『ハミルトン』からシーアとの出会い
、映画と音楽への想いまで 『ライフ
・ウィズ・ミュージック』レスリー・
オドム・Jr. が明かす

2月25日(金)公開の『ライフ・ウィズ・ミュージック』は、素顔を見せないシンガーソングライター・Sia(シーア)が初監督と製作・原案・脚本を務め、オリジナル楽曲も手がけた映画だ。孤独で生きる希望を失っていたひとりの女性が、家族の存在や周りの人々の助けによって“愛する”ことを知り、居場所を見つける姿を描いている。孤独に生きる主人公・ズーを演じるのは、『あの頃ペニー・レインと』などのケイト・ハドソン。また、イマジネーション豊かな自閉症の妹・ミュージックをマディ・ジーグラーが演じている。
そんなキャスト陣の中でも、シーアが「地に足のついた存在」と絶大な信頼を寄せるのが、ズーに優しく寄り添う隣人・エボを演じたレスリー・オドム・Jr.だ。トニー賞最優秀ミュージカル俳優賞に輝いたブロードウェイミュージカル『ハミルトン』など俳優としてだけでなく、レジーナ・キングの初監督映画『あの夜、マイアミで』では出演のほか、オリジナル曲「スピーク・ナウ」を提供・歌唱するなどミュージシャンとしても活躍する人物。そんなレスリーが、共通点をもつシーア監督との出会いや、出演のきっかけ、役柄への思いまでをインタビューで語った。
(c)2020 Pineapple Lasagne Productions, Inc. All Rights Reserved.
――メールで来る映画出演依頼に返信するのは、普通にやっていることですか?
でないと僕は捕まらないからね。そんな変なことじゃないと思うし、僕は気にしないよ。『ハミルトン』出演後、どうしてもやりたい役は何かとよく聞かれて、「正直なところ、今終わったばかりのアーロンさ」と答えていた。それだけ充実感のある役を演じた直後だったから、『ハミルトン』以前の僕には絶対振らなかっただろう役に挑戦したかった。映画や音楽業界へ特別アプローチはしてこなかったので、映画は僕にとって新鮮なジャンル。『ハミルトン』を経験してからは映画と音楽にフォーカスしているよ。そんな時シーアからメールが来た。お茶して話し合い、映画出演が決まったよ。
――その時、シーアのファンでしたか?
もちろん! 20年来のシーアファンという友達がいてね。僕はそこまで入れ込んでなかったけど、ニューヨークのジムに行った時に風変わりな曲が流れていたんで、ロッカーに乗って携帯電話をスピーカーに向け、音楽検索ソフトにかけてみた。ソフトが何とかって教えてくれたんだが、よく聞こえなくてね。だけど、こりゃなんだかすごいぞ、という感覚はあった。それから何週間か経つと、あちこちでその曲が流れるようになっていたんだが、それが「シャンデリア」だった。「Titanium」と「シャンデリア」、立て続けにヒットさせたら、俄然注目を集めるよね。シーアは突然降臨したんだ。
――シーアと初めて会った時はどうでしたか?
ウェスト・ハリウッドでお茶しながら、シーアは『MUSIC※原題(ライフ・ウィズ・ミュージック)』の企画に何年も前から取り掛かっていることとか、自伝的な趣もあることとか、自分にとって個人的にすごく大事な映画になるとか、とにかくこの映画について全て語ってくれたんだ。その当時、僕は「ポップミュージックを作れたらいいな」と、ミュージシャンとアーティストの両方のキャリアに目を向け始めていたところで、同時に映画というジャンルで自分をどう料理できるだろうかと興味を持っていた。シーアは「ミュージシャンとアーティストの両方を映画でやっていいよ」と、言ってくれていたわけだ。受けない手はなかったね。
レスリー・オドム・Jr. (c)2020 Pineapple Lasagne Productions, Inc. All Rights Reserved.
――(自身が演じた)エボについてシーアからの情報は?
先祖は西アフリカ出身のアメリカ人で、ボクサーで、エイズ患者と聞いたので、その役を僕に振るのはお門違いなんじゃないかと言ったんだが、シーアは頑固だった。誓って言うけど、「シーア、僕以上に適役が必ずいると思うよ」と僕が念を押したのは一度だけじゃないよ。それでもシーアは「あなたじゃないとダメなの」って。もうシーアを信じるしかない。それで腹をくくってオファーを受け、役に全力を尽くすことにした。方言指導者についてもらって、シーアの長年の協力者でもある振付師ライアン・ハフィントンのダンスレッスンをキャストのみんなと一緒に開始した。シーアが送ってきた作中の曲のデモを元に、スタジオで歌を録音したよ。
――傷つきやすいエボになりきるためにしたことは?
まあ、僕が変人なんだね。俳優というのはおかしなもので、暗くておっかない場所に行こうとする。そこに学ぶべきことが山ほどあるとわかっているのでね。カタルシスを笑いとばし、あるいは泣き叫んで蹴散らすと、あとには光が見えてくるんだ。そうやって人生にも光が差すものさ。
レスリー・オドム・Jr. (c)2020 Pineapple Lasagne Productions, Inc. All Rights Reserved.
――エボはどんな人物ですか?
