森良太、1stフルアルバム『EGO』で生
み出した新しい個性とは?ーーソロワ
ークとバンドへの想い、全てを詰め込
んだアルバムについて語る

2月23日(水)、森良太が1stフルアルバム『EGO』をリリースした。2020年末、10年以上手掛けてきたロックバンド・Brian the Sunの活動休止以降、ソロプロジェクトを立ち上げ活動を開始。ボーカルであり、ギタリストである彼が次の音楽を鳴らす場所として選んだのもやはりバンドで、サポートバンドメンバーを迎え、ライブやデジタル配信など多岐にわたって活動を展開中だ。アルバムに収録されている全11曲中、9曲はすでにデジタルEPとしてリリースされているので、ライブやMV、彼のYoutube番組でのライブ配信などで聴いている人もいるだろう。時折、弾き語りでの演奏披露もあるが、やはりバンドでしか鳴らすことができない音楽がそこには詰まっていて、どれも森良太らしい、純粋な音楽への愛が詰まっている。そして、ソロプロジェクトとして鳴らす音楽には愛だけでなく、意志や自由、責任に決断、色々な思いが詰まっている。アルバム『EGO』の読み方は「イーゴ」。エゴだけどエゴでない、自我を詰め込んだ今回の作品は自身にとっても大きな影響を与えたという。バンドを離れ、そしてバンドを組んだ彼がいま思う音楽への想いとは。3月にはリリースツアーを控え、すでに次の活動へ向け動いているという彼に話を聞いた。
森良太
「ブライアンというバンドのポジションは、永久欠番にしておきたい」
――アルバムがリリースとなりますが、最近の調子はどうですか。
最近はもう、やれることをやるしかないなと思っています。
――2020年末のBrian the Sun(以下、ブライアン)の活動休止以降、ソロプロジェクトを立ち上げるまでの経緯について教えてください。
ブライアンの活動を休止して、メンバーそれぞれが自分のやりたいことをやってみようということになりました。僕は自分の作品を作りたいなとずっと思っていたので、1人でソロ活動をやってみることに。でも、バンドを休止しても自分がやりたいことはギターロックで。尊敬できる大好きなミュージシャンと一緒にライブがしたいという思いもあり、いまは自然と集まってきたメンバーとスタジオに入ってみたり、作品を作ったりという感じですね。
――ソロプロジェクトをバンドスタイルで展開しようとしたのは?
やっぱりバンドはある程度若いうちにしかできない、ハードルがあると思うんですよね。初期衝動を鳴らせるのは今が最後かもしれないという気持ちもあったので。
森良太
――ブライアンの活動休止が2020年末で、そこからソロプロジェクトとして1stデジタルEP「杪春の候(びょうしゅんのこう)」をリリースしたのが2021年の5月。展開の早さに驚かされました。
確かに早いですね(笑)。でも、ずっと前からブライアンの曲と自分の曲とは作り分けをしていたので、そういった曲をレコーディングしただけなんです。
――バンド時代から作り分けをしていた、ソロで打ち出したい音というのは?
ブライアンのメンバーとは10年以上一緒に活動してきたので、新しいことをやろうとしても何が新しくて、何が出来るか出来ないかがはっきりと分かりすぎていたんです。このメンバーでこの音を鳴らせば、この音になるという明確な状態ができてしまっていた。でも、それが1人になったときに、自分がどういう音楽が好きで、どこに向かっていくのかはちゃんと分かってはいなくて。とにかくやってみようと思って始めたことだったんですけど、結局落ち着くのはバンドだなと。
――ブライアンの森良太、ソロプロジェクトでのミュージシャン・森良太。同じ人間だけど同意語であり、対義語でもある気がして。音楽性の違いをどう打ち出すのかも難しそうですが。
そうですね。自分で作った「森良太」というイメージから脱却することは、ずっと課題としてあります。そのためにも自分らしいことをやるという意味で、バンドからスタートしました。
森良太
――しつこいようですが、ブライアンは10年以上活動を続けてきたバンドです。過去のインタビューでは「骨の髄まで捧げてきたバンド」だという話をされていて。メディアプラットフォーム『note』にも、「自分には音楽しかない」という思いを書かれていました。いまソロプロジェクトとして音楽活動を展開することで、音楽への想いに変化はありましたか?
