿や、純白の華やかなドレス姿を見せたかと思えば一転、控えめで不器用な秘書として忙しなく駆け回る姿は実に愛らしい。
本作では大竹を除くほとんどのキャストが複数の役を演じ分けており、一作品の中で様々な顔を見せて楽しませてくれる。カーテンコールでキャストの少なさに驚かされる人も少なくないだろう。
ピアフの人生そのもの、そして彼女が一瞬一瞬を生き抜く姿を見届けてほしい。
東京公演は日比谷シアタークリエにて3月18日(金)まで上演が続く。その後3月25日(金)〜28日(月)に大阪・森ノ宮ピロティホール、4月1日(金)〜10日(日)に福岡・博多座にて上演予定だ。
(左から)竹内將人、山崎大輝、大竹しのぶ、中河内雅貴、上原理生
取材・文・写真=松村 蘭(らんねえ)

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