保護者でファイターだ。サバイバーでもある。エボはたびたび不幸に見舞われてきた。弟に元妻を奪われるなんて、人生めちゃくちゃだよ。エボが何も失うことなく最後に救われて嬉しいよ。シーアの生み出すものには喜びと悲しみが溢れている。自分の仕事に正直だから、多くの人がシーアに惹かれるんだ思う。彼女が中毒症状から立ち直ったこととか、みんな知っているしね。けど、人がシーアに惹かれるのは、どんな暗闇にいても常に光と喜びに手を伸ばしているからだ。映画にしろ、ミュージックビデオにしろ、音楽にしろ、彼女は楽しそうにやっている。
――現実世界と幻想世界の衣装や撮影セットは、シーアのビジョンをエボで表現するのに役立ちましたか?
これがどんな世界観の映画か、シーアの頭の中あるイメージはどういうものか、衣装とセットが全て語っている。僕らはそのイメージを掴んで大事にしようとした。それがアーティストの責任だと思うから。同じことを映画『ある夜、マイアミで』でもやったよ。監督レジーナ・キングの脳裏にあるイメージを映像に定着させようと務めた。
――レジーナ・キングやシーアなど、才能ある監督との仕事から得たものとは?
人はみな様々なものの見方から恩恵を受けているんじゃないかな。多様性とは、その恩恵を甘受することだ。誰かの実体験から何かを得ること。この業界で黒人女性の地位を獲得しようとしてきたレジーナの人生は、僕とは全く違うものだ。そんなレジーナのものの観方は、僕からは絶対に出てこないだろう。シーアも僕とは全く違う経験をしてきている。そういう人たちのアドバイスから、僕は全く違うものの見方を得ることができる。それは価値あることだよ。だから僕はいろんな環境で仕事をするのが好きだ。
レスリー・オドム・Jr. (c)2020 Pineapple Lasagne Productions, Inc. All Rights Reserved.
――監督としてのシーアの印象は?
自分のビジョンをしっかり持っていて、それを俳優に正確に伝える能力もあるすごい監督だ。歌にしてもそうで、彼女自身が歌ったデモテープには映画の曲が全部入っていて、シーアの歌からたくさんの情報を得ることができた。デモテープ越しに、歌を通して僕らを導くなんて荒業が、シーアにはできる。マイクの前に立つとシーアは自由に歌う。それに力をもらって、僕らも自分を解放して歌うことができた。
――シーアのスタイルで踊るのはどうでしたか? マディ・ジーグラーが躍るミュージックビデオを参考にしたとか?
ミュージックビデオの振付は僕に合うだろうと直感したが、僕はかわいい10代の女の子ではないから、マディへの振付が僕にそのまま転用できるとは思っていなかった。シーアとマディが作り上げたダンスからインスピレーションを貰うことはあっても、それを参考にしつつ僕なりのダンスを考えださないといけなかったんだ。シーアは自分でポップスター“シーア”を作り出したけど、振付のライアン・ハフィントンもその作業に大きくかかわっている。だからシーアのスタイルへのアクセスとして重要な人物だ。ライアンと何度も繰り返しリハーサルをして、彼のおかげでようやくシーアのスタイルとか、ビジョンとかがわかってきた。シーアのスタイルでやるときは表情筋まで自由に動いてほしいというのがライアンのやり方だったが、全く違うダンスの練習を積んできたから慣れるまでにちょっと時間がかかった。100%とは言えないが、我ながらなかなかいいと思えるところもあったので、そこから安心してシーアの編み出したダンスに入っていけた。
――エボは悲惨な人生を歩んできてもなお、ほかの人を助けようとします。それはこの映画の核心でしょうか?
これは悲痛な経験や貧困を乗り越えてきた人たちが融合するお話だ。辛い経験があるからこそ、今の彼らがある。彼らにはごくシンプルなことさ。誰かのためにそこにいて、その人が袋小路に陥ったときに傍にいる。そしてその友情を保っていることに誇りを感じる。
――エボはケイト・ハドソン演じるズーと固い信頼関係を築きますね。
それは、おおかたケイトのおかげだね。けん引役が裏に引っ込んでいるなんてほぼ不可能と、僕は確信している。リーダーはリードしなきゃならない。ズーとエボの関係性についてはケイトとシーアがリードした。撮影現場をおおらかで温かく、何かを創出できる環境にしたのはシーアとケイトだ。ケイトは音楽シーンにノリノリだったね。みんなシーアとの共同作業にワクワクしていたし、マディが何度も経験済みの、シーアワールドの一部になれるのが嬉しかった。
――シーアが歌うのを聴いたあとに同じ歌を歌うのは、ちょっと気がひけませんか?
まったくだ! でも、シーアが「自由に歌って空まで飛んでっていいよ」と道を準備してくれたから、後戻りはできない。シーアと関わってきたアーティストとしては自由にやれたほうかな。まあ、自分に点数甘いかもだけど。
――音楽と人間ドラマを融合させる手法が素晴らしい映画ですが、その魅力を伝えるとするならば?
それなら、「シーアが監督した」で十分。「シーアが映画を監督するなんて嬉しい驚き」と思ってもらえるはずだから、人を映画館に向かわせる情報としてはそれだけで大丈夫。シーアは僕らに新しい世界を見せてくれようとしている。デヴィッド・ボウイみたいだね、ビジュアル重視なところも。シーアなら王道ではない何かを見せてくれるだろうな、少なくともいい意味で期待を裏切ってくれるだろうな……ファンがそんなふうに期待していることを、シーアはわかっているんだよ。
『ライフ・ウィズ・ミュージック』は2月25日(金) TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開。

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