ブライアンというバンドのポジションは、永久欠番にしておきたいんです。もう一回、ちゃんとブライアンで音を鳴らしたい思いはやっぱりあります。でも、それがいつになるか分からない、明言できないから今はソロワークをやっている。けど、そのソロワークも限りなくロックバンドなんで、その辺のすみ分けは正直、自分でもめっちゃ難しいんです。ソロ活動を始めるというから弾き語りで活動するんかなと思わせておいて、いざライブを観るとバンドメンバーと一緒にめっちゃロックなことをして帰っていくという(笑)。「それって何なん?」と、みんなが思っているのも理解できる。でも、自分でも(音楽のやり方を)定義して、そこにハメこんでいくことをしたくなくて。これから出来ていくことに名前を付けていくほうが自然かなと。
――鳴らす音はロックで、歌う人間も同じ。何を変えて、何を変えないでいるべきか。とにかくやりこんでいくしかないと。
そうですね。よく、バンドやユニットとして活動している人が、ソロ活動をすると「なんでソロ活動やってんの? やってること変わってないやん!」という感覚をファンの人が抱くのもなんとなく理解できる。あんまり極端に違うことというのは、なかなか出来ないんだなと、いざ自分がやってみて思いましたね。
「これが森良太ですよ」と言える作品を作ることができた
森良太
――今回のアルバム『EGO』をリリースする前には、デジタルEPが4作品もコンスタンスに発表されています。制作はスムーズに進んでいきましたか?
曲そのものは難しいこともなく、いくらでも書けるんですよ。それに、今回は東京でレコーディングをしたんですけど、エンジニアさんはブライアン時代から担当してくれていた方が声をかけてくれたことで制作もスムーズに、楽しく作業することができました。良いものができたという実感もある。でも今は1人での活動になったことで、その曲たちをちゃんと売っていかないといけないし、バンドを運営していくことを考えないといけない。制作よりも、そういった面が新しい刺激になっていますね。
――バンドメンバーはベースが鈴村英雄さん、ギターが渡邊剣太さん、そしてドラムにブライアンのメンバーでもある田中駿汰さん。先の2人と活動を共にしようと思った決定打は何だったのでしょうか。
全員これ(音楽)がないと死んじゃう。「音楽がないとロクな人生じゃなかったやろうな」という人ばっかりで(笑)。それだけですね。なんとなく自分とも共通している部分もあるし、気持ちがわかる。そういう人たちと大きな波が作れたら、一番楽しいだろうなと。
――MVを見ていても、皆さん個性が強いですもんね。そしてドラムには、ブライアンのメンバーでもある田中さんが参加しています。
ブライアンの活動を休止してから、それぞれがやりたいことをやっていきましょうというタイミングで、音楽がやりたいのが(田中)駿汰で、他の2人は別の道を模索してみようとなりました。それぞれが自分の道を突き進むために、腹くくってやっていくことが決まっていた。音楽の道に進むのが駿汰ではなく、別のメンバーであれば今のソロプロジェクトのバンドでもきっと一緒にやっていただろうし。好きだからやっている、それだけですね。
森良太
――そうだったんですね。今作にはデジタルEP4作品に収録されている全9曲と、新曲2曲を含む全11曲が収録されています。アルバムをイメージして楽曲を制作していたのか、それぞれのリリース時期でやりたい曲を制作したのか、どちらだったのでしょうか。
アルバムを作りたいとは思っていたので、そこに向けて曲作りはしていたんですけど、デジタルEPについては「生きてますよ~」っていうのを定期的に打ち出しておこうかなと。
――生存確認のためのリリース(笑)。
「ちゃんとやってまっせ~」というのを知らせておかないと、忘れられちゃうんで(笑)。未だにブライアンが活動休止したままだと思っている人もいるんですよね。人に何かを伝えるには時間がかかるので、ずっと活動を続けておかないと。ブライアンでさえ10年以上かけてやってきたことなんで、今の自分がやっていることなんて今日明日でどうにかなるなんて思っていません。のんびりやるにしても、コンスタンスに音源を出しておかないと忘れられる。現役感を出しておかないと(笑)。
――生存確認と言いつつも、昨年は楽曲制作はもちろんのこと、ツイキャスやYoutube番組でのライブ配信、noteでの執筆、そしてライブ活動など多岐にわたって活動を展開していましたよね。
お客さんも大混乱やと思います(笑)。何をやっても気にかけてくれる人は気にかけてくれるし、何をやっても伝わらない人には伝わらないんです。だからこそ、やりたいことをやろうという気持ちが強くて。この一瞬にやっていることが、10年後に悪い結果になることはないはず。なら出来ることはやったほうがいいかなと。
――面白い試みとしては「杪春の候」の制作時にオンラインストレージ・dropboxを使い、制作過程を実況中継のように見せるということもしていて。作業のすべてをさらけ出す、これまでにない試みですよね。
ずっと思っていたことではあったんですよ。ミュージシャンが音楽をつくるうえで、どういうことを考えて、どういう風にして音を作っているのか、気になりません? 昔はバンドスコアを買うと、使用機材やスタジオの様子が写真で掲載されていて、そういうのをウキウキしながら読んでたんですよね。そういう気持ちで「この曲ってこういう風にして作ってるんや」というのがわかると面白いかなと。僕は斉藤和義さんが好きなんですけど、アルバムのライナーノーツとかで「タクシーの運転手さんと喋っているときに出来た曲です」とか書かれていたりすると、へぇ~と思ったり。
森良太
――今回の『EGO』に森さんが書いたライナーノーツが付くのも、そういうところからなんですね。2021年の最初の頃、noteには活動について「プランを立ててない」と書かれていたんですけど、「いやいや。多岐にわたって活動してるやん!」って、思わずツッコんでしまうくらいの活動の幅広さで。
確かに最初はノープランでした(笑)。制作が始まりだすとアルバムを作ろうかと考えるんですけど、これまでは誰かがスケジュールを立てて、それに乗っかるだけだった。けど、今は自分が言い出さないと何も始まらないんですよね。メジャーアーティストと、そうでないアーティストとの大きな違いがそこで。アルバムを出す限りは数字を出さないといけない。だからこそリード曲やタイアップが決まる。そういうことを考えながら制作をすると、頭の片隅で自分のやりたいことなのか、他人がやりたいことなのかが分からなくなってくるんですよね。曲を形にするうちに、どんどん目的地から遠ざかっているような感覚になってきて。
――商業として大事な部分ではあるけど、音楽への熱量や想いが薄れてしまうと。
そういうことを考えずに(曲作りを)やってみたい。リード曲にするかどうかは、オレがカッコイイと思うかどうかだけで決めるというやり方をしてみたくて。それが出来ていたのは、バンドを始めてすぐ、10年以上も前のことで、その感覚を忘れてるんですよね。自分が良いと思う、その感覚だけで音楽を作れなくなってしまっていた。でも、ソロになってこうやって制作を続けるうちに感覚を取り戻していけるようになりました。出来上がった作品を聴いたときに、「これが自分がやりたい曲なんやな」というのが、いくつか出来るようになってきたんです。
――ブライアンでリリースしたミニアルバム『orbit』の取材でも、「音楽に真摯でありたい」「商業的な音楽の作り方はしっくりこないんだ」という話をしていて。あの頃と今でも、その思いは変わってないんですね。
自分が軸となって活動していく今、よりその意味がわかってきたんですよね。自分が今やっていることは商売でもあり、生きるうえで欠かせないことでもある。でも、今はそこを守ることがそんなに大事なことではない。自然に、何も考えずにやれば本来は難しいことでもないんですよ。「これが商業音楽なのだ!」みたいな音楽が流れているのを聴くと、「ああはなりたくないな」と思ってしまうけど、そう思っている自分こそがそこに一番近い場所にいるのも事実で。今はそんなことを思わずとも、(自分は)ああはならないよと思えますね。
――そう聞くと、森さんがカッコイイと思えた『EGO』のリード曲がどの曲なのかより気になってきますね。
それはもう全曲なんですよ(笑)。
――どの曲も個性があるし、やりたいことが詰まっているんだなと伝わってくる曲ばかり。そう言えることは素敵ですよね。
今回は全部の曲が好きなんです。でも、やりたいことを全部やりましたと言っても「すごいね」とは言ってもらえない。曲を売るためには、「すごい理由」を作らないといけない。「この曲、すごいでしょ?」と媚びてくるような音楽があるけど、自分はその「すごい理由」を曲に入れることはしませんでした。何者にも媚びていない音楽で、「これが自分のやりたいこと、これが森良太ですよ」と言える作品を作ることができた。これで安心して何でもできるなと思えましたね。
――いまはアルバムを作り終えて、スッキリとした状態のようですね。
そうですね。10年以上音楽をやってきて、やっと1枚のアルバムに自分がやりたいことを全て詰めることができました。
『EGO』はちゃんとわがままを通して作ったアルバムなんです
森良太
――やりたいことを詰めこんだ作品『EGO』、読み方はイーゴです。私は最初は「エゴ」と読んでしまって。
同じ意味なんですけどね。
――自我、主観を意味する言葉。今回の作品はタイトルがぴったりですね。
「EGO」という言葉を聞いたとき、人によって感じる印象が違う。「エゴ」という言葉を良い意味で捉えている人は少ないと思うんですよ。
――ニュアンスとしてはネガティブに聞こえがちな言葉ではありますね。
「エゴ」は生きるためのエナジーというか、ガソリンなんですよね。
――自我、主観は生きる上で欠かせないものですもんね。
そうなんですよ。でも「エゴイスト」「エゴが強い」となると、嫌な気分になるのはどうしてか。人は生きる上で、みんな「エゴ」を持っているのに、他人の「エゴ」が許せない人が多い。でも、それは自分も同じで。他人の「エゴ」があまり理解できない時期が長くあったので、自分がやりたいこと、自我をしっかりと見つめて、周りの人にも「エゴ」があることを知るだけでもいい。「EGO」という言葉を聞いてどう思うかという、問いかけですよね。
――自分の美学をきちんと持っていないと、ブレが生じて何もできない。エゴがないと人間が成り立たないんだと思うと、森さんが打ち出したかった音楽を詰め込んだ今作は、すごく納得のいくタイトルですね。そしてその思いがこもった作品、90年代の邦楽ロックを彷彿とさせる、ちょっとアナログな雰囲気を感じる音も印象的でした。
その時代がめちゃくちゃ好きなんですよね。90年前後、人間がパワフルで音楽の作り方もギリギリアナログだった時代。それ以降はデジタルが全盛になっていて、言い方が悪いけど嘘がつき放題な感じ。写真も映像もそうで、デジタルで簡単に撮れてしまう時代になってしまった。やっぱり自分も演奏者なんで、レコーディングで歌ったあとに「ここ直しておいてください」とデジタルで修正をお願いするのは、どうしてもモチベーションが上がらないんですよ。質感どうこうより、モチベーションを保つためにも、自分が演奏した音をそのまま録音するのが一番好きで。今回のレコーディングではリズムエディットという、リズムを整えたり揃えるという作業をしていないんです。今の時代、例えば叩いたスネアの音に対して、より音を強くするために人工の音を後から足したりしているんですよ。
――音の微調整は人間の手ではなく、デジタルで処理してしまいがちですね。
レコーディング技術が進化しすぎている分、アーティストの技術が落ちてしまっている。全体を調和する能力が下がっているんですよね。今回のレコーディングでは一切それをしない。自分たちのモチベーションを上げるためにもそういう方法を選んでいて。
――音源の音がそのままライブで表現されるし、ライブ感がより高まることも期待できると。
ライブは……めちゃくちゃ武骨な感じになりそうです(笑)。

森良太

――作詞についての姿勢にも変化はありましたか?
最近はもっともっとシンプルに考えるようになっていますね。言葉は道具、機材みたいなもので、この機材じゃないと出ない音があるとミュージシャンは思いがちなんですけど、演奏したいことが決まっていれば、どんな機材を使っても良い音が鳴るんですよ。それを言葉に置き換えると、誰もが使っている「愛している」という言葉を使うことになったとしても、その人の技量次第で、その言葉がもつ本当の意味が伝わったり伝わらなかったりする。言葉はめちゃくちゃシンプルな道具なんだと思うようになりました。魔法ではなく、その働きをするためのただのパーツの集まり。でも、『EGO』に関してはまだ言葉に魔法を信じているところだったので、曲を書き終わってから「魔法じゃないな」と気づいたんですよね。
――『EGO』のレコーディングはいつ頃、終わったのでしょうか?
11月には録り終わっていたんですけど、そこから物事に対して良い悪いとかを考えなくなりましたね。良い歌だな、良いライブだな、良い歌だなという思いがパタっとなくなりました。
――「良い」という概念はどこにいったのでしょうか?
個性でしかない、と思えるようなったんです。
――3月にはリリースに伴うツアーが始まります。森さんにとって「良い」ライブがどんなものなのか、気になります。
そうなりますよね(笑)。やっぱり、物事に対して思いを伝えるのはパフォーマンスで、本当の想いなんて言葉なんかでは伝わらない。言葉を介して伝わっている「ぽい」感じだけ。伝わったかどうかの実感は、自分の中にしかない。思いが伝わったかどうかをライブで一喜一憂したり、ライブのあとに反省会をしたり、そんな時間を過ごすのであれば、日々の生活をどう生きるかを考えたほうが、よっぽどライブパフォーマンスが良くなると思うんです。とにかく、物事を良し悪しで判断しすぎ。「これは好きじゃない」なんて言ってしまうけど、好き嫌いではなくて、そう思うものが目の前にあることが自分にとって都合が悪いだけ。自分にとって都合が悪いものを嫌いと言ってしまっているだけなんです。その人が嫌いなものが、誰かにとっては大事なものだったりする。そう思うと何でもいいや、面倒くさいなと思ってしまうんです。
――悟りを開くというか、解脱するというか、思考がどんどん削ぎ落とされているように感じます。そうなると、次の活動に進むときの判断基準がどうなるのかも気になります。曲はどんどん生まれているとお話しされていましたが、ソロプロジェクトとして活動の方向性や楽曲の完成度、すべて森さん自身で判断しないといけない。世の中に発表するということは、森さんが「良い」と思ったものですよね。なんだか思考のループに陥りそうですが……。
全部「良い」んですよ。メジャーで活動していた時にずっと抱えていた、誰かの意見が混ざり合って自分がわからなくなるようなことも、ソロプロジェクトで『EGO』をやり切ったおかげで解決している。「(良い悪いとか、そんなこと)どうでもよくね?」と思えるようになった。自分が自分であることに、自分が一番躍起になっていたんです。深く考えなくていい、全部良いんです。やりたい、やりたくないとかではなくて、出来るならやればいい。30代にさしかかって周りを見渡したときに、結婚しました、子供ができましたという話をよく聞くんですけど、語弊のある言い方をすると、みんな死ぬ準備をしているんだなと思っちゃう。次の世代に繋いでいく準備なんだと気付いたときに、人生というのは死ぬ準備なんやなと思った。その時に自分の残りの時間にも気づいたんです。20代のうちは選り好みをしたり、ポリシーのために生きていることが、すごく大変そうに見える。けど、実はまだまだ余裕で、20代が持つ悲壮感はエンタメでしかない。30代を迎えて、最近は自分を受け入れていく作業をしながら、目の前にあることを選り好みせず、全部たいらげていくくらいの気持ちじゃないといけないなと思うようになった。

森良太

――最新作についての話を聞くも、すでに次の音作りに向かっている。最新作でありながらもすでに『EGO』はすでに通過点になっているようですね。
もう自分ではかなり過去のことのように感じてますね(笑)。いま自分が(メジャーシーンの)真っ只中にいないからこそ歌えているんだと思うんです。渦のなかにいるときはわからなくて、そこから一歩抜けたときにようやく曲の輪郭を外から見ることができた。これまでは、自分がどんな曲を書いたのかすらも分かっていなかった。記憶として「こんなことを思っていたな~」というのはわかるんですけど、それを歌っているときには自分はもう渦の中にいて、作品をリリースするタイミングになっても訳が分かっていなかった。だからこそ、今の自分がこういう状況にいられることがすごくラッキーだし、すごく新鮮な気持ちなんですよね。
――次のライブでどんな音が聴けるのかも気になるし、すでに次の作品が気になって仕方がないですね。
『EGO』はちゃんとわがままを通して作ったアルバムなんです。こういう自由な気持ちになれているのは、今までの10数年の活動や思いを経て、納得のいく気持ちで制作させてもらえたからこそ。「あぁ、オレはこういうことを10年かけて思ってたんや」ということが、言葉や作品ではなく『EGO』を作ったことで理解できましたね。これから先がどうなっていくのか自分でも全く分からないんですけど、不安は全くなくて。『EGO』を作って、だいぶスッキリさせていただきました。
――『EGO』はすでに通過点ということなので、どんどん次に進んでもらわないと。
どんどんつかみどころがなくなっていくと思います(笑)。「これもあれもやるん?」と思われそう。
――ミュージシャン・森良太というより、人間・森良太がますます面白くなってきますね。
そうなると理想的ですね。
森良太
取材・文=黒田奈保子 撮影=渡邉一生

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